Wildcard Incubator
  • Home
  • About
  • Team
  • Contact
  • Blog

✯簡易考察【ウェルネス・テック編】:米Lyra Health社の“ユニコーン”到達と日本のBehavioral Health市場の行方

8/28/2020

0 Comments

 
Picture

写真提供: https://lisaeatsa.pizza/work/lyra-health/ 

 米Lyra Health社がこの程(米国時間:8月25日付)、$110MのシリーズD資金調達をクロージングしました。公表ベースでの推定時価総額は$1.1BN(≒1,200億円)とされ、いわゆる【UNICORN<ユニコーン>】ステータスの仲間入りを果たしたと見られています。

 ざっと同社の概要について要約すると:

  • 創業:2015年1月
  • 本社:米サンフランシスコ近郊(Burlingame市)
  • 事業概要:認知行動療法等を取り入れた個人向け(パーソナライズ)の、ビデオベースによる各種オンライン遠隔治療、運動療法等のデジタルヘルス・サービスの開発と提供。主にB2Bで対象となる個人の雇用主たる企業と契約してビジネスを展開中(2020年8月現在)。
  • 累計調達金額:$288M<シリーズDフェーズ/5ラウンド終了/>
  • 主要投資家:Greylock Partners、IVP、ハワード・シュルツ氏(※スターバックスコーヒー創業者)、他合計16名
  • 人員規模:250人前後

 足かけ6年間の歳月をかけて想定企業価値$1BNに到達したわけですが、折しもウェルテック(ウェルネス/ウェルビーイング関連の各種新興テクノロジー群)がトランステックと共に米国で伸びており、その中でまず大型案件として注目されている状況です。

 注目すべき点は:

  1. たった5か月前にシリーズC($75M)を調達したばかり… (…つまり半年+で$200M近くを調達)
  2. 累計で既に80万口座を獲得済み<企業口座50社~、つまり、これらの従業員向け個人口座が今年中に100万口座到達を見据える勢い>  
  3. 主要顧客層に著名大手企業<Uber/eBay/バイオ大手のGenentechや Amgen>が並ぶ  
  4. 推定売上規模(2020年):$100M(**)当該プラットフォームに約3,000以上の外部専門家(セラピスト、メンタルヘルスコーチ、薬剤師等)を擁する

 特に、1.の通り、今年に入ってから既に大型シリーズCファイナンスを成功裏に調達したわずか半年以内に今度はさらに大金を獲得出来た点については、今回の未曾有のCOVID-19が同社にとって大きな意味をもたらしたものと十分考えられます、またそうした見方が大きいです。今回のCOVID-19の件でより不確実性との共存を強いられたことで、米国人社会ではメンタルヘルスへの対処法に積極的な姿勢が加速化し、それらを察知した雇用主側(事業会社)も積極的に社内的な人材ウェルネスサービスの一環として強化する動きが具現化し始めている証であると見られます。例えば、Uberのようなユニコーンは既に日本国内でも事業を進めており、今般のCOVID-19で彼らのUber Eats部隊を強化していくものと予想されますが、果たして日本のスタッフ向けにこうしたLyra Healthのサービスがどのように活かされていくのが、非常に興味深いです。あるいは、5.の点で、日本国内の医療システムや臨床心理士等の関連市場の仕組みや実態に即したものに国ごとにどのように工夫がなされていくのか、あるいは当面は米国のみサービスが受けられるのか、これからの日本国内市場の進展を担う上ではモニタリングしておきたいところです。

 さて、世界のBehavioral Health市場を見ると、米Acumen Research and Consulting社によれば、2026年には$240BNにまで伸びると予想されています。うち、北米の当該ソフトウェア関連については、2022年には概ねUS$2.3BN(≒2,400億円)まで伸びると予想されていますが、現時点での想定では、まだ半分以上は北米市場が世界をけん引する様相ですね。アジアは全体のおよそ10%前後といったところでしょうか?

 以下は、2019年第3四半期段階のものですが、Behavioral Health市場に関する主要スタートアップ投資トレンド概況です。多少の凸凹はあるものの、2014年頃を機に徐々に伸びているのがわかります。本稿では当該市場に関する詳細考察は割愛しますが(後日改めて時間を見つけて・・・)、上述のLyra Health社も2015年に創業されたり、瞑想系アプリでユニコーン化しつつあるCalmも2012年に創業されていることを踏まえると、このグラフでは反映されていませんが、今年から2021年以降は、これらの「ユニコーン的な」ウェルネス/ウェルビーイング系スタートアップのシリーズB以降の大型ファンディングが増え始めていくことが予想されますね。 

出所:(*)https://online.alvernia.edu/program-resources/behavioral-health-vs-mental-health/ 
(**)
https://www.bizjournals.com/sanfrancisco/news/2020/08/25/mental-health-benefits-lyra-fundraising-unicorn.html 
Picture
所:WhatifVC社:https://whatif.vc/blog/approaching-1000-mental-health-startups-in%C2%A02020

 Wellness/Well-beingテックの中の一部を成すと考えられるこのBehavioral Healthセクターですが、ここだけを見ても以下のような細分化が出来ます(***)。多かれ少なかれ、今後5年から7年の間でこれらの細分化は自然淘汰されていくものと想定されますが、当該分野がまだいわば黎明期の今、こうした幅広い新興サービスのうちどれが我々にとって実用性があるものとして認知されていくのか、興味深いです:

  1. メンタルウェルネス・アプリ :  睡眠、瞑想、呼吸のためのアプリ、教育用ツール、そして精神的健康を改善するためのゲームアプリ等。
  2. 企業向けB2Bツール :  各種関連プロバイダー検索エンジン、ツール、企業内バックオフィス向けリソースツール、EAP等、各種B2B /企業内従業員向けメンタルヘルスプログラム等。
  3. 検査/測定系 : 各種モニタリング、行動様式のトラッキング、心理状態の計測や診断、”Mood Journaling”、スクリーニング、リモートでのモニタリング等。
  4. テレヘルス(≒遠隔治療) : いわゆる遠隔治療(オンラインを通じた臨床心理士等外部専門家とのコミュニケーション、診断プログラム等)。
  5. デジタルセラピュティクス(DTx) : 各種端末アプリや最新デバイス等の最新デジタルデバイスを媒体として用いた各種治療サービスプラットフォーム(例:生活習慣病、心療内科系の治療)
  6. P2P系 : 実際の人と人との繋がりを共存、協力支援を試みるサービス体系。
  7. その他非テクノロジー系:  店舗運営のクリニックや薬物処方サービス、その他、テクノロジー依存度の低い関連サービス。

参照ソース:(***)https://whatif.vc/blog/approaching-1000-mental-health-startups-in%C2%A02020 

 詳細は本稿では割愛しますが、既に米国では、既にGoogleやIntelのようなシリコンバレーのテック企業から(2000年代半ば頃から、ここでは"Zen"は親しまれている)、Goldman Sachsのようなウォール街の大手投資銀行で既に従業員向け福利厚生プログラムに(瞑想アプリのHeadspace等)取り入れ始めているようです(筆者が投資銀行の世界に身を投じていた2000年代はこんな発想は到底なかった・・・💦)。

(尚、上記のさらなる考察(個別事例等)は、別稿にて取り上げたいと思います。)
 
 個別の代表的な新興Behavioral Health関連スタートアップの大型投資事例は以下が挙げられますが、前述の通り、Lyra Healthの他、CalmやDTx(Digital Therapeutics・"デジタル・セラピュティクス")のPearあたりは、ユニコーンステータスを果たす可能性が高いと見られていますね:

Picture
出所:米WhatifVC社、Pitchfork、Crunchbaseのデータの他、関連企業の報道資料等より 筆者作成

  尚、広義でのデジタルヘルス市場は既にここ数年間にVC投資や大企業による自社内での新規事業としての取り組みからオープンイノベーション等を通じて様々なサービスや技術が登場していますが、当該Behavioral Health市場を含むメンタルヘルス関連に関しては、どちらかと言えばいわゆるウェルネス/ウェルビーイング領域との重複もあってまだまだこれから本格的な認知度が上がっていくと共に、VC投資も日本国内含めて少しづつ拡大していく段階にあると捉えています。ただ、少なくとも北米では既にExit事例が第三者の調査等によれば30事例程あるようです。以下はその代表例ですが、IPOとヘルスケア関連企業を中心とするM&Aがバランス良く成就している様子ですね:
Picture
出所:米WhatifVC社、Pitchfork、Crunchbaseのデータの他、関連企業の報道資料等より 筆者作成

 そもそも、Behavioral Healthとの概念の定義について確認すると、以下の通りです(*):

原文:"Behavioral health describes the connection between behaviors and the health and well-being of the body, mind and spirit. This would include how behaviors like eating habits, drinking or exercising impact physical or mental health." 

和訳:"Behavioral healthとは、我々の動作や行動と、身体と心と精神の健康状態と健全なる状態(≒ウェルビーイング)との相関関係を表す。 これには、例えば、我々の日頃の食習慣や飲酒、運動等の動作、行動が身体的、精神的健康状態にどのように影響するかを含む。"


 まぁ細かい定義の議論はここでは専門外なので割愛するとして、当該市場は、広義でのデジタルヘルス市場の中の一環を成すものと思いますが、いわゆる「ポスト・コロナ」時代を否応なしに向かえてしまった我々にとって、見えぬ将来像や社会構造等といったものに向かっていく上でストレスと向き合っていくことが強いられそうな中、着実にこれから注目をされていくセクターであると考えられますね。

 ポスト・コロナ/With COVID-19というキャッチフレーズが様々な枠組みで言われていますが、スタートアップ投資の世界でも昨今のファンド投資の主たる(というか、これを外してしまえばそもそも投資資金が集まらない?笑)テーマになっており、その中でも、当該領域は従前の仕事の仕方や生活スタイルが変貌することによるストレスと向き合う世の中において、4,5年は続くであろうテーマとして考えられますから、洋の東西を問わず、これから徐々に日本国内においてもこうした領域に新しい発想やテクノロジーが新規サービスに生まれ変わっていく流れが出来上がると考えます。米国での最近の代表事例では、Lyra Healthは、主要株主の一人であるハワード・シュルツ氏のスターバックスコーヒーと提携をし、同社のスタッフに彼らのサービスが組織内で提供されていくこととなったようです。

 以下は日本国内の、より広義でのメンタルヘルス・テックのスタートアップ一覧ですが、果たしてこの中から持続性のあるユニコーンは登場するのでしょうか?!
Picture
出所: emol株式会社 https://bizhint.jp/report/387063

 日本においても、先のDTxをはじめ、日本国内におけるBehavioral Health市場の可能性が各関連業界の有識者で議論が繰り広げられているようであり、今般のコロナの件も加えて2021年以降、当該分野も「ポスト・コロナ」のテーマ性で国内スタートアップ投資でもフォーカスされる領域の一つとして加えられそうです。日本でも従業員と組織との関係性が再考される機運が徐々に芽生え始めていますが、時間はかかりそうかもしれませんが、企業においてもこうしたサービスが果たしてどのような形で導入事例が出始めるか、注目していきたいところです。前述のように欧米ではグーグル等が活用し始めているのと同様に、日本国内でもいわゆる新興上場企業やベンチャー企業がまずは積極的に導入し始めているようですね。これから果たして「経団連」系の大手日本企業の人事・福利厚生サービスの中にどう浸透していくのかが注目です。。。

