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【※米国シリコンバレーから~現地レポート】勃興する食+“農”と地球持続性テーマへの投資トレンド~NOSH<“Natural-Organic-Sustainable-Healthy”>市場

9/2/2018

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(写真:今年2018年5月米サンフランシスコにて開催された大型フード+テック系カンファレンスでの光景。筆者撮影)
<約200日ぶりのブログ更新となります・・・>

₋ 米Wildcard Incubatorは約一昨年前から、フード・サステイナビリティ分野、AgTech(農業IT)、バイオサイエンス分野、FinTech関連、並びに"シビック・テック”なる分野(≒コミュニティ・インパクトとの連携)に主に力を入れ始めており、我々がご縁を頂く日本のスタートアップやその他米国プロジェクトも当該分野にかかわる皆様とのご縁を多くいただき始めています(もちろん、その他の分野の起業家の皆様からのご相談・米国ローンチ支援も随時受けています!)。元々Wildcard Incubatorの主要メンバーがそれぞれ注力する分野であることから(熊谷=フード・AgTech系/モバイルテック、Charles=Public Policy/Blockchain/Civic Tech等)、このような流れにシフトしてきているという経緯もありますが、折しも北米シリコンバレーにおいてもこれらの領域が2018年現在、既に日系メディアで持て囃されるAI、フィンテック、マーケットプレース系(Ex. Uber, AirBnB, ,日本のメルカリ、その他)といった産業領域と並び、今(そして今後3-5年)アカデミア(学会)から経済産業界(大手事業会社やスタートアップ)ならびに米国行政府まで、それぞれの関連当事者が精力的にイノベーション創出に取り組む分野となっています。そこで、今後、時間を見つけて(言い訳・・・)Wildcard Incubatorの注力する各々分野に関する米国シリコンバレーの現地トレンドの詳細は別途詳しくご紹介・検証する機会を作りたいと思います。本稿ではまず、主にFood/Sustainability(食+農/地球持続性)の分野に絞って米国シリコンバレーの現況・潮流について簡単に記載をしておきたいと思います。尚、これらの分野に携わると概ね重なることの多い農業テック関連については、別途詳しく記載致したいと思います。

 当該「Food, Nutrition」市場に、テーマ等で重なる要素もある「Biotech, AgriTech」分野をも併せた場合、2014年以来ここ4,5年の間でVC資金は1245%上昇したと試算されています(注1)。このうち、ハードウェア投資を多く伴うであろうAgTech分野への金額が最も顕著で15億ドルもの資金が主要な案件だけでも160件の主要ディールに対して2017年中に流れ込んだと見られます。これらは、2007年の当該数値(31案件、200百万ドル)と比べれば、いかにここ数年で急速に拡大しているかが如実にわかります。ちなみに、フード、農業テック分野全般を通じた代表的な案件といえば、日本のメディアにも既に多く取り上げられていると思われますが、培養肉のImpossible Foodsが75百万ドル(≒80億円)のシリーズA投資(同社累計資金調達総額<デット+エクイティ>:273.5百万米ドル)、独自の”ピー・プロテイン(エンドウ豆等に含まれるたんぱく質を抽出したもの)”を活かした代替ミルクを開発製造販売し、乳製品(牛乳)業界に革新をもたらすことを目指すRipple Foods社による65百万米ドルのシリーズC、日本のソフトバンクが大型投資をしたことでも日本のメディアに取り上げられた、室内農業のPlenty社による2億米ドルものシリーズBファイナンスの実施等が挙げられます。もう、単衣に日本のスタートアップ投資とは規模が違いすぎて(そもそも日本にはこうしたリスクマネーはあり得ない)笑っちゃいますね。

 背景にはさまざまな経済的、社会的、人間の価値観的(≒宗教観的)、政治的(?)要因が交錯しており、一概に「◎×だから!」と勝手に断言してしまうのは案外酷ですが、一つ言えることは、こうした"Food 2.0"系に積極的に事業投資を行い始める米国食品業界にとって、成長性がここしばらく乏しい当該業界にとっての起死回生の原動力としてこの流れを最大限に活かしたいとの思惑があることは確かです。現に、2009年から2014年頃にかけて、米国の食品業界における既存大手ブランド群の売上が191億米ドルも減少したと言われます(注4)。さらに、全米の食品業界の約75%の成長が主に中小ブランドの寄与によるものと考えられており、こうした背景を元に、大手食品ブランドが今”焦り”を感じているといったところでしょうか(注5)。これに拍車をかけるように、今いわゆるミレニアル世代と、そのさらに一世代若い"Generation Z”なる世代がこれからまさに政治、経済、社会への影響力を増していく中、彼らの消費スタイル・価値感といったトレンドをもはや無視できないというのが現況と言えます。

 昨秋からほぼ1年間、Wildcard Incubatorが力を注ぐ有望ポートフォリオの一つである日本発スタートアップ・BioApatiteのCOOとして北米での初期的営業から本格的な事業開発、主要アカデミアとの共同研究に至るまで、多くの時間を費やしていますが、こちらでは多くのシリコンバレーの有識者や大手米国事業会社の担当者、インキュベータ、アカデミアとの貴重なご縁を構築させていただいており、彼らを通じて様々な学びの機会を得ています。現在、シリコンバレーにとどまらず(というか、むしろ)、東海岸~中西部の大手コンシューマー・ブランドや食品大手米国企業とのディスカッションを実施中で、こうしたビジネス上のやりとりを通じて様々なことが見えてきます。お陰様で、日本では全く協力姿勢を示さない学会を尻目に、こちら全米のトップクラスの研究チームから彼ら(BioApatite)との共同研究にご協力頂ける運びとなり、既に米シリコンバレーと日本のスタートアップ・エコシステムの差に改めて痛感すると同時に、「こっちに実際に来て積極的に動く」ことの大切さを日々体感しています。

 まず、そもそもこうしたFood・Sustainability分野に米国(とりわけシリコンバレー)が注目をし始めたきっかけとしては、2006年‐2010年頃に勃興していた、クリーンテックをはじめとする代替エネルギー分野へ積極的にVCマネーが全世界で流入していた時期にまでさかのぼるかもしれません。その頃から、いわゆるシリコンバレーのテック業界の起業家経営者の大御所達(マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、等)が、こぞってエネルギー分野に着目し始めた時期であり、投資コミュニティ側ではKhosla VenturesのVinod Khosla氏をはじめ、日本でも猫も杓子もクリーンテック分野への投資ファンドを次々に立ち上げた頃です(今やその成果は日本も本家シリコンバレーも・・・💦)。荒手に検証してしまうと、世の中が多かれ少なかれ、「地球環境保全」「持続可能社会」というものに意識が大きく傾き始めたのがこの時期であると言えます。恐らく、この時期に、アメリカ社会と共に、シリコンバレーの投資マネーが地球環境、持続可能のエコシステム構築のイニシアチブに潮流が流れ始めたのではないかと感じます。その延長線上で、より身近な「食」という部分にまでフォーカスが当たり始めた、という具合。前述の、「自分の価値観を大事にするミレニアル世代の台頭」も後押しすると思います。そして、その「食」に関わるチェーン<食物の生産、加工、包装パッケージング、流通、販売、食品残渣~>それぞれの細部において様々な新しいアイディアが、メディア等でも大きく取り上げられているとおり、次々に出現し始めるような潮流に今我々はいるのだと思います。

 一方、2000年代後半には、FacebookやYouTubeの成功をきっかけに、レストランの口コミサイトYelp(≒ぐるなび)や、ソーシャルゲームのZinga等、今度はシリコンバレーは「ソーシャル◎×▲」が勃興し、インターネット上で人と人とが気軽に情報を交換する世界が浸透し始めます。投資コミュニティもKPCBとAppleとがJVで設立したiFundや、同じくKPCBとFacebook、Zingaらが共同で立ち上げたsFund等、サンドヒル通り(シリコンバレーのVCが連なる、まぁVCのウォール街といったところ)もソーシャル系のファンドが勃興し、小回りの利く投資が主流と化します。そこに、2007年にiPhoneが世に発表され、今のスマホが次第に我々の必需品となっていきました。前述の「食」への意識の浸透と共に、こうした消費者のソーシャル化、アプリ主導型(無論、一概にアプリだけとは言えませんが。現地では、今尚、「お店で見て買う楽しみ」を追求する層もそれなりにいます。)の流れが都市圏を中心に出来あがっていく中、特に働き盛り+遊び盛りの都市圏ミレニアル世代の中では、「身体に良い、そして地球環境にも優しい食を、手軽に手に入れられる」ようなサービスを求め始めていき、その結果、総菜宅配サービスからミールキット、機能性食品のオンライン販売サービスといった、既にここ2,3年投資マネーがにぎわすスタートアップの登場を後押ししてきたように思います。そのサービスの多種多様性(+似通ったものばかりが最近は少なくない)と言えば、さすが、シリコンバレーといった具合。ただ、この領域では既に淘汰の段階に来ており、最近上場したBlue Apronをはじめ、「持続可能なビジネスモデルの信憑性」について、投資家はここ2,3年と比べてこれからはさらに一段と厳しい目を向け始めていますので、2019年以降は、食関連のビジネスもちょっとしたトレンドシフト(既存トレンドの淘汰+新しいものの到来)が起こるかもしれません。

