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弊社によるフードテック、アグリテック産業領域の日本国内並びに欧米アジアでの事業実務を通じたコラム【Insights】は、以下のNewsPicks公式トピックスにてしばらくご提供させて頂きます。
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INSIGHTS(*Wildcard Incubatorの、シリコンバレーや欧州、アジアのメンバーとクライアント企業やスタートアップとの日頃の苦楽に基づく市場分析や気付き、気ままなブログ)は、近々更新を再開します。 乞うご期待! 出典:「後ろ向きに座っている白いトラのイラスト」著作権:Hachio Nora<https://www.istockphoto.com/jp/portfolio/HachioNora?mediatype=illustration> 2022年を迎え、新年早々に本編を投稿する考えであったが、日頃の実務に追われてしまううちにもう2か月が経ってしまった。。。 さて、年初の2021年は世界的にコロナ禍による影響が続く中、日本のフードテック及びアグリテックの市場は活況を帯びた1年であった。2022年はその流れを引き継ぐ形でいくつかの重要な進展が期待される1年となりそうである。 今回は、まずフードテックについて触れたい。 世界のフードテック/アグリテック投資状況: 2021年も国内外のフードテック投資は活況を帯びた1年となった。コロナ禍が世界的に発生した2020年は一時的な鈍化はあったものの、その後はコロナ禍のいわば「テーマセクター(コロナ禍が追い風となる)」として地球環境や自己免疫力の強化、未病対策といった、今までどちらかと言えば私達が先延ばしにしてきたことがらについて改めて真剣に向き合う流れが広く定着していったと見られる。 その結果、食と地球の持続性や医食同源を意識した機能性食品の開発、地球環境や生態系の諸問題への取り組みの一環としての代替タンパク源の開発といったフードテック市場に多くの投資資金がさらに多く流れ込んだ一年となったようだ。 主要VC等によるフードテック領域への投資件数及び金額も、2021年も堅調に推移した。米Pitchbook社の速報値によれば、件数ベースで1,358件、金額ベースで393億米ドルに到達した。特に金額ベースでは前年比の実に2倍以上となる。 出所:米Pitchbook社・「2021 Annual Foodtech Report」データは2021年12月31日現在、全世界の主要地域での案件 一方、フードテック領域に対するベンチャー投資を最も積極的に行った世界の主要VC関係者を見ると、以下の通りとなった。 Big idea Venturesや、「Climate Tech 100」で知られており、また筆者がパートナーとして関わる株式会社アドライトとしても様々な形で今後連携を深めていくこととなりそうな米国のSOSVをはじめ、シリコンバレーのアクセラで一番と言われるYCombinatorも2021年は数多くのフードテックスタートアップへ関心を高めているようだ。 尚、このYCombinatorのWinter 2021卒業生であり、「代替和牛肉」の開発で世界的に話題の高いOrbillion Bioとは、昨秋筆者が株式会社アドライトを通じて企画主催したFood-Tech Webinar Fall 2021にご登壇頂いている。 出所:FoodHack社より2021年末公表資料を引用 我が国においても、農水省フードテック官民協議会等を通じて官民の連携を通じて日本のフードテック産業の発展に向けた取り組みが地道に行われている(筆者も協議会「幽霊会員」)。 また、国内のフードテック・スタートアップの動向については、培養肉開発で世界で注目を浴びるインテグリカルチャーを始め、大豆肉のDAIZ、筑波大学発でロボットキッチン開発で俄かに注目を浴びる株式会社Closer等、代替肉分野に限らず、バリューチェーン上のさまざまな領域を司るスタートアップが少しづつ増え始めている。さらに、筆者が北米メンターを務めたあいち・なごやBEYOND海外アクセラプログラムでも、日本の伝統的な食材から抽出される素材を活かした新たな事業が生まれつつある。 一方、日本の大手企業が海外の代表的なフードテック・スタートアップへの投資を行う事例も見られた。 例えば、包装容器メーカー大手の東洋製罐はアジアのシンガポール発の培養肉開発スタートアップで世界中で注目を浴びるShiok Meatsに成功裏に出資をしている(今年初頭には日本のDAIZにも出資)。またFuture Food株式会社の運営するFuture Food Fundは、米国のReGrainedに出資を行っており、恐らく年内には日本市場にも進出を果たすものと予想される。 そうした中、2022年も引き続きフードテック領域の投資は持続するものとみられるが、独断ではあるが、注目される領域、興味深いテーマについて、触れてみたい。 まず初めに、世界のフードテック関連の技術開発及びベンチャー投資のテーマの大まかな全体分布像を確認してみたい。 出所:StartUs社「Top 10 Food Technology Trends & Innovations」より引用し、一部加筆修正 次に、具体的な注目テーマをピックアップしたい: A: 2022年の主な注目トピック:
2022年の注目トピック①: 代替タンパク源開発の次なるテーマ 代替タンパク源開発は、2013年のMosa Meatsの約2,500万円相当の試作品が初めて披露されて以来、今年で代替タンパク開発の市場が9年目を迎えるが、2022年は、代替タンパク質の各種開発が進展することが予想されると同時に、いよいよ4,5年先の大量消費生産の社会実装に向けた、培養液やバイオリアクターをはじめとする「製造工程」に係る各種開発が活発化し始める1年になると予想される。 データ:米GFI著「2020 State of teh Industry - Cultivated Meat」及びLux Research社のデータより筆者が引用 Beyond MeatやMemphis Meat、あるいは日本のインテグリカルチャーのような細胞培養肉のブランドが登場しているが、次のステップとしてマス市場化の実現に向けた量産技術の普及に向けた取り組みがこれからは焦点が移っていくであろう。 当該領域は、応用される技術スペックに再生医療やバイオテクノロジーといったライフサイエンスの専門領域(並びに、一部半導体製造業界)で培われてきたものが期待されている。従って、恐らくこれらの市場からの参入も出てくるであろうと考えられる。 データ:米GFI著「2020 State of teh Industry - Cultivated Meat」掲載データより筆者が引用し、一部加筆修正 また、「発酵」技術や「微生物由来」のタンパク開発技術もさらに進化していくものと思われる。 前述の通り、発酵(Fermentation)については、古来からの伝統的な発酵をはじめ、バイオ燃料で培われた量産化の知恵、製薬業界が誇る素材開発への精微な技術、半導体業界が長年培ってきた製造技術といった従来の産業が各々誇る技術や知恵を結集して新たな微生物由来の発酵技術が生まれようとしている。 尚、主に欧米で昨今注目をされ、各種関連する専門メディアやスタートアップによるテーマとされる3種類の発酵(Fermentation)プロセスの概念は以下の通り理解している(このあたりは理系の専門家に委ねたい…): Precision Fermentation: ‐ ビタミンB12やリボフラビン等のビタミン類やアミノ酸類を栄養強化を目的として微生物(細菌や酵母)で安価に発酵生産させる概念。 Biomass Fermentation: ‐ 微生物の細胞内タンパク質そのもの(脂肪や糖質も存在)をタンパク質源にする概念(シングル・セル・プロテインの概念)。 Traditional Fermentation: ‐ 微生物(酵母、麹菌、乳酸菌など)の複合作用でできる発酵・醸造の概念。具体的なイメージとしては、発酵食品でいえば固形物(パン、ヨーグルト、チーズ、納豆)、醸造食品では液体系(酒類、醤油、他)が挙げられる。 データ:米GFI著「2020 State of the Industry Report - FERMENTATION」掲載データより引用 プラントベースの肉は、従来の発酵を通じて味、食感や消化率、栄養素の含有率といった要素を追求出来ると見られる。またそれらにバイオマス技術や精密発酵をうまく加えていくことで、より従来の動物性肉の完成度に近づく、より優れた商品開発を実現出来ると考えられている。 さらに、細胞培養肉の製造においては、精密発酵を用いることで食材の機能性を付加したり、効率的な量産の実現可能性を高めることで、当該細胞タンパク源の量産化の実現に大きな役割を果たすことが期待される。 米GFIによれば、2020年で発酵をテーマとする世界の主要スタートアップへの投資額が587百万米ドルに達しているが、概算で2021年はこの倍になるとものと見られている。 果たして国内外でどういったプレーヤーが生まれてくるのか興味深く見守りたい。 出所: https://www.fairr.org/sustainable-proteins/engagement-overview/venture-investments/ 興味深いスタートアップ: 2022年の注目トピック②: フードロス~食品残渣の低減を目指す技術やサービスモデルの進展 フードロス(Food-Loss≒サプライヤーチェーンの中で生じる食品の廃棄)及び食品廃棄物(Food-Waste≒小売店や飲食店、消費者による食品の廃棄)は、世界中の共通課題とされる。 欧米で注目されるテーマとしては、引き続き食品残渣アップサイクル系(Ex. 米ReGrained、Renewal Mill、他)をはじめ、コールドチェーン、フードロス発生現場である生産者と質の良い食材を安く仕入れたい外食や小売業者等とを結ぶB2B2Cアプリ、物流効率化ツールや食品保存を延命するバイオ技術、が期待される。例えば、ReBundle社やCapro-X社が挙げられる。 食のバリューチェーンとフードロス/食品廃棄の定量データと各ステージのフードテック・テーマ 出所: 米ReFedのデータを基に、一部筆者が加筆修正 一方、③のキッチン・テック/レストラン・テックに該当する領域にもなるが、調理過程での無駄な食品廃棄物を抑える方法として外食・レストランがIoTやAI、ソフトウェアを駆使した各種IT技術を導入し始めている。OrbiskやPerfect Companyが代表例である。 日本では、つくば発のスタートアップで、人手不足が深刻な業界の自動化の社会実装を加速させるロボットシステムを開発する株式会社Closerあたりに注目しておきたい。 (※)備考:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00004/00062/ 興味深いスタートアップ:
2022年の注目トピック③: キッチン・テック/レストラン・テック 「スマート・キッチン」として注目を浴びてきたキッチン、調理場関連の領域については、2022年は踊り場を迎えるものもあるものの、引き続きAIやIoTを駆使した家庭用のキッチン設備や、外食チェーン店の業務効率化を実現す各種ハードとソフトの両方で2022年も実装化を含めて進んでいきそうだ。 まず、踊り場を迎える可能性があるのが、「ゴーストキッチン」としてUberの元創業者のTravis Kalanick氏も参入を果たしたことで注目されるようになった領域である。 ユーロモニター社によれば、2030年には全世界で1兆円規模になると予想されているコンセプトだ。 ゴーストキッチンは、「実際に店舗を持たず、空いた不動産物件の一室をキッチンに装備したり、既存のシェアキッチンなどを間借りして調理場として活用し、デリバリーサービスを行うサイトやアプリを介して注文を受け、配達するシステム」を言う。今も伸びている事業者もおり、彼らの今後の市場の伸びに大いに注目し続けたいものの、近況としては、少しづつ勝組と負け組との差が出始めて来て居ると見られる。 この業態は「不動産ビジネス」と似る要素もあると言われており、従って設備投資を伴うことでコストが嵩む部分もあることで、一部の有力ゴーストキッチン系プレーヤーが大幅に業態縮小に追い込まれるケースが2021年は散見され始めている。 例えば、Reefは、全300店舗中の約1/3を閉じたと一部報じられた。投資に見合う事業採算が取れるのか否か、2022年は注視すべき局面を迎えているのかもしれない。 一方、その代わりにキッチン設備を持つ既存の外食レストラン等が自前のキッチンを「一部間貸し」を行う「ホストキッチン」が2022年以降、コロナ禍注目を浴びている。 コロナ禍で売上規模の追求がしばらく厳しい状況が続く中、あまり新規での設備投資に出費を抑えたい新興外食店が増えているのに対して、一部のホストキッチンが目を付けたのが、同くコロナ禍で経営環境が厳しいホテルやホスピタリティ業界だ。米国でゴーストキッチンを展開するC3社によれば、ホテル等が持つキッチン設備は稼働率が結構低い状態にあることに気づいたそうだ。こうした状態でホテル業界側も自前のキッチンを他社に間貸しをすることで少しでも収益源を確保出来れば、お互いがWin-Winな関係を構築出来る、ということだ。 以下のデータが示す通り、コロナ禍以降、労働力不足は深刻になっているようであり、あらゆる業界での課題となっているものと思われるが、外食やホテル業界、ホスピタリティ業界にとっても大きな課題の一つであり、オペレーションのDX化を進めるキッチン・テックはますます実装化に向けた開発競争が活発化するものと思われる。 米国における労働力不足に関する意識調査 出所: 米CBInsights、MassDevice、DTRAより引用。 日本でも、2021年はコロナ禍で苦しむ外食産業界でも次世代の食のサービスモデル開発に積極的に踏み込む企業も見られた。例えば、すかいらーくホールディングスでは、主力の「ガスト」を含めて全店に配膳ロボットの導入を決めた(※)。一方、在宅勤務が中心となりつつある中、社食事業等を展開してきた社食・給食事業・中食業界では危機意識が強く、生き残りをかけて各種DX化や業務効率化、顧客満足度を高める為の方策に取り組むべく、レストラン・テックに触手をし始めている。 日本国内でも果たしてホテル業界、新興外食勢力、そして既に市場が活性化するデリバリー業態とが連動してこうしたホストキッチンの概念と業態が進むか否か、注目しておきたい領域だ。 興味深いスタートアップ: 2022年の注目トピック④:フードテック×健康<未病、ウェルビーイング>+パーソナライズ化 ウェルビーイングという概念はここ3,4年のうちに日本でも浸透しつつあるようだ。そして、食の領域でも「食と健康」、「未病」、心身のよりよい充足したバランスの取れた状態を実現すること、そして、古来の漢方薬の世界で広く知れ渡るような、個々人にとっての状態を診る、いわゆる「パーソナライズ」化された新しいサービスが生まれ始めている。 これは食に限らないが、食においては、Wellness-Foodという表現が出現したり、食と健康とをより結び付けて私たちの健康管理を支援する各種アプリ(Ex. 日本の代表例はアスケン)も欧米で続々と出始めている。コロナ禍が一向に収まらない今、こうした【食×健康×ウェルネス/ウェルビーイング】が引き続き注目テーマとして挙げられそうだ。 