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先行きの見通しにくい苦境の今だからこそ、その役割が試されるベンチャー投資(と、それを支えるLP出資)

8/6/2020

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 まず初めに、以下のグラフは大変興味深いことを示唆している気がします。これは今年(2020年)6月8日、調査会社であるPreqin社の日本法人が、一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(以下JVCA)のサポートで集計し公表した、国内のVCファンド(53本)を対象としたパフォーマンスベンチマーク調査からのデータの一部です。本調査対象となる国内で2010年以降設立されたVCファンドのネットIRRを表しています。

国内主要VCファンドのネットIRRの推移(*)
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備考(*):Preqin-JVCA国内VCベンチマーク調査(2019年12月実施)より筆者が加筆修正

 このデータによれば、2000年から2015年の間に設立された新規VCファンド中、2010年から2014年に設立されたファンド群のネットIRRが概ね15%以上となり、総じてパフォーマンスが良好であるのがわかります。この要因関する一つの見方として、2008年に起きた未曾有の世界金融危機(リーマンショック)で2010年代前半まで混沌とする世界経済が続く時期に設立されたファンドが、相対的に割安な(適切な❓)バリュエーション水準で投資を実行することのできる環境にあった点が、総じて優れたリターンに繋がったのではないかと見られています(※本当のボトムは2008年~2010年ではないかと思いますから、必ずしも説得力があるとは言い切れませんが…)。すなわち、悪環境下がスタートアップにとってもベンチャー投資にとっても理想的なタイミングかもしれないということです。

  それはさておき、今年2020年に日本を含めて一気に世界的に加速した未曾有のCOVID-19(コロナウイルス)によって、これまで比較的堅調であった国内スタートアップへの投資環境が一挙に冷え込んでしまいそうな気配です。特に、ロックダウンが発令された4月以降が正に社会全体としての焦燥感が芽生え始めた時期にあたると思いますから、これから集計公表されるであろう2020年第二四半期の数字に、資金調達の一時停止や当初の金額からの大幅減額等の何らかの影響が数字に反映されてくるのではないかと想像しています。

 これは回避すべきであり、COVID-19の影響で我々の生きる社会がこれから大きく変貌を遂げようとする今こそ、スピード感を持って新しい技術やサービスが成功裏に社会実装を果たす役割をスタートアップや起業家に委託するべきであると考えます。そもそもこうした逆境の時であるからこそ、スタートアップの存在意義が試される時期なのであり、従って国としても全体的にそうした機運を高めることが大切であって、今後、官民が一体となって様々な角度からスタートアップが立ち上がらいやすい環境を今まで以上に整備していくことが重要です。
 
 以下は、今年の第一四半期の国内主要ベンチャーキャピタルによる投資額及び前年同期比です。各フェーズごと(シード、アーリー、エキスパンション、レーター/グロース)に分けてみると、前年同期比との単純比較ではシード段階への投資が22%下落しています。一方、エキスパンション、レーターステージが大幅に伸びています。ただし、これらの数字はコロナの影響がまだ比較的軽微な時期のもの(1~3月)でしたから、実際にコロナの影響がより大きくなっていると思われるのは、ロックダウンが発令された4月以降である可能性が高いので、恐らく第二四半期の数値はさらに如実に数字に反映されている可能性が高いと思われます。ただ、これらの数字だけを見ても、昨年末から年明けにかけて次第にコロナの影響への懸念が出始めていたことを思い起こせば、不確実性要素の高いシード段階を投資を最終的に回避をしてある程度見通しの見えやすい段階に入った<エキスパンション>から<レーター/グロースフェーズ>へVCが投資を集中し始めていることが伺えます。これがあまりにも極端になってしまうと、スタートアップからの新しい事業やサービス、テクノロジーが生まれにくい環境を作りかねないと思います。

国内主要VCによる投資金額・四半期ベースの前年同期比(**)
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出典(**):一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター 「2020 年 第 1 四半期 1 月 3 月 投資動向調査(2020年6月8日公表)」 より筆者が加筆修正

 ポストコロナ社会を見据えて様々な新技術や新サービスが、スタートアップを中心に出始めてくると思います。首都圏をはじめ、全国から相次いで新しく生まれてくるであろうこれらのスタートアップが必要とする資金供給が急速に冷え込まないこと、滞らないことを願っています。なぜなら、こうした時期に生まれてくるスタートアップこそが、過去の経験則からもその後大きく伸びて我々の日常生活に溶け込むケースが多いと思われるからです。

 一方、2008年9月に起きた"リーマン・ショック"前後に創業したスタートアップやVC投資に関する検証をすると、やはりこの「総悲観期」にこそ①優れたスタートアップが生まれやすく、また②ベンチャー投資のパフォーマンスが挙げられやすい環境にある、という傾向がわかります。2007年から2010年の不況真っ最中、DropBox(2007年)、Airbnb(2008年)、SlackやUber(2009年)、Instagram(2010年)等が、北米シリコンバレーを中心に誕生した時期でもあります。日本でも例えばUzabase(2008年)、ラクスル(2009年)、Wantedly(2010年)等が各々創業された時期ですね。さらに、日本の場合は東北大震災<3.11>にも直面し、我々にとっては2011年にも再び混沌とした時期を経験しますが、その頃に創業されたスタートアップといえば、創業後わずか3年で2014年12月に上場を果たしたクラウドワークスがあります。

リーマン・ショック直後+東北震災後に創業した主なスタートアップ
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備考: 公開情報を基に筆者が作成

 今、With/Afterコロナなるテーマが注目と期待をされています。このテーマは、噛み砕くと結構幅広く様々な業種や技術領域に渡ります。想定されるものでは、遠隔仕事や遠隔治療で注目されるHRテクノロジーやデジタルヘルス、宅配サービスの普及化の加速に伴ってフードテック(デリバリー領域~食品保存技術、フードトレース等)やロジスティクス(ソフトウェア技術)、さらにはモビリティ(無人配達…まぁ実用化はまだ先でしょう)、それらに横断的に関わる様々な技術(AI、マシーンラーニング、ロボティックス、5G)、などなど。これほどの幅広い領域に潤沢な事業資金が賄われるためには、今こそ、ベンチャー投資に多くの余剰資金が循環されることが必要です。正にベンチャー投資の役割が大いに試される時期にあると思います。

 あのY Combinatorの創始者のPaul Graham氏が2008年10月に寄稿した貴重なブログ「WHY TO START A STARTUP IN A BAD ECONOMY」でも触れていますが、不況期真っ只中だった1970年代に生まれたのが、アップル、マイクロソフト。彼らがもしも1975年に最初のビジネスに着手をせず、景気の見通しが良くまでもう数年待機していたならば、恐らく既にタイミングは遅すぎたかもしれないとの見解もあります。さらに、"So for any given idea, the payoff for acting fast in a bad economy will be higher than for waiting."(≒「どのようなアイディアであれ、悪い経済状況下で迅速に行動した際の見返りは、待っている場合よりも大きいであろう」)という言葉も納得できます。今が正にその時期にあると思いますが。
 参考までに、米国の主要ベンチャーキャピタルの直近2020年6月末第二四半期までの投資状況についてみてみると、以下の通り、金額ベースでは第一四半期と比べてほぼ横ばいで推移しており、かつ前年下半期と比べて遜色のない水準を維持しているものの、件数鵜ベースでガクンと鈍化している様子がうかがえます。特に、レーターステージは比較的横ばいであるのに対して、エンジェル/シード及びアーリーステージが最も影響を受けている模様です。

参考:
http://paulgraham.com/badeconomy.html・
https://news.crunchbase.com/news/lessons-from-2008-how-the-downturn-impacted-funding-two-to-four-years-out/ 
北米主要VCによる四半期ベース投資額推移(***)
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出典:(***)全米NVCAレポートより抜粋

 果たしてこれが一過性にすぎないのか、それとも今年いっぱいはこの状態が続くのか、ここ1カ月間、米国側のシリコンバレーの比較的新しいベンチャーキャピタルファンドの運営責任者と話す限りにおいては、彼らのところに投資を受けたいと相談に来るスタートアップの母数件数が、コロナ以降は減っている感覚はあるそうです。また、彼らのような第一号ファンドを組成したベンチャーキャピタルにおいては、セカンドクローズ等、さらに追加で事業会社や金融機関等からのLP出資を募っているところが少なくない中、さすがにコロナ以降は基本的に出資の会話がペンディングとなる事業会社が出始めているそうで、こうした環境においては、自ずと新規投資も慎重にならざるを得ないのかもしれません。もうしばらくは様子を見てみる必要があります。

 ところで、国内VCファンドに関する今年の第一四半期の新規設立ファンドの最新データによれば、以下の通り、事業法人と銀行、信金/信用金庫並びに保険会社を中心に320億円がLP出資を行っています。これは、全体の71.5%を占めています。2015年以降、UberやAirBnBが実証したように、従来の業界垣根や参入障壁の低下による競争環境の激化とイノベーションの加速度化してきていますが、こうした環境下、事業会社によるオープンイノベーションへの取り組みが少しづつ活発化してきています。こうした流れの一環として、スタートアップとの接点を構築する一つの手段としてのベンチャー投資ファンドへのLP出資も引き続き堅調に推移しているものと見られます。が・・・

国内新規設立ファンド出資者概要(****)
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備考(****)一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター 「2020 年 第 1 四半期  投資動向調査(2020年6月8日公表)」 より筆者が加筆修正。当該調査の回答に応じた15社のみ対象。

 ・・・しかし、個人的にはこの事業法人による投資金額は、彼らの資金余力を考えると実に非常にまだまだ小さい数字に思えてしまいますが、如何でしょうか??

