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✯簡易考察【ウェルネス・テック編】:米Lyra Health社の“ユニコーン”到達と日本のBehavioral Health市場の行方

8/28/2020

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写真提供: https://lisaeatsa.pizza/work/lyra-health/ 

 米Lyra Health社がこの程(米国時間:8月25日付)、$110MのシリーズD資金調達をクロージングしました。公表ベースでの推定時価総額は$1.1BN(≒1,200億円)とされ、いわゆる【UNICORN<ユニコーン>】ステータスの仲間入りを果たしたと見られています。

 ざっと同社の概要について要約すると:

  • 創業:2015年1月
  • 本社:米サンフランシスコ近郊(Burlingame市)
  • 事業概要:認知行動療法等を取り入れた個人向け(パーソナライズ)の、ビデオベースによる各種オンライン遠隔治療、運動療法等のデジタルヘルス・サービスの開発と提供。主にB2Bで対象となる個人の雇用主たる企業と契約してビジネスを展開中(2020年8月現在)。
  • 累計調達金額:$288M<シリーズDフェーズ/5ラウンド終了/>
  • 主要投資家:Greylock Partners、IVP、ハワード・シュルツ氏(※スターバックスコーヒー創業者)、他合計16名
  • 人員規模:250人前後

 足かけ6年間の歳月をかけて想定企業価値$1BNに到達したわけですが、折しもウェルテック(ウェルネス/ウェルビーイング関連の各種新興テクノロジー群)がトランステックと共に米国で伸びており、その中でまず大型案件として注目されている状況です。

 注目すべき点は:

  1. たった5か月前にシリーズC($75M)を調達したばかり… (…つまり半年+で$200M近くを調達)
  2. 累計で既に80万口座を獲得済み<企業口座50社~、つまり、これらの従業員向け個人口座が今年中に100万口座到達を見据える勢い>  
  3. 主要顧客層に著名大手企業<Uber/eBay/バイオ大手のGenentechや Amgen>が並ぶ  
  4. 推定売上規模(2020年):$100M(**)当該プラットフォームに約3,000以上の外部専門家(セラピスト、メンタルヘルスコーチ、薬剤師等)を擁する

 特に、1.の通り、今年に入ってから既に大型シリーズCファイナンスを成功裏に調達したわずか半年以内に今度はさらに大金を獲得出来た点については、今回の未曾有のCOVID-19が同社にとって大きな意味をもたらしたものと十分考えられます、またそうした見方が大きいです。今回のCOVID-19の件でより不確実性との共存を強いられたことで、米国人社会ではメンタルヘルスへの対処法に積極的な姿勢が加速化し、それらを察知した雇用主側(事業会社)も積極的に社内的な人材ウェルネスサービスの一環として強化する動きが具現化し始めている証であると見られます。例えば、Uberのようなユニコーンは既に日本国内でも事業を進めており、今般のCOVID-19で彼らのUber Eats部隊を強化していくものと予想されますが、果たして日本のスタッフ向けにこうしたLyra Healthのサービスがどのように活かされていくのが、非常に興味深いです。あるいは、5.の点で、日本国内の医療システムや臨床心理士等の関連市場の仕組みや実態に即したものに国ごとにどのように工夫がなされていくのか、あるいは当面は米国のみサービスが受けられるのか、これからの日本国内市場の進展を担う上ではモニタリングしておきたいところです。

 さて、世界のBehavioral Health市場を見ると、米Acumen Research and Consulting社によれば、2026年には$240BNにまで伸びると予想されています。うち、北米の当該ソフトウェア関連については、2022年には概ねUS$2.3BN(≒2,400億円)まで伸びると予想されていますが、現時点での想定では、まだ半分以上は北米市場が世界をけん引する様相ですね。アジアは全体のおよそ10%前後といったところでしょうか?

 以下は、2019年第3四半期段階のものですが、Behavioral Health市場に関する主要スタートアップ投資トレンド概況です。多少の凸凹はあるものの、2014年頃を機に徐々に伸びているのがわかります。本稿では当該市場に関する詳細考察は割愛しますが(後日改めて時間を見つけて・・・)、上述のLyra Health社も2015年に創業されたり、瞑想系アプリでユニコーン化しつつあるCalmも2012年に創業されていることを踏まえると、このグラフでは反映されていませんが、今年から2021年以降は、これらの「ユニコーン的な」ウェルネス/ウェルビーイング系スタートアップのシリーズB以降の大型ファンディングが増え始めていくことが予想されますね。 

出所:(*)https://online.alvernia.edu/program-resources/behavioral-health-vs-mental-health/ 
(**)
https://www.bizjournals.com/sanfrancisco/news/2020/08/25/mental-health-benefits-lyra-fundraising-unicorn.html 
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所:WhatifVC社:https://whatif.vc/blog/approaching-1000-mental-health-startups-in%C2%A02020