世界の「パーソナライズ」化による食事栄養管理等の市場は2027年には166億米ドルに及ぶと予想される。デジタルヘルスと呼ばれる技術領域、各種検査キット、免疫力強化を支援する各種ツールが当該市場を牽引している。特に、コロナ禍では個人の自己免疫力の強化を強く意識せずにはいられない状況が続く中、このセグメントはオミクロン株でコロナ禍が一向に沈静化が見えてこない2022年も注目される領域である。 出所: 米CBInsights社よりhttps://www.cbinsights.com/research/nutrition-ingestible-beauty-trends/ 一方、医食同源というより、どちらかと言えば「メンタル」「マインドフルネス」に通じる、食×マインドフルネスの概念も、特に都市部のミレニアル世代を中心に堅実な市場形成が観られる。 以下は、全世界のウェルネス系食品開発の市場予測だ。2028年には、全世界で13.8億米ドル(年率成長率9.3%)の市場成長が予想されている。 出所: Data Bridge社より集計データを引用 https://www.databridgemarketresearch.com/reports/global-health-and-wellness-food-market 米の2018のLEK社による調査によれば、パーソナライズ化された食品やサプリに高い関心を寄せるミレニアル世代並びにX世代が各々調査対象中39%、36%を占めている。傾向的には、X世代がより「医食同源」に、ミレニアル世代は「食と美肌と健康」に高い関心を抱く傾向が強いのだそうだ。ハードデータはまだ未確認ではるが、日頃公私に渡り接する機会がある面々との会話から感じとれる肌感覚としても、欧米に限らず、日本を始め、アジア諸国においてもこのような世代層ではある程度共通する価値観は嗜好と言えそうだ。 以下、米CBInsightsのレポートに基づくと、昨年半ばに人々に食と機能性に関するサーベイを実施したところ、その割合は2020年半ば頃から急速に伸びているのが良くわかる。この時期は正にコロナ禍が急速に世界中に広がった時期にあたる。 所: 米CBInsights社「State of Food Tech Q2' 21 Report: Investment & Sector Trends to Watch」より引用
食と健康、未病対策の実現、肌年齢の老化防止、心身の充実の達成、日々のストレスの軽減や解消等、個別に幅広い用途はあるものの、食を通じた健康に対する意識は引き続き堅調に伸びそうだ。 興味深いスタートアップ: 日本のフードテックが果たすべき役割: 最後に、(毎度の如く…)日本でも盛り上がるフードテックの領域で世界で果たせる役割についての私見として触れておきたい。 日本は納豆や豆腐をはじめ、①日本全国の四季の豊かな気候の多様性に恵まれた地理的的な特長、②「もったいない精神」から来る「無駄をなるべくなくす工夫」、③肉食より植物性たんぱく質が伝統的なタンパク質の源となる献立が沢山生まれた食文化の知恵に富んだ国(地産地消)であると考えられる。 前述の「植物性代替タンパク質」や「フードロス、食品廃棄の低減」といったゴールは、元々日本の食文化に宿るものであり、従って、欧米のトレンドを追うこともさることながら、私達の身近なところ、あるいは、西洋化した食習慣によってやや身近ではなくなりつつあるものの、日本古来の食の智慧を再度復習してみると、大なり小なり、さまざまなヒントが潜んでいると考えている。こうした領域は未だに日本国内のフードテック×イノベーションの括りで形骸化されているか、取り残され気味のような印象を受ける。 上記の注目トレンドにおいて、特にフードテック×健康<未病、ウェルビーイング>の領域においては、「医食同源」という概念において、日本では古くから伝承されてくる食材が各地で広がっているのではないかと考えられる。 フードテック×健康×医食同源に関しては、2022年ももっと日本からの智慧の工夫と商品化、サービス化が一つでも生まれてくるのを期待してみたい。 次回はアグリテックについて触れておきたい。 ポスト・コロナ禍で大きく注目される機関投資家によるESG投資と企業の本業に係るESG戦略 2020年から世界中を駆け巡るポスト・コロナ社会以前から上場株式投資の世界では既に広く知れ渡るのが、ESG投資である。ESGとは、英語の「環境(Environmental)」、「社会(Social)」、「企業統治/ガバナンス(Governance)」の頭文字をとったものであり、SDGs(Sustainable Development Goals=続可能な開発目標)と並び、「プロ投資家」と呼ばれる機関投資家にとっての投資判断を決める基準として、2015年以降その重要性が一段と増してきている。また、その前から我々が良く知る「SRI(Social Responsibility Investment=社会的責任投資)」と一見似ていると思われがちだが、中身は本質的に違うと言えよう。それは、恐らくSRI投資は投資先である上場企業の本業そのものに対する株主としての影響力行使というより、社会への還元や貢献に対する忠告のような役割に“留まる”程度であったと考えられるのに対して、ESG投資は、根本的に上場企業の本業そのものへのモニタリングを指すと言える部分に、本質的違いがある。 こうした混沌とした時代の潮流にはスタートアップにとっては斬新な発想社会に具現化をして行く大きな機会として働く一方、従前の世界の仕組みから新たな社会的欲求に順応するにはもはや十分適応しきれなくなる大手上場企業にとっても、イノベーション(オープン/クローズド)が期待される時代でもあり、良い機会ととらえられる。そこで、今回はこの「ESG投資」と「ESG経営」について触れたい。 ESG投資とは❓ まず、本稿では詳細の説明は割愛するが、ESG投資とは何かについて纏めておきたい。ADEC Innovationsによれば、ESG投資とは、その頭文字の通り、E(=環境・Environment)、S(=社会・Social)及びG(=ガバナンス≒企業統治・Governance)の観点からその投資対象企業の経営姿勢について分析をし、最終的な投資可否を決める、というものだ。尚、ESG投資は、英語圏では別途「Sustainable Investing」「Impact Investing」という言い方もある。やや混乱しがちだが、基本的に意味は一緒だと理解して良い。 ここで、ESG投資が先にも触れたかつての「Social Responsibility Investment」との本質的な違いは、ESG投資の場合、投資対象企業の地球環境保全への取り組みや人的資本の活用法(Wellbeing)への具体的な取り組みをモニタリングするだけでなく、本業たる事業活動を通じた「経済的利潤のリターンをも求める」点にある。すなわち、単に「本業は本業として、社会貢献にも最大限の貢献をしています」といったものではなく、本業そのものがE(地球環境)とS(社会)のより良い方向に行くためのアクションに結び付くことが目指す姿というものだ。いわば、前者は経済的利潤の追求と社会・環境面の質向上は反比例関係にあると捉えられていたのに対して、ESG投資は正に「正比例」の関係と捉える概念と言えよう。 では、具体的にこのESG投資、あるいはサステイナブル投資には、どのような「判断基準」や「テーマ」があるのか。以下、米Morninstarのリストを参照されたい: 出典:米Morningstar社:https://www.morningstar.com/articles/962827/interested-in-sustainable-investing-heres-what-you-need-to-know-about-sustainable-funds 上記はあくまで主たるテーマ・留意項目のリストであるが、今年の6月18日に経産省が掲げた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の14項目もこのリストに当てはまりそうだ。また、後に少し触れるが、S(社会)項目においては、「ダイバーシティ・職場ポリシー」を始め、働き方改革なるものが叫ばれる昨今においては企業にとって従業員個々人の能力や価値観等を「見える化」する手段としてのHRのデジタル化(DX)なども挙げられそうだ。 また、ESG投資には、さらに細かく次に掲げる7つの投資の「タイプ」に大別される(注:Global Sustainable Investment Allianceより): このようなESG投資が、特にポスト・コロナ禍の世界の主要投資家の動きの中で活発になっている。次のデータは、アジアのとある国の2020年の株式市場の騰落率に関する米Morningstar社によるものだ。 ESG経営に積極的に取り組む企業への投資を手掛ける投資ファンドと一般的な株式投資ファンドとを比べると、前者の場合は、全体の相場が下落する局面で格段に下落率が踏み止まっているのが明らかだ。 一方、世界の主要ESG関連ファンドへの過去6年間の資金フローの推移を見ると、2020年3月の最初のコロナ・パンデミックが発生したために一時的に資金流出が相次いだものの、翌4月以降2021年6月迄のおよそ1年間はパンデミック以前の4年間と比べても大きく流入が増えていることがわかる。 世界のESG関連投資ファンドへの資金フローの推移 出所:リフィニテイブ・ジャパン https://www.refinitiv.com/ja/blog/global--esg-fund-inflow-trends-and-performance さらに、同じくMorninstar社によるサステイナブル投資ファンドへの四半期ベースでの流入額を表すグラフが次の通りだ。約1年前にあたる2020年12月31日時点での数値となるが、2019年以降で一気に上昇している。特にコロナが勃発した2020年2Q以降でけた違いに資金流入が増えている様子も如実に表している。 サステイナブル関連投資ファンドへの資金流入額の推移 出所:米Morningstar社:https://www.morningstar.com/articles/1019195/a-broken-record-flows-for-us-sustainable-funds-again-reach-new-heights 2021年2月時点の主な個々の注目事象について取り纏めると:
出所: Inner Circle 「The Rise of ESG Investing in the Year of the COVID-19 Pandemic」を参照。元データ:MEDICI Global社「ESG Meets FinTech – A Strategic Analysis」 https://gomedici.com/the-rise-of-esg-investing-in-the-year-of-the-covid-19-pandemic# 今後、世界の主要大手機関投資家に留まらず、国内の大手機関投資家もこうした動きがさらに加速する可能性が高い。実際に、筆者がかつて証券会社勤務時代以来ずっと懇意にする国内外の株式投資ファンド運用責任者に伺うと、そのような様子がうかがえる。 日本のESG投資は実は2014年頃までは恐らく非常に規模が小さかったと見られており、拡大の兆しが見え始めたのは、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が責任投資原則(Principles for Responsible Investment)3に署名をし、運用方針にESGを取り入れたことがきっかけであると考えられる。その結果、2018年には2.2兆ドルにまで急速に伸びている模様である(GSIAデータ)。 ESG投資の拡大を受けて重要性が急速に増してきたESG経営 ESG経営の重要性は、2つある。1つは、言うまでもなく、投資家がこれからは環境、社会、そした企業統治に重きを置いた投資を実行していくことを、彼らの背後のLPに対して宣言をし始めており、従って今まで以上に恐らく株主の選別やモニタリングを意識した持続的な経営戦略の構築とそれらの具体的な実践を強いられることを意味する。また、地球持続性という世界中の人類の課題に立ち向かう必要があるこれからの50年、100年という大変長い時間軸でSDGsを意識した取り組みに本腰を入れていくことが、企業の価値評価に大きく結び付くものと考える。 もう一つは、ESG経営はもはやかつてのCSR的な、言うならば「社会奉仕」的「副業」的な意味合いに留まる者では決してないという捉え方である。つまり、ESG経営はビジネスそのものでり、自社の売上や利益に直結するものと捉えるべきものだ。 例えば、食の世界であれば、代替プロテインは動物愛護もさることながら、CO2削減という地球環境の持続性を保全する為の世のしくみ、食の川上から川下までに至るフードチェーン・システムの構築に取り組む全てのステークホルダーが関わる具体的な事象であり、こうしたタンパク源の開発や生産を実業とする食品関連企業にとって、これこそ、ESG経営そのものである。 これは、環境に配慮をした商品開発やサービス構築に取り組む企業に対して、一般消費者も今まで以上に厳しい目を向け始めている点が特徴的である。いわゆる、ミレニアル世代やそのさらに若い世代であるZ世代は、身の回りの電化製品から食事の選択、あるいは働きたいと思う会社の選択等、多岐にわたり、E(環境)、S(社会≒生き方の価値観、働き方の価値観、等)、G(ガバナンス≒一消費者として企業ブランドを注視Governance)的な観点をしっかりと主体的に持ちながら、消費行動をとって行くものと思われる。そして、この世代こそが、これから何十年も経済を動かす原動力であり、従ってESG経営は単に株式投資を通じた機関投資家を意識したものにとどまらず、自分達の商品やサービスを利用し、消費をしてくれるお客様をも意識していくものとなる。 正に「社会的奉仕・責任(Social Responsibility)」ではなく、「企業価値の持続的な向上や成長」の不可欠な経営課題なのだ。 一般消費者による企業のESG経営への取り組みと消費行動への影響 出所: Consumer Goods Forum/Treeni, Inc. こうしたESG経営の実装に向けて、既に多くの業界に渡って取り組みがされ始めているDX(デジタルトランスフォーメーション)をさらにサステイナビリティの概念に踏み込んだSX(“サステイナブル・トランスフォーメーション”)こそが、より今後効果的に経営レベルから現場レベルにまで落とし込まれていくことが望ましい(SXについては改めて取り上げてみたい)。
これらは正にESGの概念に基づく経営戦略と考えられる。すなわち、地球環境への中長期的な配慮をする新たな産業技術を生み出すための経営資源の投入であり、それによって収益機会の創出かつ企業価値の持続的な向上を実現出来る可能性を秘めた戦略と言えそうだ。 こうした領域に、今やアマゾンやグーグル、あるいは中国のアリババといったIT企業がどんどん仕掛けている模様であり、日本企業は対策は講じられているものの、小手先での勉強と初歩的な実践段階に留まっており、まだまだ大きく出遅れている印象が拭えない。 最後に、今後「ESG経営」の具体的な対象として我々が注目する領域を列挙しておきたい。 国内外の投資家から「有望なESG投資対象企業」となりそうな領域