 米ブルームバーグ社によれば、日本の上場企業の2019年8月末時点の関係当局への届け出に基づく手元現金は506兆4000億円だそうです。この数字は、過去最高水準であり、こうした上場企業の余剰資金を減らすことを公約の一つに掲げていた第二次安倍政権発足の2013年3月頃と比べてもほぼ3倍に膨らんでいる模様です(*)。2020年6月末現在、日本の上場企業数は3,824社ですから、単純に計算をすると1社あたり実に1,324億円という計算になりますね(**)。この数字を踏まえると、先の国内VCへのLP出資の金額はまだまだ増える余地はあるのではないかと考えてしまいます。。。

 一般的に、事業会社にとって手元現金は将来の経営上の不足の事態等への万一への備えとしては有効ですが、株式市場に上場する事業会社の場合、投資家は①成長に向けた投資に回すか、②自社株買いあるいは③配当支払として株主に還元することを強く求めてくると考えられます。ゴールドマン・サックス証券の試算によれば、国内上場企業の自社株買いは2018年公表ベースで約600億ドル(約6兆3700億円)に達した模様です。一方、仏のソシエテ・ジェネラル証券によると、同配当支払いも2019年9月上旬時点で8兆4000億円と過去最高水準(当時)に上っていたようです。さらに、ブルームバーグ社によれば、国内上場企業による2019年9月時点で公表済みの企業の合併・買収(M&A)の総額は約950億ドルと、前年同期の約2150億ドルを下回っています。

日米の企業部門のISバランス比較
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出所:財務省財務総合政策研究所総務研究部「日本企業の現預金保有行動とその合理性の検証(PRI Discussion Paper Series (No.18A-05))2018年3月」より抜粋
 
 これほどの余剰資金を持っているのであれば、自社株買いや無駄な備え資金であろう手元現金のうちのもう少しだけでも良いので、是非とも次世代の産業創造を担うスタートアップや起業家へリスクマネーを供給していただきたいと切実に願うばかりです。それが、マクロ経済全体の活力源となることで自社にとってもプラスとなり(ミクロ)、それが最終的には自社の経営/事業環境にもプラスに波及するというシナリオを描けると思います。
 日本企業による高い現預金保有については、色々と検証もなされていますが、少なくとも、金額の多寡はさておき、もう少し日本の事業法人におかれましては、何も使用していないその余剰資金を、(M&Aや研究開発に回さないのであれば)自社の成長戦略を見据えてでも、あるいはパッシブでも良いので、これから生まれてくる(であろう)創業~シード段階を含むスタートアップにどんどん資金を循環されてほしいと思います。

 国内外のベンチャー投資環境はやや減速運転状態が続く模様ですが、こうした混沌の時期であるからこそ、起業家やスタートアップへの出資が必要とされています。また、今後もさらなるベンチャー投資資金が潤沢となるよう、ベンチャーファンドへのLP出資も進むことを切実に願っているところです。

備考:(*)https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-09-02/japan-s-companies-are-sitting-on-record-4-8-trillion-cash-pile (**)https://www.jpx.co.jp/listing/co/index.html, https://100man1oku.xyz/archives/1159/#%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%B8%8A%E5%A0%B4%E4%BC%81%E6%A5%AD%E6%95%B0%E6%8E%A8%E7%A7%BB 
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“ポスト・コロナ”の世界で「次なるフロンティア」となり得るWellTech(ウェルネス/ウェルビーイング・テック)

7/22/2020

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今年に入り、コロナの影響で我々の生活も一変してしまいましたが、我々の日常及び経済活動もしばらくは低空飛行が続きそうな気配がしますね。その一方で、「ピンチをチャンス」と捉えて、これから5年、10年と続いていくであろう我々の生きる社会そのものの大きな変革を先読みしながら生まれる様々な新しいアイディアが、洋の東西を問わず、水面下で「種」が出始めています。そもそも起業の精神とは、元来はそんなものだと思いますし、世の中の課題を解決するための役目を果たせるのがスタートアップの存在意義であると言えますね。

では、具体的にどういった領域が動き始めているのかと言えば、ざっくりと以下の1~6が「Withコロナ/Postコロナ(まだワクチンすら発見・開発されていませんので、厳密には未だ「ポスト」に至るまでは時間はかかりそうですが・・・)」とのテーマでこれから取り組みが活発化されていくものと想定されます:

  1. コンシューマーIT領域<デジタルヘルス、Ed Tech等>
  2. エンタープライズIT領域<業務管理系等>
  3. 医療分野<主に介護・診断ツール、メンタルケア等>
  4. HRテクノロジー<働き方改革、リモートワーク、健康経営、人材マネージメント等>
  5. フードテック<食そのもの~生産流通を司るテクノロジー等>
  6. バイオ<代替食、合成生化学領域の発展、素材系、等>

これだけでも多岐に渡りますが、細分化するとさらに広がり、細かく枝分かれすると思いますので、ここでは割愛しますが、代表的なトピックとしては、上記1~6が挙げられるのではないでしょうか。もちろん、これらのものを司る上で、流行りのAIやマシーンラーニング、IoT等といった要素が活かされるものが主流であるケースが多いです。後述しますが、それぞれの領域が重複する部分もあります。尚、「ポスト・コロナ」社会で関連性の高い国内ベンチャーに関するより具体的な事例については、こちらのリストが参考となりそうです。

さて、日本国内では、政府主導による「働き方改革」をはじめ、未曾有のコロナ禍をきっかけとする従来の業務形態の変革期の到来を感じさせられるますが、遠隔業務の推進など、今まで様々な要因で進んでいなかったHR分野に纏わる変革が、これを機にようやく動き出していく機運が高まっています。最もわかりやすい事例で言えば、「リモートワーク」や「遠隔医療」といった概念があります。そうした潮流の一方、2017年頃から米国をはじめ、日本でも少しづつ浸透しつつあるのが、先のWebinarでも取り上げた、ウェルネス・ウェルビーイング領域です。米Kaleido Insights社によれば、2019年3月時点で、Well-Tech分野に約$2.2Billion(約2,400億円)もの投資が集まっており、2021年以降も急速に市場が世界で拡大をして行くと予想されます。この領域は、いわゆるデジタルヘルスからフードテック、Edテック市場といった市場のそれぞれの一部を含有する市場といったイメージで見られると思います。また、HR領域に限った場合も、価値観の多様性と共に、既存の我々の社会の枠組み自体が整合しなくなりつつある今、個人を軸に据えて仕事を再定義する動きが顕在化しつつある中、従業員の体験を豊かにする/充実化を図る「Employee Experience」への取り組みの一環としてこれからはWellness /Well-beingをテーマにしたWell-Tech企業は今後市場が伸びる余地が高いでしょう。

しかし、この領域が今後伸びるもっと広義での背景として、こうしたHRテクノロジー領域との括りだけにとどまらず、今、あらためて1999年に米国の2人の学者が初めて書籍で提唱された「Experience Economy」の時代が、今改めて世界中で到来しているのかもしれません(****)。
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米Kaleido Insights社

その前に、そもそもこれらの「ウェルネス」や「ウェルビーイング」、「Experience Economy」という言葉の概念についてそれらの定義を再確認すると:

ウェルネス(Wellness*):the quality or state of being in good health especially as an actively sought goal (日本語訳)主体的かつ積極的に追求しようとする到達目標として健康であるという本質的な状態

ウェルビーイング(Well-being**):the state of being happy, healthy, or prosperous (日本語訳)幸福感、健康な心身状態、または心身が繁栄している/幸福感に満ち溢れている状態

Experience Economy(***):日本語訳は「経験経済」。我々個々人のエクスペリエンス(経験/体験)を重視する市場経済を示す言葉。

出典:(*)https://www.merriam-webster.com/dictionary/wellness、(**)https://www.merriam-webster.com/dictionary/well-being (***)https://since2018.jp/knowledgebase/words/1954/ (****)「Wellbeing: the next disrupted industry by tech」https://medium.com/sharing-by-mirco-pasqualini/wellbeing-the-next-disruptive-industry-by-tech-a276828aac50

ということになります。Experience Economyについては、農業経済から産業経済を経たサービス経済をさらに経てこれからは我々個々の「体験」に基づいた経済という概念に到達したという説と理解されていますが、最初に提唱された1999年頃は、米国シリコンバレーを筆頭に世界中のスタートアップ~株式市場で未曽有のドットコム・ブームの到来した時代という「バブリーな時代に出現した発想」というイメージというかレッテルも根強かったからか、幾分と冷めた/批判的な意見にも遭遇し、その後はしばらくは忘れ去られていった感じがありましたが、昨今のDX<デジタル・トランスフォーメーション>の勃興をはじめ、以下で挙げる昨今の我々の生きる今の時代環境の変遷とあわせて、改めてここにきてその概念が再認識されつつあります。

その主な背景としては、我々の生きる社会全体に広がりつつある価値観の変化以下の傾向が当てはまると考えられますが、特にデジタル化時代しか体験していない若年層(ミレニアル世代ならびにその次の”センテニアル世代=Z世代”)の間での大きな価値観や物事の捉え方といったものの変化に起因するところも大きいと考えられます。例えば、若年層のFB離れを示すデータが出始めていますが、ソーシャルメディアを介したインターネット上のプライバシーの形骸化に対する警戒心が若者の間で出始めており、これからは、よりプライバシーのコントロールが行き届くUI/UXが遅かれ早かれ主流となるときが来るかもしれません。

欧米の市場データによると、いくつか、ウェルネス・ウェルビーイング領域の成長を後押しする現状を表すものが出始めています。例えば、以下のとおり、①HR/人材マネージメントの領域、②メンタル領域、そして③食と健康管理面における意識の変遷といったものです:

①企業で働く従業員個々の満足度と彼らの仕事の総合的な成果物の成績向上との相関関係:
米Gallup社による調査によれば、従業員満足度の高い組織運営を果たす企業の欠勤率が41%減少し、一方で生産性を表す指標が17%向上しています。また、こうした企業文化を達成する企業では従業員の定着率も大幅に改善しているという結果が出ているようです。さらに、従業員満足度の高い会社は顧客満足度も向上する成果が出ています。ミレニアル世代をはじめとするこれからの市場をけん引する消費者層にとって顧客体験の質の良し悪しがブランドへの顧客維持により影響を及ぼすと予想される中、重要な経営指標となりそうです。

