4月12日火曜日、今回も昨年9月同様に、渋谷・公園通り沿いに構える、粋にクールで、今春のForbes Japanにも紹介をされていた日本有数のCo-Working SpaceであるConnecting The Dotsにて、米Wildcard Program/KOEI COMPANY Presents - <Up-Close Talk Session Tokyo>シリーズの2016年第1弾を、お陰様で無事開催をさせて頂くことが出来ました。まずは、お忙しい中、本イベントにご来場いただきました多くの皆様に心から深く御礼申し上げます。
もともと本シリーズは、米国シリコンバレーからの著名起業家や、現地の大手VC/エンジェル投資家を日本にお招きし、日本の起業家・起業家予備軍、米国でこれから事業を本格的に展開しようとされる日本の事業会社の経営者やご担当者/個人の皆様に、通常は日本では大掛かりなカンファレンス等のキーノートスピーカーや登壇者の一人として登場するためになかなか直で繋がることが難しい人物と、比較的少人数制でタウンホールミーティング的なディスカッション・形式で触れることが出来るというコンセプトで昨年5月に開始致しました。ただ、今回は【特別編】という名称のとおり、例外として、日本で実業家、起業家として著名な人物をお招きすることと致しました。ここ数年間、スタートアップをはじめ、大手企業でも日本で盛り上がってきている、いわゆる訪日旅行客を対象とする新たな成長産業<インバウンド>市場に対する関心が高まっており、また、沢山の方々から、本テーマでのセミナー開催への強いご要望を頂いていることもあり、この度、ちょうど我々もインバウンドビジネスと密接に絡んでいることから、このテーマで実施をすることに致しました。
今回のゲストスピーカーは、日本で過去32年間に18社の会社を設立し、そのうち8社を成功させた(主に)著名な実業家・シリアルアントレプレナーの一人として知られる、Terrie Lloyd氏。彼は、ニュージーランドと豪州の二重国籍を取得しており、20歳の頃、短期旅行ビザを頼りに、日本に乗り込んできたことから、起業家人生が始まります。彼は、俗にいう「High-school drop-out(高校中退)」であると自称しており、Self-made entrepreneur(≒自らの努力の積み重ねで成功を勝ち取った起業家)であることを良く口にします。その経歴は、米シリコンバレーの著名起業家の軌跡と非常に似ており、彼が、ここ日本を活動場所としている点も非常に興味深いものがあります。同氏と筆者とは、米Wildcard Programやさまざまな事業で深く関わっており、その流れで、今回、同氏に打診をすることとなりました。
同氏の主な専門分野は、ITとメディア/パブリッシングであり、さらに、HR/タレントマネジメント分野(2005年にバイリンガルのオンライン転職サイトDaiJob.comをHuman Holdingsへ売却)やその他の特定分野に豊富な経験を持っています。そんな彼が2011年5月に、インバウンド分野に彼が着目をしたきっかけは、あの「311」でした。当時、日本人はもとより、首都圏在住の外国人を中心として、多くの外国人が放射能に対する極度の恐怖感等から、日本を次々に離れていくという状態が続いていました。それを危惧した同氏は、日本経済を支えられる数少ない成長産業分野の一つとして、2011年当時は今よりも手付かず状態であった、海外からの旅行客を対象として日本に関する情報を効果的に発信するようなインバウンドビジネスというものに着目し、震災の約2か月後には、JapanTourist.jpを立ち上げることとなります。その後の紆余曲折を経て2013年11月には現在のドメイン Japantravel.com を幸運にも取得をし(このドメイン名の取得が同社の急成長を促すとは当時は全く予想外でしたが、ここでは詳細は割愛します)、瞬く間に世界各地から同社の英語ポータルサイトへのアクセス数は急成長し、今や〝No.1 Destination”として多くの訪日旅行客のアクセス・ポータルとなるまでに至りました。こうした成長過程を経て、同氏が気づいた、日本のインバウンドビジネスにみられる数多くの〝オチ/罠”について、自身及びチームの苦労や実体験を通じて、今回、いろいろと含蓄のある話を頂くこととなりました。