 Wellness/Well-beingテックの中の一部を成すと考えられるこのBehavioral Healthセクターですが、ここだけを見ても以下のような細分化が出来ます(***)。多かれ少なかれ、今後5年から7年の間でこれらの細分化は自然淘汰されていくものと想定されますが、当該分野がまだいわば黎明期の今、こうした幅広い新興サービスのうちどれが我々にとって実用性があるものとして認知されていくのか、興味深いです:

  1. メンタルウェルネス・アプリ :  睡眠、瞑想、呼吸のためのアプリ、教育用ツール、そして精神的健康を改善するためのゲームアプリ等。
  2. 企業向けB2Bツール :  各種関連プロバイダー検索エンジン、ツール、企業内バックオフィス向けリソースツール、EAP等、各種B2B /企業内従業員向けメンタルヘルスプログラム等。
  3. 検査/測定系 : 各種モニタリング、行動様式のトラッキング、心理状態の計測や診断、”Mood Journaling”、スクリーニング、リモートでのモニタリング等。
  4. テレヘルス(≒遠隔治療) : いわゆる遠隔治療(オンラインを通じた臨床心理士等外部専門家とのコミュニケーション、診断プログラム等)。
  5. デジタルセラピュティクス(DTx) : 各種端末アプリや最新デバイス等の最新デジタルデバイスを媒体として用いた各種治療サービスプラットフォーム(例:生活習慣病、心療内科系の治療)
  6. P2P系 : 実際の人と人との繋がりを共存、協力支援を試みるサービス体系。
  7. その他非テクノロジー系:  店舗運営のクリニックや薬物処方サービス、その他、テクノロジー依存度の低い関連サービス。

参照ソース:(***)https://whatif.vc/blog/approaching-1000-mental-health-startups-in%C2%A02020 

 詳細は本稿では割愛しますが、既に米国では、既にGoogleやIntelのようなシリコンバレーのテック企業から(2000年代半ば頃から、ここでは"Zen"は親しまれている)、Goldman Sachsのようなウォール街の大手投資銀行で既に従業員向け福利厚生プログラムに(瞑想アプリのHeadspace等)取り入れ始めているようです(筆者が投資銀行の世界に身を投じていた2000年代はこんな発想は到底なかった・・・💦)。

(尚、上記のさらなる考察(個別事例等)は、別稿にて取り上げたいと思います。)
 
 個別の代表的な新興Behavioral Health関連スタートアップの大型投資事例は以下が挙げられますが、前述の通り、Lyra Healthの他、CalmやDTx(Digital Therapeutics・"デジタル・セラピュティクス")のPearあたりは、ユニコーンステータスを果たす可能性が高いと見られていますね:

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出所:米WhatifVC社、Pitchfork、Crunchbaseのデータの他、関連企業の報道資料等より 筆者作成

  尚、広義でのデジタルヘルス市場は既にここ数年間にVC投資や大企業による自社内での新規事業としての取り組みからオープンイノベーション等を通じて様々なサービスや技術が登場していますが、当該Behavioral Health市場を含むメンタルヘルス関連に関しては、どちらかと言えばいわゆるウェルネス/ウェルビーイング領域との重複もあってまだまだこれから本格的な認知度が上がっていくと共に、VC投資も日本国内含めて少しづつ拡大していく段階にあると捉えています。ただ、少なくとも北米では既にExit事例が第三者の調査等によれば30事例程あるようです。以下はその代表例ですが、IPOとヘルスケア関連企業を中心とするM&Aがバランス良く成就している様子ですね:
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出所:米WhatifVC社、Pitchfork、Crunchbaseのデータの他、関連企業の報道資料等より 筆者作成

 そもそも、Behavioral Healthとの概念の定義について確認すると、以下の通りです(*):

原文:"Behavioral health describes the connection between behaviors and the health and well-being of the body, mind and spirit. This would include how behaviors like eating habits, drinking or exercising impact physical or mental health." 

和訳:"Behavioral healthとは、我々の動作や行動と、身体と心と精神の健康状態と健全なる状態(≒ウェルビーイング)との相関関係を表す。 これには、例えば、我々の日頃の食習慣や飲酒、運動等の動作、行動が身体的、精神的健康状態にどのように影響するかを含む。"


 まぁ細かい定義の議論はここでは専門外なので割愛するとして、当該市場は、広義でのデジタルヘルス市場の中の一環を成すものと思いますが、いわゆる「ポスト・コロナ」時代を否応なしに向かえてしまった我々にとって、見えぬ将来像や社会構造等といったものに向かっていく上でストレスと向き合っていくことが強いられそうな中、着実にこれから注目をされていくセクターであると考えられますね。