 そして、2010年頃と言えば、(繰り返しますが)1980年代から2000年頃に生まれた世代と定義づけられていると言われる、いわゆるミレニアル世代がその政治/経済/社会的な影響力・発言力をつけ始めた頃ではないでしょうか。単純計算すると、上は30歳前後、下は(まだ弱冠)10歳前後となりますが、上限の30前後の層とは、前述のソーシャル系のスタートアップを先導する起業家層の年代と思われます。

 言うならば、①環境問題というものに社会全体の意識の振り子が傾き、②その社会におけるミレニアル層の市場としての重要性は増し、③そうした世代がスタートアップの起業家経営層の中心世代となってきた今、地球環境問題のうち、衣・食・住の「食」という最も身近な存在にフォーカスされる素地が固まってきたのがここ数年の流れではないでしょうか。そこに投資コミュニティも地球環境というテーマの延長線上でFood/Sustainability+Agtechという領域に着目し、それらの投資ファンドに新たなビジネスモデルを模索する既存の産業界(食品産業、一般消費材産業、農業関連業界等)がリスクマネーを投入することで、こうしたFood/Sustainability+AgTech分野へのVCファンドが今のように出来上がってきたという流れであるような気がします。

 ちょうど2011年頃にシスコのファッション業界とテック業界の業界間の垣根が崩れ始めて相互が関わり・交わり始めた頃、Wildcard Incubatorの同僚パートナーであるCharlesと共に彼が共同創業したSF‐FASHTECHと共に当該Fash-Tech業界関係者と関わり合いを持った時期がありましたが(ちょうどそのころ、日本のMUJIやUNIQLOが挙ってサンフランシスコ・ベイエリアに旗艦店舗を大々的に構えた時期)、その頃のFash-Tech業界の流れと今のFood/IT業界は類似するように見えてます。当時も、それまではあまりテック・ITの良さを活かしきれていなかったファッション衣料業界が、AmazonやZapposといった会社の成功事例を次第に意識し始めた頃でした。また、ZapposもVegas Tech Fundを立ち上げてコマース系の有望株スタートアップにVC投資をし始めたのもこのころ。当時のファッション・衣料品業界も既存ビジネス(旧来の店舗ビジネス)の成長鈍化と市場が求める新たな嗜好(ソーシャルメディアの活用、個々人の嗜好に合わせた販売方法、サプライチェーンの効率化/可視化/~、等々)への試行錯誤の壁にぶち当たる時期であり、今の食(+農…このAgTechの部分については別途お話する予定です)に纏わる新たな潮流と非常に似ている気がします。

 そこで、まずは「食」及び「持続可能/サステイナビリティ」分野へのVC投資について、ここ4,5年の概況を見たいと思います。各種データがいろいろと出ておりますが、概ね見えてくるのは、昨今のような盛り上がりを見せ始めたのは、2014年前後~であること。
 
以下は、ここ2,3年のVCマネーの「食・サステイナビリティ分野(※AgTechは除く)」への投資金額に関するデータのまとめとなります:
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米国シリコンバレーのフード系への投資トレンド
2017年(注2):
VC投資額:10.8億米ドル(前年比)
投資対象企業:99社(前年比87.8%増)
平均1件あたり投資金額:10.9百万米ドル(中間値:4.25百万米ドル)
M&A件数:136件(前年142件)

2018年5月末現在(注3):
VC投資額:13億米ドル
~ご参考:2008年投資額60百万米ドル、2013年同290百万米ドル、2015年同10億米ドル
投資対象企業:約50社(年率換算でほぼ100件のペース) 
~ご参考:2008年投資件数16件、同2015年139件
M&A件数:88件

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食+サステイナビリティ分野と主なテーマ・トレンド:

  実際に事業側の立場で投資家や事業会社と接していると、「食」に纏わるビジネスを今から始めるのであれば、やはり今は「代替プロテイン」「植物性栄養素材」が主テーマの一つである点がはっきり見えます。動物性肉・タンパク質の代替としての植物性肉・タンパク質の摂取を可能とするような新しい肉の開発が今、バイオやサイエンスの力を借りながら、精力的な開発競争がシリコンバレー一帯だけでも盛り上がっています。
 さらに、野菜やフルーツが元来持つ栄養素を活かそうとするサプリや、Smart Food(定義:“good for you, good for the farmer, and good for the planet/are highly nutritious, protein-packed, and climate-smart crops”)といった「人為的な食」の新規開発も今盛り上がっています。これらは、もうすでに様々なメディアに取り上げている通り。そこには、従来の食品業界と、サイエンス+バイオテクノロジーの分野が融合してきていることも確かです。

 こうした主要トレンドでいくつか勝手ながら少々気になるのは、シリコンバレーの良さでもあり、オチでもあるのですが、何でもかんでも「科学・テック」で解決できるとの信望に偏りすぎているように感じること。CRISPRに関しても、まだまだ研究が始まったばかりとはいえ、可能性と同時に様々な懸念事項も同時にフォーカスされ始めていることも事実です(注7)。自然の恵みと科学の力が相互で最大限に活かされる状態が一番理想的ですが、開発競争の行く末が好からぬ結果を招かないことを切実に願うばかりです(まぁ考えすぎだとは思いますが)。例えば、前述のSmart Food系の新しい高機能性・高栄養素のサプリ・食材を高らかに唄う様々なサービスが続々登場し、筆者も注目をするものも少なくありませんが、従来の野菜やフルーツと比べてどれほど栄養価が高いのか、その科学的な実証性に乏しいものが決して少なくありません。実際に食品会社やフード系スタートアップをクライアントに持ち、彼らの立場でFDAやUSDAと「機能性」「効用」といったテーマで交渉を手掛けた米国の元弁護士のお話を伺った際、今シリコンバレーや米国で消費者に普及する最近の流行りのFood 2.0系のCPG(Consumer-Packaged-Goods)の中には、科学的な実証性が非常に乏しいまま、あるい一定の水準をクリアすることでその効用を唄うものが決して少なくないそうです。その結果、米規制当局からの検閲が入ってしまって大幅な修正を余儀なくされるケースがあるとのこと。

 もう一つ気になるのは、例えば、こちらの生産者(食品生産会社+米国カリフォルニアの農業従事者家、等)と直接+間接的に会話を重ねるうちに繰り返し口にされることで、くっきり見えてくるのは、彼ら(生産者側)から見える今の「食(+農)投資勃興期」の問題点は、いろいろと登場してくるものが主にIT系のテクノロジー(AgTechに相当するもの・これらは次回に詳しく触れたいと思います)ばかりであり、そうした「テック」なものを得意としない自分達生産者にとっては決して使い勝手の良い、喉から手が出るような「ほしい」ものではないものばかりか、すぐには使い物にならないものばかりで、もう少し生産者側の「こっち(自分ら)の話をもっとじっくり聞いてほしい」との嘆きが根底にはあるというのも今のシリコンバレーの内輪的な森狩りと現実的にそれらを活かされるべき生産者側との”乖離”の実態のようです。いわば、テック業界側あるいはテック出身の創業者による発想で食や農の世界を改善していこうという機運があまりに強いが為に、対象市場の実情を知らないまま、表層的に「こうすればよくなるはず」的なアイディアとそれに連なる投資資金があまりに偏りすぎると、結果として(エネルギー投資がそうであったように)これら「食・農」関連のニュービジネスのどれもこれもが実を結ばずに終わってしますリスクが内包されていると思います。こうした試行錯誤は、まだ数年は続く可能性はあります。とにかく、食や農といった領域で新しい概念や手段を取り入れて行きながら実際にそれが経済先般に機能・浸透されていくには、ここ10年のシリコンバレーのトレンドである、「比較的少額投資で2,3年でスケールするような投資モデル」からのマインドセットから脱却して忍耐強く取り組んでいくスタンスが、特に「~7年の投資周期」が求められるVC投資業界では求められると思います。

 以下、注目に値するものから、つい最近新たに話題に上がりつつもまだコンセプト的に道半ばな印象で今後1年間の進捗を見守りたい(※ある意味競合として動向をしっかりと注視しておく必要のある・・・)スタートアップの事例をランダムに挙げてみました。