最もキーポイントとなるのは、〝外人目線”というもの。最近特に良く耳にするフレーズですが、これがなかなか島国・日本人にはわかりにくい、というより、つかみにくいものです。結局のところ、日本国内にあるインバウンド向けビジネスの多くが陥る問題として、この「外人目線」の観点からやや的の外れたものや、例え訪日旅行客にとって痒い所に手が届くような粋なサービスが生まれていても、肝心の英語及びその他諸外国語への対応が全く出来ていない、といった問題が多く見受けられるということです。実際に、筆者も、Japantravel.comの事業開発に関わっていますが、一流大企業とて、外国人向けのサービスを本格展開することは、非常に難しいものであることが伝わってきます。無論、そのおかげでビジネスを有り難く頂戴するという結果に結びついているのですが・・・。
今回のセッションで触れられた大切なポイントを挙げると、外国人の観察眼への配慮、諸外国の歴史に学ぶ洞察力、その国々の地域性の理解、目指す市場セグメントの正確な理解、が、あげられます。
まず、外国人の観察眼への十分な配慮がいかに大切かについてですが、例えば、全く同じ対象物を見た場合に、そこから連想する答えは、日本人と外国人それぞれの答えは全く違ってくるというもの。具体的には、地方の町中を歩く際に、交通標識や注意書き等の標識看板がありますが、東京や大阪等の都心部とは違って、大半は日本語以外の表記がないものが少なくありません。従って、注意を促すような標識があっても、日本人の感性とは全く異なる外国人がそれを見ても、全く意味がとらえられず、結果として、いわゆる迷惑行為を起こしてしまうということが実際に起こり得ることとなります。この場合、もしもこれらの標識に英語での表記(恐らく、英語で大半の訪日旅行客に通じると考えられます)がきちんと記載されていれば、この訪日旅行客がその場で相応しくないようなふるまいを意図せざる形で起こしてしまわないで済む可能性があったわけです。実際に、外国人が日本を訪れると、リピーターとして日本を訪れる個人旅行客(〝FIT(Foreign-Independent-Tour)”)の大半は、最初の旅行を東京、大阪、京都といったいわゆる知名度の高い場所を訪れがちですが、その後は、日本の魅力に気づき、地方の都市へ次第に足を運び始めるようになります。そうしたときに、せっかく地方にFIT旅行客の流れが形成されつつあるにもかかわらず、町中の標識の不便さから、リピーターや知名度、とりわけ、実際にその町を訪れた旅行客によるブログ等の口コミに結果その苦い経験が綴られてしまい、そのほかのもっとすばらしい体験が霞んでしまうことが良くあることです。地方に訪日旅行客を迎え入れる上で、まず、「視覚的なおもてなし」が十分に配慮されることが大切となりそうです。
一方、これも実際にJapantravelを通じて学ぶことですが、日本へ訪れる旅行客の代表的な楽しみの一つとしてグルメがあげられます。すなわち、「Food Tourism」です。このFood Tourismには、大きく分けて、冒険心の強い層と、リスク回避的なグループとに分けられるといわれます。この場合のリスク許容度とは、馴染みのないグルメを積極的に試してみようという気持ちがあるか否かといういこと。経験則上、後者の比重がまだ大きいといえます。そうした旅行客は、町中のお店やデパート等で、さまざまな品物を手に取ってみますが、実際に中身に何が入っているのかがわからない場合や、前述のとおり、外国人特有の解釈や感性で中身を下手に予想してしまうことで、本当なら購入したであろう客を薄々逃してしまうことが実は少なくありません。また、こうした訪日旅行客のうち、特定の地域からの訪日旅行客にとっては、宗教や慣習からくる諸般の事情により、ある特定の食材を食べられない人もいるわけです。イスラム圏の諸国の方々には特定の肉類が接種できないことは良くよく知られていますね。そうした人にとって、うっかり誤ったものを購入してしまうリス子を避けたいが為に、結果として中身のわからない品物は買わないという行動を選択することとなります。
これは、商売=経済効果的にも決して小さくない機会損失となるわけです。外人目線的な解釈としては、もっと、例えば、試食コーナーを設けることで、取りこぼしをなくしていくことが出来るようになると、同氏は訴えます。こうした訪日旅行客に実際の味を体験していただくことに意識を向ければ、より多くの旅行客を取り込んでいける可能性が広がるというわけです。特に、これからますます地方への訪日旅行客が流れる可能性が期待出来る中、地方自治体や業者にとっては貴重なポイントとなりそうです。最近、東京や大阪をはじめ、大都市圏に地方経済の窓口、橋渡し的な役割を果たすいわゆる「アンテナショップ」が新たに開業するケースが見られますが、こうしたショップでは、未だ、「Tasting」「試食」+「体験」を来店客に提供するところは少なく、訪日旅行客に限らず、その町のことをより理解を深めてもらうために、こうした試み/プログラムをより積極的に取り入れていくことが出来るか否かが、結果につなげられる一つのカギとなると言えます。
