第1回目のゲストは、米ZipZapPlayの共同創業者のお二人である、Curt Bererton氏と、共同創業者であり、実生活では奥様でもある、Ebayの元エンジニアMathilde Pignol氏( http://gamesauce.org/news/2014/08/12/mathilde-pignol-has-learned-to-stay-nimble-casual-connect-video/ )の両氏をお招きし、起業までのいきさつから、経営難に陥った苦難の時期にいかに乗り切ったか、そして大手VCからどうやって資金を獲得できたか、瀕死寸前で空前の大ヒット作が生まれた背景と裏話、そして日本のアントレプレナーが本場でチャンスをつかむためのヒント等、米シリコンバレーでは珍しくないものの、日本においては未だ中々実現出来なさそうなことについて、あるいは中々日本で米起業家/VCから本音では聞けないようなことなど、赤裸々に語っていただくことが出来ました。
同氏は米カーネギーメロン大学でロボット工学の博士課程を修了してから当初はロボティクス分野をはじめとする領域でのUIの研究開発に取り組んでいましたが、時流の流れと共に、より三次元であったり、よりソーシャル性を増したゲームコンテンツ開発の世界の将来性と社会的な意義に感銘を受けて、2007年に米ZipZapPlayを共同で創業しました。パートナーのMathilde氏もUIを専門としており、もともと米Ebayのユーザーインターフェイスの開発チームの中心的なデザイン・エンジニアの一人として活躍をしていましたが(同氏の記事:http://women2.com/2011/05/13/zipzapplay-acquired-by-popcap-women-20-talks-to-social-gaming-startup-co-founder-mathilde-pignol/ )、新たな分野に活路を見出すことになります。
特に、筆者が興味を抱いたのは、2009年から2010年頃にかけて、同社がヒット作に恵まれずに苦境に陥らされていた頃の話。当時開発をしていたゲーム作品について、多くの身近なユーザーから“善良な”フィードバックを得ていた彼らであるが、実際にお金を支払ってまでそのゲームをする人はあまりにも少なかったとのこと。その時、いかに、「プロダクト・マーケティング」が重要で難しいことなのか、市場はどこで当該市場の究極的なプロダクト・フィットは何か・・・、学問や開発の世界で第一線を歩んできた両氏が初めて直面した「経営する」ということのむずかしさだったとか。また、その際にいかに乗り切ったかという話では、常日頃から動き回るうちに知り合った人物から、貴重なアドバイスをタイムリーに得られたということ。その人物とは、すぐあとに米Zingaに買収されるFarmvilleの中心的なメンバーであったが、彼から、「フェイスブックがこれから重要なプラットフォームとなる。君たちの開発環境との親和性も極めて高いと思う」というアドバイスを受けてからは、当時、Iphoneをはじめとするスマートフォンの台頭や、Zinga、フェイスブックによるソーシャルな世界の急速な広がりを始める時期であるのを察知して、フェイスブック・アプリに的を絞る形で戦略を変換。すると、次作「Baking Life」が大ヒット作となり、結局2011年には当時米Zingaのライバルであった米シアトルのPopCap社に売却を果たすこととなります( http://venturebeat.com/2011/04/29/countering-zynga-popcap-games-buy-social-gamer-maker-zipzapplay/ )(そのPopCap社は米大手ゲーム開発会社エレクトロニックアーツ社の子会社となり、CurtとMathildeはEAにて開発チームの中心として2013年まで活躍をします)。
Network Effectを読み取る重要性
両氏の見解としてほかに興味深かったのは、いわゆる「ネットワーク効果<“Network Effect”>」についてのコメント。例えば、ゲーム業界の場合、かつてはコンソールゲームの時代があり、すなわちスタンド・アローンでのゲームの世界観を生み出すことでその人気を勝ち取る競争が行われていたが、当時は日本のソニーや任天堂が世界を席巻していました。一方、昨今のゲームとは、「ソーシャル」なもの。ソーシャル・グラフで繋がる者同士の横繋がりという軸が存在します。「ソーシャル」なものは、前述の場合と比べて地域性、土着性というものが極めて重要な要素となるということ。我々が身近に感じるフェイスブックやグリー、ミクシィやその他のソーシャルネットワークがそうであるが、その国々特有のカルチャーや慣習、価値観といったものに左右されるから、それらをしっかりと正確に把握をすることが経営者には求められるということ。実は、日本の起業家や、事業会社が昨今米国で攻めあぐねている根本的な壁は、そこにあるのではないかという点。異国、異文化圏の人間との接触が限られる日本において、この点は、一見国際化を果たしているように錯覚してしまいがちな日本でも、未だマインド的な点でやはり発展途上と言って良いといえます。さらに、ソーシャル性の高いビジネスでは、一番最初にデファクトを掴みとることが大切であるということ。 すなわち、ネットワーク効果を読み取ることは、それに付随するサービスを展開するビジネスには極めて重要であること。
その他、最初のファンディングの際、まだ開発段階でモノが出来上がる前(=売上が全く立つ前)にもかかわらず、一部のエンジエルやアーリーステージの投資家が出資を決断してくれたエピソードでは、まず日本では実現し得ないような話。こういる個々のエピソードから、シリコンバレーと日本の起業エコシステムとの環境が表面上は追いつきつつあるように見えてもいかに中身が依然としてかけ離れたものであるか、つくづくと痛感させられます。ちなみに、出資者を獲得するまで、50社以上と対面をしたものの、当初はことごとく却下をされたとか。50社あってもその先にまだフロンティアがあるという点が、日本との層の厚さの違いが浮き彫りになります。
尚、このUp Closeシリーズですが、今後は、米国からシリアル・アントレプレナーやベンチャーキャピタリスト、エンジェル投資家や事業会社経営幹部の人物等の日本来日時に合わせて、Wildcardの米国内の独自のネットワークを駆使する形で適宜日本で開催を致したいと思います。昨今、日本でも米国の大物実業家が来日を果たす機会が増えておりますが、本企画では、比較的スモール・セッティングで、なかなか日本で会うことが出来ないような米シリコンバレーの起業家やキャピタリストとのコミュニケーションの場を設けられるよう、創意工夫をしながら、さらに面白いものに仕立て上げて行く所存ですので、今回ご参加を頂けた日本の皆様や、このブログをご覧になられた方々からはいろいろとご要望等をお聞かせいただければと思います。尚、本シリーズは、他の大掛かりなイベントとは一線を画し、あくまでスピーカーと対等に会話をするようなコンセプトを大切に致しますので、ただ米シリコンバレーや海外のスピーカーの話を聞きにくるというのではなく、直接会話をしに来るというマインドで是非とも今後お越し頂き、ご自身の事業に生かしていただきたいというのが企画側の本望です。筆者も米国で事業を手掛ける中で出来上がる貴重な縁を生かして行きたいと考えています。
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