 無論、この分野は国と地域によってサービス内容を順応させていけることが重要でありそうであり(許認可、食慣習や健康管理の慣習の違い、等)、単に欧米のプログラムを日本国内でそのまま活かすのは難しでしょうから、今欧米で台頭し始めているサービスをいかに日本側で応用させられるか、あるいは国内でこれから当該領域に本格的に取り組むスタートアップが今後どれくらい生まれて彼らへの支援がまわるのか、今後試行錯誤していく時期にありそうです。特に、Behavioral Healthという言葉の通り、人の「行動様式」に基づく研究開発を通じて新しいサービスを創造することで、我々の心身の健全な状態の獲得を手助けしようとする
事業サービスを指しますので、すると恐らくAIやマシーンラーニングといったテクノロジーを駆使するものと思われますから、それらのデータインプットとして、日本での実用性の高いデータが最適化されていることが重要となってきますね。

 以下は、興味深いデータとしてご参考までに、日本国内において公表済みのデータの一部ですが、これによれば、日本ではまだ会社勤務でのストレスや心療面での相談等は「上司又は従業員」を通じた相談ルートということですが、これ、最も相談がしにくい相手ではないかと。笑 

Picture
出典: エン・ジャパン株式会社:https://corp.en-japan.com/newsrelease/2018/12378.html

 一方、会社側ではなく、従業員に対して行われた調査によれば、いわゆるメンタルウェルネス領域への取り組みについて、個々が必要であるとの認知が広がる一方、企業側ではやはりまだ未知なる領域ということもあり、自社もにでの対応には限界があるとの認識が明白です(本調査は2018年10月30日リリース):

自社に必要だと思う安全配慮義務に関する取り組み
Picture
自社で対応が難しいと思う安全配慮義務に関する取り組み
Picture
出典: いずれも株式会社あしたのチーム:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000130.000025661.html 

 尚、当該領域は高い専門性が要求されそうな分野でもあり、日本国内ではITやテック出身者のみならず、関連性の高い医療分野の従事者による参画もサービスの質と効果を向上させて普及化する上で大切になりそうです。いずれにせよ、実用性を鑑みても、そしてすでに我々が生活するポスト・コロナ社会を少しでも健全かつ朗らかに生きていくためにも、とても興味深いセクターであり、かつ、我々個々人にとっても有意義な取り組み領域であることは間違いなさそうです。

 最後に、もう一つ興味深いグラフを共有しておきたいと思います。以下は、米CBInsights社による最新データであり、広義のメンタルヘルス市場への主要VC投資の推移を表したものです:
Picture
出所: https://www.cbinsights.com/research/mental-health-funding-q1-2020/ 

 2020年1四半期に一気に投資額が増えているのがくっきりわかりますね。Post-Covid19の矛先として当該領域に早速動きが出始めていることが一目瞭然です。
0 Comments

2020年上半期<速報値ベース>の世界のフードテック/アグリテック投資概況の簡易考察

8/24/2020

0 Comments

 
 8月18日に、米AgFunder社より、2020年上半期の世界の主要市場におけるフードテック並びにアグリテック分野の投資額概況レポートが速報値ベースで公表されましたね。以下、同社のレポートからの抜粋です。
Picture
出所: 米AgFunder社:https://agfundernews.com/dealmaking-during-covid-19-upstream-and-egrocery-win-in-agfunders-2020-mid-year-investment-review.html「AgFunder AgriFoodTech H1' 2020 Mid-Year Investment Review 」より筆者が作成

主な考察としては以下が挙げられます:

  1. 「ポスト・コロナ」のテーマ性に沿った投資選別が出始めている<特に食品保存~流通> 
  2. 今年いっぱいは食と消費者とを結びつける領域が伸び続けそう<ネット小売り~デリバリー>
  3. 代替食材の開発はさらに投資資金が持続的に集まりそう<牛や豚の次なる多様なプロテイン>
  4. やはり日本の伝統食材の持つ機能性に多様な可能性がまだまだありそう


 これは正にCOVID-19後の市場を反映するものですが、全体として上半期は速報値(同社によれば、今後確定値で多少の上乗せの可能性あり)では、前年同期比で20%近く減少しています(上半期のデータが見当たらない為、便宜上2019年度全体額の半掛け)。特に、レストラン現場に係る領域が主流となる下流領域が最も顕著に減少していることが良くわかります(前年同期比約32%減)。同様に、件数ベースでも全体として前年同期比約14%減に対して、特に下流領域が同20%減ということで、外食控えが続くと予想される中、一旦踊り場を迎えつつあります。

 1.について顕著に伸びているのが、フードデリバリー系が多くを占めるeGroceryセクターです。一方、2.について全体で投資額2位のMidstream Technologiesに関しては、いわゆるフードロス(Food Loss)や食品残渣(Food Waste)といった問題に取り組む様々な技術開発をカバーする領域で、このあたりは引き続きPost-Covid19でも継続的な資金流入が予想されます。この領域は、食品残渣や食品ロスを活かした新たな食材開発やマーケットプレイスなどのような、既にここ2,3年活発に動きのある領域のみならず、食品保存やロジスティクス面での品質管理に的を絞った技術開発に今後新しい技術開発が進んで行く時期に差し掛かっていると考えます。例えば、食品保存の素材としての機能性を持つ酵素を活かした技術開発は既に水面下で繰り広げられており、それらから具体的な製品・サービスの試作等が年後半~2021年以降徐々に台頭してきそうです。このあたりは日本国内にも有数な技術を保有するスタートアップや中堅企業が存在しておりますので、この領域で「日本発」の可能性が十分ありそうです。これは、4.の点にも共通していることでもあります。この領域は日本からも有能な技術が水面下で隠れており、2021年には少なくともそのうちの1社くらいは欧米市場で認知度が上がることを期待したいです。