次に、先に述べた「諸外国それぞれの歴史から学ぶ洞察力」ですが、これは、インバウンドの旅行客が住む国々の歴史や生い立ちを知ることで、彼らの志向、行動様式を効果的に洞察し、それらを有効的にマーケティングに取り入れて行くという概念です。今回のセミナーで紹介された事例をあげると、こちらもグルメ/食に因んだケーススタディですが、各国から訪れる訪日旅行客が最も好きな日本食料理をサウンディングすると、実に興味深いことが読み取れます。それは、ベトナムやインドという近隣アジア圏の国々から訪れる方々の多くは、お寿司をはじめとした伝統的な日本料理を好む傾向があることが既に把握しています(もちろん、これが100%正しいということではございませんが)。要は、彼らの歴史に少し意識を傾けてみると、彼らは長い間フランス圏の統治を受けており(第二次大戦以前)、その結果、彼らはフランス統治に影響を受けた料理を慣れ親しんでいるため、日本では中華系の食(Ex. ラーメン等)よりも和食に高い興味を抱くということがわかります。
あるいは、行動様式について地域性による特徴を読み取ることも出来ると同氏は訴えます。これも、必ずしも絶対的な「正解」ということではないものの、家族との時間を過ごすことに重きを置く国籍の人(なぜなら、当該国の親戚や家族が日本に多く住むから)、ショッピングが好きなグループ、日本人との対人的な触れ合いを好むグループ、観光や文化的な施設との触れ合いが好きなグループ、等のグルーピングが出来ます。また、これらを「インスピレーション」「リアル」「慣れ親しみ」「新たな発見」よいう基軸でグルーピングも出来ることを把握しています(尚、本ブログでは具体的な国籍名は割愛させて頂きました)。要は、こうして、各国と地域性と行動様式(セグメントの把握)の違いをしっかりと把握することで、サービスやビジネスのターゲットと内容を組み立てる上で極めて重要なファクターとなるということです。そして、現に、これらの細分化されたレベルと着眼点で訪日旅行客の行動様式や特性を十分に把握し、理解をした上で、かつ、それらの国々の母国語に十分に対応したサービスを手掛けられている日本のインバンドビジネスは、実は、ほぼ皆無といってもあながち言い過ぎではないような気がします。言い換えれば、日本のインバウンド産業はまだまだこれからその質が問われてくる時期に入るものと考えられます。これは、大企業やスタートアップのみにならず、地方自治体等の関係者にとっても重要なポイントとなりそうです。
今回のセッションで興味深いケーススタディも、同氏から紹介がありました。
一つは、能登半島での6日間程度のサイクリングツアー。外国人旅行客(特に欧米人?)には、激しい運動やフィットネス的なレジャーを大変好む傾向があり、今後、欧米からの訪日旅行客を引き付ける上で、例えば、地方都市での自然を活用して、サイクリングやハイキング(あるいはバンジージャンプのようなスリリングなもの)といった体験・探求心をそそらせるようなプログラムを組むことで、恐らく、多くの旅行客をひきつけることが十分に可能であると考えられます。ここにも、日本人と外国人(この場合、特に欧米人)との間の地域性や文化的な生活習慣の違いによる「自転車」というものに対する感性の違いを正しく把握することが重要であると同氏は指摘します。恐らく一般的に日本では長距離の移動手段はあくまで自動車あるいは電車であって、自転車とは駅一つ分の距離の移動手段としてのツールであり、ママチャリがまず連想されやすいと考えられるのに対して(もちろん、そう考えない方も日本人にいることも確か)、欧米では、自転車と言えば、比較的長距離の移動に用いられる移動手段であり、通勤通学はもとより、フィットネスとしてのサイクリング等の本格的なバイクが連想されます。このことを理解しておくと、前述のような、サイクリングと日本の美しい自然や整備された道路、コンビニ等が豊富な都市形成を活かしたインバウンドプログラムがさまざまと浮かび上がってくると訴えます。
