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【※米国シリコンバレーから~現地レポート】勃興する食+“農”と地球持続性テーマへの投資トレンド~NOSH<“Natural-Organic-Sustainable-Healthy”>市場

9/2/2018

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(写真:今年2018年5月米サンフランシスコにて開催された大型フード+テック系カンファレンスでの光景。筆者撮影)
<約200日ぶりのブログ更新となります・・・>

₋ 米Wildcard Incubatorは約一昨年前から、フード・サステイナビリティ分野、AgTech(農業IT)、バイオサイエンス分野、FinTech関連、並びに"シビック・テック”なる分野(≒コミュニティ・インパクトとの連携)に主に力を入れ始めており、我々がご縁を頂く日本のスタートアップやその他米国プロジェクトも当該分野にかかわる皆様とのご縁を多くいただき始めています(もちろん、その他の分野の起業家の皆様からのご相談・米国ローンチ支援も随時受けています!)。元々Wildcard Incubatorの主要メンバーがそれぞれ注力する分野であることから(熊谷=フード・AgTech系/モバイルテック、Charles=Public Policy/Blockchain/Civic Tech等)、このような流れにシフトしてきているという経緯もありますが、折しも北米シリコンバレーにおいてもこれらの領域が2018年現在、既に日系メディアで持て囃されるAI、フィンテック、マーケットプレース系(Ex. Uber, AirBnB, ,日本のメルカリ、その他)といった産業領域と並び、今(そして今後3-5年)アカデミア(学会)から経済産業界(大手事業会社やスタートアップ)ならびに米国行政府まで、それぞれの関連当事者が精力的にイノベーション創出に取り組む分野となっています。そこで、今後、時間を見つけて(言い訳・・・)Wildcard Incubatorの注力する各々分野に関する米国シリコンバレーの現地トレンドの詳細は別途詳しくご紹介・検証する機会を作りたいと思います。本稿ではまず、主にFood/Sustainability(食+農/地球持続性)の分野に絞って米国シリコンバレーの現況・潮流について簡単に記載をしておきたいと思います。尚、これらの分野に携わると概ね重なることの多い農業テック関連については、別途詳しく記載致したいと思います。

 当該「Food, Nutrition」市場に、テーマ等で重なる要素もある「Biotech, AgriTech」分野をも併せた場合、2014年以来ここ4,5年の間でVC資金は1245%上昇したと試算されています(注1)。このうち、ハードウェア投資を多く伴うであろうAgTech分野への金額が最も顕著で15億ドルもの資金が主要な案件だけでも160件の主要ディールに対して2017年中に流れ込んだと見られます。これらは、2007年の当該数値(31案件、200百万ドル)と比べれば、いかにここ数年で急速に拡大しているかが如実にわかります。ちなみに、フード、農業テック分野全般を通じた代表的な案件といえば、日本のメディアにも既に多く取り上げられていると思われますが、培養肉のImpossible Foodsが75百万ドル(≒80億円)のシリーズA投資(同社累計資金調達総額<デット+エクイティ>:273.5百万米ドル)、独自の”ピー・プロテイン(エンドウ豆等に含まれるたんぱく質を抽出したもの)”を活かした代替ミルクを開発製造販売し、乳製品(牛乳)業界に革新をもたらすことを目指すRipple Foods社による65百万米ドルのシリーズC、日本のソフトバンクが大型投資をしたことでも日本のメディアに取り上げられた、室内農業のPlenty社による2億米ドルものシリーズBファイナンスの実施等が挙げられます。もう、単衣に日本のスタートアップ投資とは規模が違いすぎて(そもそも日本にはこうしたリスクマネーはあり得ない)笑っちゃいますね。

 背景にはさまざまな経済的、社会的、人間の価値観的(≒宗教観的)、政治的(?)要因が交錯しており、一概に「◎×だから!」と勝手に断言してしまうのは案外酷ですが、一つ言えることは、こうした"Food 2.0"系に積極的に事業投資を行い始める米国食品業界にとって、成長性がここしばらく乏しい当該業界にとっての起死回生の原動力としてこの流れを最大限に活かしたいとの思惑があることは確かです。現に、2009年から2014年頃にかけて、米国の食品業界における既存大手ブランド群の売上が191億米ドルも減少したと言われます(注4)。さらに、全米の食品業界の約75%の成長が主に中小ブランドの寄与によるものと考えられており、こうした背景を元に、大手食品ブランドが今”焦り”を感じているといったところでしょうか(注5)。これに拍車をかけるように、今いわゆるミレニアル世代と、そのさらに一世代若い"Generation Z”なる世代がこれからまさに政治、経済、社会への影響力を増していく中、彼らの消費スタイル・価値感といったトレンドをもはや無視できないというのが現況と言えます。