 さらに、金額ベースで3位のInnovative Foodはいわゆる代替蛋白質の研究開発を含むセクターですが、Impossible Foodsが最大規模の$500Mの投資を集めており、続いてMemphis Meatsの$161M、Nature's Fynd (旧社名Sustainable Bioproducts LLC - ビルゲイツ、アマゾンのジェフベゾズ、元ニューヨーク市長のマイケルブルンバーグ、ヴァージングループのリチャードブランソン等が出資)が$80Mと続いています。あと1,2年はこの領域は粛々と投資が継続されていくと予想されますが、2021年は代替豚肉(Alternative Pork)の試作品から消費者向け商品が生まれそうですね。New Age Meats社は先日大型投資をクロージングを果たしており、これから本格的な商品開発から生産に漕ぎ着ける時期に差しかかかっています。
Picture
出所: 米AgFunder社:https://agfundernews.com/dealmaking-during-covid-19-upstream-and-egrocery-win-in-agfunders-2020-mid-year-investment-review.html「AgFunder AgriFoodTech H1' 2020 Mid-Year Investment Review 」

 また、今回注目すべきは、Innovative Foodの部門においては、日本からインテグリカルチャー社($7M)とDAIZ社($6M)が16位、17位タイにランクインされていますね。金額規模はケタが違いすぎますが、それは、開発フェーズによるものですから、これから2,3年かけて彼らの進捗が注目されます。

 尚、投資全体の年度別推移ですが、以下のグラフの通り、昨年と一昨年の水準にはやや今年は及ばない可能性が高いですが、これから残された4か月間、果たしてこのCOVID-19がフードテック~アグリテック分野への投資がプラスとなるのか、マイナスとなるのか、様子を見たいところです。 

Picture
出所: 米AgFunder社:https://agfundernews.com/dealmaking-during-covid-19-upstream-and-egrocery-win-in-agfunders-2020-mid-year-investment-review.html「AgFunder AgriFoodTech H1' 2020 Mid-Year Investment Review 」

 少なくとも、米国側では、ポスト・コロナで投資が一辺倒に冷え込む気配はなさそうです。フードテックの上半期時点での概況を鑑みれば、選別色は一時的には強まりそうですが、いわゆる「Post-Covid19」のテーマ性と我々地球人にとって生きていくために必要不可欠な「食の安全性」を担保するサービスやアイディア、技術には惜しみなくベンチャー資金が流れ込んでいくと思われます。

 尚、国別によるフードテック/アグリテック・スタートアップの投資額において、日本が全くランキング外である点は今年も続いているということです。米国($4.9B、293件)を除く順位では、中国($1.2B、24件)、インド($619MM、76件)、イギリス($373M、64件)、韓国($178M、3件)、インドネシア($174M、14件)、シンガポール($157M、22件)と続いており、未だ日本のスタートアップは内弁慶なんだなぁと、つくづく思わされます。
 
 詳しくは、別途改めて考察を投稿する予定です。
0 Comments

決定分析 ("Decision analysis")を用いたベンチャー投資について

8/12/2020

0 Comments

 
Picture
写真提供: Scott Halleran/Getty Images,  https://boston.cbslocal.com/wp-content/uploads/sites/3859903/2016/05/wade-boggs1.jpg  

「ベンチャーキャピタル投資」とは、“創業間もない会社で、かつ、短期的な時間軸である程度の限られた時間軸で成長カーブを描く可能性が描けやすいベンチャー(これを、ベンチャーの中でも区別する意で暗黙の了解で"スタートアップ"という表現をする気がします)へ直接投資をして概ね5年から7年前後以内に現金化をする取引”で概ね正しいかと思います。筆者も以前は日本とシリコンバレーとでベンチャー投資に従事をしておりましたが、このような認識です。現在はスタートアップ側の立ち位置となっていますが。

 そんなベンチャーキャピタル投資の世界は、主に米国シリコンバレーで20世紀後半に一定のモデルが最初に出来上がりましたが、そのモデルとは、主に起業経験(成功したかしてないかが重要ではなく)を積んだ者がその経験を活かして次なるスタートアップに投資を行うべく、少人数でファンドを立ち上げて自分達の目利きの効きやすい領域に絞って①「少数の投資先」に投資を実行×「一発の満塁ホームラン」でファンド全体のパフォーマンスを上げる、という構図がシリコンバレー等では主流とされてきています。

 一方、日本のベンチャーキャピタル投資の世界では、どちらかと言えば、地頭は賢いが起業経験は皆無にほぼ等しいコンサルティング出身者や金融業界出身者がファンドを立ち上げて目利き力に限界がある分、②「多数の投資先」に投資を実行×「数本の二塁打」でファンド全体のパフォーマンスを上げる、という構図が主流ですね。もっと細部まで語り始めるとそれだけで一つの投稿が成り立つくらいですので、本稿では割愛しますが。要は、プロセスの中身も①の集団とは大きく異なるということです。

 さて、しかしながら、実は、上記①の「シリコンバレー・モデル」を成功裏に果たせているファンドは、本家のシリコンバレーにおいてもごく一部の勝組=Tier 1及びそこから独立派生をしたTier 1.5~2くらいしかないと、米シリコンバレーのVC関係者も考えているようです。米CB Insights社によれば、全世界の主要VC約2,000社中、72%がユニコーン企業へ1社投資出来たか出来ていないかであるのに対して、ごく一部のファンド群のみが各々10社や20社ものユニコーン企業への投資を、いわゆる「後追い」的に既に成功確度が高まった段階で投資に参加するのではなく、右も左もまだわからないアーリー段階から投資を実行しています。以下は、2019年5月時点での欧米ベンチャーキャピタルファンドのアーリー段階(~シリーズA)迄にユニコーン企業へ投資を手掛けられた件数の上位リストですが、大体上位を占めるの著名なVCばかりであることがわかります:
Picture
出所:「Unicorn Hunters: These Investors Have Backed The Most Billion-Dollar Companies」https://www.cbinsights.com/research/best-venture-capital-unicorn-spotters-2/