二つ目は、ホスピタリティ関係で、具体的にはホテル事業ですが、これも、どの地域からの訪日旅行客をターゲットとするのかによって、求められるインバウンドビジネスとしての着眼点、マーケティング手法がそれなりに変化が求められるということです。例えば、とあるアジアの特定地域の方々の特性として、朝食が無料である点や、内容についても、魚類が出ないといった点が実は極めて重要なファクターとなることが既に経験則上わかっています。我々日本人にとっては魚は美味しい食事であるものの、特定層の外国人にとっては、実は味/香り/匂いが朝にしては強すぎるというのがオチ。そうした朝メニューにほんの些細な部分で配慮することで、とたんにネットやソーシャルネットワークを通じてポジティブな口コミが広がり、その結果、リポーター客による利用者を継続的に取り込んで行くチャンスが広がるという図式です。そのほか、ベッドから足がはみ出てしまうほど小さいベッドが気になる欧米人や、ユーザー・アンフレンドリーなウェブサイト等、枚挙にいとまがないといったところが、今の日本のインバウンドビジネスの傾向です。いろいろとメディアや投資業界では既にインバウンドビジネスはある程度飽和しつつあるような話も筆者も耳にしますが、まだまだ、精度を高めていく必要性を見れば、実はまだこれからといえる分野と考えられます。
そのほかにも同氏から大変興味深い着眼点やちょっとしたフレームワークが紹介されましたが、そのうちの一つは、いわゆる「マズローの欲求五段階説」を応用させたビジネス・マーケティングのフレームワーク。もう一方は、マーケティングのタッチポイント(=お客様がどの地点からサービスを認知し、さらに情報収集をするか)。特に前者のマズロー的なアプローチは、今回ご参加を頂いた方々からも大きな反響を頂いています。これについて、同氏が感じる今の日本国内のホテル等の宿泊施設のインバウンドに関わる大きな課題として、コンシェルジュ・サービスの未整備であると指摘します。いわゆるラグジュアリー層の訪日旅行客は、マズロー的には最上層部15%-25%を占める層。これらの層を取り込むには、彼らが重視するコンシェルジュサービスの何らかの充実化が必要と言えます。それは単に大手ホテルチェーンの窓口コンシェルジュを指すだけではなく、地方の有名旅館や民宿を含めており、それぞれの業態に応じた方法や手段を考えねばならないというのが同氏の考えです。
このように、インバウンドビジネスには、一歩踏み込めば、まだ多くの着眼点があり、同氏曰く、「インバウンドマーケット」と一括りにとらえてしまうことは間違いであり、国と地域によって、サービスの質やポイントが微妙にずれが生じていくものであるということを十分に認識をし、その上でしっかりとしたマーケティング活動を行う必要が大切であるようということが垣間見えてきます。ちょうど最近、日本の大手企業が、海外からの訪日旅行客向け総合ポータルとして新たなプラットフォームをローンチしています。大変素晴らしいコンテンツであるとの第一印象を筆者は感じておりますが、一方で、果たして、外国人から見たユーザー=外人目線で考えた場合、まだまだ機能性の充実を図れる余地がまだまだありそうな印象も受けています。誰(元の地域、滞在目的、期間、リピーターの有無、等)をターゲットとしているのか、より細分化する余地がありそうです。 このほか、今回のUp Close Talk Session Tokyoではいくつくな貴重な着眼点から実際のケーススタディ(社名が多く出ましたが、本稿では割愛させていただきます)、アドバイスが同氏よりあり、すべてを本稿で触れることは難しいですが、いずれも、ご参加いただいた皆様には非常に有意義なものばかりであったようです。
これから2020年の東京オリンピックを境に益々成長が期待される日本のインバウンド市場。地方活性化の流れと併せて、まだこれからが本番と言えます。まだまだ、さまざまなビジネスチャンスが潜んでいるように思えます。同氏曰く、日本では業界トップの大手企業などは新しい分野に進出するまでに大体2,3年はかかる、と、見ており、従って、そこにスタートアップに大きなチャンスが広がると読んでいます。そして、今回のセッションを通じて思うのは、インバウンド事業に必要とされる<異文化>的なさまざまな着眼点は、日本から北米シリコンバレーで新たに起業を試みようとするスタートアップにとりましても、「日本と文化も慣習の異なる国の人々を相手にする」という点においては十分に応用出来る要素や何らかのヒントが豊富に潜んでいるということです。