 昨秋からほぼ1年間、Wildcard Incubatorが力を注ぐ有望ポートフォリオの一つである日本発スタートアップ・BioApatiteのCOOとして北米での初期的営業から本格的な事業開発、主要アカデミアとの共同研究に至るまで、多くの時間を費やしていますが、こちらでは多くのシリコンバレーの有識者や大手米国事業会社の担当者、インキュベータ、アカデミアとの貴重なご縁を構築させていただいており、彼らを通じて様々な学びの機会を得ています。現在、シリコンバレーにとどまらず(というか、むしろ)、東海岸~中西部の大手コンシューマー・ブランドや食品大手米国企業とのディスカッションを実施中で、こうしたビジネス上のやりとりを通じて様々なことが見えてきます。お陰様で、日本では全く協力姿勢を示さない学会を尻目に、こちら全米のトップクラスの研究チームから彼ら(BioApatite)との共同研究にご協力頂ける運びとなり、既に米シリコンバレーと日本のスタートアップ・エコシステムの差に改めて痛感すると同時に、「こっちに実際に来て積極的に動く」ことの大切さを日々体感しています。

 まず、そもそもこうしたFood・Sustainability分野に米国(とりわけシリコンバレー)が注目をし始めたきっかけとしては、2006年‐2010年頃に勃興していた、クリーンテックをはじめとする代替エネルギー分野へ積極的にVCマネーが全世界で流入していた時期にまでさかのぼるかもしれません。その頃から、いわゆるシリコンバレーのテック業界の起業家経営者の大御所達(マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、等)が、こぞってエネルギー分野に着目し始めた時期であり、投資コミュニティ側ではKhosla VenturesのVinod Khosla氏をはじめ、日本でも猫も杓子もクリーンテック分野への投資ファンドを次々に立ち上げた頃です(今やその成果は日本も本家シリコンバレーも・・・💦)。荒手に検証してしまうと、世の中が多かれ少なかれ、「地球環境保全」「持続可能社会」というものに意識が大きく傾き始めたのがこの時期であると言えます。恐らく、この時期に、アメリカ社会と共に、シリコンバレーの投資マネーが地球環境、持続可能のエコシステム構築のイニシアチブに潮流が流れ始めたのではないかと感じます。その延長線上で、より身近な「食」という部分にまでフォーカスが当たり始めた、という具合。前述の、「自分の価値観を大事にするミレニアル世代の台頭」も後押しすると思います。そして、その「食」に関わるチェーン<食物の生産、加工、包装パッケージング、流通、販売、食品残渣~>それぞれの細部において様々な新しいアイディアが、メディア等でも大きく取り上げられているとおり、次々に出現し始めるような潮流に今我々はいるのだと思います。

 一方、2000年代後半には、FacebookやYouTubeの成功をきっかけに、レストランの口コミサイトYelp(≒ぐるなび)や、ソーシャルゲームのZinga等、今度はシリコンバレーは「ソーシャル◎×▲」が勃興し、インターネット上で人と人とが気軽に情報を交換する世界が浸透し始めます。投資コミュニティもKPCBとAppleとがJVで設立したiFundや、同じくKPCBとFacebook、Zingaらが共同で立ち上げたsFund等、サンドヒル通り(シリコンバレーのVCが連なる、まぁVCのウォール街といったところ)もソーシャル系のファンドが勃興し、小回りの利く投資が主流と化します。そこに、2007年にiPhoneが世に発表され、今のスマホが次第に我々の必需品となっていきました。前述の「食」への意識の浸透と共に、こうした消費者のソーシャル化、アプリ主導型(無論、一概にアプリだけとは言えませんが。現地では、今尚、「お店で見て買う楽しみ」を追求する層もそれなりにいます。)の流れが都市圏を中心に出来あがっていく中、特に働き盛り+遊び盛りの都市圏ミレニアル世代の中では、「身体に良い、そして地球環境にも優しい食を、手軽に手に入れられる」ようなサービスを求め始めていき、その結果、総菜宅配サービスからミールキット、機能性食品のオンライン販売サービスといった、既にここ2,3年投資マネーがにぎわすスタートアップの登場を後押ししてきたように思います。そのサービスの多種多様性(+似通ったものばかりが最近は少なくない)と言えば、さすが、シリコンバレーといった具合。ただ、この領域では既に淘汰の段階に来ており、最近上場したBlue Apronをはじめ、「持続可能なビジネスモデルの信憑性」について、投資家はここ2,3年と比べてこれからはさらに一段と厳しい目を向け始めていますので、2019年以降は、食関連のビジネスもちょっとしたトレンドシフト(既存トレンドの淘汰+新しいものの到来)が起こるかもしれません。