 また、ユニコーン企業へ「アーリー段階から投資を遂行した」投資ファンド上位リストを見ると、老舗VCのSequoiaやAccelやアクセレレータで今やトップと見なされるYCをはじめ、いつも聞き慣れる「超Tier 1」ばかりです。

Picture
出所:「Which Venture Capital Firms are Best at Spotting Unicorns Early?」https://www.cbinsights.com/research/billion-dollar-startup-venture-capital/

 つまり、どれほど起業や社内ベンチャー、新規事業開発等の関連性のありそうな実績や投資センス、人的ネットワークを通じた情報網を以てしてもそう簡単に「経験」と「感」でユニコーン企業≒満塁ホームランを当てることは至難の業であるということが、客観的なデータや実際に米国VC関係者と話していても明らかになりつつあります。

 そうした中、今尚米国でも新規VCファンドが続々と立ち上がり続けています(但し、3月以降はCOVID-19の影響をもろに受けており、よほど名の知れ渡るファンドやGPを除いてセカンド・クローズが中々出来ない状態)。こうした「第1号ファンド」を創設し、運営責任を任されるいわゆるGPとなるキャピタリストの取るスタンスは、より前述の②「日本的」な「多数に投資をし、あまり1社に大量の資金を投入せず、複数の好打を出来る限り着実に確保する」概念にほほ類似する投資アプローチを掲げるものが徐々に浸透してきている模様です。もちろん、各VCファンドの投資領域によってそれぞれの業種特有のリスクの大きさや時間軸の長短があったり、投資候補先スタートアップへのアクセス権限というか、情報の非対称性からくるソーシングパワーの有無や大小といった定性的な要素もあったりしますから、一概には言えませんが、バイオやモビリティ等といった一部の業種を除けば、概ねこうした投資スタンスが増えてき始めて来ている可能性の高い点は何気に興味深いものがあります。

 そこで実際に、ここ1年以内に米国シリコンバレーで第1号ファンドが成功裏に立ち上がった米国VCのGPと話す中で出てきたのが、今回触れる「決定分析~Decision Analysis」を用いた投資先スタートアップの選択プロセスです。

 この決定分析/Decision Analysisの概念については、二項分布やReal Optionにも通じるような印象で、既にその原型は1950年代に生まれたゲームの理論と言われており、主に不確実性の高い要素と対峙することの多い業界(例:製薬、石油・ガス、金融工学、等)を中心に実用されてきています。昨今では、AIやマシーンラーニング、データマイニングなどの分野で、予測モデル構築、意思決定分析・最適化、分類問題の解決等で幅広く活用されているようです(**)。

 このように、元々はベンチャー投資とは違う分野のツールとして専門家や実務家の間で活用されてきたDecision Analysisですが、ベンチャー投資界隈でもこの概念を投資判断に活かす発想が2010年代に取り上げられ始めました。2012年頃に米シリコンバレーの中堅VCの一つであるULU VenturesのClint Korver氏の提唱が一つのきっかけとなり、それが次第に浸透し始めていきました。尚、ここで簡単にご紹介をする事例はKorver氏によるこちらの記事を引用させて頂いていますので、詳しくはそちらもご確認下さい。

 さて、基本的な意思決定プロセスは以下のような流れで概ね正しいかと思います:

  1. 投資前リスク評価段階~フェーズ1 <初期段階を乗り切れる可能性>
  2. 投資前リスク評価段階~フェーズ2 <"キャズム"を飛び越えて乗り切る可能性>
  3. 投資前リスク評価段階~フェーズ3 <対象市場全体で成功をおさめる可能性>
  4. 各々のフェーズ結果の感度分析~シナリオ分析
  5. 4. の各々の結果シナリオとなる投資倍率の加重平均値の算出
  6. 5.の加重平均値の合計値の算出<Probability Weighted Multiple-On-Investment>。この最終値がファンド独自に取り決めた投資可否の判断基準をクリアするか否かを照らし合わせ、その上で包括的な観点から鑑みて最終意思決定。

 次に、上記の1~6の各フェーズについてざっと触れてみます。尚、このケースでは、それぞれの評価段階における指標として、以下の4つを掲げていますが、ここは如何様にも変更してしっくりくるものを使用して良いかと思います:

A.「市場性<Market>」
B.「製品(もしくはサービス)<Product>」
C.「創業メンバー/チーム<Team>」
D.「財務関係<Financial>」