本Up Close Talk Session Tokyoは、また機会を頂戴して東京で開催を致したいと思います(※恐らく、次回からは通常通り、北米シリコンバレー等の起業家やVCをお招きする予定です)。また、今回触れたビジネス・ケーススタディは、より深く掘り下げて今後のStartup Seminar 2.1でも取り上げる予定です。
もともと本シリーズは、米国シリコンバレーからの著名起業家や、現地の大手VC/エンジェル投資家を日本にお招きし、日本の起業家・起業家予備軍、米国でこれから事業を本格的に展開しようとされる日本の事業会社の経営者やご担当者/個人の皆様に、通常は日本では大掛かりなカンファレンス等のキーノートスピーカーや登壇者の一人として登場するためになかなか直で繋がることが難しい人物と、比較的少人数制でタウンホールミーティング的なディスカッション・形式で触れることが出来るというコンセプトで昨年5月に開始致しました。ただ、今回は【特別編】という名称のとおり、例外として、日本で実業家、起業家として著名な人物をお招きすることと致しました。ここ数年間、スタートアップをはじめ、大手企業でも日本で盛り上がってきている、いわゆる訪日旅行客を対象とする新たな成長産業<インバウンド>市場に対する関心が高まっており、また、沢山の方々から、本テーマでのセミナー開催への強いご要望を頂いていることもあり、この度、ちょうど我々もインバウンドビジネスと密接に絡んでいることから、このテーマで実施をすることに致しました。
今回のゲストスピーカーは、日本で過去32年間に18社の会社を設立し、そのうち8社を成功させた(主に)著名な実業家・シリアルアントレプレナーの一人として知られる、Terrie Lloyd氏。彼は、ニュージーランドと豪州の二重国籍を取得しており、20歳の頃、短期旅行ビザを頼りに、日本に乗り込んできたことから、起業家人生が始まります。彼は、俗にいう「High-school drop-out(高校中退)」であると自称しており、Self-made entrepreneur(≒自らの努力の積み重ねで成功を勝ち取った起業家)であることを良く口にします。その経歴は、米シリコンバレーの著名起業家の軌跡と非常に似ており、彼が、ここ日本を活動場所としている点も非常に興味深いものがあります。同氏と筆者とは、米Wildcard Programやさまざまな事業で深く関わっており、その流れで、今回、同氏に打診をすることとなりました。
同氏の主な専門分野は、ITとメディア/パブリッシングであり、さらに、HR/タレントマネジメント分野(2005年にバイリンガルのオンライン転職サイトDaiJob.comをHuman Holdingsへ売却)やその他の特定分野に豊富な経験を持っています。そんな彼が2011年5月に、インバウンド分野に彼が着目をしたきっかけは、あの「311」でした。当時、日本人はもとより、首都圏在住の外国人を中心として、多くの外国人が放射能に対する極度の恐怖感等から、日本を次々に離れていくという状態が続いていました。それを危惧した同氏は、日本経済を支えられる数少ない成長産業分野の一つとして、2011年当時は今よりも手付かず状態であった、海外からの旅行客を対象として日本に関する情報を効果的に発信するようなインバウンドビジネスというものに着目し、震災の約2か月後には、JapanTourist.jpを立ち上げることとなります。その後の紆余曲折を経て2013年11月には現在のドメイン Japantravel.com を幸運にも取得をし(このドメイン名の取得が同社の急成長を促すとは当時は全く予想外でしたが、ここでは詳細は割愛します)、瞬く間に世界各地から同社の英語ポータルサイトへのアクセス数は急成長し、今や〝No.1 Destination”として多くの訪日旅行客のアクセス・ポータルとなるまでに至りました。こうした成長過程を経て、同氏が気づいた、日本のインバウンドビジネスにみられる数多くの〝オチ/罠”について、自身及びチームの苦労や実体験を通じて、今回、いろいろと含蓄のある話を頂くこととなりました。
最もキーポイントとなるのは、〝外人目線”というもの。最近特に良く耳にするフレーズですが、これがなかなか島国・日本人にはわかりにくい、というより、つかみにくいものです。結局のところ、日本国内にあるインバウンド向けビジネスの多くが陥る問題として、この「外人目線」の観点からやや的の外れたものや、例え訪日旅行客にとって痒い所に手が届くような粋なサービスが生まれていても、肝心の英語及びその他諸外国語への対応が全く出来ていない、といった問題が多く見受けられるということです。実際に、筆者も、Japantravel.comの事業開発に関わっていますが、一流大企業とて、外国人向けのサービスを本格展開することは、非常に難しいものであることが伝わってきます。無論、そのおかげでビジネスを有り難く頂戴するという結果に結びついているのですが・・・。