フード系スタートアップ事例:
ReGrained (www.regrained.com)
彼らは、我々とも共通メンターを通じた交友関係にあり、正に我々の取り組むスタートアップにとっての「お手本」的な存在ですが、米国内のビール工房での醸造プロセス中に発生する穀物残渣(いわゆる、食品残渣<Food Waste>として従来は有効活用されないまま廃棄等されていた貴重な資源)を再利用して、独自の製造プロセスで元来穀物残渣に残存する栄養価と共にその他の要素(水、酵母、ホップ)を加えた高栄養価(High-Nutrition)のスナックバーを開発製造するスタートアップ。当初は地元のローカルなオーガニック店やビタミンショップ系のルートを通じて販売をはじめながら、今ではWhole FoodsやSprouts Farmers Marketをはじめとする全米規模のオーガニック・自然食品チェーンに販売ルートを成功裏に拡大しており、今まさに勢いを増しつつあるスタートアップ。ミソは、彼らは、この再利用プロセスをRecycleとは言わず、”Upcycle”と称していることです。2012に地元サンフランシスコの大学経営学部のクラスメート2名で創業し(中心的人物であるDanielは実家がビール業界に携わる)、地道な製品開発とローカルチェーン店等を使った売り込みをしながら、今春、Kickstarter等のクラウドファンディングで6千万円程度を集めてこれからの展開が非常に楽しみなFood-waste based CPG(Consumer-Packaged-Goods)の存在。近い将来、今のCPG/B2Cのモデルから、高機能食材を食品会社等向けに仕入れるホールセールビジネス・B2Bモデルに発展していく可能性を秘めています。
 昨今、日本も含めて、既存のサプリメント・ビタミン市場では既存サプリ商品群の効能に対しての疑念・妥当性が改めて問われつつあり、また勉強熱心な購入層であるミレニアル世代や健康志向の高い消費者層がこれからますます洗練されていくであろうと思われる中、彼らがクオリティの高い製品を市場に流していくことが出来れば、サプリ業界の地殻変動も引き起こしていく可能性があります。このスタートアップは、筆者がファウンダーとは懇意にさせていただく仲(前述のBioApatiteを通じて)で、我々のスタートアップの米国での売り込みや事業開発にいろいろと貴重なアドバイスや協力を仰いでおり、絶対に成功してもらいたいと願うスタートアップです。

New Age Meat(http://newagemeats.com/)
2017年11月頃に創業されたばかりの、Impossible Foods、Memphis MeatやBeyond Meatをはじめとする、いわゆる「Clean Meat」のトレンドを行く最新事例の一つ。サンフランシスコの大手バイオ・サステイナビリティ系インキュベータの代表格「Indie-Bio」の直近Batch 7の支援元スタートアップの一つ。我々が初めて同社創業共同代表であるBrian Spears氏と面識が出来た昨秋はまだ”ステルスモード(まだ公に具体的な情報を開示しない時期)”にありましたが、ここ半年間に急速にメディア露出が増え、その実態が次第に具体的に明らかになりつつあるようです。同社は、独自の細胞培養技術(自動化されたデータ解析プロセスを活かした、生体触媒を通じた生化学反応を行うバイオリアクターのような装置)を駆使した細胞培養肉(Cell-cultured meat)を開発製造するスタートアップ。今年11月の同Demo Dayに向けて粛々と開発に専念中で、最初の商品は豚の細胞を利用した”豚肉”。Spears氏曰く、「当該Clean Meat市場は1.3兆ドルもの潜在規模があり、そのうちのごく一部だけの要素を深掘りして確固たる付加価値を見出すことが出来れば、十分飯が食える」。
まだ立ち上げ期にあり、無論、成功するか否かはこれからですが、既に多くのVC資金や大手食品会社のベンチャー投資資金が流入している当該Clean Meat/Plant-based Protein分野においてどういう位置づけとなっていくのか、注目したい身近なスタートアップです。

Miyoko's Kitchen    (https://miyokos.com/)
2014年頃に創業された同社は、独自の熟練栽培(aritisan-cultured)による菜食(ビーガン)チーズやバターを製造販売する、サンフランシスコ郊外のソノマ市(ワイナリー産地で有名)を本拠地とするスタートアップ。既に約12百万米ドル(≒13~14億円)集めており、そのうちTwitterやMediumを創業した連続起業家EV Williamsが率いるObvious Venturesが名を連ねており、もともとチーズや料理の分野で著名な人物であった創業者のミヨコ・シナー氏が、2000億ドルにもなると想定される米国チーズ市場のDisruptionを及ぼすべく、前述のRipple Foodsと共に乳製品市場を通じた動物性乳製品から植物性乳製品への”Veganな”シフトを先導するVegan Cheese製品を次々に世に送り出しており、今やWhole FoodsやSprouts Farmers Market、One Leaf Community Markets等、全米規模オーガニックチェーンから地元のローカルチェーンを含めて陳列棚をにぎわすブランドに成長しています。彼らの製品の素材の特色として、我々日本人にも馴染みのある「麹(Koji)」を含むものがあり、そのことが、こちらの健康志向コンシューマのツボを掴んでいる要因の一つと言われています(実際に公言する、同社の商品を愛食する米国知人より確認済み)。いわゆる「発酵食品ブーム」「Fermented Foods 2.0」の一役を担う存在となっています。

サステイナビリティ系/AgTechスタートアップ事例(※ハードウェア/ソフトウェア/マーケットプレースゴッチャ混ぜです):

Apeel Science   (http://apeelsciences.com/)
フード系であり、食品残渣問題にも寄与するスタートアップ。既に日本版TechCrunchにも日本語訳記事が今年の8月14日付けで掲載されており、皆さんにも既知のスタートアップかもしれませんが、同社は、野菜や果物等の農産物の鮮度を保ち、腐敗を遅らせる独自開発による「植物由来の素材」による保存用パウダーを活かして食品残渣の削減を目指す会社。このパウダーを水と混ぜて「懸濁液状態」にし、それを農産物に直接噴射をすることで、農産物の賞味期限を引き延ばすことが出来る、というもの。2012年に元マイクロソフトのビルゲイツ財団等からの支援ではじまり、この程70百万米ドルをAndreesen Horowitzをはじめとする著名投資家から集めた模様。
既にアボカド等に実際に店舗で販売されるものに使用されている模様で、その他、レモンやオレンジ、グレープフルーツ等で実証実験を継続している模様。同社としては、既存の約4倍の賞味期限を実現させることで、あらゆる既存の食品保存に伴うコストを削減することを目指します。特に、創業当初からのミッションとして、特に冷凍保存設備等に乏しいとみられる発展途上諸国を中心にこの技術を普及させることで、当該諸国における農産物寿命の延命を果たすことで食品未利用・残渣問題を解決することを目指すことからはじまったようです。

Recycle Track Systems   (https://www.rts.com/)
”Uber for Garbage (=ごみ処理のウーバー) ”と言われるRecyle Track Systemsは、2015年頃に東海岸のニューヨークに創業されました。食というよりは、ごみ処理という「地球環境・サステイナビリティ分野」にあたりますが、フード産業にとっても食品残渣という大きな問題があり、ごみ処理市場は実は直結する市場でもあります。そんな650億ドルにものぼると試算されるごみ処理市場(注6)では、既存大手Waste Management等の牙城を崩すべく、今までテック業界があまり手を加えてこなかった当該ゴミ処理市場に昨今の環境問題を意識した投資トレンドに乗じて最近ではRubicon Globalをはじめ、同RTS社もIT技術を駆使した新しいソリューションをもたらそうと頑張っているスタートアップ。
同社は独自のソフトウェアとスマホのアプリ開発ですが(≒Uber)、要は、主たるユーザー顧客層であるビジネスユーザーが、Uberでタクシーを呼ぶように、オンデマンドでごみ処理の収集日等をアプリ上で呼び出したりすることが可能。同社はもちろん自社で回収トラック等を持たず、それらは地元現地の既存業者と提携して彼らに任せており、身軽な会社経営を実現させているのも特色です。独自のデータ分析や追跡システムを活かした効率的なごみ収集、リサイクル、廃棄物運搬システムを実現するマーケットプレースを形成しており、主なクライアントは、ごみ処理に係る各種規制当局の要求に応じる必要のある事業者・会社をはじめ、地球環境保護の観点からゴミの再利用や有効活用に積極的に取り組むビジネス等。それぞれのクライアントのニーズに併せてサービスに幅を利かせられるようにアプリがデザインされているとのこと。主な利用者として知られているのは、米シリコンバレー有数のCo-Working SpaceであるWeWorkやオーガニックチェーンWhole Foods等。