の4つの評価対象項目を設けています。これらのA~D一つ一つに関して、それぞれ思考錯誤しながらさまざまな可能性について想定シナリオを描きながら議論をします。その結果、このケースでは80%、80%、95%、95%という数字に至ります。それを加重平均すると、このケースでは、まず<初期段階を乗り切れる可能性>が58%と算定されました。つまり、同時に「初期段階すら乗り切れないであろう可能性」が42%となる判断ということですね。
Picture
 次に、同じロジックで、「初期段階を無事乗り切ったうえに、さらにスタートアップの大半がズッコケる”キャズム”という深溝をうまく乗り切れる可能性(VCやシリコンバレー界隈に関わる面々は良くご存じの、Jeffery Moore氏の伝説的な著書「Crossing The Chasm」のアノChasm)」について、それぞれの要素に関して議論し、その結果、<"キャズム"を飛び越えて乗り切る可能性>は24%となりました。それは同時に、「多くの優秀なスタートアップ同様にここも残念ながらキャズムを飛び越えられずに消えてしまうであろう可能性」は76%という予測になります。
Picture
 同様に、キャズムを無事乗り切り、いよいよターゲットとする市場全体で目標を達成出来る可能性に関しても同じステップを経る結果、<対象市場全体で成功をおさめる可能性>は37%、市場はとれるものの所詮ニッチに終わってしまう可能性は63%、という結果が導出されます。
Picture
 以上の3段階のプロセスを経た結果、ひとまずは次の分布<✯>が完成します:
Picture
 以上の3段階のプロセスを経たのち、さらに細かく事業モデルや売上高、市場シェア、粗利率、利益、マルチプル、希薄化等、投資に係る思い当たる限りの不確定分子について抽出をし、各々について議論をしたのち(いわゆる、一般的な投資デューデリジェンスで行われるプロセス)、各々の分子に係る<Low~Base~High>の感度分析を行うと、以下の結果が一つの例えとして導き出されます:
Picture
 これらを加味して、再び先のDecision Analysis<✯>に戻り、その完成形である次のシナリオ分析が導出されます。ここには上述のプロセスを経て導出された売上予測や投資Exit時点での想定企業価値、そして投資マルチプルが加えられてます。それらを最後に加重平均化ものを足し合わせて、加重平均化された投資マルチプルの合計が算出される、という一連の投資検討デューデリジェンス・プロセスの流れを経ることになるわけですね:
Picture
出典:「Applying Decision Analysis to Venture Investing」 URL:https://www.kauffmanfellows.org/journal_posts/applying-decision-analysis-to-venture-investing
ULU Ventures・Clint Korver氏講演:https://www.youtube.com/watch?v=Wi3PiZsIfBU&feature=youtu.be  


 さて、この投資候補企業の場合は、Clint Korver氏によれば、「定量的な結果はファンド内の投資可否の判断基準となるPWMOI値の×10倍はやや下回る数値結果(×9倍)だが、あくまで投資判断を下す上での客観的な定量分析の結果であり、投資を決める要素のもう片方である定性的な判断を包括的に鑑みた結果、この会社に投資を決めた」そうです。

 私見: 少なくとも言えることは、こうした段取りで投資デューデリジェンスを経ることで、投資判断に至るまでのある程度のしっかりとした定量的+定性的なロジックを残すことで、その後の結果(投資成果)に対してのちに客観的な検証がしやすくなる点は非常に良いのではないかと言えそうですね。

 話を最初に戻すと、一部のTop Tierのファンド以外に爆発的なヒットを生むことが難しいという現実において、経験則に依存しすぎた直観的な判断や、まるで間接金融のように資金繰りや財務予測で決めるような「VC投資とは思えないような」投資の決め方でやみくもに投資先を決めるのではなく、こうした定量的+定性的な手法をも取り入れながら、投資件数をある程度多く増やしつつ、全体のヒット率を向上させる努力を図る、というスタートアップ投資スタイルは、特にまだ実績の少ない初期ファンドにおいては有効な策と言えそうです。
 
 ところで、世の中のVCファンドでこうしたプロセスをデューデリジェンスで取り入れるファンドは果たしてどれくらい存在するか、非常に興味深いですが、先述の通り、既に米国で最近立ち上がったアーリーステージのベンチャーファンドにおいてはこのアプローチが少なくとも一部では取り入れられています。日系VCでは今も尚、投資検討を1カ月以上続けたのち、「今後6ヵ月の資金繰り状態の予測値を鑑みて投資可否を決める」という「ベンチャー投資」なるファンドとして実に不可思議な理由で投資を決めるファンドが一部存在するようですが、出来れば、こうしたDecision Analysis/決定分析のような手法をはじめとする各種手法を取り入れて、スタートアップや起業家にとっても納得のいく投資決断とその判断理由を下してもらいたいものです。
備考: https://www.amadeuscapital.com/entrepreneurs-make-the-best-tech-vcs-or-do-they/・https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20140206/535168/・(**)https://www.itmedia.co.jp/im/articles/0504/26/news115.html 
0 Comments

先行きの見通しにくい苦境の今だからこそ、その役割が試されるベンチャー投資(と、それを支えるLP出資)

8/6/2020

0 Comments

 
 まず初めに、以下のグラフは大変興味深いことを示唆している気がします。これは今年(2020年)6月8日、調査会社であるPreqin社の日本法人が、一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(以下JVCA)のサポートで集計し公表した、国内のVCファンド(53本)を対象としたパフォーマンスベンチマーク調査からのデータの一部です。本調査対象となる国内で2010年以降設立されたVCファンドのネットIRRを表しています。

国内主要VCファンドのネットIRRの推移(*)
Picture
備考(*):Preqin-JVCA国内VCベンチマーク調査(2019年12月実施)より筆者が加筆修正

 このデータによれば、2000年から2015年の間に設立された新規VCファンド中、2010年から2014年に設立されたファンド群のネットIRRが概ね15%以上となり、総じてパフォーマンスが良好であるのがわかります。この要因関する一つの見方として、2008年に起きた未曾有の世界金融危機(リーマンショック)で2010年代前半まで混沌とする世界経済が続く時期に設立されたファンドが、相対的に割安な(適切な❓)バリュエーション水準で投資を実行することのできる環境にあった点が、総じて優れたリターンに繋がったのではないかと見られています(※本当のボトムは2008年~2010年ではないかと思いますから、必ずしも説得力があるとは言い切れませんが…)。すなわち、悪環境下がスタートアップにとってもベンチャー投資にとっても理想的なタイミングかもしれないということです。

  それはさておき、今年2020年に日本を含めて一気に世界的に加速した未曾有のCOVID-19(コロナウイルス)によって、これまで比較的堅調であった国内スタートアップへの投資環境が一挙に冷え込んでしまいそうな気配です。特に、ロックダウンが発令された4月以降が正に社会全体としての焦燥感が芽生え始めた時期にあたると思いますから、これから集計公表されるであろう2020年第二四半期の数字に、資金調達の一時停止や当初の金額からの大幅減額等の何らかの影響が数字に反映されてくるのではないかと想像しています。