国内外の資本市場を形成する世界の大手機関投資家によるESG投資がこれから存在感を増していくと思われるこれから10年、30年、日本企業もESG経営の実行と、それらを実現可能とするDX、SX戦略をトップダウン~ボトムアップで取り組まれていくことが望まれる。次回は、SXについて具体的に踏み込んでみる予定である。 ーーーーーーーーーー 【★募集中!|事業会社で新規事業推進、R&D部門等のご担当者からのご連絡をお待ちしています!】 (2021年10月15日:(株)アドライトよりプレスリリース) 日欧米スタートアップとのサステイナブル領域における事業共創プログラム「SUITz」リリース((株)アドライト)、1stバッチのスポンサー企業募集中! ‐ フードテック/アグリテック、バイオマテリアル・サイエンス、クリーンテックの日欧米有望スタートアップと日本の事業会社との個別マッチングからその後の重要な事業化プロセスまでを実務支援のご提供までを手掛ける全く新たなプログラムが始まります。 ‐ マッチングはあくまでスタートラインであり、世の中のプログラムでもとかく手薄となる、マッチング後の試作品やPoC、サービスインに至る事業共創部分を日欧米で実務実績豊富なメンバーが事業会社の担当各部門と連携して実務までをご一緒するものです。 ‐ 日本の大手事業会社が長年の弱点である欧米(日本含む)スタートアップ等との事業共創、インテグレーションを一緒に担うものです。 詳しくは以下の公式ウェブサイトをご覧下さい。 オフィシャル ウェブサイト:https://suitz.jp/ 出典: https://illustimage.com/?id=11893 (遅ればせながら)新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。 2020年は未曽有のコロナ禍にこの世が翻弄された365+1日でしたが、2021年も引き続き我々人類にとって試練がまだまだ続きそうです。フードテックやアグリテック領域はこれまで日頃我々の多くが無頓着となってしまっていた健康に対して改めて向き合う機運が世界中で高まる中、引き続き盛り上がり続ける産業領域の一つになった1年であり、その流れは引き続きポストコロナ禍の中発展していくことはほぼ疑いの余地がありません。 2010年代中頃から欧米を中心にフードテック・アグリテックのアクセラレータープログラムやベンチャーキャピタルの活性化に数年遅れでようやく日本でもいくつかのフードテック系のアクセラレーターやファンドが立ち上がり始めました。フードテック・アグリテック領域への比較的大型な投資案件も日本発のフードベンチャーへ集まったものも出始めました。さらに、官民が一体となった農水省によるフードテック研究会並びにフードテック官民協議会がキックオフしたのも昨年でした。 世界は今混乱の中にいますが、コロナや新型変異種の出現等、きちんとした検証を経たワクチンの開発がまだまだ当面は先となりそうな中、人々は改めて自己免疫力の強化に関心を寄せていることは間違いありません。 さて、昨年2020年のフードテック領域の総括として、取り纏めてみると以下のような事象がありました:
未だに日本ではフードテックと言えば、Impossible FoodsやMemphis Meat、Beyond Meatをまずは思い浮かべられる傾向が引き続き強いようですが、それほど一般消費者のみならず、食品業界内でのインパクトが大きいという証でしょう。2019年8月にImpossible FoodsによるBurgerKingとの協業によるImpossible Whopperのデビュー以来、代替牛肉を使用した商品が一般市場に登場し始めていますが、2018年頃から試験管レベルであった代替ポークや魚プロテインも、2020年は各々シードファイナンスを果たしており、いよいよ今年は我々一般消費者の市場へ新商品が登場する可能性も高まってきています(Ex. New Age Meats等)。 一方で動向が気になるのが、当該代替蛋白質を含めた各種法的規制やガイドラインが(日本同様)USDAやFDAがイノベーションの速度に追い付いておらず、やや後追い的な様子であり、このあたりの制度設計が今年あたりかは一つ一つ成立されていくのではないかと考えられます。こうした欧米の法整備は日本から海外への上市を成功裏に目指す国内からのフードスタートアップにとっても戦略的にもしっかりと押さえておきたいところかと思います。 Plant Based Food、すなわち、植物由来の新食品関連もコロナ禍で引き続き堅調に伸びて来ています。また、日本の伝統食文化においても馴染み深い考え方の一つである「医食同源=Food is Medicine」という発想もここ1年でさらに注目される「Immune Health(≒自己免疫力のケア)」への関心が強まっていますね。具体的には、例えば北欧フィンランドの伝統的な生薬である(らしい)レイシ(日本でも漢方生薬の一つとして知られていますが、彼らのレイシは似て非なるものかもしれない)を取り入れた機能性コーヒーを開発/販売をするFour Sigmaticや、ニワトコ(Elderberry)が新たな代替自然由来素材として最近話題性が高まりつつあり(豊富なフラボノイド、抗酸化作用、等)、2021年はこうした題材にも市場性が十分見込まれます。 無論、こうした「効果効能」については一方ではまだ科学的な実証性には乏しいと言われており、前述のような「伝統に秘められた叡智の蓄積」はもちろん重要なファクターである一方で、今後は科学的、定量的な実証データの蓄積への取り組みが加速して行くのではないかと思います。Plant-Based Foodの市場は2017年から2018年にかけてUS$13BNものアーリー投資を集めています。従って2021年は恐らくこれらの会社からいよいよ「商品」が上市されていくタイミングに差し掛かっていると考えられます。こうしたPlant-Based Foodのフードスタートアップからの新商品がいかに我々消費者の口に届き始めるのか、そして、その栄養価や我々の心身の健康状態への影響もさることながら、消費者にとってもう一つ肝心な「味」あるいは「香り」「食感」が果たして消費者に広く受け入れられるものとなるのかが、実に興味深いところですね。こうした「味・香り・食感・風味」が2021年の主要テーマの一つとなりそうです。 コロナ禍で言えば、自己免疫力の強化、未病対策への意識の高まりも挙げられ、そうした傾向を象徴するように、「Fermentation(≒発酵)」がバズワードの一つとしてメディアも含めて注目され続けています。まだ研究段階のものも含め、食そのものの発酵技術の応用から、コロナ禍で外食離れが進む一方で、自宅での料理やフードデリバリーの利用が増えていますが、こうしたトレンドにあわせて食品保存技術の開発も活発化しています。詳細は割愛しますが、例えば発酵技術や酵素の力、微生物の持つ潜在力がいろいろな形で研究されており、一部の北米やイスラエル等のスタートアップが既に開発が進んでいる模様です。尚、微生物といえば、日本の株式会社クレハが昨年2月にシリコンバレーのYCombinator卒業生で注目の微生物R&Dバイオベンチャーの一つであるBoost Biome社へ戦略的事業投資を発表して話題になりました。 最後に、食べるものを準備する「キッチン」側(「台所」のみならず、調理関連から、倉庫、在庫管理、物流等、生産現場から我々の食卓に届く迄の「食べるものが出来上がる工程」全域)のキッチン・テック領域(≒"スマートキッチン"関連)も、フードデリバリー市場が成熟化の局面を迎え、かつ、コロナ禍でお店で食べることから自宅で食べる流れが主流化しつつある今、今後の実用化の流れが予想されています。フードデリバリー大手で「勝ち組」とされるDoorDash、Deliveroo、GrubHub、Uber Eatsあたりがいわゆる「ゴーストキッチン」を各社で導入・活用し始めており、例えばUber創業者として知られるTravis Kalanick氏が創業して話題の(しかしながら公開情報が極めて乏しい)CloudKitchensや、2018年にGoogleの親会社にあたるアルファベットの投資部門であるGV(元Google Ventures)からUS$10MMを成功裏に集めたKitchen United、その他Brightloomといった会社が先手企業群として挙げられます。無論、こうしたゴーストキッチンには多くの課題や懸念事項にも注目しておく必要があるようです(本稿では割愛しますが、こうしたゴーストキッチンの中にはロケーションや物件から生じるオペレーション面での課題を少なからず抱えている)。 ベンチャーキャピタル投資額については、昨年第三四半期段階ではフードテック+アグリテック全体中の7割もの割合をフードテックが占めており、引き続きフードテック投資が活発化していることが数字上でも明らかです。着目すべき点の一つは、前述の代替肉領域におけるシリーズA以降の大型投資が全体の金額をけん引した模様であり、それらは肉から乳製品にまで広がってきています。また、コロナ禍による「追い風」を受けたセクターとして、金融資本から注目をされている点も指摘出来ます。 出所:米Finistere Ventures:https://finistere.com/news/agrifood-tech-investment-continues-to-climb-amid-pandemic/ 尚、2020年第4四半期の数値は確定値が公表され次第、案件数及び金額共に上方修正される見通し。 一方、アグリテック領域の2020年の総括として、以下が挙げられます:
昨年は、全体の約8割がある程度技術開発も進み実用化段階にある(もしくはその見通しがほぼ立っている)いわゆるレーターステージのアグリテック企業への投資が7割前後を占めています。金額ベースで第3四半期段階でUS$3.07BNもの投資が集まり、前年同期比約14%増(前年同期同2.7BN)となりました。特に第3四半期における$825.8MMは、実に2010年以来の高水準です。例えば、サプライチェーンの効率性追求については、主に投資家の注目領域に農作物~食のサプライチェーン・リスクの最小化への取り組みが挙げられます(Ex. 垂直農園~都市型農場等)。例えば、Bright Farms社が$100MM、昨年2月には日本にも進出を果たした独InFarm社が$170MM、そしてソフトバンクのVision Fundからも出資を受けているPlenty社が$315MMを資金調達を成功裏に果たしております。 また、コロナ禍の影響が反映されたトピックとしては、まず農作物の保護(Crop Protection)や栽培効率の追求(Crop Yield)について、特に前者については2020年のコロナ禍によるウィルスや細菌への懸念から食を保護する観点から活況を帯び、その結果、Greenlight Bio社やPivot Bio社がそれぞれ$102MMと$100MMと三ケタ水準の資金を集めています。 自動化(オートメーション)においても人が感染をすることからの懸念による人的労働への高依存度からの脱却と、移民労働力に依存する元々の構造問題から昨今の入国制限も影響した模様であり、こうした状態が短期的には終焉しないと予測される今、2020年は農業分野での自動化(オートメーション)促進の各種技術開発へのベンチャー投資・戦略事業投資が活発化しています。 出所:米Finistere Ventures:https://finistere.com/news/agrifood-tech-investment-continues-to-climb-amid-pandemic/ 尚、2020年第4四半期の数値は確定値が公表され次第、案件数及び金額共に上方修正される見通し。 さらに、(これはアグリテックというよりフードテックの範疇と考えられますが)Crop Yieldと共に、フードロス問題に対処するべく、様々な技術やサービスが開発されています。例えば、英国発のToo Good To Go(⇐これは社名です)は新年早々にUS$31MMを新たに集めており、彼らは外食店等で発生する余分な食材を持つ外食店等とコンシューマーを繋ぐアプリを開発。また、CPGを含む食品メーカーや生鮮食品等を取り扱う会社における在庫管理を効率化・最適化する為の各種ツールとしてのAIや自動化ツールも着目されており、これらもいわゆる食品残渣問題と共に、食品ロスを防ぐためのフードテックとして2020年も引き続き投資資金が集まっています。 米国環境保護庁(EPA)等によれば、重量ベースで少なくとも北米のゴミのうちの20%を食料廃棄物が占めるとされており、そのうち自然への再利用価値のあるのがわずか6%に留まると見積もられています。また、米国だけで、毎年720億ポンドもの食品が、本来食べられるにもかかわらずそのまま廃棄されており(食品ロス)、一方で全世界で大凡5,000万人が飢餓に苦しむ、と試算されている中(*)、食の再配分問題、地球温暖化現象の対策として、食品ロス問題は引き続きまだまだ開拓の余地が大きいです。 備考(*): https://www.feedingamerica.org/our-work/our-approach/reduce-food-waste 出所:米ReFed社 以下は、食品残渣~食品ロス問題に対処する主要欧米スタートアップの主要勢力図ですが、これだけでも幅広いサービスから食材が生まれ始めている点が良くわかりますね。尚、以下の主要スタートアップのターゲット市場を合算すると、概算でなんとUS$2.4Trillion(≒250兆円)になるとのこと。全世界の食関連の市場がUS$8Trillion(≒800兆円)と言われており、そのうちの約30%が何らかの事由で(生産現場で廃棄されたり(形や色の問題他)、運搬中に破損したり、食品製造工程で廃棄されたり、外食店の厨房で廃棄されたり、あるいは家庭の食卓のゴミとして廃棄されたり)食品ロス(Food Loss≒まだ商品価値のあり得る状態のもの等)や食品残渣(Food Waste≒ゴミとして、土地に再利用されたり新たな食品需要の素材としてUpcycleされたり)として無駄にされている、という試算となります(**)。 北米では生産される食品のうちの31%~40%が食品ロスとなる模様です。これは、金額ベースでの年換算でUS$218BNとされていて、これは水、肥料、農作地、ごみ処理用土地空間のおよそ20%の使用・消費分に相当すると見られています(小売り店や家庭単位のみでUS$160BN、それに農産現場や製造工程、輸送工程、廃棄等合わせると前述の数値)。これは、米国だけでも食事が満足に出来ない家計が4000万人近くいるとされる中(全世界では全人口の約13%≒8人のうちの1人が食糧難)、まぎれもなく改善の余地がある領域です。 出所:米Cleantech Group社より、2018年12月時点の概算。 食品残渣~食品廃棄問題に取り組む主なスタートアップ群 出所:米Cleantech Group社 総じて、フードテックとアグリテック全体の投資推移としては、第3四半期ベースで合計$11.6BNもの投資額が集まりました。以下のグラフが示す通り、コロナ禍で経済全体が世界的に停滞する中、当該領域は活発に推移しているということが表れています: 出所:米Finistere Ventures:https://finistere.com/news/agrifood-tech-investment-continues-to-climb-amid-pandemic/ 尚、2020年第4四半期の数値は確定値が公表され次第、案件数及び金額共に上方修正される見通し。 以下の10社が主要な大型投資家となっており、彼らがシード以降、シリーズA~B以降の大型ラウンドをけん引する面々であり、500Startupsを除くといずれも当該領域を専門とするファンドが占めています。 