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②若年層世代<ミレニアル~センテニアル世代>を中心とするストレス傾向の顕在化の傾向:
①の職場での満足度や③の食・健康の意識とも重なる要素もありますが、今のデジタル化された社会において、あらゆるものが簡易に手に入る利便性が享受できる一方で、ストレスが助長される窮屈な社会が無意識のうちに形成されてきたことが、各種データやサーベイから明らかになり始めています。International Journal of Mental Health and Addictionの調査によれば、SNSの利用頻度の大きさに比例して睡眠障害やストレス等の精神疾患になりやすいとの結果が発表されています。特に、ソーシャルメディア系の依存度が高い世代層においてこうした心身の健康状態に陥る頻度や確率が高いであろうということは想像できると思います(自律神経のバランスの崩れ等も)。一方、こうしたストレスへの対策としては、各種調査によれば、瞑想(特に、米国ではMindfullnessというバズワードで2010年代半ば頃から、シリコンバレー等でもZenの手法を取り入れ始める割合が増加傾向にありますね)や、バランスのとれた食事を楽しむこと、身体を温める活動といった取り組みが上位に占めて居るようです。また、ソーシャルメディアに求めるUI/UXとして、従来のもの(Facebook等)と比べて、よりプライバシーがコントロールできる(他人の目を意識する必要がなくなる)、自分のユーザー情報を共有しなくてよい(共有する不安を解消)、といったものを選好する傾向が、特に20代前後から30歳前後にかけての世代で増加しつつあります(*****)。

③食・健康への意識の変化:
ミレニアル世代を中心に、高騰化する医療費や②で触れたように日常生活からくるストレスが高まるにつれ、自分自身の健康に対する意識が従前と比べて「自分の健康は自分で管理をする」というSelf-Careの概念が、主に都市圏に住む働き盛りの20代~40前後の世代及びその次のセンテニアル世代の間を中心に高まってきています。興味深いデータとしては、2019年におけるGoogle Trendsによれば、「Healthy & Functional Food(健康に寄与する機能性食品)」の検索が220%上昇し、同じく「Holistic Healing(全体的な治癒:私見では、要するに漢方医学のような根本治癒や心身の健康をもたらす治癒/ヒーリングとの意と解釈)」のようなキーワードの検索も285%上昇しているようです。若い世代を中心とするこれらの潮流は、以下に一部ご紹介するウェルネス・ウェルビーイング関連の新しいサービスやテクノロジーを生む大きな原動力となりそうです。

以下は、最近話題となる一部の事例としていくつかのサービスモデルやテクノロジーのご紹介です:

デジタルヘルス<≒遠隔治療>:

Vida Health: 慢性疾患等が気になる・苦しむ人間と当該領域の専門家をつなぐオンライン・デジタルヘルス・プラットフォーム。独自のAI・機械学習機能を基に個々人の慢性疾患の状態を検知し、各々の最適化された専門家をマッチング。 

メンタルヘルス:

Modern Health: 雇用主向けに、従業員の燃え尽き症候群や鬱を防ぐメンタルヘルスの支援プラットフォームを提供。独自のオンラインプログラムや登録されるセラピスト等による従業員支援サービスを提供。ユーザー(=従業員)は、個々に自らの状態をアプリ上で相談をし、その内容等に応じてセラピスト等とマッチング。アプリ内で独自の瞑想アプリ等がビルトイン
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出典:Global Wellness Intitute
エンタープライズIT/HRテクノロジー(遠隔業務/AI)

Talview: 独自のAI技術を駆使した新たなリモート採用プラットフォーム。企業の採用担当部署が採用候補者をリモートで面接、評価分析を可能とする技術。主に独自開発のNLP技術(神経言語プログラミング)やAI技術を駆使し、チャットボット方式、ライブ方式及び非同期でのビデオ面談等の方法で候補者を遠隔で評価、解析する技術及びサービス。因みに、日立グループがここ最近積極的なHRプラットフォームの改革に踏み込んでいるようですが、今後、このような形で国内大手企業でも少しづつ新しいプラットフォームを試すケースが増えそうな気がします。

フードテック/デジタルヘルス<AI>

Zipongo: パーソナライズ化された栄養管理推奨プラットフォーム。医学博士を社内チームに擁し、個々人の体調を分析、それらのデータに基づいた個々人の最適な必須栄養バランス、理想的な食事メニューの組み立て方のレコメンデーション、料理レシピの提供・紹介等。 

 次回は、ウェルテックの中から1つか2つ、興味深い事例に焦点を当て、これから我々が利用する場面を想定しながら、その特徴や市場性について触れてみたいと思います。

備考:
https://www.gallup.com/workplace/236366/right-culture-not-employee-satisfaction.aspx「
The Right Culture: Not Just About Employee Satisfaction」  

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HRテクノロジーの中でも2020年以降注目したい北米ウェルネス・テックの最新潮流

3/31/2020

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ここ数年、Fin-Tech、Ag-Tech、Food-Tech、Fash-Tech(*)など、「x-Tech<クロステック>」がそれぞれの領域で新しいサービスが生まれ続けていますが、その一つで2014年頃から急速に伸び始めてきている<HRテクノロジー>を今回は取り上げます。
 
HRテクノロジー領域は、日本でも株式会社リクルートホールディングスやパーソルホールディングス株式会社あたりが日本のみならずシリコンバレー、その他海外主要マーケットでも積極的に戦略的なCVC投資を繰り広げている様子であり、また日本でもHR領域の川上から川下に至るバリューチェーン<採用/配置、リファーラル、人材開発、組織開発、福利厚生、労務管理、健康管理、統合プラットフォーム等…>で斬新で痒いところに手が届きそうな優れたサービスが世に登場していますが、本日触れるウェルネス・ウェルビーイング領域(厳密には広義でのWellness/Well-Being中の企業/HRでの利用用途を見据えたCorporate Wellness領域)については、まだ国内ではさほど認知されていないと思われますが、この領域については北米の方がその活用への意欲から、日本より一歩先を走りながら着々と新しいサービスが幅広く登場しています。これらのうち、日本の企業HR部門でも今後徐々に普及・定着しそうなサービス概念やテクノロジーについて触れたいと思います。

まず、以下のように、ウェルネス・ウェルビーイング領域にかかる代表的なスタートアップ群をとりまとめたカオスマップ的な図表を見てみると、実に今となっては多岐に渡るのが一目瞭然です:

注記:(*)こちらは2012年頃一時バズりましたが、当時の話題のコンセプトは沈静化している印象。強いて言えば、日本のSpiberさんや米国のBolt Threadを代表とするバイオマテリアル×ファッションが研究開発フェーズからいよいよ商品化フェーズに突入している印象
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出所: 米CBInsights社「The Wellness Tech Markat Map」

AIや自動運転、ロボティックス等と比べて地味な領域であるが故に、あまり注目されにくい領域ですが、個別のセグメントを見ると、Food系や、EC、デジタルヘルスといったセクターの括りで実はメディアに取り上げられる会社が少なくないのではないでしょうか?つまり、こうした新しいスタートアップにとって、彼らのビジネスモデルの中でも対ビジネス向けのターゲット市場の一つにこのようなCorporate Wellnessを狙える位置にあるということだと思います。

上記の他にもまた違った分類を施すものもあり、とにかく細分化されると実に多岐に渡りますが、企業組織での活用が期待されるCorporate Wellness領域のスタートアップで興味深いところに例えば以下をご紹介します(上記カオスマップとは関係なく独断でのリスト):

  • LifeDojo:2013年創業。サンフランシスコ本社。シリーズA段階。US$7MM調達。主に従業員向けの個別健康管理指導プログラムを主体とするスマホアプリ。食事管理、同療法や運動管理、睡眠管理等。生活習慣病を改善する等の効果を目指す。日本にも例えば最近ではFiNCなどがありますが、まだまだ実績面で小さい印象であり、これからこうしたサービスが今後どのように普及していくか注目したいです。
  • Bravely:2017年創業。ニューヨーク本社。シード(**)。US$3MM調達。主に従業員向けのクラウドベースの“お悩み相談”コミュニケーションプラットフォーム。個人登録ユーザーである従業員と当該サービス上の会社外部のプロフェッショナル・コーチ/メンターとを繋ぎ、社内での悩み相談等、社内では言いにくい問題や事柄についての解決プラットフォーム。いわゆるブラック企業といった社会問題等を鑑みて、このようなスタイルのサービスがどう実用化されていくのか興味深いです。  
  • BetterUp:2013年創業。サンフランシスコ本社。シリーズC。US$145 MM調達。スマホベースのリーダーシップ教育プラットフォーム。主に個々の対象者(主に企業の経営層~リーダーシップ・マネージメント層)のニーズに合わせたマイクロラーニング等。行動心理学等が活かされたツール。既に欧米大手企業で豊富に利用実績あり。
  • Psocratic:2014年創業。シード段階。US$500K調達。本社NY。従業員のストレス管理並びに分析ツールアプリ。行動心理学、AI技術等並びに独自のUI/UXを応用。ストレスと体調不良との因果関係というのは現代医学でも未だに未解決領域であると思われますが、そこをどう解決していくのか要注目。
  • Four Sigmatic:2012年創業。シード/シリーズA段階。US$5.4MM調達。本社カリフォルニア州サンタモニカ。Reishi(霊芝)というマンネンタケ科の一年生のキノコの素材を活かした機能性食材/食品の開発ブランド。いわゆる「スーパーフード」ブランドの一つ。同社は北欧フィンランドの伝統的機能性食材の一つである零芝を現代人の生活習慣病等への治癒をゴールの一つに掲げ、Corporate Wellnessに限らずB2C・B2BのNOSH(Natural-Organic-Sustainable-Healthy)ブランドの一角として注目されるブランド。実はこの概念、切り口は日本国内でもネタはありそう。

一方、日本国内でも企業の福利厚生業務で大手の株式会社ベネフィット・ワン(証券コード2412)や2019年に東証マザーズ上場を果たしたPHR(Personal Health Record)サービスの株式会社Welby(同4438)をはじめ、ウェルネス・ウェルビーイング領域で関連性が高い、あるいは今後これらの領域に本腰を入れてくる可能性の高い企業として挙げられるかもしれませんね。 