 これは回避すべきであり、COVID-19の影響で我々の生きる社会がこれから大きく変貌を遂げようとする今こそ、スピード感を持って新しい技術やサービスが成功裏に社会実装を果たす役割をスタートアップや起業家に委託するべきであると考えます。そもそもこうした逆境の時であるからこそ、スタートアップの存在意義が試される時期なのであり、従って国としても全体的にそうした機運を高めることが大切であって、今後、官民が一体となって様々な角度からスタートアップが立ち上がらいやすい環境を今まで以上に整備していくことが重要です。
 
 以下は、今年の第一四半期の国内主要ベンチャーキャピタルによる投資額及び前年同期比です。各フェーズごと(シード、アーリー、エキスパンション、レーター/グロース)に分けてみると、前年同期比との単純比較ではシード段階への投資が22%下落しています。一方、エキスパンション、レーターステージが大幅に伸びています。ただし、これらの数字はコロナの影響がまだ比較的軽微な時期のもの(1~3月)でしたから、実際にコロナの影響がより大きくなっていると思われるのは、ロックダウンが発令された4月以降である可能性が高いので、恐らく第二四半期の数値はさらに如実に数字に反映されている可能性が高いと思われます。ただ、これらの数字だけを見ても、昨年末から年明けにかけて次第にコロナの影響への懸念が出始めていたことを思い起こせば、不確実性要素の高いシード段階を投資を最終的に回避をしてある程度見通しの見えやすい段階に入った<エキスパンション>から<レーター/グロースフェーズ>へVCが投資を集中し始めていることが伺えます。これがあまりにも極端になってしまうと、スタートアップからの新しい事業やサービス、テクノロジーが生まれにくい環境を作りかねないと思います。

国内主要VCによる投資金額・四半期ベースの前年同期比(**)
Picture
出典(**):一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター 「2020 年 第 1 四半期 1 月 3 月 投資動向調査(2020年6月8日公表)」 より筆者が加筆修正

 ポストコロナ社会を見据えて様々な新技術や新サービスが、スタートアップを中心に出始めてくると思います。首都圏をはじめ、全国から相次いで新しく生まれてくるであろうこれらのスタートアップが必要とする資金供給が急速に冷え込まないこと、滞らないことを願っています。なぜなら、こうした時期に生まれてくるスタートアップこそが、過去の経験則からもその後大きく伸びて我々の日常生活に溶け込むケースが多いと思われるからです。

 一方、2008年9月に起きた"リーマン・ショック"前後に創業したスタートアップやVC投資に関する検証をすると、やはりこの「総悲観期」にこそ①優れたスタートアップが生まれやすく、また②ベンチャー投資のパフォーマンスが挙げられやすい環境にある、という傾向がわかります。2007年から2010年の不況真っ最中、DropBox(2007年)、Airbnb(2008年)、SlackやUber(2009年)、Instagram(2010年)等が、北米シリコンバレーを中心に誕生した時期でもあります。日本でも例えばUzabase(2008年)、ラクスル(2009年)、Wantedly(2010年)等が各々創業された時期ですね。さらに、日本の場合は東北大震災<3.11>にも直面し、我々にとっては2011年にも再び混沌とした時期を経験しますが、その頃に創業されたスタートアップといえば、創業後わずか3年で2014年12月に上場を果たしたクラウドワークスがあります。

リーマン・ショック直後+東北震災後に創業した主なスタートアップ
Picture
備考: 公開情報を基に筆者が作成

 今、With/Afterコロナなるテーマが注目と期待をされています。このテーマは、噛み砕くと結構幅広く様々な業種や技術領域に渡ります。想定されるものでは、遠隔仕事や遠隔治療で注目されるHRテクノロジーやデジタルヘルス、宅配サービスの普及化の加速に伴ってフードテック(デリバリー領域~食品保存技術、フードトレース等)やロジスティクス(ソフトウェア技術)、さらにはモビリティ(無人配達…まぁ実用化はまだ先でしょう)、それらに横断的に関わる様々な技術(AI、マシーンラーニング、ロボティックス、5G)、などなど。これほどの幅広い領域に潤沢な事業資金が賄われるためには、今こそ、ベンチャー投資に多くの余剰資金が循環されることが必要です。正にベンチャー投資の役割が大いに試される時期にあると思います。

 あのY Combinatorの創始者のPaul Graham氏が2008年10月に寄稿した貴重なブログ「WHY TO START A STARTUP IN A BAD ECONOMY」でも触れていますが、不況期真っ只中だった1970年代に生まれたのが、アップル、マイクロソフト。彼らがもしも1975年に最初のビジネスに着手をせず、景気の見通しが良くまでもう数年待機していたならば、恐らく既にタイミングは遅すぎたかもしれないとの見解もあります。さらに、"So for any given idea, the payoff for acting fast in a bad economy will be higher than for waiting."(≒「どのようなアイディアであれ、悪い経済状況下で迅速に行動した際の見返りは、待っている場合よりも大きいであろう」)という言葉も納得できます。今が正にその時期にあると思いますが。
 参考までに、米国の主要ベンチャーキャピタルの直近2020年6月末第二四半期までの投資状況についてみてみると、以下の通り、金額ベースでは第一四半期と比べてほぼ横ばいで推移しており、かつ前年下半期と比べて遜色のない水準を維持しているものの、件数鵜ベースでガクンと鈍化している様子がうかがえます。特に、レーターステージは比較的横ばいであるのに対して、エンジェル/シード及びアーリーステージが最も影響を受けている模様です。

参考:
http://paulgraham.com/badeconomy.html・
https://news.crunchbase.com/news/lessons-from-2008-how-the-downturn-impacted-funding-two-to-four-years-out/ 
北米主要VCによる四半期ベース投資額推移(***)
Picture
出典:(***)全米NVCAレポートより抜粋