出所: 米Crunchbaseより筆者が作成 一方、より立ち上げ段階~シード前までの種蒔き段階のアクセラやインキュベータには、Food-XやIndie Bioを配下におくSOXVやオランダの金融機関であるRabobankが進めるFoodBytes!をはじめ、純粋な食+キッチンテクノロジーへの支援を手掛ける(そして日本から渡米したRamen HeroやBase Foodが支援を受ける)Kitchentown、さらには大手食品メーカーのオープンイノベーション創出系のフードスタートアップアクセラプログラム(Chobani、Vitamin Shoppe、Pepsico、Land’O Lakes)等が引き続き積極的に募集枠を設けて4,5か月のプログラムを展開しています。以下は、主要な欧米大手食品メーカーのフードテック・アクセラプログラムの全体像ですが、ここ5,6年で増え続けて来て今ではそれなりに多岐に渡るのが一目瞭然です(2021年1月現在、米Kraft Heintz社によるSpringboardは終了している模様。同社はEvolv Venturesでフードテック投資を展開中)。 出所: 米Foodboro社より引用。2019年時点。尚、Kraft Heintz社のSpringboardアクセラプログラムは2021年1月現在継続されていない模様。同社はEvolv Venturesを通じてフードテックスタートアップへの戦略投資を継続中。 この他、2015年頃から(Impossible FoodsやBeyond MeatへBill Gates財団らが代替肉を提唱し始めた頃)欧米大手食品メーカーによるスタータップへの積極的な事業投資が活発化していることが、以下の一覧からも明らかですね。洋の東西を問わず、食品業界においては長らく成熟産業のまま株式市場からも斜陽産業の一つとして取り残されつつあった中、起死回生を図るべく、挙ってオープンイノベーションを活発化し始めており、2021年は2018年~2020年にかけて試作レベルやアーリー~シード期に投資を受けたフードテック関連スタートアップが結果を求められる時期(上市等)に差し掛かりつつあると思います: 欧米世界の主要フードテック/アグリテック関連投資ファンド 出所:米CBInsights社データより筆者が加筆修正 さて、以上のとおり、2020年を通じたフードテック並びにアグリテック領域(そして一部ライフサイエンス~バイオ~マテリアルサイエンス領域)の主な傾向をざっくりと振り返りましたが、この結果、2021年は果たしてどういう潮流となるのか。我々の身近なところでの兆候や個別の動き(サンフランシスコ側の身近に繋がるスタートアップ並びに大手フードブランドからコンシューマーブランド、化学大手といった主要欧米企業)をも鑑みると、2021年は、以下のような項目が(沢山ある中…)主な“気に留めておきたい”トピックの代表的なものとして挙げておきたいと思います: フードテック領域:
アグリテック領域:
まず、フード領域について、代替肉市場はいよいよ2021年からはImpossible Foodsをはじめ、まず北米では商品がこれからどこまで普及していくかが注目の的です。既に商用培養肉の価格は低下傾向にあり、価格競争面でも従来の食肉市場に代替肉プレーヤーがいよいよ仕掛け始めており、これからどのように市場が伸びていくのか、今後のPlant Based/Cell-Culturedの食材の成長性を見込む上で重要なベンチマークとなりそうです。そこでポイントとなるのが、いわゆる「味」「食感」「香り」といった要素であり、このあたりを押さえているフードテック・プレーヤーがこれからどんどん出てくると予想されます。既にイスラエルや北米では糖分や塩分について代替材料の開発が進んでおり(例:Amai Protein、DouxMatox)、今年はそれらの企業のうち果たしてどれだけの企業が上市~実用レベルにまでたどり着けるか否かが注目されます。 一方、食の透明化(Food transparency)も引き続き着目されていく領域です。特に、ポスト・コロナ社会を見据えて消費者が口にする食品がどこからどのようなプロセスで生産され、製造され、管理をされて流通してきているのかを注視してくることが予想されます。 前述の通り、食品ロスや食品残渣問題は引き続き主要テーマの一つと考えられます。これに関しては、一つの注目領域としていわゆる「データ」「アナリティクス」といったものが注目されますが、一方では大きな現実問題として、食の流通工程で各プレーヤー(生産、流通、製造、小売り等)間でデータがしっかりと蓄積整備されていない、という問題があると指摘されていますね。すなわち、食品ロスや食品残渣を解決する為のDXツールがこれから生まれてくる上で、そもそもそれらの情報ツールが活用する為のデータそのものをまだまだ蓄積させていくための方策も取り組んでいく必要が業界全体としてありそうです。注目されるフードテックスタートアップには、米Crisp社やイスラエル発のTastewiseといった企業が精力的に取り組んでいます。 一方で、この食品ロスや食品残渣問題については、米環境保護庁もいわゆる「フード・リカバリー」について積極的に加担をし始めています。さらに民間レベルでは米大手スーパーチェーンであるKroger社では「Zero Hunger - Food Waste」プロジェクトをキックオフしたり、スーパー等の大型小売り店チェーンもこうしたフードロス問題に積極的に取り組みを始めています。 このような潮流に対して、米ヨーグルトブランド(ギリシャヨーグルト/創業者も著名な起業家)であるChobani社では彼らのスタートアップインキュベータであるChobani Incubatorを通じてこうした食品ロス・食品残渣問題に取り組むスタートアップに積極的に支援する姿勢を明らかにしており、日本からも「もったいない精神」を北米海外に輸出すべく、一つでも多くの日本発スタートアップにチャンスがあると言えます。 ポスト・コロナ社会で引き続き「Plant Based」の自然由来の食への探求が引き続き堅調に推移していくものとみられます。「Immune Health」への探求心から、Food is Medicineという考え方と併せて、これからは日本をはじめとする東洋圏からの伝統機能性食材が注目され始めていく可能性があります(ここは期待というより願望…)。一時はアフリカ由来のモリンガや、先述の北欧フィンランドの伝統自然由来食の一つであるレイシ等が一部のフードスタートアップを通じて欧米の消費者の間では一定の購入層を獲得している模様であり、この流れが2021年にはさらに一歩進んでアジアからの素材にまで広がる可能性は十分考えられます。因みに、Plant Based・植物由来及びCell-Cultured・培養肉市場は、UBS証券の試算によれば、2030年にはUS$85BNにまで成長すると予測されています。 そして、ここ2,3年に粛々と開発を経ていよいよ上市が期待されるAlternative Foodが増えていくであろう2021年以降、引き続き注視されるのが、米FDAやUSDA等によるこうした新しい食品に対する法整備の問題です。去年7月にはFDAとUSDAが揃って細胞培養肉に対する食品表示等のルール作りに本格的に着手をする旨、表明しており、後手に回りがちであった法整備がこれから進展していくか否かが、これから新たな開発に着手をするスタートアップにとっても気になる部分であり、一方、こうした法制度化においては、いわゆる「政治力」も侮れないのが現実。日本から北米海外市場をこれから積極的に打って出ていく際、自分達の手掛ける新しい商材が認められるようにするためには、こうした影の努力も実は必要になりそうですね。 フードテック領域の2021年の注目企業(一部事例) 一方のアグリテックの方では、環境再生型農業(Regenerative Ag)の緩やかな普及、生物多様性を重視した農業におけるDX化(AI/ML/IoT/ドローンの高性能化、等)、アグリバイオの技術開発の進展と土地収穫量等の効率性追求及び動物保護、農業ハードテック(ロボティックス・自動運転等)の実用普及化といったものに加え、フィンテック×農業(金融・保険)の加速化(ポストコロナ)もこれから動向が注目されそうです。 また、Rise Gardens、Plenty、InFarm、AeroFarms、BrightFarms、FreightFarms等が牽引する、室内栽培領域(Indoor Farming)も、ポストコロナで外出を控えて自宅で過ごす時間が多くなることをきっかけとして今後主に都市圏に住む比較的平均以上の所得層を中心に広がる可能性があります。GrandView Research社によれば、2018年の全世界のIndoor Farmingの市場規模はUS$26.8BN(≒2.7兆円)、MarketsandMarkets Analysis社の推計では2022年時点で全世界の室内栽培市場はUS$40.25BN(≒4兆円)とされており(***)、コロナ禍以前から、主に先進国の都市圏を中心として栄養価の高い生鮮品への需要の拡大、限られた空間(縦長の物件に住む層)・水での高収量へのニーズ、気候変動による影響の低減といった魅力が潜在成長力の源泉とみられており、コロナ禍の長期化で2021年から2022年を通じて成長が促進するという予測もされています。このIndoor Farmingには、ハードから(空調システム、光、センサー、灌漑システム)ソフトに至るまで(AI/ML、アナリティクス等)、幅広い技術スペックが対象となります。 最後にもう一つ、農業×フィンテック領域について、既にこの領域は特にアジア諸国を中心に既にスタートアップや既存の金融機関等が登場していますが、昨今、<X業界×フィンテック>の動きが顕在化する中(例:HR/ウェルネス×フィンテック、建設×フィンテック、等)、農業の世界におけるフィンテックも2021年は再び注目される可能性があります。背景としては、コロナ禍で食の価格変動が予測しにくい市場環境が当面続きそうな中、農業従事者向けにビジネスローン、各種保険(作物保険<Crop Insurance>等)のニーズが高まるというもの。NY本社のWorldcover社等が代表例。 備考:(***)https://www.gii.co.jp/report/mama631688-indoor-farming-technology-market-by-growing-system.html アグリテック領域の2021年の注目企業(一部事例) 以下は、フード+フードテック、アグリテック及びバイオ~メディカル領域の4つに分けてみて気になるトピックについて上記以外のものも含めて箇条書きで取り纏めたものです: 上記の4カテゴリーはあくまで独断で分けていますが、左側は総じて「フードテック」寄りの領域であり、右側上部「アグリテック」と共に、「バイオ・メディカル」はフードバイオからアグリバイオといった、バイオテクノロジーの範疇からの食及び農業分野への応用技術を想定しています。 尚、個人的には、特に2021年のポストコロナ禍で2021年も引き続き注視をしておきたいのが、以下のグラフが示す通りコロナ禍の1年も前年比大きく伸びている「Gut Microbiome(腸内微生物層)」をテーマとするトレンドです。腸内細菌や「脳腸相関」の概念はここ2,3年、日本国内も含めて世界的な注目トピックとされていますが、直近5年間で少なくとも北米の代表的なスタートアップにUS$1BNが投入されてきています。無論、科学的実証性が未だ乏しい為、他の食品開発と同様、特にバイオ領域にも関連性の高い当該分野においては今後科学的実証性の充実が求められてくるものとなります。 出所:米Crunchbaseより筆者が加筆修正 代表的なMicrobiome関連のスタートアップ事例(一部事例) 2021年もまだまだ続くこととなろうポスト・コロナ社会において、食と地球と生き物の生存というテーマにおいて、「フードテック」「アグリテック」は引き続き成長が予想されます。これらをさらに一歩広義で見ていくと、「心身の健康」や「健全な地球と社会」とを結びつけた”ウェルネス・ウェルビーイング”の捉え方で新たに見えてくるものがあり、そうした観点で食の未来と地球の持続性、我々人類を含む生命体のこれからの共存環境を究極的には捉えていくことが、食の未来を担う上で非常に大切になると思います。
次回は、これらのフードテック~アグリテック領域の中から一番気を留めておきながら2021年を過ごしたいセグメントについて、時間を見つけて記載をしてみたいと思います。 今年もフードテック~アグリテックの発展から目が離せません! 備考:主なデータ参照先: https://thespoon.tech/some-of-our-food-tech-predictions-for-2021/・https://news.crunchbase.com/news/agtech-sector-blooms-as-more-dollars-and-startups-rush-in/ 真: 米サンフランシスコにて筆者撮影 "Health Creation > Wealth Creation" - 最近良く見かける公式の一つです。ここでのHealthとはいわゆる「健康=Healthy」という意味に留まらず、Healthy Well₋beingという意味です。つまり、「経済的欲求より心身の健全たるバランスのとれた状態の達成への欲求」というメッセージですが、これからの10年、20年、このポストコロナ社会においてはこうした価値観の再認識や再定義が世界的に見ても浸透が加速しつつあるように見えます。特に、これから社会の中枢を担うであろうGeneration YやGeneration Zといった世代においてはこうした新しい価値観がますます浸透し始めていると言われます。この流れは今後様々な産業領域における新たな消費者行動様式として具現化していくと思われますし、また、それらに伴ってこうした消費者・市場トレンドに呼応すべく、従来にはないような新たな発想や転換を伴う新規のビジネスモデルの構築といった動きが、大企業やスタートアップを通じて進むものと考えます。これから、暇を見つけていくつかの産業領域についてピックアップしてみたいと思いますが、今回はやはり「食」と「ウェルネス/ウェルビーイング」の関連について少し取り上げたいと思います。 上記の潮流の中で「食」の世界でもこの流れは既に起き始めています。「食のイノベーション(Ex. 代替タンパク等)」が世界的に勃興し始めてから今年で概ね7~8年が経過していますが、コロナ禍の世界では、この食と我々の心身の健全なバランスとを結びつける、まさに「ウェルネス/ウェルビーイングの概念」との相関性に着目する動きがみられます。 元々「食」と「健康」と共にいわゆるウェルネス/ウェルビーイングという概念にまで落とし込んでその相関性について研究した各種論文は実は少し前から存在していますが(~2010年・注 *)、昨今の代替食やサステイナビリティ(SDGs)といったバズワードが活性化する中、よりその動きが加速し始めているようです。 そこでまず初めに、そもそもこの「ウェルネス」や「ウェルビーイング(Well-Being)」の概念・定義について再確認したいと思いますが(未だに非常に曖昧なままこの言葉が飛び交う印象)、Well-beingに関する英語圏での定義は以下のとおり: Oxford辞書より:
… っと、日本国内でも様々な「専門家」がこのウェルビーイングの定義についてはウェルネスという言葉と共に定義合戦が繰り広げられている様子が伺えますが、まぁ、言わんとするニュアンスは概ね上述のようなところといったところでしょうか。英語圏ではもともとWellnessという言葉は意外と良く使いますが、改めてその言葉の持つ意味や定義について、非英語圏においてもその意味について理解したいという意欲が高まってきていることは確かのようです。因みに、WellnessとWell-Beingの厳密な違いですが、Wellnessと比べてWell-Beingの方が、以下の点でさらに広域の意味合いがあるとされています: "~“Wellness” vs. “well-being”: Speaking of definitions, let’s take a look at wellness. The overall topic of health and wellness is gradually expanding into “health and well-being.” ~ (中略) ~ However, well-being has a broader definition, including aspects such as emotional health, energy levels, and sleep behaviors. ~" つまり、Wellnessと比べてWell-Beingの方が「より心のエネルギーやバランス、健全な状態といった要素」までを言葉の定義の対象とする、といったところでしょうか。 注記: (*)https://www.researchgate.net/publication/49735796_Reviewing_the_meanings_of_wellness_and_well-being_and_their_implications_for_food_choice (**)https://www.lexico.com/definition/well_being (***)https://www.fmi.org/newsroom/news-archive/view/2018/12/18/new-report-fmi-evaluates-the-power-and-focus-on-shopper-health-and-well-being-at-retail そんなウェルネス/ウェルビーイングですが、昨今、食の新しい潮流の中でも、我々の接種する食べ物と我々の人体との相関関係に関する再定義や再発見が活発ですね。わかりやすい例の一つに、我々の脳と腸の働きに一種の相関性があるのではないかという「脳腸相関・Gut-Health」といったテーマがありますね。これはいわゆる微生物叢(Microbiome)の研究領域とされていますが、まだこの領域に関しては、まだまだ実証データが不可欠とされているものの、最近の食への探求心の向上をあらわす一つの事例であり、これにフォーカスを置いたフードテックのスタートアップが日米でも生まれ始めていますね(※具体例は以下をご参照下さい)。 欧米海外の主な微生物叢(Microbiome/Microbiota)領域のスタートアップ勢力図 提供:米CBInsights社・https://www.cbinsights.com/research/microbiome-startups-market-map-company-list/ 上記はやや古いデータですが、それでも概ね今欧米を中心にどういった領域で微生物叢に関する取り組みが行われているのかが、わかりやすくまとまっています。実用化はまだまだこれからですが。 一方、「食」と「ウェルネス/ウェルビーイング」の潮流を読む上で興味深いデータが、今年の7月に米ADM社から発表されました。以下がその要点です: ① Increasing Focus on the Gut Health and Immune Function Connection : Globally, 57% of consumers report being more concerned about their immunity as a result of COVID-191. As consumers strive to enhance their immunity, they are becoming more knowledgeable about how the human microbiome supports the immune system and overall wellbeing. Products containing probiotics, prebiotics and postbiotics can benefit the microbiome and are already gaining momentum in the marketplace. 要約:いわゆる腸内健康と免疫機能との相関関係への探求心の向上 - 全世界の消費者の57%は昨今のコロナ禍で自己免疫機能にさらなる関心を高めている模様。こうした消費者における自己免疫力の改善への取り組みが進むにつれて、ヒトマイクロバイオームの及ぼすであろう免疫機能への働きについて消費者はますます勉強していくと思われる。こうした流れに沿う形で市場ではプロバイオティクス、プレバイオティクス、ポストバイオティクスを唄う各種新製品が、我々の体内微生物(マイクロバイオーム)に効果的な働きをもたらすののとして市場は拡大成長中。 ② Plant-Based Becomes Mainstream: In the U.S., 18% of alternative protein buyers purchased their first plant-based protein during COVID-19, and 92% of those first-time buyers report they are likely to continue purchasing meat alternatives. In Germany, the U.K. and the Netherlands, 80% of consumers state they are likely to continue eating plant-based meat alternatives beyond COVID-192. With health, safety and convenience as top purchase motivators, products that deliver exceptional nutrition and a high-quality sensory experience will be poised for success. 要約:植物由来が主流へ ‐ 米国ではコロナ以降、代替タンパク質の購入者のうちの約18%が代替肉を初めて購入をする層であっと模様。そのうちの92%は今後も継続して代替肉を購入し続けていく可能性が高いと回答。一方、ドイツ、英国、オランダでは、消費者の80%が、同様にコロナ以降代替肉を購入していくであろうと回答。彼らは「健康効果、食の安全性、利便性」を購入の最重要課題としており、従ってこれからの売れ筋商品の肝として、「栄養価がもたらす健康付加価値」「食体験」を提供出来るか否か、が挙げられる。 ③ A New Perspective on Weight Management and Metabolic Health : The pandemic’s consequences for individuals with hypertension, diabetes and cardiovascular disease have consumers viewing weight management and metabolic health in a new light, with 51% of consumers indicating they are concerned about being less active or gaining weight during the pandemic. That worry is likely to increase demand for functional solutions supportive of metabolic wellness and healthy weight management. 要約:肥満やメタボへの新たな見方・捉え方 - 今般のコロナ禍でコロナ発症と高血圧、糖尿病、心血管疾患との高い相関性が指摘された結果、消費者に改めて体重管理、メタボに向き合う姿勢がみられている。消費者の51%は、今回のパンデミックのおかで外で身体を動かすことが激減したこと、あるいは体重が増加してしまっている、ということを心配している模様であり、こうした不安がこれからはこのような代謝機能の働きを促進する機能性に富む食への需要が高まる可能性が高い。 ④ Finding Balance: Self Care, Emotional Wellbeing and Nutrition: The difficult circumstances stemming from COVID-19 have increased feelings of anxiety and stress as 35% of consumers report being concerned about mental health2. People are looking for new ways to improve their mental wellness during these stressful times, including granting themselves permission to consume indulgent, comforting food and beverages. However, they are tempering this desire with weight management needs and seek a careful overall balance of indulgence and good nutrition. 要約:自己管理、心身の健全な状態(ウェルビーイング)、食の栄養のバランスへの探求心の向上 - 今般のコロナ禍によって、調査対象中35%の回答者は様々な心の不安定な状態への懸念を報告。彼らはこうした不安定な社会情勢の中、より心身のバランスの改善が出来る各種手段を探している。例えば、贅沢で満足感/満腹感が満たされるような食事を摂ることに積極的になる一方、体重管理等にも注意を払うようになり、その結果、食への欲求と並行して全体の栄養価についても注意を払うようになっている。 ⑤ Nutrition, It’s Personal : As COVID-19 increases consumer awareness of individual health risk factors, demand for products offering tailored, highly personalized health and wellness solutions will take off. ADM research shows that 49% of consumers feel every individual is unique and requires a customized approach to diet and exercise, and 31% of consumers are already purchasing more items tailored for health and nutrition. Products that focus on improving nutrition, self-care and general wellness will increasingly attract consumers’ attention 要約:個々人により大切になりつつある食と栄養 - コロナ禍で個々人にとっての健康リスク要因に対する意識が高めるにつれて、より高度にパーソナライズ化・カスタマイズ化された健康/ウェルネス関連製品への需要が高まりつつある。( 米ADM社の調査によれば)調査対象者のうち49%が「すべての個々人が固有な対象であり、従って個々人に対応する食事や運動の取り組み方が必要であると感じており、一方31%はすでにこうして健康効用や栄養価に富む製品群を購入しているとのこと。従って、これからは個々人に対応した栄養価値、健康への自己管理、及びこうしたウェルネスに焦点を当てた製品が市場を掴んでいくものと考えられる。 ⑥ A Shift in Shopping Values : An increased focus on health is triggering a windfall in consumer health and wellness spending. Forty-eight percent of consumers plan to purchase more items related to health and wellness. Concurrently, manifesting concerns around widespread economic decline have prompted a shift to value-based shopping, including growing demand for basic pantry staples, stimulating trade-downs to private labels and increasing traffic to value retailers. 要約:消費者における購入目的に対する考え方の変化 - 健康への関心の高まりは、消費者における健康やウェルネス関連への消費行動に大きな影響を及ぼし始めている。48%の消費者はより健康やウェルネスに関連性の高い商品にお金を出す傾向にある。一方、経済活動の停滞と共に消費者による選別消費も進んでおり(例:備蓄品の強化等)、その結果、高価なプライベートブランドよりも付加価値が見いだせる量販店での購入意欲を強化している模様。 総じて、自分達の食べるものがいかに心身の健康状態に直結し、その為に、いかに食をコントロールしていくのが得策なのか、ということを積極的に個々人レベルで意識が高まり始めているということが、こうしたサーベイを通じて現れ始めていることが垣間見えます。 出所:米ADM社【Emerging Consumer Behavior Shifts: Six Ways Food & Beverage Innovation Is Evolving in the Face of COVID-19】https://www.adm.com/news/news-releases/emerging-consumer-behavior-shifts-six-ways-food-beverage-innovation-is-evolving-in-the-face-of-covid-19-2 2020年|主な微生物叢(Microbiome/Microbiota)関連で最も注目される海外スタートアップ事例 以上、主に欧米市場での、主に都市圏の個人を対象とした「食」に対する消費者の向き合い方の最新傾向と、北米を中心とする最近の食に係るフードテック・フードバイオ領域のスタートアップの代表例について触れて来ましたが、こうした全体的な潮流において透けて見えてくるのは次の3点があります: 1.