 そして、2010年頃と言えば、(繰り返しますが)1980年代から2000年頃に生まれた世代と定義づけられていると言われる、いわゆるミレニアル世代がその政治/経済/社会的な影響力・発言力をつけ始めた頃ではないでしょうか。単純計算すると、上は30歳前後、下は(まだ弱冠)10歳前後となりますが、上限の30前後の層とは、前述のソーシャル系のスタートアップを先導する起業家層の年代と思われます。

 言うならば、①環境問題というものに社会全体の意識の振り子が傾き、②その社会におけるミレニアル層の市場としての重要性は増し、③そうした世代がスタートアップの起業家経営層の中心世代となってきた今、地球環境問題のうち、衣・食・住の「食」という最も身近な存在にフォーカスされる素地が固まってきたのがここ数年の流れではないでしょうか。そこに投資コミュニティも地球環境というテーマの延長線上でFood/Sustainability+Agtechという領域に着目し、それらの投資ファンドに新たなビジネスモデルを模索する既存の産業界(食品産業、一般消費材産業、農業関連業界等)がリスクマネーを投入することで、こうしたFood/Sustainability+AgTech分野へのVCファンドが今のように出来上がってきたという流れであるような気がします。

 ちょうど2011年頃にシスコのファッション業界とテック業界の業界間の垣根が崩れ始めて相互が関わり・交わり始めた頃、Wildcard Incubatorの同僚パートナーであるCharlesと共に彼が共同創業したSF‐FASHTECHと共に当該Fash-Tech業界関係者と関わり合いを持った時期がありましたが(ちょうどそのころ、日本のMUJIやUNIQLOが挙ってサンフランシスコ・ベイエリアに旗艦店舗を大々的に構えた時期)、その頃のFash-Tech業界の流れと今のFood/IT業界は類似するように見えてます。当時も、それまではあまりテック・ITの良さを活かしきれていなかったファッション衣料業界が、AmazonやZapposといった会社の成功事例を次第に意識し始めた頃でした。また、ZapposもVegas Tech Fundを立ち上げてコマース系の有望株スタートアップにVC投資をし始めたのもこのころ。当時のファッション・衣料品業界も既存ビジネス(旧来の店舗ビジネス)の成長鈍化と市場が求める新たな嗜好(ソーシャルメディアの活用、個々人の嗜好に合わせた販売方法、サプライチェーンの効率化/可視化/~、等々)への試行錯誤の壁にぶち当たる時期であり、今の食(+農…このAgTechの部分については別途お話する予定です)に纏わる新たな潮流と非常に似ている気がします。

 そこで、まずは「食」及び「持続可能/サステイナビリティ」分野へのVC投資について、ここ4,5年の概況を見たいと思います。各種データがいろいろと出ておりますが、概ね見えてくるのは、昨今のような盛り上がりを見せ始めたのは、2014年前後~であること。
 
以下は、ここ2,3年のVCマネーの「食・サステイナビリティ分野(※AgTechは除く)」への投資金額に関するデータのまとめとなります:
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米国シリコンバレーのフード系への投資トレンド
2017年(注2):
VC投資額:10.8億米ドル(前年比)
投資対象企業:99社(前年比87.8%増)
平均1件あたり投資金額:10.9百万米ドル(中間値:4.25百万米ドル)
M&A件数:136件(前年142件)

2018年5月末現在(注3):
VC投資額:13億米ドル
~ご参考:2008年投資額60百万米ドル、2013年同290百万米ドル、2015年同10億米ドル
投資対象企業:約50社(年率換算でほぼ100件のペース) 
~ご参考:2008年投資件数16件、同2015年139件
M&A件数:88件

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食+サステイナビリティ分野と主なテーマ・トレンド:

  実際に事業側の立場で投資家や事業会社と接していると、「食」に纏わるビジネスを今から始めるのであれば、やはり今は「代替プロテイン」「植物性栄養素材」が主テーマの一つである点がはっきり見えます。動物性肉・タンパク質の代替としての植物性肉・タンパク質の摂取を可能とするような新しい肉の開発が今、バイオやサイエンスの力を借りながら、精力的な開発競争がシリコンバレー一帯だけでも盛り上がっています。
 さらに、野菜やフルーツが元来持つ栄養素を活かそうとするサプリや、Smart Food(定義:“good for you, good for the farmer, and good for the planet/are highly nutritious, protein-packed, and climate-smart crops”)といった「人為的な食」の新規開発も今盛り上がっています。これらは、もうすでに様々なメディアに取り上げている通り。そこには、従来の食品業界と、サイエンス+バイオテクノロジーの分野が融合してきていることも確かです。

 こうした主要トレンドでいくつか勝手ながら少々気になるのは、シリコンバレーの良さでもあり、オチでもあるのですが、何でもかんでも「科学・テック」で解決できるとの信望に偏りすぎているように感じること。CRISPRに関しても、まだまだ研究が始まったばかりとはいえ、可能性と同時に様々な懸念事項も同時にフォーカスされ始めていることも事実です(注7)。自然の恵みと科学の力が相互で最大限に活かされる状態が一番理想的ですが、開発競争の行く末が好からぬ結果を招かないことを切実に願うばかりです(まぁ考えすぎだとは思いますが)。例えば、前述のSmart Food系の新しい高機能性・高栄養素のサプリ・食材を高らかに唄う様々なサービスが続々登場し、筆者も注目をするものも少なくありませんが、従来の野菜やフルーツと比べてどれほど栄養価が高いのか、その科学的な実証性に乏しいものが決して少なくありません。実際に食品会社やフード系スタートアップをクライアントに持ち、彼らの立場でFDAやUSDAと「機能性」「効用」といったテーマで交渉を手掛けた米国の元弁護士のお話を伺った際、今シリコンバレーや米国で消費者に普及する最近の流行りのFood 2.0系のCPG(Consumer-Packaged-Goods)の中には、科学的な実証性が非常に乏しいまま、あるい一定の水準をクリアすることでその効用を唄うものが決して少なくないそうです。その結果、米規制当局からの検閲が入ってしまって大幅な修正を余儀なくされるケースがあるとのこと。

 もう一つ気になるのは、例えば、こちらの生産者(食品生産会社+米国カリフォルニアの農業従事者家、等)と直接+間接的に会話を重ねるうちに繰り返し口にされることで、くっきり見えてくるのは、彼ら(生産者側)から見える今の「食(+農)投資勃興期」の問題点は、いろいろと登場してくるものが主にIT系のテクノロジー(AgTechに相当するもの・これらは次回に詳しく触れたいと思います)ばかりであり、そうした「テック」なものを得意としない自分達生産者にとっては決して使い勝手の良い、喉から手が出るような「ほしい」ものではないものばかりか、すぐには使い物にならないものばかりで、もう少し生産者側の「こっち(自分ら)の話をもっとじっくり聞いてほしい」との嘆きが根底にはあるというのも今のシリコンバレーの内輪的な森狩りと現実的にそれらを活かされるべき生産者側との”乖離”の実態のようです。いわば、テック業界側あるいはテック出身の創業者による発想で食や農の世界を改善していこうという機運があまりに強いが為に、対象市場の実情を知らないまま、表層的に「こうすればよくなるはず」的なアイディアとそれに連なる投資資金があまりに偏りすぎると、結果として(エネルギー投資がそうであったように)これら「食・農」関連のニュービジネスのどれもこれもが実を結ばずに終わってしますリスクが内包されていると思います。こうした試行錯誤は、まだ数年は続く可能性はあります。とにかく、食や農といった領域で新しい概念や手段を取り入れて行きながら実際にそれが経済先般に機能・浸透されていくには、ここ10年のシリコンバレーのトレンドである、「比較的少額投資で2,3年でスケールするような投資モデル」からのマインドセットから脱却して忍耐強く取り組んでいくスタンスが、特に「~7年の投資周期」が求められるVC投資業界では求められると思います。