 ポスト・コロナ/With COVID-19というキャッチフレーズが様々な枠組みで言われていますが、スタートアップ投資の世界でも昨今のファンド投資の主たる(というか、これを外してしまえばそもそも投資資金が集まらない?笑)テーマになっており、その中でも、当該領域は従前の仕事の仕方や生活スタイルが変貌することによるストレスと向き合う世の中において、4,5年は続くであろうテーマとして考えられますから、洋の東西を問わず、これから徐々に日本国内においてもこうした領域に新しい発想やテクノロジーが新規サービスに生まれ変わっていく流れが出来上がると考えます。米国での最近の代表事例では、Lyra Healthは、主要株主の一人であるハワード・シュルツ氏のスターバックスコーヒーと提携をし、同社のスタッフに彼らのサービスが組織内で提供されていくこととなったようです。

 以下は日本国内の、より広義でのメンタルヘルス・テックのスタートアップ一覧ですが、果たしてこの中から持続性のあるユニコーンは登場するのでしょうか?!
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出所: emol株式会社 https://bizhint.jp/report/387063

 日本においても、先のDTxをはじめ、日本国内におけるBehavioral Health市場の可能性が各関連業界の有識者で議論が繰り広げられているようであり、今般のコロナの件も加えて2021年以降、当該分野も「ポスト・コロナ」のテーマ性で国内スタートアップ投資でもフォーカスされる領域の一つとして加えられそうです。日本でも従業員と組織との関係性が再考される機運が徐々に芽生え始めていますが、時間はかかりそうかもしれませんが、企業においてもこうしたサービスが果たしてどのような形で導入事例が出始めるか、注目していきたいところです。前述のように欧米ではグーグル等が活用し始めているのと同様に、日本国内でもいわゆる新興上場企業やベンチャー企業がまずは積極的に導入し始めているようですね。これから果たして「経団連」系の大手日本企業の人事・福利厚生サービスの中にどう浸透していくのかが注目です。。。

 無論、この分野は国と地域によってサービス内容を順応させていけることが重要でありそうであり(許認可、食慣習や健康管理の慣習の違い、等)、単に欧米のプログラムを日本国内でそのまま活かすのは難しでしょうから、今欧米で台頭し始めているサービスをいかに日本側で応用させられるか、あるいは国内でこれから当該領域に本格的に取り組むスタートアップが今後どれくらい生まれて彼らへの支援がまわるのか、今後試行錯誤していく時期にありそうです。特に、Behavioral Healthという言葉の通り、人の「行動様式」に基づく研究開発を通じて新しいサービスを創造することで、我々の心身の健全な状態の獲得を手助けしようとする
事業サービスを指しますので、すると恐らくAIやマシーンラーニングといったテクノロジーを駆使するものと思われますから、それらのデータインプットとして、日本での実用性の高いデータが最適化されていることが重要となってきますね。

 以下は、興味深いデータとしてご参考までに、日本国内において公表済みのデータの一部ですが、これによれば、日本ではまだ会社勤務でのストレスや心療面での相談等は「上司又は従業員」を通じた相談ルートということですが、これ、最も相談がしにくい相手ではないかと。笑 

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出典: エン・ジャパン株式会社:https://corp.en-japan.com/newsrelease/2018/12378.html

 一方、会社側ではなく、従業員に対して行われた調査によれば、いわゆるメンタルウェルネス領域への取り組みについて、個々が必要であるとの認知が広がる一方、企業側ではやはりまだ未知なる領域ということもあり、自社もにでの対応には限界があるとの認識が明白です(本調査は2018年10月30日リリース):

自社に必要だと思う安全配慮義務に関する取り組み
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自社で対応が難しいと思う安全配慮義務に関する取り組み
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出典: いずれも株式会社あしたのチーム:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000130.000025661.html 

 尚、当該領域は高い専門性が要求されそうな分野でもあり、日本国内ではITやテック出身者のみならず、関連性の高い医療分野の従事者による参画もサービスの質と効果を向上させて普及化する上で大切になりそうです。いずれにせよ、実用性を鑑みても、そしてすでに我々が生活するポスト・コロナ社会を少しでも健全かつ朗らかに生きていくためにも、とても興味深いセクターであり、かつ、我々個々人にとっても有意義な取り組み領域であることは間違いなさそうです。

 最後に、もう一つ興味深いグラフを共有しておきたいと思います。以下は、米CBInsights社による最新データであり、広義のメンタルヘルス市場への主要VC投資の推移を表したものです:
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出所: https://www.cbinsights.com/research/mental-health-funding-q1-2020/ 

 2020年1四半期に一気に投資額が増えているのがくっきりわかりますね。Post-Covid19の矛先として当該領域に早速動きが出始めていることが一目瞭然です。
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