Full Harvest   (https://fullharvest.com/)
いわゆる「売るに値しない」ものの「農産物として(ほぼ)問題ない」農産物残渣の二次市場的なマーケットプレイスを運営するのが同社。供給サイドはいわゆる生産者側である農家や食品企業(カット野菜製品を売ったりする外食企業など)であり、需要サイドは食品チェーンから、スムージーやオーガニックフードを販売する外食系企業から食品ブランドなど。B2Bプラットフォーム(※その他、不良農産物を直接消費者へ売るB2CモデルではImperfect Produce社やHungry Harvest社があります。詳細は割愛)。
彼らの目の付け所はポテンシャルは高いものの、米国には一方で、Food Desertなる、栄養素の高い良質の食の流通が途絶えてしまっている、特に高度なITインフラが都市圏近郊(シリコンバレー/サンフランシスコ/ニューヨークなど)と比べて未だに大幅な遅れをとるような、物流システムも未整備の内陸部における「食の空洞化」現象も大きな問題であり、そうした、いわば「IT頼み」ではどうにもならない食の問題をどう解決していけるか、同社のようなスタートアップがさらに踏み込んで貢献できるか、あるいは違ったビジネスモデルが創出されていくのか、これからの発展が注目されます。

Kencko  (https://www.kencko.com/)
2016年創業の、「スマート・フード」のスタートアップとして最近メディア露出が増え始めた東海岸出身のKencko。名前も日本人的にはニンマリさせられるブランド(※サンフランシスコ/シリコンバレーにいると、ふとした時に、マカロニチーズに使用される材料の一つとして使用されているパン粉が「”Panko”」と記載されて来店客が「なんだい?このPankoって??」と店員に聞いていたり、皆様も良く知る「かわいい」を「This is pretty much Kawaii」とか若人が道端で会話していたり、欧米圏で浸透する日本語が増えているのが実に楽しい・・・)。
いわゆるフリーズドライ法(真空凍結乾燥技術)を活用した手法で、野菜や果物が持つ元来の栄養素(ミネラル、プロテイン、ビタミン等)を極力損なわずにパウダー状態にした野菜・フルーツのミックス粉末パック(1袋20グラム)をベースに、ミクサーとセットで水と混ぜて約1分間振り続けて出来上がり、とのこと。一袋20グラムで水とミックスさせると一袋160グラム相当のドリンクになるそう。都市圏で多忙を極める働き盛り+健康志向の高いミレニアル等にとっては興味深いアイテムかもしれませんが、比較的容易に野菜や果物が日常的に手に入る人間にとって、彼らのサービスがどれほど付加価値が見いだせるのかは、未知数といえますね。全米及び世界中の農産物生産現場から素材を調達するとのことらしいですが、消費者が求めるのは、どれほどの栄養素を吸収できるのかというところ。従って、例えば、乳酸菌等のプロバイオティクスのような要素を効果的にブレンドさせて付け加えたり、それでなくとも「勉強熱心な口うるさいミレニアル層」をより「わざわざ買いたくなる」動機付けを見出せるかが、Kenckoの成否のカギを握りそうな気がします。

追記:当該分野に関する日本国内のスタートアップ・エコシステムの問題点:
 ずばり、アカデミアの閉塞性に非常に大きな問題があるように思えます。もちろん、これだけに限らず、他の事象もありますが、ここ昨秋から1年間、米国側で初期的営業から事業開発全般を手掛けさせていただく日本発のフード/バイオ系スタートアップでの実務をこちらで行いながら心底痛感をさせられたことですが、米国シリコンバレーの投資家や東海岸の大手事業会社の研究開発本部との交渉実務に当たる中で、こうした“研究開発型”スタートアップは彼らに対して「証拠・エビデンス・実証データ」を必ず取り揃えておくことが求められます(もちろん、日本でも全く同じ)。その際、ここシリコンバレーでは、ある程度のレベルまで製品開発が進んでいたり(プロトタイプ的なものが完成)、研究者やそのラボにとってこちら側が開発しようとするものが大きな価値や意義を見出すような可能性があれば、必要な予算さえ彼らに提供出来れば彼らはラボを通じてこちらの求める(=投資家や交渉相手企業が求める)各種実証研究を実施していただく素地が十分にあるのに対して、日本国内では、学会特有の「プライド」「閉鎖性」がそのような「アカデミアとビジネスとの相互のWin-Win関係(特に先端的な開発に取り組むスタートアップとの繋がり)」を完全に遮断をしてしまっていることがくっきりとわかった点です。
 また、こちら(米シリコンバレー)の教授や助教授は、自らが複数のスタートアップの社外取締役やアカデミック・アドバイザーを任務するケースが少なくありません。彼らは、自らの研究課題が実社会の世の中に価値を見出すための一つの手段として、スタートアップの力を借ります。そんな「同志」的な空気を感じることの一つに、我々が直接ご縁をいただくこちらの有名大学の教授陣が口を揃えて言われた「(自分のことを)"先生"と呼ぶのは止してほしい。名前(ファーストネーム)で気軽に呼んでほしい。どんなことでも率直に伝えてほしい。」という言葉。こうしたちっちゃなことが、日米間のスタートアップ・エコスステム全体(スタートアップ+大手企業+経済界+★学会)の大きな差となってしまうのではないかと感じているところです。
 一方、当該分野の日本の大手事業会社のスピード感があまりに遅い点も問題といえます。我々が取り組むビジネスにおいても、1年半前からの話が未だに成就しない一方、米国では3~4か月でほぼ到達しそうな勢い。これでは、スタートアップ側の手元資金も士気もそうそう長持ちはしない気がします。
 

₋次回は、今回はあまり触れていないものの、食・地球環境/サステイナビリティとの投資テーマ性が非常に近い農業テック(AgTech)にフォーカスをしてみたいと思います。こちらは、主にハードウェア・テクノロジーの色彩が(ご想像のとおり)強まります。蛇足ですが、Wildcard Incubatorが支援をさせて頂く日本発のAgTech分野のスタートアップや事業会社についても、追々こちらでご紹介をさせていただく予定です!

<備考:ご参考>

1.主なインキュベータ(一部紹介):
KitchenTown:
http://www.kitchentowncentral.com/
FS6:
https://www.foodsystem6.org/
Food-X:
https://food-x.com/
TERRA Accelerator(RocketSpaceが運営):
https://www.terraaccelerator.com/
Indie-Bio:
https://indiebio.co/
Food Space Co:
https://www.foodspaceco.com/
Good Food Accelerator:
http://www.goodfoodaccelerator.org/

2.米シリコンバレーのフード系/アグリテックカンファレンス・支援組織(一部紹介)
Food Funded:
http://foodfunded.us/
Mixing Bowl:
http://mixingbowlhub.com/
Food-Bytes!(欧Rabobank)
https://www.foodbytesworld.com/
Silicon Valley AgTech (Royce Law Firm):
https://rroyselaw.com/events/2018-silicon-valley-agtech-conference/
Thrive Agtech:
http://thriveagtech.com/

3.事業会社系インキュベータ(一部紹介):
Springboard(米大手食品ブランドKraftのインキュベータ部門・シカゴ本社)
https://www.springboardbrands.com/ 
Chobani Incubator(ヨーグルト・ブランド大手Chobaniのインキュベータ部門):
https://chobaniincubator.com/  
Vitamin Shoppe(米ビタミン・健康食品等の小売りチェーンの最新インキュベータ部門)
https://www.vitaminshoppe.com/lp/launchpad
301inc. (米食品大手General Mills社のインキュベータ部門):
https://www.301inc.com/
Unilever Ventures
http://www.unileverventures.com/

(米国サンフランシスコ)
備考:米Down Jones Venture Source・SDR Ventures社データ, Pitchbook Platform - https://pitchbook.com/news/articles/recipe-for-growth-vcs-are-more-interested-in-food-tech-than-ever  より 
注1: New Hope Network社データより
注2: 対象データ=食ならびに飲料サプリ系のスタートアップ限定 
注
3: 食・飲料サプリ及びフード系テック分野をもこちらのデータは含みます。従って、情報ソースが各々異なるため、単純な横比較ではありません。あくまで参考程度として。
注4: 米Nutrition Business Journalより
注5: 米Nielsen、Breakthrough Innovation Reportより
注6: IBISWorldより
注7: 
米Scientific America:https://www.scientificamerican.com/article/crispr-edited-cells-linked-to-cancer-risk-in-2-studies/
米Yale Insights:https://insights.som.yale.edu/insights/is-crispr-worth-the-risk