米Global Wellness Institute社によれば、2017年時点でウェルネス・ウェルビーイング領域に引っかかりそうなすべてのスタートアップやビジネスを合算すると概算で4.2兆ドルもの規模とされています(2016年~2017年で12.8%年率成長)。細かい定義はさておき、かなりの大きな潜在市場であることは明らかです。そのうち、いわゆる職場の従業員を対象とするWorkplace Wellnessは、全世界で約475億米ドルと試算されていますが、全世界の勤労者のうち9.8%しか何らかの職場での包括的なウェルネスプログラムにアクセスがないということであり、欧米や日本でも勤労者の多くを悩ますいわゆる慢性的な疾患~成人病を含む「未病対策」の手段や、職場を含むストレス社会でのメンタルヘルスの治癒を見据えたサービスの必要性に意識がされ始めてきており、その結果、2018年頃から2020年以降は様々な枠組みで注目され始めています。

備考:(**)正確なフェーズは不明
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出所: Global Wellness Institute, "Global Wellness Economy Monitor", 2018年10月 
 
 HRテクノロジー分野でオピニオンリーダーであるJosh Bersin氏(米国カリフォルニア・サンフランシスコ)が率いるJosh Bersin Academy(*)による「ウェルネス・ウェルビーイング」の新しい概念をここで引用すれば、以下【Wellbeing & Resilience: The New Performance Equation】の通り、ウェルネス・ウェルビーイングでは4つのレベルに細分化されています。第1段階はいわゆる日本古来から慣れ親しむ福利厚生的な役割。従業員の健康管理面に重きを置くレベルで、すなわち、我々が容易にイメージしやすいような「ウェルネス」とは所詮このレベルにすぎないのかもしれません。次に2番目のレベル「Fitness」は管理栄養士やヨガインストラクターのようなプロが活躍しそうな領域で、心身の健康維持に意識を置く層。3番目のレベルの「Wellbeing」は、最近旬な「マインドフルネス」領域が出て来ます。そして、4番目のレベル「Sustainable Performance」に到達すると、対象となる従業員個人の範囲を超えて、組織としての社会貢献や従業員を取り巻く家族や繋がる人々との持続的な社会的な幸福を追求する深いところにまで行きつくという捉え方・考え方です。

備考:(*)Josh Bersin Academy:https://bersinacademy.com/
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日本においても、燃え尽き症候群、原因不明の体調不良、ストレス性体調不良といった「未病」の領域で多くの働き盛りの人々が実は悩みを抱えていることはデータ上で浮かぶ物以上に潜在的に大きいとされています。また、これらの悩みや第三者には中々わかりにくいものであるからこそ、中々課題解決に向けた取り組みが必ずしも果たされてきてないと思いますが、従来はこうした諸問題への解決策に向き合うサービスは殆どなかったところに、このCorporate Wellness、Wellness/Well-Being分野で勃興する新たなスタートアップトレンドに乗じてようやく陽の目が見えは始めてきたようです。

我々日本で昨今話題が尽きない「働き方改革」の是非もさることながら、それを政府に促す原動力にもなった今の働き盛りの世代を中心とする「仕事観」の変化、我々個々人の思い描く理想の人生感と仕事との接し方や距離感といったものが、21世紀から早ちょうど20年が過ぎた今年、ますます進化しているように思えます。かつて戦後日本を支え続けてきた日本の古き良き「終身雇用制度」とそれに付随した手厚い福利厚生制度は、一生を一組織で働くことを念頭に置いた長いキャリアを必ずしも想定しない今の働き世代の人生設計には「そぐわない」側面が出始めてきていると考えられます。そうした中、今こぞって様々なHR(人事)、人材資本(Talent)を管理する各種ツール(すなわち、「HRテクノロジー/HCMツール」)が日本や世界で次々と生まれてきています。そして、多くのベンチャーキャピタルからの資金や人材関連の大手事業会社によるCVC投資が活性化して6,7年が経過しています。

かつての主従関係/労使関係等といった非対等な関係性から、従業員(被雇用者)と組織(雇用者)とがより「対等な関係性」を持ち、互いが向き合い、組織中心の概念から個を中心軸に据えた人材戦略がこれから普及していくとの仮説において、HR戦略がこれから変遷の時期を迎えていると思われますが、その中で、企業経営のテーマとして人材確保と企業の持続的な成長を目指す際、これからの新しい仕事観の概念なるもの(ジョブ定義)を十分考慮したHR戦略を組み入れていくことが経営課題の重要なものになると思われます。今後は、こうした経営課題に対処していく一つの有効策として、今回あげた新サービスが少しづつ日本のHRにおいても活かされていく時代が2020年代に普及していくかもしれません。
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HRテック領域の北米スタートアップ投資概況

3/26/2020

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アメリカのエンタープライズ領域でここ3,4年盛り上がる領域の一つとして、HR-Tech分野が挙げられます。周知の通り、Ed-Tech(教育産業に係る新たなDisruption を起こすサービスを可能とするようなテクノロジー並びにそのサービス)やFin-Tech(同金融分野)、Ag-Tech(同農業分野)のように、いわゆる「X-Tech」ビジネス領域の一角としてベンチャーキャピタルからの投資も集まる分野。日本国内でもさまざまな細分化された領域でスタートアップが出始めています。

過去10年間のアメリカでのHR-Tech領域へのベンチャー投資はき2014年を皮切りに一気に加速してきていることが、次のCBInsights社のグラフからもくっきり読み取れます。
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#HRWinsによれば、2019年度の全世界の主要投資額の概算額はUS$5.33BN、凡そ238件に達した模様。  昨年第4四半期の北米HR-Tech領域への代表的な大型投資案件並びに各主要セグメント別投資額推移は以下の通り。ジョブボード(求人・求職サイト系)がダントツで大きい一方、給与系、福利厚生等がUS$500M(≒500億円)前後で推移しています。興味深いのは、大型投資案件のうち、日本のソフトバンクのVision Fundが目立つ点。また、この分野への投資で上位を占めるファンドの多くは、いわゆるシリコンバレーの老舗ベンチャーキャピタルファンドだけでなく、むしろ東海岸等に本拠地を置くバイアウトやマジョリティ投資(発行済み株式総数の過半数もしくはそれに準ずる株数を取得して経営権を掌握する投資)を幅広く手掛けるその他のプライベートエクイティファンドや機関投資家等が目立つ点です(Ex. T. Rowe Price、W Capital Partners、Fidelity等)。
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上記の通り、ジョブボード系が金額的に他の領域を引き離して最も大きいものの、ここ数年はその他のセグメント領域にも幅広く投資が集まってきています。日本でも最近言われる「ピープル・アナリティクス」領域もその一つ。

こうした中、一番注目しておきたい領域が、ウェルネス・ウェルビーイング領域とラーニング領域です。次回はこれらの領域について触れたいと思います。
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【速報】2019年の世界のアグリ/フードテック投資総括概況が公表される

2/25/2020

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出所:米Agfunder News URL: https://agfundernews.com/from-agfunder-with-love-global-agri-foodtech-funding-reaches-19-8bn-in-2019.html  

2020年2月5日、米AgFunder社より、昨年2019年の全世界の農業テック、フードテック領域の市場トレンド並びに投資額の概算総括レポート(AgFunder Agri-Food Tech Investing Report 2019 Year in Review)が発表されました。恐らくまだ数字の微調整が入る可能性があり、そのうち確定値は変わるかもしれませんが、昨年はUS$19.8BN(≒2兆円超)の投資が集まった模様です。これは、前年比で投資額ベースで4.8%減、案件数ベースで15%減となりますが、過去5年間で250%の成長率を果たしています。これは、VC投資全体が、昨今の世界的に立ち込めつつある景気の暗雲により前年比で16%減少している中、堅調な数字に思えます。

主な注目点は:
  • 上流領域が堅実な推移<+1.3%金額ベース・$7.6BN:アグリバイオ/農業現場に近い領域のテクノロジー/バイオマテリアル/バイオエネルギー/農業マーケットプレイス/機能性食材等>
  • 下流領域は一旦踊り場<▲7.6%金額ベース・US$12BN:レストランテック/EC食料品/料理系アプリ等>
  • ▲56%:フードデリバリー領域 ~競争激化+利ザヤ確保が難しい事業モデルでいよいよレッドオ―ション化が顕著化
  • ▲7%:食品EC系: ~全体的に鈍化傾向。但し、中国では昨今のコロナウィルス現象で相対的に食品ECサービスが成長
  • +38%:新規農業インフラ/システム ~件数ベースでは▲16%
  • +17%:新機能性フード領域 ~ 代替プロテイン他がけん引するも、Beyond Meat等の一部メガ案件によるインパクトも考慮すべき。今年は代替乳製品から食品保存等の領域に広がると予想
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 出所:米Agfunder Newsより 「AgFunder Agrifood Tech Investing Report 2019」より、P.23 「Deal Volune and Activity by Category」項目を転載

  • 地域別では、ラテンアメリカ及びアフリカ(本社機能はイギリスが多い)を本拠とするスタートアップが存在感を出し始めている模様
  • 北米では、以下のグラフで顕著に表れる通り、相変わらずカリフォルニアの投資額が突出‼
  • 日本の投資額は世界主要各国中20位(US$88MN)。(1位米国($8.7BN)、2位中国($3.2)、3位インド($2.3BN))
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 出所:米Agfunder Newsより https://agfundernews.com/from-agfunder-with-love-global-agri-foodtech-funding-reaches-19-8bn-in-2019.html 

一方、日本企業もこうした欧米の先端フードテック・アグリテックの技術ノウハウを自社の新規事業戦略~製品開発戦略に活かすべく積極的に取り込んでいく流れは今後徐々に加速化、顕在化していくものと思われます。昨年も、投資会社やCVCによる大型投資は既に散見されますが(ソフトバンクはベンチャーの域を過ぎたグロースフェーズの大型投資が目立つ)、特に、いわゆる大手国内食品ブランドやCVCにとどまらず、大手上場食品系事業会社から地方を含む独自領域で技術力を誇る日本の食品、生化学系の事業会社において、自社にうまく取り込んでいく機運が出てきそうな気がします。現に、日本の化学品老舗大手の株式会社クレハは、シリコンバレーでここ2,3年注目されていたBoost Biome社にこの程戦略的投資を実施した旨公表済み。ここ最近、生物学と工学とが融合して新たな人工的な研究開発が盛んな時代になっていますが(Synthetic bio)、一方、自然由来の微生物(Microbiome)の持つありのままの機能性や実用性に着目し、さらに深掘りしていこうという動きも同時並行的に進展しており、これらの動きを今後注目していきたいです。