今回のセッションで触れられた大切なポイントを挙げると、外国人の観察眼への配慮、諸外国の歴史に学ぶ洞察力、その国々の地域性の理解、目指す市場セグメントの正確な理解、が、あげられます。
まず、外国人の観察眼への十分な配慮がいかに大切かについてですが、例えば、全く同じ対象物を見た場合に、そこから連想する答えは、日本人と外国人それぞれの答えは全く違ってくるというもの。具体的には、地方の町中を歩く際に、交通標識や注意書き等の標識看板がありますが、東京や大阪等の都心部とは違って、大半は日本語以外の表記がないものが少なくありません。従って、注意を促すような標識があっても、日本人の感性とは全く異なる外国人がそれを見ても、全く意味がとらえられず、結果として、いわゆる迷惑行為を起こしてしまうということが実際に起こり得ることとなります。この場合、もしもこれらの標識に英語での表記(恐らく、英語で大半の訪日旅行客に通じると考えられます)がきちんと記載されていれば、この訪日旅行客がその場で相応しくないようなふるまいを意図せざる形で起こしてしまわないで済む可能性があったわけです。実際に、外国人が日本を訪れると、リピーターとして日本を訪れる個人旅行客(〝FIT(Foreign-Independent-Tour)”)の大半は、最初の旅行を東京、大阪、京都といったいわゆる知名度の高い場所を訪れがちですが、その後は、日本の魅力に気づき、地方の都市へ次第に足を運び始めるようになります。そうしたときに、せっかく地方にFIT旅行客の流れが形成されつつあるにもかかわらず、町中の標識の不便さから、リピーターや知名度、とりわけ、実際にその町を訪れた旅行客によるブログ等の口コミに結果その苦い経験が綴られてしまい、そのほかのもっとすばらしい体験が霞んでしまうことが良くあることです。地方に訪日旅行客を迎え入れる上で、まず、「視覚的なおもてなし」が十分に配慮されることが大切となりそうです。
一方、これも実際にJapantravelを通じて学ぶことですが、日本へ訪れる旅行客の代表的な楽しみの一つとしてグルメがあげられます。すなわち、「Food Tourism」です。このFood Tourismには、大きく分けて、冒険心の強い層と、リスク回避的なグループとに分けられるといわれます。この場合のリスク許容度とは、馴染みのないグルメを積極的に試してみようという気持ちがあるか否かといういこと。経験則上、後者の比重がまだ大きいといえます。そうした旅行客は、町中のお店やデパート等で、さまざまな品物を手に取ってみますが、実際に中身に何が入っているのかがわからない場合や、前述のとおり、外国人特有の解釈や感性で中身を下手に予想してしまうことで、本当なら購入したであろう客を薄々逃してしまうことが実は少なくありません。また、こうした訪日旅行客のうち、特定の地域からの訪日旅行客にとっては、宗教や慣習からくる諸般の事情により、ある特定の食材を食べられない人もいるわけです。イスラム圏の諸国の方々には特定の肉類が接種できないことは良くよく知られていますね。そうした人にとって、うっかり誤ったものを購入してしまうリス子を避けたいが為に、結果として中身のわからない品物は買わないという行動を選択することとなります。
これは、商売=経済効果的にも決して小さくない機会損失となるわけです。外人目線的な解釈としては、もっと、例えば、試食コーナーを設けることで、取りこぼしをなくしていくことが出来るようになると、同氏は訴えます。こうした訪日旅行客に実際の味を体験していただくことに意識を向ければ、より多くの旅行客を取り込んでいける可能性が広がるというわけです。特に、これからますます地方への訪日旅行客が流れる可能性が期待出来る中、地方自治体や業者にとっては貴重なポイントとなりそうです。最近、東京や大阪をはじめ、大都市圏に地方経済の窓口、橋渡し的な役割を果たすいわゆる「アンテナショップ」が新たに開業するケースが見られますが、こうしたショップでは、未だ、「Tasting」「試食」+「体験」を来店客に提供するところは少なく、訪日旅行客に限らず、その町のことをより理解を深めてもらうために、こうした試み/プログラムをより積極的に取り入れていくことが出来るか否かが、結果につなげられる一つのカギとなると言えます。