 以下、注目に値するものから、つい最近新たに話題に上がりつつもまだコンセプト的に道半ばな印象で今後1年間の進捗を見守りたい(※ある意味競合として動向をしっかりと注視しておく必要のある・・・)スタートアップの事例をランダムに挙げてみました。

フード系スタートアップ事例:
ReGrained (www.regrained.com)
彼らは、我々とも共通メンターを通じた交友関係にあり、正に我々の取り組むスタートアップにとっての「お手本」的な存在ですが、米国内のビール工房での醸造プロセス中に発生する穀物残渣(いわゆる、食品残渣<Food Waste>として従来は有効活用されないまま廃棄等されていた貴重な資源)を再利用して、独自の製造プロセスで元来穀物残渣に残存する栄養価と共にその他の要素(水、酵母、ホップ)を加えた高栄養価(High-Nutrition)のスナックバーを開発製造するスタートアップ。当初は地元のローカルなオーガニック店やビタミンショップ系のルートを通じて販売をはじめながら、今ではWhole FoodsやSprouts Farmers Marketをはじめとする全米規模のオーガニック・自然食品チェーンに販売ルートを成功裏に拡大しており、今まさに勢いを増しつつあるスタートアップ。ミソは、彼らは、この再利用プロセスをRecycleとは言わず、”Upcycle”と称していることです。2012に地元サンフランシスコの大学経営学部のクラスメート2名で創業し(中心的人物であるDanielは実家がビール業界に携わる)、地道な製品開発とローカルチェーン店等を使った売り込みをしながら、今春、Kickstarter等のクラウドファンディングで6千万円程度を集めてこれからの展開が非常に楽しみなFood-waste based CPG(Consumer-Packaged-Goods)の存在。近い将来、今のCPG/B2Cのモデルから、高機能食材を食品会社等向けに仕入れるホールセールビジネス・B2Bモデルに発展していく可能性を秘めています。
 昨今、日本も含めて、既存のサプリメント・ビタミン市場では既存サプリ商品群の効能に対しての疑念・妥当性が改めて問われつつあり、また勉強熱心な購入層であるミレニアル世代や健康志向の高い消費者層がこれからますます洗練されていくであろうと思われる中、彼らがクオリティの高い製品を市場に流していくことが出来れば、サプリ業界の地殻変動も引き起こしていく可能性があります。このスタートアップは、筆者がファウンダーとは懇意にさせていただく仲(前述のBioApatiteを通じて)で、我々のスタートアップの米国での売り込みや事業開発にいろいろと貴重なアドバイスや協力を仰いでおり、絶対に成功してもらいたいと願うスタートアップです。

New Age Meat(http://newagemeats.com/)
2017年11月頃に創業されたばかりの、Impossible Foods、Memphis MeatやBeyond Meatをはじめとする、いわゆる「Clean Meat」のトレンドを行く最新事例の一つ。サンフランシスコの大手バイオ・サステイナビリティ系インキュベータの代表格「Indie-Bio」の直近Batch 7の支援元スタートアップの一つ。我々が初めて同社創業共同代表であるBrian Spears氏と面識が出来た昨秋はまだ”ステルスモード(まだ公に具体的な情報を開示しない時期)”にありましたが、ここ半年間に急速にメディア露出が増え、その実態が次第に具体的に明らかになりつつあるようです。同社は、独自の細胞培養技術(自動化されたデータ解析プロセスを活かした、生体触媒を通じた生化学反応を行うバイオリアクターのような装置)を駆使した細胞培養肉(Cell-cultured meat)を開発製造するスタートアップ。今年11月の同Demo Dayに向けて粛々と開発に専念中で、最初の商品は豚の細胞を利用した”豚肉”。Spears氏曰く、「当該Clean Meat市場は1.3兆ドルもの潜在規模があり、そのうちのごく一部だけの要素を深掘りして確固たる付加価値を見出すことが出来れば、十分飯が食える」。
まだ立ち上げ期にあり、無論、成功するか否かはこれからですが、既に多くのVC資金や大手食品会社のベンチャー投資資金が流入している当該Clean Meat/Plant-based Protein分野においてどういう位置づけとなっていくのか、注目したい身近なスタートアップです。