そんなこんなで、ひとまずは速報でした。後日、個別セクターで注目している分野(=Biomaterials)にフォーカスを絞ってみたいと思います。

※注記:本記事の主要データは、米AgFunder社による公表レポートを転載、参照しております。
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2020年以降も堅実に伸びそうな北米エンタープライズ・ソフトウェア投資<序章>

1/18/2020

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(写真出典:米国サンフランシスコにて開催された大型カンファレンス会場にて筆者が撮影)

このところフード・バイオ分野をテーマとする投稿がしばらく続きましたが、久々に元々長年取り組む領域であるエンタープライズ領域について今回は簡単に触れたいと思います(※詳細/具体的な話は時間の都合上次回に廻します…)。

2019年はエンタープライズ・ソフトウェア領域の市況は力強く推移した1年となりました。世の中的にはAIやマシーンラーニングはバズって久しいですが、今尚業種横断的にエンドユーザーの痒い所に手を届かせようと多くの技術やサービスが開発され続けています(ロボティックスやモビリティ、ウェルネス/ヘルスケアから農業やフードトレーサビリティまで用途は実に多様)。ガートナー社によれば、2019年の全世界の主要企業間でのエンタープライズ・ソフトウェア領域への投資は前年比8.5%上昇をしてUS$453BNにも上った模様です。同様に、2020年と2021年には10.5%の成長を予測しています。

北米のIPO(新規株式公開)市場でも2019年は全体の中でも特にエンタープライズ・ソフトウェア分野は堅調なパフォーマンスを残しました。米国のIPO市場の調査会社である米Renaissance Capitalによれば、昨年9月時点で9社が上場を果たし(調達金額合計US$11.2BN)、上場後の株価は平均で54%株価が上昇しており(代表的な案件:Zoom=135%⇧、Cloudfare=30%⇧、Slack=1%⇩)、理想的な株価形成を果たしている模様です(IPO主幹事経験にある筆者としては、この数値はバブっていない、初値割れしていない、「理想的」な数字です)。当該セクターは、持続性の高いマネタイズモデルが今一つ読めないような他の新しいセクターやサービス(Ex. 利ザヤが薄いフードデリバリー系や、Uberと共にユニコーンの一角と騒がれつつも未だに利益が出ていない様子のLyft、等)と比べて、IPO市場では好まれる傾向が強いと思われます。良く言われることですが、やはり①B2Bモデルであり、B2Cと比べて売上の規模感が大きい点や②サブスクリプション・ビジネスモデルが主流であり、ある程度の売上の将来予測が見えやすい点といった安定成長感、手堅さが好まれる傾向が強い、といった点が考えられます。

また、ベンチャーキャピタル等によるエンタープライズ・ソフトウェア領域への投資も引き続き堅調に推移しています。米調査会社Statista社によれば、2019年の主要VC投資額でセクター別ランキングでソフトウェアは全体で4番目に多かった模様です(因みに①インターネット②ヘルスケア③通信/モバイル)。ほんの代表的な一例ですが、サンフランシスコ~シリコンバレーを中心としたスタートアップで最も投資を受けているエンタープレイズ領域のスタートアップは以下の通りです:
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出典:米EqualOcean社 - https://equalocean.com/software/20200118-enterprise-services-in-san-francisco-top-20-startups

以下は、2017年から2019年にかけてSaaS領域で最も積極的に投資を手掛けている主要ベンチャーキャピタルやアクセレレータのリストです。AccelやAndreesen Horowitzは当該分野で兼ねてより積極的に投資をし、専門家も豊富に要するチームがいることで有名。その他、ここには掲載されていませんが、金額的にはそれほど大きくはないものの、我々がアメリカ国内でご縁を持つ老舗VCファンドの一つであるBlumberg Capitalも兼ねてより当該分野に粛々と投資と育成を施している模様です。また、意外にもこのリストには出ていませんが、Y Combinatorも地道にB2Bエンタープライズ領域のスタートアップに手を施して育成に取り組んでいる模様です。
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出典:米Growhlist社‐https://growthlist.co/blog/saas-vc 

当該領域で2020年以降の注目されるテーマとして取り上げられるのは:
  • AI/ML
  • AR
  • エッジコンピューティング:IoTや5Gがこれからますます隆盛していく中、膨大な情報を実用的かつ効率的にこなす上でエッジコンピューティングの役割がますます拡大していく模様。
  • パーソナライズ化
  • セキュリティ 
  • ブロックチェーン
  • IoT
次回は、こうした北米を中心とするソフトウェア開発の動向の中でも、2020年以降、先に隆盛する北米市場からいよいよ日本国内でもこれから個別企業間での積極的な導入・応用が大いに期待される分野をピックアップして取り上げたいと思います。我々Wildcardとして2020年から本腰を入れて日米で取り組むテーマです。

出典:(*)https://www.statista.com/statistics/277506/venture-caputal-investment-in-the-united-states-by-sector/ 
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フード×フードテック~2020年とこれからの潮流を斬る

1/16/2020

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写真提供:米サンマテオ市にあるKitchentownのIn-house kitchenにて筆者撮影
明けましておめでとうございます。そして、2020年代という新しい区切り("A New Decade")の節目を迎えました。今回は新たな一年を迎えたのを機に、フード領域で2020年以降の着目しておきたい潮流について、米国現地にてフード領域の新商品ならびにサービスを準備展開をする中で感じる点にを触れてみたいと思います。

今や日本も含む世界の主要地域でNOSH(“Natural-Organic-Sustainable-Healthy”)という括りで新しい食への追求がすっかり浸透していますが、北米を中心とするフード+フードテック周辺産業領域で新たな技術革新やサービス革新が顕著になり始めたのは、2015年頃です。統計的に振り返っても全世界の主要地域の投資金額が2013年のUS$330BNから2015年はUS$5,735BN(*)へと如実に大きく飛躍をした年です。また件数ベースで見ても2013年の主要投資件数が23件から2015年は122件へと実に5倍以上伸びました。当時サンフランシスコ~シリコンバレー界隈ではスタートアップのコミュニティを中心として日本国内でも徐々に流行り出していたCo-Workingスペースといったオフィススペース等の中にある自販機やカフェテリアには、日本茶もしくはコンブチャをはじめとする健康色の強いソフトドリンクが注目を浴び始めた頃であったり、一方で世の中ではOn-Demand系新サービスが流行り始めたころです。

そもそも、米国で食に関する意識が高まり始めた社会的な背景についての私見を少し触れておきたいと思います。

2010年代は、ミレニアル世代が社会的な存在意義を印象づけた10年であったのではないかと思います。2010年は14歳から30歳前後ですが、2020年彼らは24歳から40歳前後となります。彼らの価値観がこの10年間で登場した新しい商品やサービスに大きな影響を与えてきたと考えて間違いないはずです。彼らの特長として「デジタルネイティブ」がまず挙げられますが、「社会的課題への意識の高さ」についても言えます。地球温暖化をはじめとする環境保全問題や動物虐待への意識、そして、自分のことは自分で管理をする価値観が多い子の世代では、健康に対する考え方も他の世代より積極的(=健康志向が高い)である点が指摘されます。その結果、働き盛りのミレニアル世代が多い都市圏から、健康を意識した食への追求が2012年頃から顕在化し始めて行きましたが、ちょうどこのころ(2011年~2013年)に創業されたフードベンチャーが2020年となった今、着実に市場に浸透し始めているという流れが見えてきます。
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出所:米Pew Research Center「Generations and Ages」https://www.pewresearch.org/topics/generations-and-age/

さて、2014年当時は、まだ研究開発型のベンチャー等が地味に取り上げられるような状況でしたが、次第に都市圏の働きざかりのミレニアル層から健康志向層(例:ヨガ、アウトドアレジャー等)を中心としてNOSH(“Natural-Organic-Sustainable-Healthy”)という新たな概念が生まれます。次第に消費者側や価値観の変動で次第にこうしたフード・フードテック+アグリテック分野で起業をしようという研究者や起業家が現れ始めました(それまでテック系の分野で働いていたり、学位を取得していた者)。これに拍車をかけるかのように、この頃にはマイクロソフト創業者であるビルゲイツ氏をはじめとする、テック業界の大物エンジェルが、当時一般大衆があまり注目をしていなかった「未来の肉」を取り扱うバイオ系ベンチャーへの投資をし始めます。その結果、「Food」「Food-Tech」が一つのサブセグメントとして認知がされはじめ、2015年以降着実に伸び始めていくのです。この動きに、既に成長軌道を描くことが難しい成熟産業であり、株式市場からのプレッシャーも高まり続けていた既存の大手食品ブランドにとっても起死回生に繋げられる千載一遇のチャンスの到来となり、ちょうどこのころから、既にテック業界の大手企業では普及していたCorporate Venture Capitalスタイルの取り組みが取り入れられ始めました。さらに、既にこの頃から世界の政治的な論争に発展して久しい地球環境問題(温暖化、環境汚染等)で世間からの厳しい目にさらされる傾向にあった大手化学品メーカーも同調し始めます。
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備考:米CB Insights社「Major food companies launch investment vehicles」URL: https://www.cbinsights.com/research/food-beverage-startup-investors/ より転載

そして、それまではほぼ無縁に近かった印象のあるサンドヒル通り沿いのシリコンバレーの老舗ベンチャーキャピタルファンドも当該分野に着目をし始めたり、先の大手企業も挙ってフードテックファンドやアグリバイオファンドを立ち上げはじめていきます。これが、現在のエコシステムの発展に繋がっていきます。