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ICOという「幻惑」に決して惑わされない…。

12/26/2017

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(オリジナル画像出所: https://tradescrypt.com/ico-services/)
 まず結論から先に言及すると、昨今こちら米シリコンバレーをはじめ、日本国内でも今フィンテック分野で話題沸騰中のICO<Initial Coin Offering>は、しばらくはいろいろと仕組みづくりとエコシステムの構築強化が図られていくものと思われますが、遅かれ早かれ(3年後?5年後??)何らかの Pitfall(落とし穴)が見つかって終焉を迎えるであろうと予想しています(まぁ180℃大きく外れる可能性もありますが、特にその責任はとれません・・・)。また、その限られた期間で大きく稼ぐものも出ると思われます。

 1990年代半ばから2008年のリーマンショック直前まで、筆者は投資銀行業界で様々なコーポレートファイナンスの案件を手掛ける機会があり、様々な金融工学的なアイディアに出くわす機会が多い時期がありましたが、そのころから今でも、「新しい金融手法・金融システム」という動きに遭遇する度に感じることは、「また何か裏があるうさん臭い話か」という一種の拒否反応です。金融は「ゼロサムゲーム」であり、誰かにとって都合の良い話はもう一方にとって損をする話であることがほとんど。必ず、そこには”金融商品”開発者による目論見があり、それに最終的に気づかされるときは既にマクロ経済に大きなマイナスインパクトが出てしまってからというケースばかり。1980年代は欧米ウォール街で起きた、低格付け企業やプロジェクト等を対象とした「ジャンクボンド」(低格付け高利回り=ハイイールド債)をはじめ、まだ記憶に新しい2000年代に起きた「サブプライム」問題も一種の低格付け層を焦点に充てたハイイールド(高利回り)債。「歴史は繰り返す」の最たる例ですね。

資金の出し手に都合の良い話=投資家の立場でオチがあるケースばかり

 そもそも、ファイナンス=金融とは、ある資金の受けて(お金が不足して必要とする当事者)と資金の出し手(余ったお金を貸す/投資する当事者)とを結ぶ金融手段の一つです。それは、大学の経済学等で既に学ぶことかと思います。それが次第に複雑怪奇になっていくと、投資銀行従事者である筆者とて今ひとつわけがわからないスキームに出来上がっていくものが世の中少なくないのは、だいたい、ファイナンスの世界で「新しいスキーム」が誕生する背景には、資金の受けて側に何らかの課題(収益性が低い=>高金利あるいは資金調達が極めて困難)があるときの新たな処方策の一つとして考案されてくるケースが多く、その為に、いろいろと小難しくする方が資金の出し手にとってその内包される本質的なリスクが見えにくくなり、都合のよいものになり、その結果、投資家が集まって資金も晴れて集まる、という構造となるといっても概ね誤りではないと思います。

 そんな歴史の繰り返しを身近に経験していると、今、米シリコンバレーをはじめ、日本のテック・スタートアップ系メディアがここぞと群がる「ICO」という概念と仕組みに、すこぶる拒否反応をしてしまうわけです。後述しますが、かつてのウォール街のうさん臭さが、今やシリコンバレーにも紛れ込んで来たな、みたいな感覚。

資金の出し手をスクリーニング=IPOの「本来の」役割だが・・・

 また、筆者はしばらくIPOのアンダーライティングで主幹事を任される機会にも複数恵まれる時期がありましたが(優秀な諸先輩や仲間に恵まれました)、それらの貴重な体験を通じて思い知らされたことは、会社が上場をするということがいかに一般社会(公共なる取引所)に対する責任が課せられるか、それまでにプライベートの組織としての意味合い(=スタートアップ/ベンチャーとVCの世界)といかに大きく様変わりをするのか、ということを、長きに渡る上場審査と上場申請後~上場承認までの細かくストレスの溜まる作業と取引所との各種折衝を通じて知り得る機会を得たわけです。また、多くの案件に遭遇する中、いわゆる「上場に相応しくない」会社ともそれなりに遭遇をする機会が多く(会計操作、反社との関係性、収益性の疑義、他)、それはやはりこと細かい審査を経て初めて見つかるものであったと痛感するものです。こうした経験から、必ずしも今のIPOの諸制度が、投資家と発行側企業の双方にとって完璧なる理想の形とはまだ言えないものの、ある種のモラルハザードに一定のスクリーニングをかける上ではそれなりの効果的な役割を果たしていると考えています。

 一方、現在進行形で躍進するICO市場は、先日の日本経済新聞にも記載されていましたとおり、法整備がまだ追いついていませんよね。そもそも、その特徴とは、主に資金の受けて側にとって優位性の高いものであり、資金の出し手にとっては、良く言えば「急成長著しいベンチャーに投資がしやすい手段」であり、一方で「ブラックボックスに投資をする」ようなもの。無論、これから目論見書の代わりとなるホワイトペーパーの精度の高さや各種法制度の整備が進めば投資家にとっての安全性は多少は高まるものの、「仮想通貨」という媒体があるからこそ、極めて不透明な要素が高いと言えます。総じて、ICOは、資金の出し手優位の発想であり(何か投資家側の観点でオチはないか?!)、IPOによるスクリーニング機能を発揮できるような要素は今のところ全くありません。

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備考:日本経済新聞より引用(一部筆者が修正)
 日米それぞれ異なる上場制度があり、一概に並行して語るのは必ずしも正確性には欠ける部分もありますが、概ね、日本の上場制度は米国の上場制度をある程度見習って作られている節があり、この際、東証の上場制度について復習しておきたいと思います。
 
 東証の上場規則には、形式基準と並び、より主幹事証券会社と取引所担当官とで1年間以上細かく精査される「実質基準」があるのはご存知の通り。前者を「有価証券上場規程第205条」に対して、後者を「有価証券上場規程第207条」と言いますが、その後者には、主に次に掲げる5つの項目があります:

1.企業の継続性及び収益性
2.企業経営の健全性
3.企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
4.企業内容等の開示の適正性
5.その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項


 これらの各項目のすべてにおいてほぼ完璧にクリア出来て初めて公共の株式取引所で売買が可能となるような上場企業として認められるわけですが、昨今の米Blue Apron社や日本で上場後最初の決算発表で想定の範囲外の赤字決算を公表し、挙句の果てには希望退職者を募るような会社を目の当たりにすると、「上場ありき」の安直なIPOが乱発して上場が再びマネーゲームの宝庫となり下がってきているようです。すなわち、上記1.4.の「企業の継続性及び収益性」「企業内容等の開示の適正性」を早々に脅かすようなIPOが増えている点はあまり望ましい状況であるとは言えません。本稿はIPOに対する見解が主テーマではありませんので、これ以上詳しくは割愛致しますが、一般投資家が”安直に”広く損害を被る世の流れは望ましくないということ。

 話をICOに戻すと、ご存知の通り、そもそも基本的な仕組みがワラント/オプションのようなものであり、さらに「仮想通貨」という未知なる/法的環境が未整備の媒体を通じた投資となれば、投資対象先である発行体そのものの事業リスクと併せて、二重の不確定要素を含有することとなります。無論、アップサイド要因に魅力を感じるということであれば、それはそれで、高リスク投資と腹をくくった投資と受け入れてしまえば、別に良いかもしれませんが、それを、老若男女、リスク許容度が限られてしまうであろう一般投資家をも幅広く対象とするIPOと同列的に考えるのは、根本的に間違っており、この点はこれから法曹界の頑張りが期待されますし、メディアもきっちりと一般大衆に伝えることが極めて望ましいと思います。かつて、筆者が1990年代半ばに日本の証券会社に就職をした際の社内研修で社員が語った1990年前後の、当時の日本のバブル経済末期でのエピソードとして「80歳前後のお年寄りのご婦人に全財産をワラントに投資することをお勧めしてゼロにさせてしまった(場内爆笑)」を思い出しますが、ICOが行きつく先がそうならないことを祈ります。

 かつて、2010年頃までか、ウォール街は金の亡者が集まる「悪」で、西海岸のシリコンバレー、テクノロジーのメッカは、ピュアな技術者が募って住みやすい世の中を形成していく人達が世界中から集まる聖地のような対比がされていましたが、今や、そのシリコンバレーがかつてのウォール街のような「金の亡者が群がる悪」なり下がっている気がします。そのしわ寄せが、古くからここサンフランシスコ近郊都市に生まれ育つ一般市民が追い出される不動産市場の高騰と、それらの現象に無頓着なシリコンバレーの空気によって顕在化してしまっているわけです。そうした中、今やこのICOがIPOの代わりとしてさまざまなキーノートスピーチが注目を浴びていますが、どことなく怪しげな空気を感じてしまうのは筆者だけではないみたいです。