次に、先に述べた「諸外国それぞれの歴史から学ぶ洞察力」ですが、これは、インバウンドの旅行客が住む国々の歴史や生い立ちを知ることで、彼らの志向、行動様式を効果的に洞察し、それらを有効的にマーケティングに取り入れて行くという概念です。今回のセミナーで紹介された事例をあげると、こちらもグルメ/食に因んだケーススタディですが、各国から訪れる訪日旅行客が最も好きな日本食料理をサウンディングすると、実に興味深いことが読み取れます。それは、ベトナムやインドという近隣アジア圏の国々から訪れる方々の多くは、お寿司をはじめとした伝統的な日本料理を好む傾向があることが既に把握しています(もちろん、これが100%正しいということではございませんが)。要は、彼らの歴史に少し意識を傾けてみると、彼らは長い間フランス圏の統治を受けており(第二次大戦以前)、その結果、彼らはフランス統治に影響を受けた料理を慣れ親しんでいるため、日本では中華系の食(Ex. ラーメン等)よりも和食に高い興味を抱くということがわかります。
あるいは、行動様式について地域性による特徴を読み取ることも出来ると同氏は訴えます。これも、必ずしも絶対的な「正解」ということではないものの、家族との時間を過ごすことに重きを置く国籍の人(なぜなら、当該国の親戚や家族が日本に多く住むから)、ショッピングが好きなグループ、日本人との対人的な触れ合いを好むグループ、観光や文化的な施設との触れ合いが好きなグループ、等のグルーピングが出来ます。また、これらを「インスピレーション」「リアル」「慣れ親しみ」「新たな発見」よいう基軸でグルーピングも出来ることを把握しています(尚、本ブログでは具体的な国籍名は割愛させて頂きました)。要は、こうして、各国と地域性と行動様式(セグメントの把握)の違いをしっかりと把握することで、サービスやビジネスのターゲットと内容を組み立てる上で極めて重要なファクターとなるということです。そして、現に、これらの細分化されたレベルと着眼点で訪日旅行客の行動様式や特性を十分に把握し、理解をした上で、かつ、それらの国々の母国語に十分に対応したサービスを手掛けられている日本のインバンドビジネスは、実は、ほぼ皆無といってもあながち言い過ぎではないような気がします。言い換えれば、日本のインバウンド産業はまだまだこれからその質が問われてくる時期に入るものと考えられます。これは、大企業やスタートアップのみにならず、地方自治体等の関係者にとっても重要なポイントとなりそうです。
今回のセッションで興味深いケーススタディも、同氏から紹介がありました。
一つは、能登半島での6日間程度のサイクリングツアー。外国人旅行客(特に欧米人?)には、激しい運動やフィットネス的なレジャーを大変好む傾向があり、今後、欧米からの訪日旅行客を引き付ける上で、例えば、地方都市での自然を活用して、サイクリングやハイキング(あるいはバンジージャンプのようなスリリングなもの)といった体験・探求心をそそらせるようなプログラムを組むことで、恐らく、多くの旅行客をひきつけることが十分に可能であると考えられます。ここにも、日本人と外国人(この場合、特に欧米人)との間の地域性や文化的な生活習慣の違いによる「自転車」というものに対する感性の違いを正しく把握することが重要であると同氏は指摘します。恐らく一般的に日本では長距離の移動手段はあくまで自動車あるいは電車であって、自転車とは駅一つ分の距離の移動手段としてのツールであり、ママチャリがまず連想されやすいと考えられるのに対して(もちろん、そう考えない方も日本人にいることも確か)、欧米では、自転車と言えば、比較的長距離の移動に用いられる移動手段であり、通勤通学はもとより、フィットネスとしてのサイクリング等の本格的なバイクが連想されます。このことを理解しておくと、前述のような、サイクリングと日本の美しい自然や整備された道路、コンビニ等が豊富な都市形成を活かしたインバウンドプログラムがさまざまと浮かび上がってくると訴えます。