 果たしてこれが一過性にすぎないのか、それとも今年いっぱいはこの状態が続くのか、ここ1カ月間、米国側のシリコンバレーの比較的新しいベンチャーキャピタルファンドの運営責任者と話す限りにおいては、彼らのところに投資を受けたいと相談に来るスタートアップの母数件数が、コロナ以降は減っている感覚はあるそうです。また、彼らのような第一号ファンドを組成したベンチャーキャピタルにおいては、セカンドクローズ等、さらに追加で事業会社や金融機関等からのLP出資を募っているところが少なくない中、さすがにコロナ以降は基本的に出資の会話がペンディングとなる事業会社が出始めているそうで、こうした環境においては、自ずと新規投資も慎重にならざるを得ないのかもしれません。もうしばらくは様子を見てみる必要があります。

 ところで、国内VCファンドに関する今年の第一四半期の新規設立ファンドの最新データによれば、以下の通り、事業法人と銀行、信金/信用金庫並びに保険会社を中心に320億円がLP出資を行っています。これは、全体の71.5%を占めています。2015年以降、UberやAirBnBが実証したように、従来の業界垣根や参入障壁の低下による競争環境の激化とイノベーションの加速度化してきていますが、こうした環境下、事業会社によるオープンイノベーションへの取り組みが少しづつ活発化してきています。こうした流れの一環として、スタートアップとの接点を構築する一つの手段としてのベンチャー投資ファンドへのLP出資も引き続き堅調に推移しているものと見られます。が・・・

国内新規設立ファンド出資者概要(****)
Picture
備考(****)一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター 「2020 年 第 1 四半期  投資動向調査(2020年6月8日公表)」 より筆者が加筆修正。当該調査の回答に応じた15社のみ対象。

 ・・・しかし、個人的にはこの事業法人による投資金額は、彼らの資金余力を考えると実に非常にまだまだ小さい数字に思えてしまいますが、如何でしょうか??

 米ブルームバーグ社によれば、日本の上場企業の2019年8月末時点の関係当局への届け出に基づく手元現金は506兆4000億円だそうです。この数字は、過去最高水準であり、こうした上場企業の余剰資金を減らすことを公約の一つに掲げていた第二次安倍政権発足の2013年3月頃と比べてもほぼ3倍に膨らんでいる模様です(*)。2020年6月末現在、日本の上場企業数は3,824社ですから、単純に計算をすると1社あたり実に1,324億円という計算になりますね(**)。この数字を踏まえると、先の国内VCへのLP出資の金額はまだまだ増える余地はあるのではないかと考えてしまいます。。。

 一般的に、事業会社にとって手元現金は将来の経営上の不足の事態等への万一への備えとしては有効ですが、株式市場に上場する事業会社の場合、投資家は①成長に向けた投資に回すか、②自社株買いあるいは③配当支払として株主に還元することを強く求めてくると考えられます。ゴールドマン・サックス証券の試算によれば、国内上場企業の自社株買いは2018年公表ベースで約600億ドル(約6兆3700億円)に達した模様です。一方、仏のソシエテ・ジェネラル証券によると、同配当支払いも2019年9月上旬時点で8兆4000億円と過去最高水準(当時)に上っていたようです。さらに、ブルームバーグ社によれば、国内上場企業による2019年9月時点で公表済みの企業の合併・買収(M&A)の総額は約950億ドルと、前年同期の約2150億ドルを下回っています。

日米の企業部門のISバランス比較
Picture
出所:財務省財務総合政策研究所総務研究部「日本企業の現預金保有行動とその合理性の検証(PRI Discussion Paper Series (No.18A-05))2018年3月」より抜粋
 
 これほどの余剰資金を持っているのであれば、自社株買いや無駄な備え資金であろう手元現金のうちのもう少しだけでも良いので、是非とも次世代の産業創造を担うスタートアップや起業家へリスクマネーを供給していただきたいと切実に願うばかりです。それが、マクロ経済全体の活力源となることで自社にとってもプラスとなり(ミクロ)、それが最終的には自社の経営/事業環境にもプラスに波及するというシナリオを描けると思います。
 日本企業による高い現預金保有については、色々と検証もなされていますが、少なくとも、金額の多寡はさておき、もう少し日本の事業法人におかれましては、何も使用していないその余剰資金を、(M&Aや研究開発に回さないのであれば)自社の成長戦略を見据えてでも、あるいはパッシブでも良いので、これから生まれてくる(であろう)創業~シード段階を含むスタートアップにどんどん資金を循環されてほしいと思います。

 国内外のベンチャー投資環境はやや減速運転状態が続く模様ですが、こうした混沌の時期であるからこそ、起業家やスタートアップへの出資が必要とされています。また、今後もさらなるベンチャー投資資金が潤沢となるよう、ベンチャーファンドへのLP出資も進むことを切実に願っているところです。

備考:(*)https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-09-02/japan-s-companies-are-sitting-on-record-4-8-trillion-cash-pile (**)https://www.jpx.co.jp/listing/co/index.html, https://100man1oku.xyz/archives/1159/#%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%B8%8A%E5%A0%B4%E4%BC%81%E6%A5%AD%E6%95%B0%E6%8E%A8%E7%A7%BB 
0 Comments

    Categories

    All

    Archives

    February 2022
    November 2021
    January 2021
    November 2020
    September 2020
    August 2020
    July 2020
    March 2020
    February 2020
    January 2020
    November 2019
    October 2019
    June 2019
    May 2019
    February 2019
    September 2018
    December 2017
    October 2017
    August 2017
    July 2017
    November 2016
    October 2016
    April 2016
    September 2015
    July 2015
    May 2015
    March 2015
    February 2015
    January 2015
    December 2014
    November 2014
    October 2014
    September 2014
    August 2014
    July 2014

    RSS Feed

2013‣2022 Wildcard Incubator.   All Rights Reserved.  
Home
About
Team
Contact
Blog