Miyoko's Kitchen    (https://miyokos.com/)
2014年頃に創業された同社は、独自の熟練栽培(aritisan-cultured)による菜食(ビーガン)チーズやバターを製造販売する、サンフランシスコ郊外のソノマ市(ワイナリー産地で有名)を本拠地とするスタートアップ。既に約12百万米ドル(≒13~14億円)集めており、そのうちTwitterやMediumを創業した連続起業家EV Williamsが率いるObvious Venturesが名を連ねており、もともとチーズや料理の分野で著名な人物であった創業者のミヨコ・シナー氏が、2000億ドルにもなると想定される米国チーズ市場のDisruptionを及ぼすべく、前述のRipple Foodsと共に乳製品市場を通じた動物性乳製品から植物性乳製品への”Veganな”シフトを先導するVegan Cheese製品を次々に世に送り出しており、今やWhole FoodsやSprouts Farmers Market、One Leaf Community Markets等、全米規模オーガニックチェーンから地元のローカルチェーンを含めて陳列棚をにぎわすブランドに成長しています。彼らの製品の素材の特色として、我々日本人にも馴染みのある「麹(Koji)」を含むものがあり、そのことが、こちらの健康志向コンシューマのツボを掴んでいる要因の一つと言われています(実際に公言する、同社の商品を愛食する米国知人より確認済み)。いわゆる「発酵食品ブーム」「Fermented Foods 2.0」の一役を担う存在となっています。

サステイナビリティ系/AgTechスタートアップ事例(※ハードウェア/ソフトウェア/マーケットプレースゴッチャ混ぜです):

Apeel Science   (http://apeelsciences.com/)
フード系であり、食品残渣問題にも寄与するスタートアップ。既に日本版TechCrunchにも日本語訳記事が今年の8月14日付けで掲載されており、皆さんにも既知のスタートアップかもしれませんが、同社は、野菜や果物等の農産物の鮮度を保ち、腐敗を遅らせる独自開発による「植物由来の素材」による保存用パウダーを活かして食品残渣の削減を目指す会社。このパウダーを水と混ぜて「懸濁液状態」にし、それを農産物に直接噴射をすることで、農産物の賞味期限を引き延ばすことが出来る、というもの。2012年に元マイクロソフトのビルゲイツ財団等からの支援ではじまり、この程70百万米ドルをAndreesen Horowitzをはじめとする著名投資家から集めた模様。
既にアボカド等に実際に店舗で販売されるものに使用されている模様で、その他、レモンやオレンジ、グレープフルーツ等で実証実験を継続している模様。同社としては、既存の約4倍の賞味期限を実現させることで、あらゆる既存の食品保存に伴うコストを削減することを目指します。特に、創業当初からのミッションとして、特に冷凍保存設備等に乏しいとみられる発展途上諸国を中心にこの技術を普及させることで、当該諸国における農産物寿命の延命を果たすことで食品未利用・残渣問題を解決することを目指すことからはじまったようです。

Recycle Track Systems   (https://www.rts.com/)
”Uber for Garbage (=ごみ処理のウーバー) ”と言われるRecyle Track Systemsは、2015年頃に東海岸のニューヨークに創業されました。食というよりは、ごみ処理という「地球環境・サステイナビリティ分野」にあたりますが、フード産業にとっても食品残渣という大きな問題があり、ごみ処理市場は実は直結する市場でもあります。そんな650億ドルにものぼると試算されるごみ処理市場(注6)では、既存大手Waste Management等の牙城を崩すべく、今までテック業界があまり手を加えてこなかった当該ゴミ処理市場に昨今の環境問題を意識した投資トレンドに乗じて最近ではRubicon Globalをはじめ、同RTS社もIT技術を駆使した新しいソリューションをもたらそうと頑張っているスタートアップ。
同社は独自のソフトウェアとスマホのアプリ開発ですが(≒Uber)、要は、主たるユーザー顧客層であるビジネスユーザーが、Uberでタクシーを呼ぶように、オンデマンドでごみ処理の収集日等をアプリ上で呼び出したりすることが可能。同社はもちろん自社で回収トラック等を持たず、それらは地元現地の既存業者と提携して彼らに任せており、身軽な会社経営を実現させているのも特色です。独自のデータ分析や追跡システムを活かした効率的なごみ収集、リサイクル、廃棄物運搬システムを実現するマーケットプレースを形成しており、主なクライアントは、ごみ処理に係る各種規制当局の要求に応じる必要のある事業者・会社をはじめ、地球環境保護の観点からゴミの再利用や有効活用に積極的に取り組むビジネス等。それぞれのクライアントのニーズに併せてサービスに幅を利かせられるようにアプリがデザインされているとのこと。主な利用者として知られているのは、米シリコンバレー有数のCo-Working SpaceであるWeWorkやオーガニックチェーンWhole Foods等。