 話は反れますが、このICOの形式そのものであるクラウドファンディングが、いわゆる「投資型」が施行され始め、米KickstarterやIndiegogoをはじめ、米国に追随するように日本にも複数の大手サイトが複数出始めてから既に数年が経過していますが、そもそも、株式/投資型クラウドファンディングやICOは、れっきとした「金融業」ですね。すなわち、「投資家保護」というものにしっかりと法整備が敷かれてその責務を果たす義務が取扱業者に課されてしかるべきなわけです。すなわち、いろいろと多くの「面倒くさい縛りやルール」に対処しながら、あくまで一般投資家を保護するという認識を持ち続けていくことが重要であり、適格投資家等が中心となり、ある程度のリスク許容度の高い関係者のみで形成されるプライベート市場であるベンチャーキャピタル市場とは似ているようで全く非なる世界。しかしながら、今やベンチャー界隈では、「投資型」のトレンドにここぞとばかりにこぞってこうしたビジネスに次々と進出しており、その最新トレンドがこのICO(のように映ってしまいます)。特に、クラウドファンディングのように一定の法整備があるものと比べて極めて不安定な状態であるICOが、従前のIPOに耐えられないようなスタートアップや「斬新なビジネス」が果たしてどれほど健全な状態で投資家に対する責任を果たせるのか、課題は多いと想定されます。

 いずれにせよ、昨今、シリコンバレー界隈でアクセレレータやインキュベータの代表者や身近な知人経営者等から聞かされるのは、ICOがIPOのもう一つの選択肢として並列的になっていくであろう、という見解。筆者は、違和感を感じます。
 
 このICOが果たしてどこまで投資家にとって信頼性の高い新たなプライマリーマーケット(発行体市場)となるのか、しばらく様子を見たいところです。


‐ シリコンバレー

(備考: ICOに関する参考情報:https://www.whitecase.com/publications/alert/regulation-initial-coin-offerings)
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シリコンバレーで日本企業がいつまで経っても“とん挫”するワケ

10/14/2017

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(写真:http://www.espn.com/espn/feature/story/_/id/11214487/hall-fame-quarterback-ya-tittle-takes-final-trip-home-espn-magazine)

 シリコンバレーで日本の新興系事業会社が今一つ本流の中に食い込めない主な理由について、恐らく筆者よりも既に先に多くの有識者や在シリコンバレーの実業家等からも指摘されてきていると思います。しかし、今尚、その「罠」から抜けだぜないでいるのが現状のように見受けられます。サンフランシスコ・シリコンバレーで米国インキュベータやアクセレレータ、事業会社関係者と仕事上で様々な会話をする際に、折を見て日本企業に関して具体的な名前を出してみてその評判や、当該日系企業に関する現地の声としての意見を聞いてみようとすると、大半が、「そもそも誰それ?」という答えがほとんどです(感覚的に、95%)。もしくは、ブランドは知ってはいるものの、皮肉にも、「あぁ、あの、こっちで尽く●×▲が空振りしまくって●×したアソコね・・・」という、「失敗」ケースが脳裏に焼き付く始末。因みに、それらの日系企業は、日本国内の著名テック系メディアではシリコンバレーのスタートアップシーンとの括りとなると頻繁にキーノートスピーカーを招聘するような、日本国内では立派な会社。最近筆者が再びこの手の話題をランチの合間に振ってみると、やはり、同じような会話となり、そこで話題が違うところに移る、という有様。。

 言わずもがな、かもしれませんが、以下が良く繰り返し指摘されることです(各項目いずれも相関関係があるものと思われます):

日本側本社の意思決定権限が絶大"すぎ":
‐ これは、筆者自身が、欧米外資系投資銀行勤務時代に同じ類の経験を致しましたが、要は、その国と地域の市場の特異性、ローカル性や顧客特性について最も知識のある現地採用スタッフに与えられている意思決定の権限移譲が中途半端となり、機能的にうまく実働出来ないというオチです。本来、そうした現地の有能なスタッフは、わざわざ現地からヘッドハントされてその実績や将来性を買われて雇われたにもかかわらず、彼ら・彼女らの知見を十分活かすことよりも(現地のことなど全く無知な)本社経営陣側の意思決定に結局依存せざるを得ない状態となってしまうために、結局、リソースを全く活かしきれないまま終わってしまうというパターンです。例えば、戦略的な事業進出・市場開拓を試みて日本から晴れてシリコンバレーに本社側からの有能スタッフを中心としたM&Aチームを掲げて乗り込んだところまでは良いですが、そうした有能な面々も現地では全くの素人になります。筆者もいくら日本市場でM&A/IPOの実績がトップレベルであったとしても(実際にそうであったとは言いませんが)、仮にウォール街に乗り込んだこころで、所詮、場違いな話になります(もちろん、現地にうまく溶け込んでいくことで、次第に日本で身に着けた力を応用させられる素地は出来上がる可能性は生まれてくるかもしれませんが)。恐らく、シリコンバレーに日系企業が乗り込む場合も同じパターンであると考えます。現地のことは現地を知り尽くす自社の現地採用スタッフ陣に任せることが大切であり、そこが疎かになる結果、現地の関係者からすると「???」と思わせるようなM&Aターゲットに触手して結局案の定失敗・・・というパターンの繰り返すとなります。

シリコンバレー側の駐在員チームが"希薄"
‐ 現地にオフィスがあっても、そこのスタッフ層が希薄なケース。アメリカ側の関係者からすると、「果たしてこの人達だけで何を成し遂げられるの?そもそもどこまで本社に対する意思決定権限があるの?」と、不安視されてしまうケース。そうなれば、本気モードで交渉事することに二の足を踏んでしまう米国側企業も出てきてしまう可能性は十分にあります。その結果、手中に出来そうであったような案件も、結局取り逃がすことになってしまいます。要は、シリコンバレー現地でそれなりの事業開発(良くあるケースは、シリコンバレー・サンフランシスコ一帯の地域でM&Aを仕掛けるケース)を成功裏に進めるためには、如何に諸々の点でその会社が「現地化」を果たせるかがカギを握ります。必ずしも現地から有能な人材を採用しないまでも、本社側から経営決定権限のある人物が中長期的にコミットしながら現地で時間をかけながら現地化を果たして本流に次第に溶け込んでいくことで、ディールソースが一段階充実したものになっていく可能性が高まります。特に意思決定権限のない「部長・課長」レベルの人材がどれだけ奔走しても、所詮相手には見透かされている、というところでしょうか。

こちら(シリコンバレーの大手企業・VC・有識者)のアドバイスに話を素直に耳を傾けようとしない
‐ すなわち、「プライド」でしょうか。上記1点目と重複する意味合いもありますし、次に挙げる「自社ブランドへの過信」との相関性もあろうかと思いますが、シリコンバレーで現地で頑張っていろいろと構築して行ったアメリカ側ネットワークから得られる知見や情報が戦略的に有効活用されずにお蔵入りする状態を指します。結果論に過ぎないかもしれませんが、何を決定するにも、現地で得られる知見やリソースを十分に活かさずに、本社からのご意向で意思決定が為されている文化が根強いことで、事業提携やM&A、人材の採用、ブランディング等、結局シリコンバレーのことを知らない本社の影響力が大きいまま物事が進むことで、的外れな(←現地から見て)決定ばかりとなってしまうのではないかと想像しています。
シリコンバレーの本流的なコミュニティは基本的にはとても開かれているエコシステムであると考えます。日本で見受けられるような排他性が感じられません。そして、そこに一度溶け込むことさえ出来れば、極めて有効的な情報が沢山飛び交います。そして、こちらの言うこと、考えに良く耳を傾けてくれることがほとんどです。その結果、アドバイスも非常に貴重なものであったり、こちら側が思いつかないことや角度から助言をもらえることが大半です(今のところの経験)。もちろん、そうした彼ら・彼女らに対しても同じように、こちらからアドバイスや情報を提供させていただくことも併せて非常に大切(安易な「情報交換」のことを指していません)。そのような「現地本流ネットワークからのインプット」に良く耳を傾けてみて、その価値をもう一度考え直すことも重要かもしれません。

日本国内で構築したブランドへの"過信":
‐ 日本国内では一流ブランドでも、海を渡れば全く通用しません。それは、大リーグを目指すNPBの一流選手の場合と似ている部分が多いですよね。シリコンバレー側の認知(さらに言えば、「Respect」)を得られる為には、働きかけていかない限り、得られません。しかしながら、現地シリコンバレー側の目から見ると、「自社ブランドにあまりにも身を任せた交渉をする」のが目につくと見られがちです。例えば、「我々は◎×です。我々はこうしたブランドと強みを持った会社です。従って、▲●という方針でパートナーを探しています」といったところで、シリコンバレー側の会社からすれば「Good luck!」で終わり。こちらのシリコンバレーでビジネスをしようとする会社が自分達の強みをどこまで理解してもらえて、結果何がしてもらえるのか、その部分が疎かになってしまえば、いくらブランドを醸し出されたところで、シリコンバレーのトップレベルの競合他社とは全く対等なレベルでの交渉にはなりません。前述の「相手の話を聞く力」と通じるのかもしれませんが、シリコンバレーが自分たちに何を求めているのか、そこをどう自社に活かして取り込められるか、という姿勢を貫いていく心構えが抜け落ちてしまっている為に、空振りの連続の挙句、撤退、縮小、Living-Dead状態に陥ってしまうのではないかと考えられます。