二つ目は、ホスピタリティ関係で、具体的にはホテル事業ですが、これも、どの地域からの訪日旅行客をターゲットとするのかによって、求められるインバウンドビジネスとしての着眼点、マーケティング手法がそれなりに変化が求められるということです。例えば、とあるアジアの特定地域の方々の特性として、朝食が無料である点や、内容についても、魚類が出ないといった点が実は極めて重要なファクターとなることが既に経験則上わかっています。我々日本人にとっては魚は美味しい食事であるものの、特定層の外国人にとっては、実は味/香り/匂いが朝にしては強すぎるというのがオチ。そうした朝メニューにほんの些細な部分で配慮することで、とたんにネットやソーシャルネットワークを通じてポジティブな口コミが広がり、その結果、リポーター客による利用者を継続的に取り込んで行くチャンスが広がるという図式です。そのほか、ベッドから足がはみ出てしまうほど小さいベッドが気になる欧米人や、ユーザー・アンフレンドリーなウェブサイト等、枚挙にいとまがないといったところが、今の日本のインバウンドビジネスの傾向です。いろいろとメディアや投資業界では既にインバウンドビジネスはある程度飽和しつつあるような話も筆者も耳にしますが、まだまだ、精度を高めていく必要性を見れば、実はまだこれからといえる分野と考えられます。
そのほかにも同氏から大変興味深い着眼点やちょっとしたフレームワークが紹介されましたが、そのうちの一つは、いわゆる「マズローの欲求五段階説」を応用させたビジネス・マーケティングのフレームワーク。もう一方は、マーケティングのタッチポイント(=お客様がどの地点からサービスを認知し、さらに情報収集をするか)。特に前者のマズロー的なアプローチは、今回ご参加を頂いた方々からも大きな反響を頂いています。これについて、同氏が感じる今の日本国内のホテル等の宿泊施設のインバウンドに関わる大きな課題として、コンシェルジュ・サービスの未整備であると指摘します。いわゆるラグジュアリー層の訪日旅行客は、マズロー的には最上層部15%-25%を占める層。これらの層を取り込むには、彼らが重視するコンシェルジュサービスの何らかの充実化が必要と言えます。それは単に大手ホテルチェーンの窓口コンシェルジュを指すだけではなく、地方の有名旅館や民宿を含めており、それぞれの業態に応じた方法や手段を考えねばならないというのが同氏の考えです。
このように、インバウンドビジネスには、一歩踏み込めば、まだ多くの着眼点があり、同氏曰く、「インバウンドマーケット」と一括りにとらえてしまうことは間違いであり、国と地域によって、サービスの質やポイントが微妙にずれが生じていくものであるということを十分に認識をし、その上でしっかりとしたマーケティング活動を行う必要が大切であるようということが垣間見えてきます。ちょうど最近、日本の大手企業が、海外からの訪日旅行客向け総合ポータルとして新たなプラットフォームをローンチしています。大変素晴らしいコンテンツであるとの第一印象を筆者は感じておりますが、一方で、果たして、外国人から見たユーザー=外人目線で考えた場合、まだまだ機能性の充実を図れる余地がまだまだありそうな印象も受けています。誰(元の地域、滞在目的、期間、リピーターの有無、等)をターゲットとしているのか、より細分化する余地がありそうです。 このほか、今回のUp Close Talk Session Tokyoではいくつくな貴重な着眼点から実際のケーススタディ(社名が多く出ましたが、本稿では割愛させていただきます)、アドバイスが同氏よりあり、すべてを本稿で触れることは難しいですが、いずれも、ご参加いただいた皆様には非常に有意義なものばかりであったようです。
これから2020年の東京オリンピックを境に益々成長が期待される日本のインバウンド市場。地方活性化の流れと併せて、まだこれからが本番と言えます。まだまだ、さまざまなビジネスチャンスが潜んでいるように思えます。同氏曰く、日本では業界トップの大手企業などは新しい分野に進出するまでに大体2,3年はかかる、と、見ており、従って、そこにスタートアップに大きなチャンスが広がると読んでいます。そして、今回のセッションを通じて思うのは、インバウンド事業に必要とされる<異文化>的なさまざまな着眼点は、日本から北米シリコンバレーで新たに起業を試みようとするスタートアップにとりましても、「日本と文化も慣習の異なる国の人々を相手にする」という点においては十分に応用出来る要素や何らかのヒントが豊富に潜んでいるということです。
本Up Close Talk Session Tokyoは、また機会を頂戴して東京で開催を致したいと思います(※恐らく、次回からは通常通り、北米シリコンバレー等の起業家やVCをお招きする予定です)。また、今回触れたビジネス・ケーススタディは、より深く掘り下げて今後のStartup Seminar 2.1でも取り上げる予定です。