Full Harvest   (https://fullharvest.com/)
いわゆる「売るに値しない」ものの「農産物として(ほぼ)問題ない」農産物残渣の二次市場的なマーケットプレイスを運営するのが同社。供給サイドはいわゆる生産者側である農家や食品企業(カット野菜製品を売ったりする外食企業など)であり、需要サイドは食品チェーンから、スムージーやオーガニックフードを販売する外食系企業から食品ブランドなど。B2Bプラットフォーム(※その他、不良農産物を直接消費者へ売るB2CモデルではImperfect Produce社やHungry Harvest社があります。詳細は割愛)。
彼らの目の付け所はポテンシャルは高いものの、米国には一方で、Food Desertなる、栄養素の高い良質の食の流通が途絶えてしまっている、特に高度なITインフラが都市圏近郊(シリコンバレー/サンフランシスコ/ニューヨークなど)と比べて未だに大幅な遅れをとるような、物流システムも未整備の内陸部における「食の空洞化」現象も大きな問題であり、そうした、いわば「IT頼み」ではどうにもならない食の問題をどう解決していけるか、同社のようなスタートアップがさらに踏み込んで貢献できるか、あるいは違ったビジネスモデルが創出されていくのか、これからの発展が注目されます。

Kencko  (https://www.kencko.com/)
2016年創業の、「スマート・フード」のスタートアップとして最近メディア露出が増え始めた東海岸出身のKencko。名前も日本人的にはニンマリさせられるブランド(※サンフランシスコ/シリコンバレーにいると、ふとした時に、マカロニチーズに使用される材料の一つとして使用されているパン粉が「”Panko”」と記載されて来店客が「なんだい?このPankoって??」と店員に聞いていたり、皆様も良く知る「かわいい」を「This is pretty much Kawaii」とか若人が道端で会話していたり、欧米圏で浸透する日本語が増えているのが実に楽しい・・・)。
いわゆるフリーズドライ法(真空凍結乾燥技術)を活用した手法で、野菜や果物が持つ元来の栄養素(ミネラル、プロテイン、ビタミン等)を極力損なわずにパウダー状態にした野菜・フルーツのミックス粉末パック(1袋20グラム)をベースに、ミクサーとセットで水と混ぜて約1分間振り続けて出来上がり、とのこと。一袋20グラムで水とミックスさせると一袋160グラム相当のドリンクになるそう。都市圏で多忙を極める働き盛り+健康志向の高いミレニアル等にとっては興味深いアイテムかもしれませんが、比較的容易に野菜や果物が日常的に手に入る人間にとって、彼らのサービスがどれほど付加価値が見いだせるのかは、未知数といえますね。全米及び世界中の農産物生産現場から素材を調達するとのことらしいですが、消費者が求めるのは、どれほどの栄養素を吸収できるのかというところ。従って、例えば、乳酸菌等のプロバイオティクスのような要素を効果的にブレンドさせて付け加えたり、それでなくとも「勉強熱心な口うるさいミレニアル層」をより「わざわざ買いたくなる」動機付けを見出せるかが、Kenckoの成否のカギを握りそうな気がします。