 では、成功した事例として捉えられる会社の代表の一つとして耳にするのは、ユニクロです(筆者はユニクロとほぼ同時期にサンフランシスコに成功裏に進出をされたMUJIも同様にシリコンバレーの勝ち組とみています)。さらに、最近はこちらシリコンバレーで日本のペットボトル系の日本茶を現地仕様に仕立てあげて存在感が出始めている伊藤園さんも良く好意的なお話を伺い、筆者も刺激を受けています(サンフランシスコ/シリコンバレー界隈のインキュベータや会社にビジネス等で日本から来られる方々は、こちらの自販機等に日本茶のペットボトルが用意されているのを良く目にする機会が増えてきているのが実感できると思います)。ユニクロの場合、あくまで推測ベースですが、かつて、一度米国進出を試みて失敗を経験しており、恐らく、そこで得られた教訓に進撃に受け止め、米国で受け入れられる為に必要な要素を理解し、それで、東海岸ニューヨークに旗艦店舗を旗揚げした結果、成功裏に事業が軌道にのり、その経験を今度は西海岸のカジュアルファッションのメッカであるサンフランシスコに活かすべく、2012年にユニオンスクェアの西海岸旗艦店舗を開店した結果、今も現地では多くの来店客で賑わっています。無論、時代の潮流に相まって乗ることが出来たことも功を奏したと考えられます。

 日本に拠点を置く欧米外資系企業(事業会社、金融機関)も、良く、「日本の市場にコミットしていない」「米国本社の意向が強すぎて身動きがとれない」「上司が次々と変わって長期的な戦略ロードマップが描けない」「あそこの会社はカントリーマネージャーがコロコロ変わるし方針が安定して取引したくない」という声が聞かれる会社は概ね日本でビジネスがうまくいっていない会社ばかりですが(筆者は投資銀行時代に両方を経験しました)、シリコンバレーで戦う日系企業も、全く同じ罠に陥ってしまっている、というのが実態といったところでしょうか。それらの抜け穴から脱皮できる組織が、これから躍進の場を構築していくことが出来るのかもしれません。

‐ シリコンバレー

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✬Featured Guest Post: "Not Quite the Golden Age for Japanese VC, Unless You Can Break Dance"

10/2/2017

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The following post was written by one of the most successful foreign (a.k.a. non-Japanese) entrepreneurs residing in Japan, Mr. Terrie Lloyd (see bottom for more info), in his weekly blog post Terrie's Take.

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Over the last couple of years, after an abortive fundraising effort in 2015, I've been avoiding Venture Capitalists (VCs) or attending venture conferences, feeling that the venture funding industry is Japan is all about herd instinct and stereotypes and thus a waste of time for a foreign businessperson. However, I had second thoughts after a friend suddenly couldn't make it to the latest TechinAsia event held in Tokyo during September, and he kindly asked if me if I'd like to go in his place. I thought this would be a good chance to see if the street talk I'd been hearing about how we're now in the "golden age" of Japanese venture investing was true or not.

One of the speakers at TiA was Tim Romero, who has a very good weekly blog where he interviews movers and shakers in the Japanese start-up community. Tim has been around the track a couple of times himself, and in his interviews he is relentless in getting the CEO of the moment to share their secrets and how their industry works. Tim has been quite upbeat about the Japanese venture scene, and his contributions alongside TiA and Slush (a Finnish version of TiA) would indeed give you a feeling that things are starting to improve here.

And yet among start-ups in the international community, "international"
meaning resident foreigners or regular Japanese educated in part overseas, I still see very little VC investment taking place. So what's really going on?

As a bit of background, back in 2015 and the start of 2016, I personally visited and presented to about 25 Japanese VCs, for Japan Travel KK.
Given that the Inbound market was booming I thought that the timing couldn't be better, and our early sales results proved that there is an exciting business to be had. I received 24 rejections and one smallish offer at the time, and so wound up empty-handed but a lot wiser about my strategy and what we needed to do to present a better story.
Unfortunately, I got a somewhat depressing view of the state of venture capital in Japan.

In the course of that one-year period, I found that I could group those
25 VCs into 3 types: 1) Clueless kids and salarymen and not capable of researching or deciding anything, but with money to spend on a round led by someone else. This was by far the largest group, and the lack of smaller early stage deals shows their risk aversion - which is ironic given the nature of their business. Group 2) were a much smaller cohort of smart trans-pacific bilinguals who were obsessed with Silicon Valley trends, valuations, and business results, i.e., they have a unicorn-obsession. This group has plenty of cash and an ability to lead a round, but won't touch anything unless there is a vision of global domination, which means they are making a few over-optimistic bets on CEOs good at hype. Group 3) were smaller shops with sectoral expertise but just not enough people to manage the influx of opportunities, and they were the source of the most productive discussions. But, boy, are they conservative when it comes to dealing with a foreigner...

With Japan Travel I was told by the clueless Group 1 types that they thought the Inbound travel market was too small and that the space wasn't validated because no one has led a funding in the space (which is still true today). And yet, if they bothered to do some research (or to read our presentation), they would have seen the tell-tale signs of a major boom market. Now, in 2017, the Japanese Government says that the Inbound market is worth about JPY3trn in on-shore spending alone. My guess is that total spending on travel to Japan is around JPY5trn a year.

With the Group 2 "size matters" crowd, our focusing on one country meant lack of scalability and therefore an inability to feed their egos.

With the Group 3 realist group, the focus was on my foreigness, my age (not being in my twenties and thus being easy to take advantage of), and the company valuation - they didn't like the fact that we'd already spent half a million dollars developing the systems and capabilities of the company, even though this is a pittance compared to U.S. companies doing similar types of business.

In the end, I decided to continue bootstrapping, developing the business beyond just a portal and into an integrated travel solution provider. To do so, I have done small "friends-and-family" rounds and steadily put the pieces in place. You will have seen the occasional ads in Terrie's Take for each round we've raised (a big "thank you" to our investors).

So, back to TiA, I was interested to see if Tim was right that the VC scene has changed, and whether, as the TiA organizers were spruiking, we're in a Golden Age.

The TiA event took place over two days, held at the La Belle Salle Shibuya Garden building at the top of Dogenzaka in Shibuya - a suitably fashionable location. I showed up on Wednesday morning, registered and made my way in to listen to Dave Corbin, TiA's Japan CEO, give the opening address. There were about 400 people in the audience (my estimate), a pretty good number considering the tickets cost JPY15,000 for the public and JPY60,000 for investors. The attendees were a 30/70 mix of foreigners to Japanese, with most of the foreigners coming from Asia.

You could see that the representation matched Japan's influence around the region, with the biggest delegations being from Indonesia, Malaysia, Vietnam, and Thailand. Certainly I'm aware of an expanding number of Japanese VC funds who are targeting their investments in these countries because of the lack of U.S. and European competition and also because of the rapidly expanding economies there.

I personally found the TiA lineup of speakers to be disappointing, revealing little about how to get things done, and over-focusing on validating the VC market in Japan. This is unfortunate, because from my many discussions with attendees, most people where there for two things
only: networking and funding. Yes, there was a "Speed Dating" section for pre-reserved meetings with Japanese VCs, but it was obvious that demand (by start-ups) outstripped supply and that the quality of supply of VCs was poor enough that TiA should seriously re-think its approach to Japan. In particular, it needs to help educate VC firms here how to prospect and build relationships with non-Japanese start-ups.

In spending some time hanging around the Speed Dating area, listening in on some of the conversations and getting a feel for whether Japanese VC has improved, I got the impression that things are still pretty pathetic. What I saw is kids from the VC departments of larger Japanese wannabee VC companies interviewing other kids who want to fund their start-ups. There was a definite lack of expertise, experience, and structure on both sides. For foreign start-ups, the interactions were made worse by major language and knowledge gaps. I came away thinking the following three things:

1. Low-grade human resources. Why are Japanese VCs willing to put their least experienced people into an environment where they are picking winners from losers? Having someone with little practical business experience and inability to evaluate technology isn't going to result in competent screening of prospects from a single meeting.