簡単に数字を振り返ると、2008年のフード+フードテック分野への投資額は推定でUS$60M(60百万米ドル≒70億円)であったのに対して、2015年にはUS$1 Billion(10億米ドル)にまで跳ね上がりました。さらに直近5年間で件数ベースで2015年223件であったのが、2017年は459件にほぼ倍増しています。まだ集計はこれからですが、恐らく2019年は600件は軽く突破しているはずです。尚、大手証券会社のUBSの試算によれば、代替食(“Alternative Diet”)分野だけに絞った場合の資金流入額についても、今後10年~15年間(すなわち2020年から2035年にかけて)でUS$ 5 Billion(≒5,000億円)からUS$ 85 Billion(≒8兆5,000億円)に伸びると予想しています。
 
では、2018年~2019年のフード、フードテック分野でベンチャーキャピタルや事業会社の資金が最も集まった分野を振り返ると、以下の通りです:

フード分野<Consumer Food Tech>
  • 代替食材(プロテイン、次いで代替乳製品類)
  • 食品残渣の有効再利用(Food Up-cycle)
  • 機能性ドリンク
  • 「味」、「香り」を追求する技術等

特に、「味」や「香り」を追求する技術が2019年は着実に進んでいる印象を受けます。例えば、イスラエル発のDouxMatox社のように、従来の精製された砂糖や食塩等を一切使用しないで食品に甘さや塩分的な味覚を生み出す新たな素材を開発するベンチャーが昨年US$22BNものシリーズBファイナンスを果たしており、Impossible Foodのような代替バーガー商品が世の中に出てくる中、私たちにとっては肝心の美味しさや口触りといったものを満たしてくれる代替技術も注目され始めています。

そして、既に幅広いメディア媒体を通じて取り上げられているのでもう周知の事実かとは思いますが、2018年、2019年は代替食材、特に代替プロテインが最も件数及び金額ベースで大きい比重を占めていました。代替プロテインは既に大型IPOを成功裏に成し遂げたBeyond Meatと昨年5月にUS$300MMのシリーズE投資を集めたImpossible Foodといった、既に研究開発フェーズからコマーシャル化を果たしている代替牛肉("Alternative Beef")ブランドへの後期成長段階投資がけん引していますが、2018年秋頃からは彼らの後を追うように、この頃からは代替プロテインでもポーク(豚肉)と代替魚肉への研究開発関連投資が増え始めて来ました。具体的には、New Age Meatsや、Finless Foodsといったブランド。いずれも、Indie Bio卒業生です。一方、鶏卵を使用しない「代替卵」なるものを開発販売するブランドとして2011年に創業し、大手VCのKhosla VenturesをはじめとするVC等から既にUS$200MM以上の資金を集めているJUST EGGS社は、2019年末にWhole Foods Marketの店舗内Hot Bars(いわゆるフードバー)内で同社のVegan Scramble(≒植物性スクランブル”エッグ”❔)を販売することが報道発表されており、いよいよ今年から普及していく見込みです。

むしろ2019年に入ってから伸び始めたのが、代替乳製品類への投資でした。いわゆる従来の動物性由来ではない植物性あるいはラボで培養された代替乳製品(Alternative Dairy)で、具体的なアプリケーションとしてはミルク、ヨーグルト、チーズやバター等。既に全米のチェーン店で販売され始めている代替チーズのMiyoko's Kitchenをはじめ、代替ヨーグルトを開発製造、販売をするPerfect Dayや黄色エンドウ由来の植物性、高機能性(らしい)代替ミルクを開発製造販売をするRipple Foods等、2018年は全投資額で代替プロテインを抜いて最も多くの投資資金が集まっています。現に、2018年には代替乳製品がUS$1.8BN(≒2,000億円)伸びており、一方既存牛乳関連は同US$1.1BNの売上縮小に陥りました。背景にあるのは、乳牛が摂取される抗生物質や動物虐待への敬遠、農場から発生する二酸化炭素問題等の環境問題、そして乳糖不耐症を持つ人々の代替選択肢への高い追及心が挙げられます。

一方、地球環境問題への対応策として、食品残渣問題に着目した食品残渣再利用("Food Upcycle")をテーマにする新しい食品も引き続き新生ブランドが続々と登場しています。例えば、当該テーマでは先駆者であり、ビール会社の工房から発生するビール粕の残存栄養価値に着目してそれらを有効再利用し、高栄養価スナックバーを開発するReGrainedは2018年の最初の大型外部資金調達を果たしてから昨年は新たな商品ラインアップを発表し、2020年は飛躍の1年となりそうです。食品残渣再利用関連での潜在市場規模はUS$46.7BN(≒4兆8,000億円)と試算されており、今後10年間で年率換算で5%のペースで伸び続けるものと見られています(**)。
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注記:Food+Tech Connect、RISE Brewery, Inc.社Ryan Williams氏によるレポートより<https://foodtechconnect.com/2019/06/06/2018-u-s-food-beverage-startup-investment-report/ >
一方、食に纏わるテクノロジー領域に目を向けると、以下の通りです:

フードテック分野(***)<Industrial Food Tech>
  • デリバリー関連
  • 食品トレーサビリティ   
  • レストランテック(Ex. 自動ロボット等)
  • 食材保存技術(バイオ)
  • 食品品質管理系(ソフトウェア等IT)

デリバリー関連とは、いわうるUber EatsやDoordashをはじめとする食事の配達と、InstacartやFreshdirect、Amazon Freshに代表される食料品の配達代行サービス両方を含みます。食材保存技術については、前述のFood Up-cycle商品と同様に食品残渣問題を取り扱うものが登場し始めており、Apeel Scienceのように、バイオテクノロジーやマテリアルサイエンス分野を駆使した食品保存技術が生まれ始めています。レストランテックに関しては、Zoom Pizzaが数年前からピザの完全自動化ロボット技術ということでバズっており、ピザ好きにとってはたまらなく興味深いトレンドとして2017年頃から続いていますが、2020年を迎えた現在は、事業の肝心なマネタイズ・モデルが定まり切れていないようであり、Zoom社では大幅人材カットを余儀なくされ始めています(****)。CESやフード系大型カンファレンスでも、昨年も引き続き外食現場の生産性効率等を唄う特徴的なロボット技術が発表されており、テック好きのテック界隈では注目されているものの、果たしてどこまで実用性があるものなのかはまだ未知数に思えます。

本稿では詳しくは割愛しますが、Food-Techと一括りで纏めようとするなれば、以下Better Food Venturesによるレストラン関連テックの最近の勢力図をご覧頂ければ、この分野一つだけに絞ってもいかに多種多様なサービスが乱立し始めているかが一目瞭然かと思います(尚、一部はフードテックという括り方よりもB2BソフトウェアやHRテックに分類される方がしっくりと来そうなものも含まれています)。
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出所:2019 Restaurant Tech EcosystemTECHTABLE & BETTER FOOD VENTURES

では、2020年以降の具体的な流れやテーマとしては以下のものが私見では予測されます:

フード関連:
  • 代替乳製類<ヨーグルト、チーズ、ミルク類>は2020年から来年あたりがピーク❔
  • ペットフード市場の高機能性フードの追求
  • 食品残渣のアップサイクル系は引き続き持続
  • 今までの都市圏ミレニアル層主体の市場から、シニア市場/ケア市場向けが登場する
  • 西アフリカの食文化由来の食材に続き、東洋食文化に由来する新たな代替食材とその可能性の探求がいよいよ始まる❔❕
  • 牛肉・豚肉の次の代替プロテイン<魚・豆・他>への投資が2020年から2021年にかけて活況
  + CBDの【合法的な】活用(※敢えて【合法的】を強調しておきます…)

代替プロテインに関しては、Impossible FoodやMemphis Meatといった大型プレーヤーが先例を築き上げ始めていますが、実際に一般市場で浸透し始めるのはまだまだこれからです。従って、一般消費者市場でどこまで普及していくのか、日本進出も含めて今年はそういう意味で興味深い1年となりそうです。また、日本由来の大豆肉といった植物性由来の高品質大豆肉のようなタンパク質が同じように西洋レシピで応用できる素地はまだ広がっているように思います。とかく日本の食品メーカーは欧米市場での販売・ブランディングや事業戦略がとことん下手な印象を受けますので、今年は日本のブランドが持っている素材を活かすのを見てみたいです。

一方、シニア市場を意識した商品やサービスは相対的にまだ数多くは出て来ていませんので、この領域でそろそろ動きが出始めてもおかしくないと考えています。Aging 2.0という言葉もここしばらく耳にする機会が減っている気がしますが、アンチエージングをはじめ、健康と長寿をテーマとするような新たなフードが出始めるのもそう遠くはない気がします。例えば、ゲル状の機能性食品の開発も水面下で進められ始めており、ドリンクとは違い、あくまで「噛んで食べる」食事の部類に入るものの、歯が弱った高齢世代にとって食べやすく、かつ、栄養価も効率的に摂取できるようなFunctional Foodとして、新しい「食感」の追求がこれからでてくる気がします。

そして、West Africaの伝統的な食材に関心が集まっていますが(よく知られるものとしてはモリンガ等)、これまであまり着目されていなかった東洋の伝統的な食材がフォーカスをされ始める可能性も十分あると考えています。良く考えてみると、FermentationやKojiという言葉がバズり始めてから数年が経ちますが、前者はすなわち「発酵」であり、後者は「麹/糀」、つまり、我々日本人には古き昔からあまりにも馴染む事柄ばかり。そろそろ、欧米からの発想に新しい発想を見出そうとせず、我々にとって非常に身近な食文化や古き良き長年のルーツから異文化で応用できるものを発見する時期に差し掛かっていると思います。

フードテック関連:
  • フードトレーサビリティ関連(IT領域)
  • 味覚/食感の追求(2020年はまず【脱・精製Sugar+α】)
  • 飽和しつつあるフードデリバリー分野の次なる差別化対策としてのUX戦略(Ex. 品質管理等)