追記:当該分野に関する日本国内のスタートアップ・エコシステムの問題点:
 ずばり、アカデミアの閉塞性に非常に大きな問題があるように思えます。もちろん、これだけに限らず、他の事象もありますが、ここ昨秋から1年間、米国側で初期的営業から事業開発全般を手掛けさせていただく日本発のフード/バイオ系スタートアップでの実務をこちらで行いながら心底痛感をさせられたことですが、米国シリコンバレーの投資家や東海岸の大手事業会社の研究開発本部との交渉実務に当たる中で、こうした“研究開発型”スタートアップは彼らに対して「証拠・エビデンス・実証データ」を必ず取り揃えておくことが求められます(もちろん、日本でも全く同じ)。その際、ここシリコンバレーでは、ある程度のレベルまで製品開発が進んでいたり(プロトタイプ的なものが完成)、研究者やそのラボにとってこちら側が開発しようとするものが大きな価値や意義を見出すような可能性があれば、必要な予算さえ彼らに提供出来れば彼らはラボを通じてこちらの求める(=投資家や交渉相手企業が求める)各種実証研究を実施していただく素地が十分にあるのに対して、日本国内では、学会特有の「プライド」「閉鎖性」がそのような「アカデミアとビジネスとの相互のWin-Win関係(特に先端的な開発に取り組むスタートアップとの繋がり)」を完全に遮断をしてしまっていることがくっきりとわかった点です。
 また、こちら(米シリコンバレー)の教授や助教授は、自らが複数のスタートアップの社外取締役やアカデミック・アドバイザーを任務するケースが少なくありません。彼らは、自らの研究課題が実社会の世の中に価値を見出すための一つの手段として、スタートアップの力を借ります。そんな「同志」的な空気を感じることの一つに、我々が直接ご縁をいただくこちらの有名大学の教授陣が口を揃えて言われた「(自分のことを)"先生"と呼ぶのは止してほしい。名前(ファーストネーム)で気軽に呼んでほしい。どんなことでも率直に伝えてほしい。」という言葉。こうしたちっちゃなことが、日米間のスタートアップ・エコスステム全体(スタートアップ+大手企業+経済界+★学会)の大きな差となってしまうのではないかと感じているところです。
 一方、当該分野の日本の大手事業会社のスピード感があまりに遅い点も問題といえます。我々が取り組むビジネスにおいても、1年半前からの話が未だに成就しない一方、米国では3~4か月でほぼ到達しそうな勢い。これでは、スタートアップ側の手元資金も士気もそうそう長持ちはしない気がします。
 

₋次回は、今回はあまり触れていないものの、食・地球環境/サステイナビリティとの投資テーマ性が非常に近い農業テック(AgTech)にフォーカスをしてみたいと思います。こちらは、主にハードウェア・テクノロジーの色彩が(ご想像のとおり)強まります。蛇足ですが、Wildcard Incubatorが支援をさせて頂く日本発のAgTech分野のスタートアップや事業会社についても、追々こちらでご紹介をさせていただく予定です!

<備考:ご参考>

1.主なインキュベータ(一部紹介):
KitchenTown:
http://www.kitchentowncentral.com/
FS6:
https://www.foodsystem6.org/
Food-X:
https://food-x.com/
TERRA Accelerator(RocketSpaceが運営):
https://www.terraaccelerator.com/
Indie-Bio:
https://indiebio.co/
Food Space Co:
https://www.foodspaceco.com/
Good Food Accelerator:
http://www.goodfoodaccelerator.org/

2.米シリコンバレーのフード系/アグリテックカンファレンス・支援組織(一部紹介)
Food Funded:
http://foodfunded.us/
Mixing Bowl:
http://mixingbowlhub.com/
Food-Bytes!(欧Rabobank)
https://www.foodbytesworld.com/
Silicon Valley AgTech (Royce Law Firm):
https://rroyselaw.com/events/2018-silicon-valley-agtech-conference/
Thrive Agtech:
http://thriveagtech.com/

3.事業会社系インキュベータ(一部紹介):
Springboard(米大手食品ブランドKraftのインキュベータ部門・シカゴ本社)
https://www.springboardbrands.com/ 
Chobani Incubator(ヨーグルト・ブランド大手Chobaniのインキュベータ部門):
https://chobaniincubator.com/  
Vitamin Shoppe(米ビタミン・健康食品等の小売りチェーンの最新インキュベータ部門)
https://www.vitaminshoppe.com/lp/launchpad
301inc. (米食品大手General Mills社のインキュベータ部門):
https://www.301inc.com/
Unilever Ventures
http://www.unileverventures.com/

(米国サンフランシスコ)
備考:米Down Jones Venture Source・SDR Ventures社データ, Pitchbook Platform - https://pitchbook.com/news/articles/recipe-for-growth-vcs-are-more-interested-in-food-tech-than-ever  より 
注1: New Hope Network社データより
注2: 対象データ=食ならびに飲料サプリ系のスタートアップ限定 
注
3: 食・飲料サプリ及びフード系テック分野をもこちらのデータは含みます。従って、情報ソースが各々異なるため、単純な横比較ではありません。あくまで参考程度として。
注4: 米Nutrition Business Journalより
注5: 米Nielsen、Breakthrough Innovation Reportより
注6: IBISWorldより
注7: 
米Scientific America:https://www.scientificamerican.com/article/crispr-edited-cells-linked-to-cancer-risk-in-2-studies/
米Yale Insights:https://insights.som.yale.edu/insights/is-crispr-worth-the-risk

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