「未病対策(Preventive Health)」という考え方の芽生え: 本稿では詳細は割愛していますが、良く知られている通り、北米における死亡原因の上位に必ず入るのが、肥満や糖尿病、高血圧やこれらに起因するであろう心疾患であるとことはデータでも証明されていることです。こうした症状が悪化して完全なる「病気<Disease>」となってしまう前に食や運動等を通じて未然に防止しようという考え方が、主に健康志向の高い消費者層を中心に高まりつつあります。また、世界中の各地域で古くからその地域の人々にいわゆる「薬膳効果」が代々伝承されてきたような食材に対する北米市場での関心度が高まり始めています。そうした、今まで馴染みのなかった食への探求心とそれらを日頃の食習慣に取り入れていこうという考え方が芽生え始めており、その結果、Preventive Healthとしての食の再定義が浸透していきそうです。 2.「全体最適化(バランス)」の発想が浸透しつつある?: この場合の全体最適というのは、組織経営学的な意味合いとは別に、接種する食の栄養価のプラス/マイナスの及ぼす体内全体への栄養価、健康効果がどのように働くのか、といったことに意識が高まりつつある、という意味です。今までは「カロリーが高い」「糖質が高め」といった「絶対値」に基づく解釈が中心でしたが、最近は食材一つ一つがもたらすであろう健康作用についての相関関係(プラス/マイナスの働き)について学ぼうという姿勢が増えて来ているようです。あくまで漠然とした直観的な印象にすぎませんが、何となくこの兆候は見られます。 3.食とマインドフルネス/「フード≠餌」という考え方の浸透: 先に挙げたように、昨今の健康志向の高い欧米の個人消費者層においては、Gut-Healthに象徴されるような腸内細菌叢の働きと自らの身体的な健康に留まらず、それが我々の脳にどのように作用するのかといった「脳腸相関」や、メンタル面にも効果的に働くメカニズムに対する探求心(※これらはいずれもこれからまだまだ医学的にも科学的にも解明されていくべき要素が多い分野であると思いますが)をはじめ、心身の「内なる働き」についてより細かく知りたいという傾向が見られます。要は、我々が口から入れて体内で吸収する「食」というものが、単に生きる術として体に取り込む単なる「餌」ではないという考えが、これから徐々に広がって行く兆しが見えます。 写真出所:https://www.mindful.org/6-ways-practice-mindful-eating/ ‐ これら、良く考えてみると、何気に我々日本人の意識の中に昔から存在するものばかりのような気がしますが、如何でしょうか?つまり、欧米をはじめとする世界中のサステイナビリティや環境問題といった課題と向き合う機運が高まる中、我々の食に関わる仕組み全体から食そのものに至るフードシステムへの取り組みと意識の変化が急速に高まっていく(であろう)中で、欧米が中心となってこうしたムーブメントが巻き起こっている流れが出来つつある中、日本古来の食や健康に対する意識の中に、「ウェルネス」や「ウェルビーイング」といったカッコいい横文字が意味する本質的な部分が沢山含まれているのではないかと考えます。Food-Waste(食品残渣)のUpcycle(再有効利用)などは、例えば日本の伝統的な日本酒という商品の製造工程から生まれる副産物である酒粕は既に昔からそれ自体が商品として市場に出回っていますし、「オカラ」なんて、昔から身近に存在する食材の一つ。だが、北米ではそのオカラがOkaraとなっていわゆる「Food upcycled/Nutritional Food」として一世を風靡し「かかっ」ています。 写真出所:https://republic.co/renewal-mill 米Renewal Mill社
コロナという未曽有の疾病ブームで世の中が混沌とする中、我々にとって改めて「健康」に対する意識と向き合い方が大きく再定義されつつある中、今まで無意識に接していた「食」に対して改めて我々の捉え方が大きく世界中で変わりつつ局面を迎えていることは確かのようですが、我々にとって、世界の潮流に目を向けながら、我々日本人が古くから大事にしてきた(しかし、最近はすっかりそれらの意識が遠のいてしまっているような)価値観や「もったいない」の発想といったところに、沢山のヒントが隠されていると思います。「発酵」はFermentationとして既に世界でバズっていますが、「醸造」はそうなっていないですよね。この「発酵」と「醸造」の〝似て非なる〟本質的な違いを伝えていくことこそ、大きいと思います。 写真提供:「Neuro Gum: Does Nootropic Chewing Gum Truly Work?」https://shepherdgazette.com/wp-content/uploads/2020/08/image_treatment_nero-gum_200731-720x720.jpg 脳科学領域に注目したさまざまな取り組みがここ1,2年、スタートアップ投資において注目され始めた領域の一つです。直近では、イーロン・マスクによる埋め込み型の脳と機械のインターフェースを開発する新たな脳科学系(“Neuroscience”)企業であるNeuroLink社が豚の脳を使用した開発の進捗状況が報道されて注目されていますが、当該研究領域は人間にとっても解明すべきものが深くまだまだ課題が多いも世用であり、すぐに実用化とマネタイズ化が進む段階にはない状況のようです。 脳神経学領域への主たるスタートアップ投資の直近12年の概況を見ると、以下の通り、2015年以降伸び始めており、2018年には$1.5BNにまで伸びています。主な事例では、Dreem社による2018年6月実施の総額$35MものシリーズC等が挙げられますが、こうした事例を除くと、全体的にはまだ研究開発段階として総じて初期段階のものが多いような印象を受けます。最近俄かに日本国内においても注目をされはじめたトランステック領域を含めて、まだまだ黎明期の段階を経ているようですが、ポスト・コロナの混沌とした世の中を生きていく我々にとって、マインドフルネス領域の一環として当該領域はさまざまアイディアが当面出続けていくと予想されますので、2020年後半から2021年を通じて、自ずと主たるテーマ領域として動きが活発化していくものと予想されますね。主な動機や背景として言われているのは主に以下のような着眼点から来るものかと思われます:
1.については人と人とのリアルな繋がりを促進するテクノロジー(共通趣味等に基づいた新しいオンラインコミュニティプラットフォーム)、2.は遠隔医療をはじめとする各種デジタルヘルスの新たな仕組み作り(例:ウェラブルデバイス、オンライン・セラピー)、そして3.については既に頻繁に触れている領域ですが、HRテクノロジーがこれから活発な取り組みが進みそうです(既に3,4年事例が多い個別領域については今後選別色が強まる過渡期に突入)。 出所:米Statisita https://www.statista.com/statistics/596310/venture-investments-neurology-companies-us/ 前述のDreem社の概要は以下の通り:
Dreemは、マシーンラーニング技術、EEG(Electroencephalogram=脳波)測定電極、加速度センサー、パルス・オキシメータ(酸素飽和度測定)等の技術を駆使しており、それらをうまく活用することで、利用者の睡眠の深さやその時々の身体の睡眠状態を計算し、データ化をすることでその機能を実現させる模様。 私見では脳波の世界は非常にデリケートな領域に思えますから、テクノロジーと実際の我々人間の人体の反応との絶対的な相関関係がどれほど確かなものなのかを十分に証明されるにはもうしばらくは時間を要する気がしますが、Johnson & Johnsonのような大手バイオ・ヘルスケア企業が事業投資に踏み切るこの事例のようなケースが増えていくことでどのように加速化、実用化されていくのか、興味深いところです。最近不眠症気味の筆者にとっても、是非一度試してみたい気持ちにさせられます・・・ ※詳しくはこちらをご参考に。 出所:Dreem社ホームページ・https://medium.com/@gabriel_31154/product-management-on-the-dreem-headband-e8e2e107144 こうした中、興味深いベンチャー企業(但し、まだ謎めいた印象であり、その信憑性に関しては全く未知数…)が、Neuro社です。以下が同社の直近のウェブサイト。今年の初めに大幅に刷新した様子です(自社サイトでの販売機能を強化+ブランドイメージの刷新等)。 出典:同社ウェブサイト 同社は【ガムと脳科学】を組み合わせたいわば稀有な存在と言えそうです。言い換えれば、「機能性ガム」の開発製造販売を手掛けるスタートアップ。発端は日系米国人であるケント・ヨシムラ氏と彼の学生時代からの友人であるライアン・チェン氏が二人でロサンゼルスで創業をしたスタートアップです。ただし創業時期は2015年10月ですから2020年9月時点でほぼ5年は経過していますのでそこそこ社歴はあるようすが、投資フェーズ的には公表資料ベースではまだPre-Seed段階(ここまで少額の資金で良くここまで漕ぎ着けることが出来たのが驚きですが、恐らく、未公表ベースでもっと資金は積んでいるものかと推察します): 社名:NeuroGum, Inc. 設立:2015年10月(本社ロサンゼルス市) 事業/製品概要:機能性ガムの開発及び販売<自社Eサイト、食品チェーン店舗等> 特徴:同社のガムには次の素材が含まれる:天然緑茶カフェイン、L-テアニン、B6、およびB12ビタミン。同社の主張によれば、これらの素材が「消費者にエネルギーを与え、精神を落ち着かせ、頭のキレを改善する」効果をもたらすとのこと(※2020年8月末現在、当該主張が科学的な研究結果に基づくとの実証データは確認出来ず)。さらに、完全ヴィーガン、グルテンフリー、アスパルテーム等の人工甘味料不使用、精製糖不使用(Sugar Free) ステージ:Pre-Seed 投資総額:$22K 特記事項:
どちらかといえば、健康食品、機能性食品の範疇ではなく、Red Bullのような、エネルギーブースター的な、「 Nootropic系(カフェイン系/向知性)」のカテゴリーに属するもので、健康志向的というより、スポーツドリンク/エネルギー系ドリンクのセクターに属するイメージ。スポーツドリンク系のここ2年程度の動きといえば、かつての一人勝ち状態にあったGatoradeの牙城を崩しにかかったBodyarmour社の大躍進が記憶に新しいですね。2017年以降、当該「Alternative Drink(もしくはBeyond Waterと括られる)」領域は、代替プロテイン分野とは別に、比較的手堅く市場が伸びていると見られる領域。ある意味、Soylent社やHuel社をはじめとする「完全栄養食ドリンク」のセグメントと重複する部分もありそうです。同社は、今年1月末に不慮の事故でこの世を去ってしまった元NBAのスタープレーヤーのKobe Bryantさんが投資をしていたスタートアップとしても有名です。 こうしたNeuroのような、「脳科学」的な効果効能(に近いと思われるマーケティング手法)をうたうフードスタートアップで科学的な実証性に乏しいと思われるものは多いと思います。代替プロテインのような研究開発途上の先端領域は「走りながら」人間の健康面に及ぼす効果等に関してデータを集め、互いがデファクトを競うような流れがあるものと思いますが、脳神経学分野はまだまだ科学では解明しきれない要素が恐らく非常にまだ大きい印象がありますので、こうしたNeuroのガムのように「消費者の思考+嗜好に埋め込む」新商品が果たしてどこまでB2C市場で受け入れられていくのか、そして市場が伸びていくのか、正直読みづらい所である気がします。その意味で、VC的にはスタートアップ投資を行う上で慎重になりがちな分野ではある気がします。 ここで一つ参考にしたいのが、日本人にはお馴染みの昔ながらの昆布茶。欧米では「コンブチャ<Kombucha>」であり、以下のグラフの通り、北米では一定層のコンブチャ愛好コミュニティは確率しつつ、今後も着実に伸びていくと予想されています。ただ、欧米で販売されるコンブチャについては、実際に米国人関係者と会話をすると、その健康効果がどこまで信憑性があるのかは幾分「アバウトな」部分も未だに少なくはないと思われます。というか、実際に購入する層の声を聞いてみると、一部のストイックなグループは別として、ある程度「健康そうなイメージ」だけで割と市場が伸びているのではないかと思わされる傾向がありますね。 出典: 米Grand View Research, Inc.:https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/kombucha-market
とはいえ、そんなコンブチャ市場も一定の科学的な実証研究は米国でも着実に進んでいるようであり(*)、こうした先例を踏まえてNeuroのガムも今後は彼らが主張をするような効果効能についてある一定の実証データが集まれば、コンブチャのように大衆市場の一部を獲得するくらいまでに果たして伸びるのか、このところ堅実に伸びているNeuroscience領域の動向の一つとして、そして、フードテックの範疇でもふと興味深く見守りたいスタートアップです。 備考(*): 「Kombucha: a systematic review of the empirical evidence of human health benefit」 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1047279718307385 参考: 自然科学研究機構生理学研究所: https://www.nips.ac.jp/sp/release/2008/12/post_13.html 自然科学研究機構・生理学研究所・柿木隆介名誉教授: https://kamukoto.jp/brain/854 写真提供: https://lisaeatsa.pizza/work/lyra-health/ 米Lyra Health社がこの程(米国時間:8月25日付)、$110MのシリーズD資金調達をクロージングしました。公表ベースでの推定時価総額は$1.1BN(≒1,200億円)とされ、いわゆる【UNICORN<ユニコーン>】ステータスの仲間入りを果たしたと見られています。 ざっと同社の概要について要約すると:
足かけ6年間の歳月をかけて想定企業価値$1BNに到達したわけですが、折しもウェルテック(ウェルネス/ウェルビーイング関連の各種新興テクノロジー群)がトランステックと共に米国で伸びており、その中でまず大型案件として注目されている状況です。 注目すべき点は:
特に、1.の通り、今年に入ってから既に大型シリーズCファイナンスを成功裏に調達したわずか半年以内に今度はさらに大金を獲得出来た点については、今回の未曾有のCOVID-19が同社にとって大きな意味をもたらしたものと十分考えられます、またそうした見方が大きいです。今回のCOVID-19の件でより不確実性との共存を強いられたことで、米国人社会ではメンタルヘルスへの対処法に積極的な姿勢が加速化し、それらを察知した雇用主側(事業会社)も積極的に社内的な人材ウェルネスサービスの一環として強化する動きが具現化し始めている証であると見られます。例えば、Uberのようなユニコーンは既に日本国内でも事業を進めており、今般のCOVID-19で彼らのUber Eats部隊を強化していくものと予想されますが、果たして日本のスタッフ向けにこうしたLyra Healthのサービスがどのように活かされていくのが、非常に興味深いです。あるいは、5.の点で、日本国内の医療システムや臨床心理士等の関連市場の仕組みや実態に即したものに国ごとにどのように工夫がなされていくのか、あるいは当面は米国のみサービスが受けられるのか、これからの日本国内市場の進展を担う上ではモニタリングしておきたいところです。 さて、世界のBehavioral Health市場を見ると、米Acumen Research and Consulting社によれば、2026年には$240BNにまで伸びると予想されています。うち、北米の当該ソフトウェア関連については、2022年には概ねUS$2.3BN(≒2,400億円)まで伸びると予想されていますが、現時点での想定では、まだ半分以上は北米市場が世界をけん引する様相ですね。アジアは全体のおよそ10%前後といったところでしょうか? 以下は、2019年第3四半期段階のものですが、Behavioral Health市場に関する主要スタートアップ投資トレンド概況です。多少の凸凹はあるものの、2014年頃を機に徐々に伸びているのがわかります。本稿では当該市場に関する詳細考察は割愛しますが(後日改めて時間を見つけて・・・)、上述のLyra Health社も2015年に創業されたり、瞑想系アプリでユニコーン化しつつあるCalmも2012年に創業されていることを踏まえると、このグラフでは反映されていませんが、今年から2021年以降は、これらの「ユニコーン的な」ウェルネス/ウェルビーイング系スタートアップのシリーズB以降の大型ファンディングが増え始めていくことが予想されますね。 出所:(*)https://online.alvernia.edu/program-resources/behavioral-health-vs-mental-health/ (**)https://www.bizjournals.com/sanfrancisco/news/2020/08/25/mental-health-benefits-lyra-fundraising-unicorn.html 所:WhatifVC社:https://whatif.vc/blog/approaching-1000-mental-health-startups-in%C2%A02020 Wellness/Well-beingテックの中の一部を成すと考えられるこのBehavioral Healthセクターですが、ここだけを見ても以下のような細分化が出来ます(***)。多かれ少なかれ、今後5年から7年の間でこれらの細分化は自然淘汰されていくものと想定されますが、当該分野がまだいわば黎明期の今、こうした幅広い新興サービスのうちどれが我々にとって実用性があるものとして認知されていくのか、興味深いです:
参照ソース:(***)https://whatif.vc/blog/approaching-1000-mental-health-startups-in%C2%A02020 詳細は本稿では割愛しますが、既に米国では、既にGoogleやIntelのようなシリコンバレーのテック企業から(2000年代半ば頃から、ここでは"Zen"は親しまれている)、Goldman Sachsのようなウォール街の大手投資銀行で既に従業員向け福利厚生プログラムに(瞑想アプリのHeadspace等)取り入れ始めているようです(筆者が投資銀行の世界に身を投じていた2000年代はこんな発想は到底なかった・・・💦)。 (尚、上記のさらなる考察(個別事例等)は、別稿にて取り上げたいと思います。) 個別の代表的な新興Behavioral Health関連スタートアップの大型投資事例は以下が挙げられますが、前述の通り、Lyra Healthの他、CalmやDTx(Digital Therapeutics・"デジタル・セラピュティクス")のPearあたりは、ユニコーンステータスを果たす可能性が高いと見られていますね: 出所:米WhatifVC社、Pitchfork、Crunchbaseのデータの他、関連企業の報道資料等より 筆者作成 尚、広義でのデジタルヘルス市場は既にここ数年間にVC投資や大企業による自社内での新規事業としての取り組みからオープンイノベーション等を通じて様々なサービスや技術が登場していますが、当該Behavioral Health市場を含むメンタルヘルス関連に関しては、どちらかと言えばいわゆるウェルネス/ウェルビーイング領域との重複もあってまだまだこれから本格的な認知度が上がっていくと共に、VC投資も日本国内含めて少しづつ拡大していく段階にあると捉えています。ただ、少なくとも北米では既にExit事例が第三者の調査等によれば30事例程あるようです。以下はその代表例ですが、IPOとヘルスケア関連企業を中心とするM&Aがバランス良く成就している様子ですね: 出所:米WhatifVC社、Pitchfork、Crunchbaseのデータの他、関連企業の報道資料等より 筆者作成 そもそも、Behavioral Healthとの概念の定義について確認すると、以下の通りです(*): 原文:"Behavioral health describes the connection between behaviors and the health and well-being of the body, mind and spirit. This would include how behaviors like eating habits, drinking or exercising impact physical or mental health." 和訳:"Behavioral healthとは、我々の動作や行動と、身体と心と精神の健康状態と健全なる状態(≒ウェルビーイング)との相関関係を表す。 これには、例えば、我々の日頃の食習慣や飲酒、運動等の動作、行動が身体的、精神的健康状態にどのように影響するかを含む。" まぁ細かい定義の議論はここでは専門外なので割愛するとして、当該市場は、広義でのデジタルヘルス市場の中の一環を成すものと思いますが、いわゆる「ポスト・コロナ」時代を否応なしに向かえてしまった我々にとって、見えぬ将来像や社会構造等といったものに向かっていく上でストレスと向き合っていくことが強いられそうな中、着実にこれから注目をされていくセクターであると考えられますね。 ポスト・コロナ/With COVID-19というキャッチフレーズが様々な枠組みで言われていますが、スタートアップ投資の世界でも昨今のファンド投資の主たる(というか、これを外してしまえばそもそも投資資金が集まらない?笑)テーマになっており、その中でも、当該領域は従前の仕事の仕方や生活スタイルが変貌することによるストレスと向き合う世の中において、4,5年は続くであろうテーマとして考えられますから、洋の東西を問わず、これから徐々に日本国内においてもこうした領域に新しい発想やテクノロジーが新規サービスに生まれ変わっていく流れが出来上がると考えます。米国での最近の代表事例では、Lyra Healthは、主要株主の一人であるハワード・シュルツ氏のスターバックスコーヒーと提携をし、同社のスタッフに彼らのサービスが組織内で提供されていくこととなったようです。 以下は日本国内の、より広義でのメンタルヘルス・テックのスタートアップ一覧ですが、果たしてこの中から持続性のあるユニコーンは登場するのでしょうか?! 出所: emol株式会社 https://bizhint.jp/report/387063 日本においても、先のDTxをはじめ、日本国内におけるBehavioral Health市場の可能性が各関連業界の有識者で議論が繰り広げられているようであり、今般のコロナの件も加えて2021年以降、当該分野も「ポスト・コロナ」のテーマ性で国内スタートアップ投資でもフォーカスされる領域の一つとして加えられそうです。日本でも従業員と組織との関係性が再考される機運が徐々に芽生え始めていますが、時間はかかりそうかもしれませんが、企業においてもこうしたサービスが果たしてどのような形で導入事例が出始めるか、注目していきたいところです。前述のように欧米ではグーグル等が活用し始めているのと同様に、日本国内でもいわゆる新興上場企業やベンチャー企業がまずは積極的に導入し始めているようですね。これから果たして「経団連」系の大手日本企業の人事・福利厚生サービスの中にどう浸透していくのかが注目です。。。 無論、この分野は国と地域によってサービス内容を順応させていけることが重要でありそうであり(許認可、食慣習や健康管理の慣習の違い、等)、単に欧米のプログラムを日本国内でそのまま活かすのは難しでしょうから、今欧米で台頭し始めているサービスをいかに日本側で応用させられるか、あるいは国内でこれから当該領域に本格的に取り組むスタートアップが今後どれくらい生まれて彼らへの支援がまわるのか、今後試行錯誤していく時期にありそうです。特に、Behavioral Healthという言葉の通り、人の「行動様式」に基づく研究開発を通じて新しいサービスを創造することで、我々の心身の健全な状態の獲得を手助けしようとする 事業サービスを指しますので、すると恐らくAIやマシーンラーニングといったテクノロジーを駆使するものと思われますから、それらのデータインプットとして、日本での実用性の高いデータが最適化されていることが重要となってきますね。 以下は、興味深いデータとしてご参考までに、日本国内において公表済みのデータの一部ですが、これによれば、日本ではまだ会社勤務でのストレスや心療面での相談等は「上司又は従業員」を通じた相談ルートということですが、これ、最も相談がしにくい相手ではないかと。笑 出典: エン・ジャパン株式会社:https://corp.en-japan.com/newsrelease/2018/12378.html 一方、会社側ではなく、従業員に対して行われた調査によれば、いわゆるメンタルウェルネス領域への取り組みについて、個々が必要であるとの認知が広がる一方、企業側ではやはりまだ未知なる領域ということもあり、自社もにでの対応には限界があるとの認識が明白です(本調査は2018年10月30日リリース): 自社に必要だと思う安全配慮義務に関する取り組み 自社で対応が難しいと思う安全配慮義務に関する取り組み 出典: いずれも株式会社あしたのチーム:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000130.000025661.html 尚、当該領域は高い専門性が要求されそうな分野でもあり、日本国内ではITやテック出身者のみならず、関連性の高い医療分野の従事者による参画もサービスの質と効果を向上させて普及化する上で大切になりそうです。いずれにせよ、実用性を鑑みても、そしてすでに我々が生活するポスト・コロナ社会を少しでも健全かつ朗らかに生きていくためにも、とても興味深いセクターであり、かつ、我々個々人にとっても有意義な取り組み領域であることは間違いなさそうです。 最後に、もう一つ興味深いグラフを共有しておきたいと思います。以下は、米CBInsights社による最新データであり、広義のメンタルヘルス市場への主要VC投資の推移を表したものです: 出所: https://www.cbinsights.com/research/mental-health-funding-q1-2020/
2020年1四半期に一気に投資額が増えているのがくっきりわかりますね。Post-Covid19の矛先として当該領域に早速動きが出始めていることが一目瞭然です。 8月18日に、米AgFunder社より、2020年上半期の世界の主要市場におけるフードテック並びにアグリテック分野の投資額概況レポートが速報値ベースで公表されましたね。以下、同社のレポートからの抜粋です。 出所: 米AgFunder社:https://agfundernews.com/dealmaking-during-covid-19-upstream-and-egrocery-win-in-agfunders-2020-mid-year-investment-review.html「AgFunder AgriFoodTech H1' 2020 Mid-Year Investment Review 」より筆者が作成 主な考察としては以下が挙げられます:
これは正にCOVID-19後の市場を反映するものですが、全体として上半期は速報値(同社によれば、今後確定値で多少の上乗せの可能性あり)では、前年同期比で20%近く減少しています(上半期のデータが見当たらない為、便宜上2019年度全体額の半掛け)。特に、レストラン現場に係る領域が主流となる下流領域が最も顕著に減少していることが良くわかります(前年同期比約32%減)。同様に、件数ベースでも全体として前年同期比約14%減に対して、特に下流領域が同20%減ということで、外食控えが続くと予想される中、一旦踊り場を迎えつつあります。 1.について顕著に伸びているのが、フードデリバリー系が多くを占めるeGroceryセクターです。一方、2.について全体で投資額2位のMidstream Technologiesに関しては、いわゆるフードロス(Food Loss)や食品残渣(Food Waste)といった問題に取り組む様々な技術開発をカバーする領域で、このあたりは引き続きPost-Covid19でも継続的な資金流入が予想されます。この領域は、食品残渣や食品ロスを活かした新たな食材開発やマーケットプレイスなどのような、既にここ2,3年活発に動きのある領域のみならず、食品保存やロジスティクス面での品質管理に的を絞った技術開発に今後新しい技術開発が進んで行く時期に差し掛かっていると考えます。例えば、食品保存の素材としての機能性を持つ酵素を活かした技術開発は既に水面下で繰り広げられており、それらから具体的な製品・サービスの試作等が年後半~2021年以降徐々に台頭してきそうです。このあたりは日本国内にも有数な技術を保有するスタートアップや中堅企業が存在しておりますので、この領域で「日本発」の可能性が十分ありそうです。これは、4.の点にも共通していることでもあります。この領域は日本からも有能な技術が水面下で隠れており、2021年には少なくともそのうちの1社くらいは欧米市場で認知度が上がることを期待したいです。 さらに、金額ベースで3位のInnovative Foodはいわゆる代替蛋白質の研究開発を含むセクターですが、Impossible Foodsが最大規模の$500Mの投資を集めており、続いてMemphis Meatsの$161M、Nature's Fynd (旧社名Sustainable Bioproducts LLC - ビルゲイツ、アマゾンのジェフベゾズ、元ニューヨーク市長のマイケルブルンバーグ、ヴァージングループのリチャードブランソン等が出資)が$80Mと続いています。あと1,2年はこの領域は粛々と投資が継続されていくと予想されますが、2021年は代替豚肉(Alternative Pork)の試作品から消費者向け商品が生まれそうですね。New Age Meats社は先日大型投資をクロージングを果たしており、これから本格的な商品開発から生産に漕ぎ着ける時期に差しかかかっています。 出所: 米AgFunder社:https://agfundernews.com/dealmaking-during-covid-19-upstream-and-egrocery-win-in-agfunders-2020-mid-year-investment-review.html「AgFunder AgriFoodTech H1' 2020 Mid-Year Investment Review 」 また、今回注目すべきは、Innovative Foodの部門においては、日本からインテグリカルチャー社($7M)とDAIZ社($6M)が16位、17位タイにランクインされていますね。金額規模はケタが違いすぎますが、それは、開発フェーズによるものですから、これから2,3年かけて彼らの進捗が注目されます。 尚、投資全体の年度別推移ですが、以下のグラフの通り、昨年と一昨年の水準にはやや今年は及ばない可能性が高いですが、これから残された4か月間、果たしてこのCOVID-19がフードテック~アグリテック分野への投資がプラスとなるのか、マイナスとなるのか、様子を見たいところです。 出所: 米AgFunder社:https://agfundernews.com/dealmaking-during-covid-19-upstream-and-egrocery-win-in-agfunders-2020-mid-year-investment-review.html「AgFunder AgriFoodTech H1' 2020 Mid-Year Investment Review 」