新鮮さ、地元色の強い生鮮食材を取り扱う、そしてそれらを自宅まで速やかに届けてくれる、といったフードデリバリーサービスが既にレッドオーシャン化している2020年以降は、玉石混交の中からの生き残り対策をかけて、栄養価の維持、元の新鮮さの維持、といったような付加価値でそれぞれが消費者に訴求しそうな差別性を追求し始めています。味覚/食感の改善を目指す新たな食材の追求と共に、食品保存面を司る技術力(バイオ領域)の競争もこれから活発に出始めてくると考えられます。一方、レストランテックの一環としての一連のロボティックス開発はそろそろ踊り場を迎えつつあるような気が致します。
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注記:米サンフランシスコ市内のIndie Bioのセミナーにて、筆者が撮影

次項では、アグリテックに焦点を当てた2020年以降の潮流について触れたいと思います。

備考:(*)米CBInsights社試算。(**)Future Market Insights社/Rethink Food Waste Through Economics and Data社試算 (***)アグリテックは除く (****)https://www.mv-voice.com/news/2020/01/09/zume-pizza-lays-off-172-workers-in-mountain-view
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✯スタートアップとVC投資の世界は、欠落した “ベンチャーキャピタリストへの” モニタリング機能を今こそ機能させるべき

11/2/2019

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(写真:米国サンフランシスコにて筆者撮影)
今般のWeWorkの米国ナスダック市場への上場申請の延期が話題ですが、今回の件は、ここ10年間のシリコンバレーの一つの傾向を如実に露呈させた、氷山の一角に過ぎないと思います。あまり定量的・客観的データに乏しい、幾分直観的・偏った味方である点、どうかご了解を頂きつつ、今あるスタートアップのエコシステムの重要な役割を果たすべきベンチャーキャピタルに抜け落ちているのおは、ベンチャーキャピタルへの適切なモニタリングが希薄化・形骸化してしまっているというものです。ベンチャーではなく、ベンチャーキャピタリストに対するモニタリングです。日頃、起業家経営者に対するベンチャーキャピタルや出資者による適切な経営面でのアドバイス等のモニタリング、というより、メンタリングについては既に多くの取り組みが成されており、若くてまだ実業経験が乏しかったり、長年のキャリアを捨てた起業家経営者でも起業実務経験に乏しいことへの補完としてのハンズオン支援やモニタリングは活発にされていると思いますが、それらを司るはずのベンチャーキャピタルそのものについては、あまりありそうに感じません。

2000年代以前と比べて、今では多くのベンチャーファンドが立ち上がり、そうしたファンドのGP(General Partner)も若手キャピタリストの台頭が加速化・活躍をしていますが、彼らとて、自分達がサポートをする起業家・スタートアップ同様、社会人/ビジネスパーソンとしては発展途上であるとの考えです。一方、ベンチャーファンドへ出資を行う金融機関や事業会社をはじめとするLP(Limited Partner)はこぞって増えていますが、彼らは、出資をするベンチャーファンドのパフォーマンスをモニタリングする際、ファイナンシャルな要素だけでなく、投資担当者の適切なモニタリングも果たすことが求められると思います。そのようなLPによるVCへのモニタリング機能不全が、最終的には、出資先であるスタートアップのモラルハザードに波及してしまっているものと考えます。実際、VCから投資を受けた起業家経営者から直接耳にする話に基づくと、デューデリジェンスの内容や投資後の経営会議での言動を聞くたびに、筆者がVCを手掛けていたころと比べて愕然とする話が決して少なくありません(あるいは、筆者が気づかない場所で既に日常茶飯事であったのかも)。

キャピタリストの起業家へのモニタリングの質の低下⇒その結果、キャピタリストの未熟化⇒それが、全体的に起業経営者の質の低下

かつては、実業経験が豊富な人材がベンチャーファンドを立ち上げる、という構図が出来上がっていた印象があります。一方、2010年前後からのソーシャルビジネスやアプリ開発系の、フットワークの軽い(開発が決して安易であるという意味ではなく)、投資ライフサイクルがかつての半導体や開発系のベンチャー投資と比べて短い、投資金額も一桁小さいものが主流となった今、キャピタリストの若年層化が起きており、それは業界の活性化においては良い現象ですが、ただし、勢いばかりがついて足元がしっかりしないまま走り続けているような印象です。これは、日本国内と米シリコンバレーの両方で感じること。今回のWeWorkの創業者を1人突っ走り続けさせてしまったことも、出資者とVC担当者とがもっと投資先の経営者を的確に見る仕組みが出来ていれば、もしかしたら超えるべきではない一線は超えずにそのまま成功裏にIPOを果たしてさらなる順調な成長を果たせたのかもしれません(無論、ビジネスそのものは成長していると思いますが)。ベンチャー投資は、同じプライベートエクイティ領域であるバイアウトやターンアラウンド等とは違い、より人間臭さが漂う職種であるとの考えです。そこには、担当者の人間力や成熟度が不可欠ではないかと考えます。

今、WeWorkが経営面で苦しい時期を乗り越えようとする中、我々は改めてこれから、日本国内においてもIPO市況を活性化していくという目標を掲げていくのであれば、投資責任を負うVC、VCへの出資を行う事業会社や金融機関をはじめとするLP、そして当事者である起業家経営者のすべてが取り組んでいくべき良い時期であると思います。
備考:(*)https://nvca.org/8-takeaways-8-graphics-historic-2018-venture-capital/ (**)https://www.statista.com/chart/11443/venture-capital-activity-in-the-us/ 
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WeWorkの上場延期で注視したい大型IPO候補の行方は❓

10/7/2019

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(写真出所:上:https://insidetrade.co/airbnb-direct-listing/   下:  https://table.skift.com/2019/02/07/postmates-files-for-ipo/)

先般、アメリカのユニコーンベンチャーの代表格であるThe We Companyが米国Nasdaqへの上場申請を撤回したニュースは全世界で派手に知れ渡りましたね。このThe We Companyとは、もちろん、スタートアップのCo-Working Spaceとして日本上陸も果たし、ソフトバンクからも大型投資を受けたWeWorkですね。この件については、既に多くの有識者が興味深い見解を発表されていますし、中には今回の延期発表前に既に警笛を鳴らしていた方々もいらっしゃいましたね。当方も証券業界でIPO主幹事実務経験を含む10年間、その後VC業界で3年間の日米ベンチャー投資を経験させて頂きましたが、「相変わらず人間は全く同じ罠にはまる動物なのだ」という印象を強く抱いた次第です。それは、以下の通り:

  1. 時価総額の根拠となる合理的な説明が出来ない会社はIPOは✖(サービスは例え素晴らしくても…) 
  2. 申請会社の組織構造がやたら複雑な会社は「何かある」
  3. 創業者が「勘違い」している会社は「即アウト!」(✯⇒これ、日本のIPOにも昔からありますね)

1については、WeWorkの場合、直前の投資価値がUS$47billionであったわけですから、それを上回る株価・時価総額で上場しない限りは既存株主は了承しませんが、もしもIPOをしていたならば、実にUS$50billion程度となる予定であったそすれば、その根拠は見当たらりません。Space-as-a-Serviceという聞きなれない表現を突き付けていますが、先の「Risk Factors」をさっと流し読みをしても、大半のリスク要因は「不動産相場」の範疇と思われる項目しか見当たりません。つまり、WeWork≒不動産関連銘柄という構図になるとしか思えないということになりますね。

また、2については、S1の前半のカラー口絵の箇所(「Corporate Information」16頁目)には、同社の組織構造が掲載されていますが、ここで、「The We Company was incorporated under the laws of the state of Delaware in April 2019 as a direct wholly-owned subsidiary of WeWork Companies Inc...~」と記載されているところが気になります。つまり、上場申請する事業年度である2019年4月に新たに設立されたばかりというところが、何か腑に落ちない印象を与えれてしまいます。上場申請事業年度に新しい組織再編がされているのであれば、継続性の観点でどこか直観的に引っかかるのが筆者の考え方です。必ずしもこうした点が何らかの事象が隠されているとは限りませんが、何か「感づく」習慣をつけておくのも良いと思います。

因みに、IPOを見る際、異論はあるのかもしれませんが、目論見書で必ず目を通すべき箇所は次の2カ所です: 一つは財務指標(当たり前ですが)、それから同じくらい重要なRisk Factors(日本でいう「事業等のリスク」に該当)です。時代の変遷に伴い、多少の変化はあるのかもしれませんが、IPOの主幹事業務で会社の経営者や管理部門の皆様と最も時間と労力を割くのは、この目論見書の重要記載項目である「事業等のリスク・Risk Factors」です。WeWorkの上場申請時のS1では24頁目から52頁目がそれに該当しますが、ここを読むと、同社が「単なる古き良き不動産関連企業ではなく、未来志向のテクノロジーありきのNext Big Thing」的な主張やメディアの持て囃され方からは乖離を感じてしまいます。なぜなら、本来、不動産でない「何らかの要素」がこの会社の株価・事業価値を決めるのであれば、その「何らかの要素」が脅かされる結果、自分達の事業の土台が揺らぐとの開示をこの「事業等のリスク」で少なくともある程度は反映・記載されていてもおかしくないはずだからです。しかし、そうした項目はほとんどないですよね。つまり、考え方として、「うちはITよりも不動産及びその周辺市況に業績が大きく左右される会社」だということを伝えてくれているわけです。

3点目の「勘違い創業者」については、もうわざわざ書くまでもございません(例:会社のお金を勝手に使い込む/“個人的”な人間関係を中枢メンバーに入れたがる/多々)。

※ご参考: WeWork(正式な登記名:The We Company)のS1目論見書

では、これから上場が囁かれる会社群の中で恐らく注目に値するのは、残るはやはりAirBnBですね(Uber、Lyft、Slackは上場済み・・・但し、2019年のIPOクラスは尽くUnderperformしていますね(笑))。時価総額は、直前の投資ラウンドで既にUS$31 billionです。それから、もう1社は、AirBnBや先のWeWork、既に上場を果たしたUberと比べると小粒になりますが、今我々が力を注ぐ分野(Food/NOSH/Bio)の一つであるFood Deliveryで業界トップ級でいわばユニコーン的なポジションと見られるPostmatesです。但し、時価総額はUS$1.5 billion程度です。

