(2016年11月9日):米TechCrunchに11月5日付で掲載された記事に目が留まりました。表題は「Welcome to the hardtech era」(元記事: https://techcrunch.com/2016/11/05/welcome-to-the-hardtech-era/ )、すなわち、日本語で解釈すれば、「ハードウェア・テック(投資)の時代へようこそ」ということでしょうか。ここ2年間の米サンフランシスコ/シリコンバレーのトレンド(2009年‐2010年のGoogle Glassが発表された頃からのウェアラブル、ガジェット系、ロボティクス、IoTの発展)を考えれば、次第にトレンドの主流がハード化しているのがこちらでも肌で感じ取ることが出来るものの、必ずしもハード投資一辺倒の時代へと突き進むとは考えにくいです。なぜなら、いわゆる The Next BIG Thing はこうした限られた分野がけん引するものと考えられますが、人々の日常生活の中でちょっとした変化のトレンドにも着目すれば、引き続きリテール系の進化も想定されますし、高齢化社会問題を日本と同様に抱える米国では、介護関連(Care)の分野も既にデジタルヘルスの普及と連動するような形で動きが出始めており(Aging 2.0が代表的な動き)、これから3年‐5年に今までにない大きなトレンドにまで発展する可能性を秘めていると思われます(そういえば、2012年頃から急速にバズ化した「教育系ベンチャー」というバズがひとまずは一段落をしている様子)。
また、「~ようこそ」ではなく、「再び」という表現が妥当でしょうね。
日本でも2010年代に入り、”ベンチャー投資が勃興”しているかのような論調を良く小耳に挟みますが、一応本家本元である米国におけるスタートアップ向けベンチャー投資は、概ね以下のような歴史を辿ります:
- 1950年代: 1958年、米Small Business Investment Act(SBIC)法制定によって、全米各地の中小事業者への投資支援の法的環境が確立されていく。
- 1960年代: 半導体関連企業を中心に初期的なVC投資(ハード)が勃興し始める(Fairchild Semiconductor・1959年)。また、現在のVC投資の原型となるモデル(管理報酬1-2.5(‐3%)/成功報酬(キャリー・インタレスト)20%、等)がほぼこの時期に確率される。
- 1970年代: 主に初期のVC投資の原型を形作った半導体業界出身者を中心に半導体分野への投資が活発化。この時期、VCに限らず、次第にLeveraged Buyoutに代表されるプライベートエクイティファンドが確率されていく。全米VC協会(NVCA)が1970年代後半に設立し、より体系化されていく。また全米年金基金等によるリスク資産への投資を一定の条件の下で容認する法も制定され、この時期VCのファンドレイズの勃興期を迎える。
- 1980年代: デジタルエクイップメント、アップルをはじめとするコンピューター企業(この当時はアップルはコンピュータメーカー・・・)向けの投資が勃興し始める。また、ジェネンテック等のバイオ分野への投資が到来(高額、高リスク投資の勃興⇒VC以外にLBO等のプライベート投資が活況~加熱~1987年崩壊~1990年日本のバブル崩壊・・・)
- 1990年代半ば~2001年: ドットコム・ブーム(1995年Windows 95登場とインターネット時代)~崩壊
- 2000年代半ば~: ソーシャル系(メディア、ゲーム、ネットワーク、リテール)
- 2010年代半ば: ハードシフト(IoT、ウェアラブル、他)
また、1980年代までは、必要とされる最低投資金額も大きく、投資回収期間も長かった時代が、1990年代のドットコムブームを境に変遷し、2000年代後半からは、現在のインキュベータやアクセレレーターの原型ともいえる"スーパーエンジェル”あたりが台頭し始め、次第に数十万ドル単位の投資金額も珍しくない時代へと変遷して現在に至っています。2016年に入ってからもこうしたファンドは、それぞれテーマを掲げてファンドレイズをされている模様ですが(詳細はここでは割愛)、これらがいきなりトレンドを追う使命でハード分野ばかりに投資をすることは不可能であり(テーマが違うものに投資は基本的にできないであろうから)、従って、ハードテック一辺倒という、1980年代のようなシフトは起きないのではないでしょうか。The Next Big Thingを追い求める米国シリコンバレーも、その歴史が始まって半世紀を超えた今、これからは、一定周期での投資サイクルが続いていくのかもしれません。ただ、言えることは、ハードは日本人が得意とする分野であること。少なくとも、いろいろと可能性が広がる時期を迎えているのかもしれません。
次回は、もう少し踏み込んで「分析」をしてみたいと思います。
‐ 米国