少なくとも、米国側では、ポスト・コロナで投資が一辺倒に冷え込む気配はなさそうです。フードテックの上半期時点での概況を鑑みれば、選別色は一時的には強まりそうですが、いわゆる「Post-Covid19」のテーマ性と我々地球人にとって生きていくために必要不可欠な「食の安全性」を担保するサービスやアイディア、技術には惜しみなくベンチャー資金が流れ込んでいくと思われます。 尚、国別によるフードテック/アグリテック・スタートアップの投資額において、日本が全くランキング外である点は今年も続いているということです。米国($4.9B、293件)を除く順位では、中国($1.2B、24件)、インド($619MM、76件)、イギリス($373M、64件)、韓国($178M、3件)、インドネシア($174M、14件)、シンガポール($157M、22件)と続いており、未だ日本のスタートアップは内弁慶なんだなぁと、つくづく思わされます。 詳しくは、別途改めて考察を投稿する予定です。 写真提供: Scott Halleran/Getty Images, https://boston.cbslocal.com/wp-content/uploads/sites/3859903/2016/05/wade-boggs1.jpg 「ベンチャーキャピタル投資」とは、“創業間もない会社で、かつ、短期的な時間軸である程度の限られた時間軸で成長カーブを描く可能性が描けやすいベンチャー(これを、ベンチャーの中でも区別する意で暗黙の了解で"スタートアップ"という表現をする気がします)へ直接投資をして概ね5年から7年前後以内に現金化をする取引”で概ね正しいかと思います。筆者も以前は日本とシリコンバレーとでベンチャー投資に従事をしておりましたが、このような認識です。現在はスタートアップ側の立ち位置となっていますが。 そんなベンチャーキャピタル投資の世界は、主に米国シリコンバレーで20世紀後半に一定のモデルが最初に出来上がりましたが、そのモデルとは、主に起業経験(成功したかしてないかが重要ではなく)を積んだ者がその経験を活かして次なるスタートアップに投資を行うべく、少人数でファンドを立ち上げて自分達の目利きの効きやすい領域に絞って①「少数の投資先」に投資を実行×「一発の満塁ホームラン」でファンド全体のパフォーマンスを上げる、という構図がシリコンバレー等では主流とされてきています。 一方、日本のベンチャーキャピタル投資の世界では、どちらかと言えば、地頭は賢いが起業経験は皆無にほぼ等しいコンサルティング出身者や金融業界出身者がファンドを立ち上げて目利き力に限界がある分、②「多数の投資先」に投資を実行×「数本の二塁打」でファンド全体のパフォーマンスを上げる、という構図が主流ですね。もっと細部まで語り始めるとそれだけで一つの投稿が成り立つくらいですので、本稿では割愛しますが。要は、プロセスの中身も①の集団とは大きく異なるということです。 さて、しかしながら、実は、上記①の「シリコンバレー・モデル」を成功裏に果たせているファンドは、本家のシリコンバレーにおいてもごく一部の勝組=Tier 1及びそこから独立派生をしたTier 1.5~2くらいしかないと、米シリコンバレーのVC関係者も考えているようです。米CB Insights社によれば、全世界の主要VC約2,000社中、72%がユニコーン企業へ1社投資出来たか出来ていないかであるのに対して、ごく一部のファンド群のみが各々10社や20社ものユニコーン企業への投資を、いわゆる「後追い」的に既に成功確度が高まった段階で投資に参加するのではなく、右も左もまだわからないアーリー段階から投資を実行しています。以下は、2019年5月時点での欧米ベンチャーキャピタルファンドのアーリー段階(~シリーズA)迄にユニコーン企業へ投資を手掛けられた件数の上位リストですが、大体上位を占めるの著名なVCばかりであることがわかります: 出所:「Unicorn Hunters: These Investors Have Backed The Most Billion-Dollar Companies」https://www.cbinsights.com/research/best-venture-capital-unicorn-spotters-2/ また、ユニコーン企業へ「アーリー段階から投資を遂行した」投資ファンド上位リストを見ると、老舗VCのSequoiaやAccelやアクセレレータで今やトップと見なされるYCをはじめ、いつも聞き慣れる「超Tier 1」ばかりです。 出所:「Which Venture Capital Firms are Best at Spotting Unicorns Early?」https://www.cbinsights.com/research/billion-dollar-startup-venture-capital/ つまり、どれほど起業や社内ベンチャー、新規事業開発等の関連性のありそうな実績や投資センス、人的ネットワークを通じた情報網を以てしてもそう簡単に「経験」と「感」でユニコーン企業≒満塁ホームランを当てることは至難の業であるということが、客観的なデータや実際に米国VC関係者と話していても明らかになりつつあります。 そうした中、今尚米国でも新規VCファンドが続々と立ち上がり続けています(但し、3月以降はCOVID-19の影響をもろに受けており、よほど名の知れ渡るファンドやGPを除いてセカンド・クローズが中々出来ない状態)。こうした「第1号ファンド」を創設し、運営責任を任されるいわゆるGPとなるキャピタリストの取るスタンスは、より前述の②「日本的」な「多数に投資をし、あまり1社に大量の資金を投入せず、複数の好打を出来る限り着実に確保する」概念にほほ類似する投資アプローチを掲げるものが徐々に浸透してきている模様です。もちろん、各VCファンドの投資領域によってそれぞれの業種特有のリスクの大きさや時間軸の長短があったり、投資候補先スタートアップへのアクセス権限というか、情報の非対称性からくるソーシングパワーの有無や大小といった定性的な要素もあったりしますから、一概には言えませんが、バイオやモビリティ等といった一部の業種を除けば、概ねこうした投資スタンスが増えてき始めて来ている可能性の高い点は何気に興味深いものがあります。 そこで実際に、ここ1年以内に米国シリコンバレーで第1号ファンドが成功裏に立ち上がった米国VCのGPと話す中で出てきたのが、今回触れる「決定分析~Decision Analysis」を用いた投資先スタートアップの選択プロセスです。 この決定分析/Decision Analysisの概念については、二項分布やReal Optionにも通じるような印象で、既にその原型は1950年代に生まれたゲームの理論と言われており、主に不確実性の高い要素と対峙することの多い業界(例:製薬、石油・ガス、金融工学、等)を中心に実用されてきています。昨今では、AIやマシーンラーニング、データマイニングなどの分野で、予測モデル構築、意思決定分析・最適化、分類問題の解決等で幅広く活用されているようです(**)。 このように、元々はベンチャー投資とは違う分野のツールとして専門家や実務家の間で活用されてきたDecision Analysisですが、ベンチャー投資界隈でもこの概念を投資判断に活かす発想が2010年代に取り上げられ始めました。2012年頃に米シリコンバレーの中堅VCの一つであるULU VenturesのClint Korver氏の提唱が一つのきっかけとなり、それが次第に浸透し始めていきました。尚、ここで簡単にご紹介をする事例はKorver氏によるこちらの記事を引用させて頂いていますので、詳しくはそちらもご確認下さい。 さて、基本的な意思決定プロセスは以下のような流れで概ね正しいかと思います:
次に、上記の1~6の各フェーズについてざっと触れてみます。尚、このケースでは、それぞれの評価段階における指標として、以下の4つを掲げていますが、ここは如何様にも変更してしっくりくるものを使用して良いかと思います: A.「市場性<Market>」 B.「製品(もしくはサービス)<Product>」 C.「創業メンバー/チーム<Team>」 D.「財務関係<Financial>」 の4つの評価対象項目を設けています。これらのA~D一つ一つに関して、それぞれ思考錯誤しながらさまざまな可能性について想定シナリオを描きながら議論をします。その結果、このケースでは80%、80%、95%、95%という数字に至ります。それを加重平均すると、このケースでは、まず<初期段階を乗り切れる可能性>が58%と算定されました。つまり、同時に「初期段階すら乗り切れないであろう可能性」が42%となる判断ということですね。 次に、同じロジックで、「初期段階を無事乗り切ったうえに、さらにスタートアップの大半がズッコケる”キャズム”という深溝をうまく乗り切れる可能性(VCやシリコンバレー界隈に関わる面々は良くご存じの、Jeffery Moore氏の伝説的な著書「Crossing The Chasm」のアノChasm)」について、それぞれの要素に関して議論し、その結果、<"キャズム"を飛び越えて乗り切る可能性>は24%となりました。それは同時に、「多くの優秀なスタートアップ同様にここも残念ながらキャズムを飛び越えられずに消えてしまうであろう可能性」は76%という予測になります。 同様に、キャズムを無事乗り切り、いよいよターゲットとする市場全体で目標を達成出来る可能性に関しても同じステップを経る結果、<対象市場全体で成功をおさめる可能性>は37%、市場はとれるものの所詮ニッチに終わってしまう可能性は63%、という結果が導出されます。 以上の3段階のプロセスを経た結果、ひとまずは次の分布<✯>が完成します: 以上の3段階のプロセスを経たのち、さらに細かく事業モデルや売上高、市場シェア、粗利率、利益、マルチプル、希薄化等、投資に係る思い当たる限りの不確定分子について抽出をし、各々について議論をしたのち(いわゆる、一般的な投資デューデリジェンスで行われるプロセス)、各々の分子に係る<Low~Base~High>の感度分析を行うと、以下の結果が一つの例えとして導き出されます: これらを加味して、再び先のDecision Analysis<✯>に戻り、その完成形である次のシナリオ分析が導出されます。ここには上述のプロセスを経て導出された売上予測や投資Exit時点での想定企業価値、そして投資マルチプルが加えられてます。それらを最後に加重平均化ものを足し合わせて、加重平均化された投資マルチプルの合計が算出される、という一連の投資検討デューデリジェンス・プロセスの流れを経ることになるわけですね: 出典:「Applying Decision Analysis to Venture Investing」 URL:https://www.kauffmanfellows.org/journal_posts/applying-decision-analysis-to-venture-investing ULU Ventures・Clint Korver氏講演:https://www.youtube.com/watch?v=Wi3PiZsIfBU&feature=youtu.be さて、この投資候補企業の場合は、Clint Korver氏によれば、「定量的な結果はファンド内の投資可否の判断基準となるPWMOI値の×10倍はやや下回る数値結果(×9倍)だが、あくまで投資判断を下す上での客観的な定量分析の結果であり、投資を決める要素のもう片方である定性的な判断を包括的に鑑みた結果、この会社に投資を決めた」そうです。 私見: 少なくとも言えることは、こうした段取りで投資デューデリジェンスを経ることで、投資判断に至るまでのある程度のしっかりとした定量的+定性的なロジックを残すことで、その後の結果(投資成果)に対してのちに客観的な検証がしやすくなる点は非常に良いのではないかと言えそうですね。 話を最初に戻すと、一部のTop Tierのファンド以外に爆発的なヒットを生むことが難しいという現実において、経験則に依存しすぎた直観的な判断や、まるで間接金融のように資金繰りや財務予測で決めるような「VC投資とは思えないような」投資の決め方でやみくもに投資先を決めるのではなく、こうした定量的+定性的な手法をも取り入れながら、投資件数をある程度多く増やしつつ、全体のヒット率を向上させる努力を図る、というスタートアップ投資スタイルは、特にまだ実績の少ない初期ファンドにおいては有効な策と言えそうです。 ところで、世の中のVCファンドでこうしたプロセスをデューデリジェンスで取り入れるファンドは果たしてどれくらい存在するか、非常に興味深いですが、先述の通り、既に米国で最近立ち上がったアーリーステージのベンチャーファンドにおいてはこのアプローチが少なくとも一部では取り入れられています。日系VCでは今も尚、投資検討を1カ月以上続けたのち、「今後6ヵ月の資金繰り状態の予測値を鑑みて投資可否を決める」という「ベンチャー投資」なるファンドとして実に不可思議な理由で投資を決めるファンドが一部存在するようですが、出来れば、こうしたDecision Analysis/決定分析のような手法をはじめとする各種手法を取り入れて、スタートアップや起業家にとっても納得のいく投資決断とその判断理由を下してもらいたいものです。 備考: https://www.amadeuscapital.com/entrepreneurs-make-the-best-tech-vcs-or-do-they/・https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20140206/535168/・(**)https://www.itmedia.co.jp/im/articles/0504/26/news115.html
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