まず、AirBnBについてですが、公に報道されている事業規模では、既に売上高がUS$1 billionを超えており、EBITDAベースでも黒字化しているようで、それに対して時価総額が直近でUS$31 billion。想定競合他社であるExpediaがUS$18 billion、ホテルチェーンのHiltonがUS$25 billion、Booking.comのBooking HoldingsがUS$80 billion(**)という水準を鑑みれば、WeWorkのような「破格な盲目的博打」ではなさそうですが、一方で彼らにはリーガルリスクが付きまとっている点がディスカウント要因ですね。例えば、日本国内では民泊が禁止をされている物件での民泊をされていたり(※筆者が実際に2,3年前、主催をするミニカンファレンスの為に福岡へ滞在中に遭遇しました。日本で初めてAirBnBを利用した際、初日のエレベーター内で見事に「当物件は民泊を禁止しております」との張り紙が。笑)、米国内でもニューヨーク市が同市内のアパートでのいわゆる「短期の賃貸」を基本的に禁じているとのことで、同社の登録者のデータの開示を求めている模様(***)。これが決着つくまでは上場は見送られるものと思われます。無論、既存投資家(=VC)にとっては上場後のパフォーマンスなんぞはどうでも良い他人事となりますが、まっとうな主幹事証券会社であれば、IPO後のパフォーマンスは気にするはずですので、昨今のWeWorkの件を鑑みて、慎重に出てくると考えています。ただ、AirBnBの場合は、SpotifyやSlack同様、既に自前で資金が賄われていて差し当たって資金調達の為に上場をする必要性に迫られていないとの見方も強く、証券会社を通さない+新株発行による資金調達を伴わないいわゆる「Direct Listing」方式を採用するのではとの憶測も流れていますが、結構アグレッシブな経営戦略を突き進む印象が強い会社ですから、上場を機にまた大掛かりな新戦略を打ち出してそこにさらなるバリュエーションを高めて来そうな気配がします。従って、Direct Offeringではなく、通常の方式でのIPOになると思います。

一方、Postmatesは、WeWorkやUberと比べると小粒になりますが、彼らはUber Eatsと競う会社であり、DoorDashやGrubHubとフードデリバリー系で競うTier 1としては注目に値します。特に彼らはUber Eatsが競合にあたる為、Uber Eatsとどう対抗してどのように事業の将来の持続的な成長性のストーリーを描けるのかが焦点となりますね。因みにUber Eatsは、Uberの第二四半期決算書によれば、2019年上半期で売上高がUS$1.1 billionで前年比80%成長ですから、年間でUS$2.2 billionは到達する計算となります(*)。Uber Eats以外の主たる競合ではDoorDashがUS$600 millionを集めており、時価総額がUS$12.6Billionと大きく、2014年に上場したGrubHubは売上高US$1 billion、時価総額がUS$6 billion前後で推移。それに対して、Postmatesは売上高がUS$1 billion、時価総額がUS$2.4 billion。もう10月ですから、AirBnBと併せて、本件も恐らく来春にIPOをするのではないかと思いますが、Beyond Meatのように実際の食を創る会社が上場時から10倍近い時価総額に成長している一方でフードデリバリーやミールキットといったサービス系は尽く上場後の失速が著しいので、PostmatesのPost-IPOのパフォーマンスには期待をしたいところ。ただ、Uber Eatsの存在がPostmatesの成長ストーリーに壁となって立ちはだかりそうな点と、同社のシェアが業界トップではなく(つまりユニコーンではなく)10%前半で推移している点、類似企業として既に上場して久しいGrubHubの時価総額がさほど大きく飛躍していない点を鑑みれば、結局は既存投資家が同業への売却をした方がIPO市場で叩かれるよりも高値がつく可能性もあると判断される可能性も十分ありそうな気がします。

要は、Public Entityの仲間入りをするIPOとしての「成功例」とは、上場後の3~5年の株価形成がどうなるかであって、初日にストップ高買い気配で終わるとか、上場時の時価総額はデカいからとか、ではないのです。

さて、結果がどうなるか、これからも注視して行きたいと思います。

(*)出所:https://investor.uber.com/news-events/news/press-release-details/2019/Uber-Reports-Second-Quarter-2019-Results/default.aspx (**)https://www.vox.com/2019/3/19/18272274/airbnb-valuation-common-stock-hoteltonight (***) https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-09-19/airbnb-ipo-why-new-york-city-is-making-investors-nervous
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牛肉⇒豚肉⇒次はもちろん「魚」だよね❣~米国フード&サステイナビリティ分野の事例紹介<培養“魚”プロテイン編>

6/15/2019

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www.sophieskitchen.com/ ”細胞培養””植物性代用”プロテインの開発トレンドはご承知の通りですが、話題性のみならず、商品化が既に果たされ始めている「牛肉」や次なる「豚肉」に続き、今年の後半から来年にかけての話題となりそうなのが、「魚」の代用プロテインでしょう。

 一番最初に代替「魚」プロテインへの着目の動きが出始めたのは2011年頃ですが、当時はまだ今と比べれば代替プロテインへの世間の意識はそう高くありませんでした。まだソーシャル系の投資が話題を席巻しており、今のように地球環境や食環境、エコシステムへの体系的な話題性もまだない頃です。シリコンバレーや東海岸の一部のバイオ系の起業家や食品メーカー出身者、あるいは、食の将来に危惧をする起業家によって、こうした取り組みが徐々に増え始めて来ましたが、現地の感覚としては、概ね2014年頃からがはっきりとエンジェル資金が流れ始めた印象です。

 そうした中、一昨年からは、当方もバイオマテリアル系のスタートアップの案件と深く関わり始めた結果、米シリコンバレーで今バイオ・サイエンス系のアクセレレータの大手の一角であるIndie Bio幹部との交流が増え、彼らの支援の元で開発を進めているシリコンバレーのフード・バイオ系のスタートアップの創業者の面々と面識が出来る機会が増え始めました。その中の1社がFinless Foods。Finless Foodsとは、昨年春頃に彼らの取り組みについて直接話を聞くきっかけに遭遇。その頃は彼らは、メディア露出が徐々に増えつつあり、巷の話題には上る存在とはなっているものの、まだIndie Bioの門下生として粛々と開発を進めている段階にあり、「①地球上の魚の需給がひっ迫して価格高騰が進んでしまうこと②いわゆる地球環境問題で海洋の汚染の進行と共に我々の食卓に来る魚が汚染塗れになる」という課題に正面から向き合うべく、「究極の魚プロテインを世に送り出す」ことを目指しながら、日々多忙の生活を極めていました。それから数カ月後の昨年6月、大手VCであるDraper Associatesをリード投資家として複数の投資家層から昨年夏3.5百万米ドルを成功裏に集め、それから急速に開発が進み始めていった模様。
 彼らのような培養「肉」のは研究開発コストが嵩む事業モデルであるので、果たして市場化を果たせるまでうまく行くかは油断できないのが課題の一つとなりますが、今年から来年にかけて、彼らのブランドから「培養魚プロテイン」による商品がいよいよ市場に投入してくるのか、興味深く見守りたいです。

 尚、Finless Foodsのように魚の「代替プロテイン」に取り組むスタートアップはその他も話題に上がっており、その中の一部をここで簡単にご紹介します。  

Finless Foods:
創業:2017年
本社:エマリービル市
投資総額:3.5百万米ドル(≒3.7~8億円)
フェーズ:シード
主な投資家層:大手VC、サンフランシスコの主流バイオ系アクセレレータのIndie Bio等。
主な特色:独自培養技術による魚プロテインの研究開発。2018年時点でプロトタイプのテスト商品段階であり、今後正式商品化に向けて開発最終段階の模様。
ウェブサイト:https://www.finlessfoods.com/

New Wave Foods:
創業:2015年
本社:サンフランシスコ
投資総額:25万米ドル(≒3000万円)
フェーズ:シード
主な投資家層:地元インキュベーター、専門ブティック系VC等。
主な特色:主に海藻、大豆をはじめとする自然食材を活用した「植物性代替エビ」の開発製造。
ウェブサイト:https://www.newwavefoods.com/

Good Catch:
創業:2016年
本社:ニューヨーク
投資総額:8.7百万米ドル(≒9億円)
フェーズ:シリーズA(推定年間売上高:2百万米ドル(≒2.2~3億円))
主な投資家層:大手VC、シリコンバレーのエンジェル等。
主な特色:主な商品は「ツナ(=魚)」。主に6種類の植物性プロテインで構成され、レンズ豆、エンドウ豆、大豆等。2019年5月末現在、米国大手オーガニックフーズチェーン「Whole Foods」と契約を果たして店頭販売開始済み。また、オーガニック系食材のデリバレーサービスとして話題の一つ「Thrive Market」やオンライン食材スーパーの「Fresh Market」といった第三者のオンラインコマースを通じて販売中。
ウェブサイト:
https://goodcatchfoods.com/

Wild Type:
創業:2016年
本社:サンフランシスコ
投資総額:3.5百万米ドル(≒3.7-8億円)
フェーズ:シード~Pre-A
主な投資家層:フード系VC、食関連事業会社等。
主な特色:最初のフォーカスは「サーモン(=魚)」。ラボ内でベースとなる動物性細胞を増殖させ、それらをベースに人工的に肉を培養する技術。同社の主張として、当該肉は”基本的に「肉」そのものであり、従って今流行りの「植物細胞を使った代用肉」とは似て非なるもの”であるとのこと。
ウェブサイト:
https://www.thewildtype.com/

Sophie's Kitchen:
創業:2011年
本社:サンタローザ近郊
投資総額:1百万米ドル(≒1億円)
フェーズ:シード
主な投資家層:補助金、少額投資等。
主な特色:同社は2010年頃に創業、約2年間の基礎開発を経て2012年頃に「植物性エビ(Plant-based Shrimp)」を開発。創業者の愛息が魚アレルギーを発症したことから魚の代替プロテインを思いつくきっかけとなったとのこと。同社はエンドウ豆のタンパク質等を活用し、「魚のような食感」などを創出する手段としてコンニャクを活用。同社の製造工程に優位性。現在はさらに3,4種類のラインアップを増やして全国チェーン店等で販売中。
ウェブサイト:https://www.sophieskitchen.com/
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