2. Poor screening process. One assumes that to be meaningful, most Japanese VCs are at least investing JPY20-JPY30m per firm, and this money doesn't grow on trees. For sure after the initial screening the investment will go in front of a committee, but when you are having a low-experience person with no screening structure or understanding of what the other party does, this significantly reduces the quality of deals for committee review, and a higher chance of loss of the investing company's assets. We can see the results of this in the poor returns that most Japanese VCs have (and perhaps why companies don't put their best people in those teams).

3. Low ability to think out of the box. I approached the Fujitsu booth on the behalf of a friend's software company, and found out that the staff really weren't interested in a business that was outside their frame of reference, even if the investee agreed to use their cloud platform and technology stack - which surely is the reason why Fujitsu even has a venture fund in the first place. Instead, they were there to hand out flyers and pens, and seem to have another more obscure process for making decisions on investment.

So, yeah, I didn't get a very favorable impression of the quality of VCs present, and it was disappointing to see foreign startups attracted by the TiA hype, try to figure out what the speed dating investor was really saying to them. Pretty much it was in the "We'll keep you hanging on until you stop calling us," ilk. I did also talk to several other more seasoned Japanese entrepreneurs there, whom I know, and they candidly shared that they were just going through the motions rather than expecting anything concrete to come out of the meetings.

To be fair, the TiA event was a good place to meet other start-ups, and there were several in the tourism sector who were very interesting. They may not find a source of funding in Japan, but hopefully other business opportunities will help justify the cost of attending the show.

I realize that TiA does not represent the whole universe of Japanese venture capital, and there were many active players in the market who didn't show up. But nonetheless, what I did see reminded me that the Japanese VC community is still immature and prone to risk-aversion - meaning that there will be precious few unicorns or even tech IPOs coming out of this market. While Softbank with its super fund is shaking things up and is making the overall sector numbers look pretty juicy, the reality is that Softbank is targeting much bigger investments in much later-stage companies, and current industry data is very skewed.
The fact is that VCs are still not doing much for real startups here.
Especially if you are not in your 20's, Japanese, and have a talent for PR and breakdancing (yes, a security firm CEO started his pitch this way).

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Source:  http://www.japaninc.com/tt916_not-quite-the-golden-age-for-Japanese-VC 

About Mr. Terrie Lloyd:
Terrie Lloyd is a 54-year dual-national of Australia and New Zealand, who has lived in Japan for 29 years. A "self-made man" in the truest sense, he formed his first company while in Japan on a working holiday visa at the age of 25. Since then, he has established another 18 companies of his own and many others for clients.
Lloyd has brought his investors 8 successful earn-outs: LINC Computer in Japan and Techman in Hong Kong sold to EDS in 1995, the Web division of LINC Media sold to Chinadotcom in 1999, Layer-8 Technologies spun out to ThetaMusic in 2003, DaiJob Software Inc. sold to Nikko Principal in 2004, DaiJob Inc. sold to Human Holdings in 2005, and Esphion Ltd. in New Zealand sold to Allot Communications Inc. of Israel in 2007. He is currently the founder of JapanTravel.com, one of the premier Japan inbound travel destination and travel agency.
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日本の起業エコシステムの変わらぬ盲点

8/28/2017

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(写真:米サンフランシスコのCo-Workingスペース<Runway Incubator>にて撮影。)
国内ベンチャー投資関係者や、起業家、スタートアップの面々とディスカッションをさせて頂く機会がここ2,3か月増えていますが、各種公表数値があらわすデータとは少々異なる事象を耳にすることが多くなりました。それは、日本国内のベンチャー関連投資全体に占める「創業期~シード段階のエンジェル/シード投資」比重が欧米と比べて極めて少ないという悩ましい点です。

最近、巷では、日本のVC投資がここ数年の中でも活発化し、以前と比べてスタートアップにとってファンドレイズに主眼を置いた起業環境はかなり好転している会話を良く耳にします。具体的に国内で運用されるVC総額、投資額とも5年前と比べてもかなり大きくなり、日本においても欧米並みのリスクマネーが豊富になったとの考え方のようです。筆者がVC投資に関わり始めた今から10年前であれば、国内VC投資の1件あたりの投資額の平均は1億円にも満たないもので、3億円であればかなりの大型ファンディングに受け止められるような世界でした。それが、今では、最低1億円、大型投資であれば1件あたり10億円もそれほど珍しくなくなったというのが、今尚国内VC投資に従事をされる面々のコメント。
しかしながら、それはほんの一握りのテーマに沿った一部のスタートアップに集中している結果であり、必ずしも全体がその恩恵を受けているとは到底考えられないのが現状のようです。つまり、「右を倣え」の如く人気案件に一極集中し、それ以外は閑散とした状況であるということ。

スタートアップ(スモールビジネスを含まず、あくまで5年‐7年以内にIPOやM&A等で一定規模以上の成長カーブを想定したベンチャー企業を指します)が創業されて、事業が0から1へ、そして1から10へ成長していく過程で、何度か外部投資家からの出資を行うケースが一般的ですが、大まかに時系列に列挙すると次のようなイメージになろうかと思います:

  1. 立ち上げ間もない、アイディアをOから1に具現化していく、いわゆる「ゼロイチ」ステージ
  2. プロトタイプ、MVP(Minimum-Viable-Product)が出来上がるまでの初期ステージ
  3. MVPが完成し、ある程度の材料が揃ってこれから精力的に営業活動をかけたいステージ
  4. ステージ3を経て成長カーブを描き始めるステージ
  5. ステージ4を経て、資金繰りサイクルが安定し、さらなるスケールアップを加速していくステージ
  6. Pre-IPO、グロース・ステージ・・・

このうち、ステージ3~ステージ5(並びにPre-IPO迄)に対しては、日本でもそれなりに潤沢なVC投資資金があるようですが、”まだ右か左か見極めがつけられにくい”1~3段階の立ち上げ期のスタートアップにとって、支援体制含めてファンドレイズの相手にされるケースは極めて希薄のようです。このことが、未だに多くの起業家予備軍の心理的な壁となっているのが複数の起業家やスタートアップ創業者の口から良く耳にします。シリコンバレーでも、”まだ右か左か見極めがつけられにくい”1~3段階の立ち上げ期のスタートアップに対してVCが積極的に投資を行うケースは確かにそれほど多くはありませんが(あっても、実績のある起業家が創業した場合に限られたり、よほど面白い、等)、同時にそれらを補うエンジェルやシードマネー、コーチング/メンタリングもそれなりに存在します。その結果、日本と比べて米国内の創業期のスタートアップにとっては各段に環境は整備されており、それこそ、本当の意味での「リスクマネー」が欧米と比べて日本では全く存在しないに等しいと表現してもあながち大きな誤りでは決してないと思います。

日米のベンチャー投資に関する興味深いデータとして、以下を上げたいと思います:

  • 2013年米国エンジェル投資額248億米ドル(約2.7兆円)
  • 同件数71,000件
  • 1件あたりエンジェル投資ラウンド規模:950千米ドル(約1億円)
  • VC投資総額296億米ドル(約3.3兆円)
  • 対VC投資額比率:81%
(備考:米国Angel Capital Association公表データ、平成27年3月公表NRI「起業・ベンチャー支援に関する調査」より)

  • 2011年日本国内エンジェル投資額9.9億円
  • 件数45件
  • 1件あたり未公開企業投資ラウンド規模(中央値):7,250万円(2014年)
  • VC投資総額1,240億円
  • 対VC投資額比率:0.8%
(備考:第2 回経済財政諮問会議(平成26 年2 月20 日)資料5-2より)

単純に数値を横比較するだけでは必ずしも正しいとは言い切れませんが、上記のデータを見てもわかる通り、ベンチャー投資全体に対する創立間もない初期のエンジェル~シード投資の比重が、米国と比べてあまりに小さいことが如実に物語っています。これこそ、日本国内でテーマ的にも地理的にも幅広い起業家層が中々育たない大きな足枷要因となっていると考えられます。この、「空洞スペース」をいかに日本のスタートアップ・エコシステムが埋め合わせをしていくことが出来るかが、引き続き今後の課題であるように思えます。

米Wildcard Incubatorは、この、「創業期~MVP完成/初期マーケティング/プレ・シリーズA」フェーズのスタートアップや起業家で米国での本格展開を目指すクライアントを米国と日本とで地道に泥臭く後方支援していくことで、貴重な役割を果たすことをこれからも目指します。
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“ウォール街化”した今のシリコンバレー・・・

7/13/2017

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(写真提供: https://www.renaissancerecoverycenter.com/addiction-downward-spiral/)
<久々のブログ更新です>
- 皆さんもご存知の通り、今、シリコンバレーではかつてないほどの”モラルハザード”が露呈しています。UberのCEOの事実上の更迭をはじめ、新興VC勢力の一角のVCファンドでも軒並み創業パートナーがこちらも事実上の更迭を強いられる事態が異常な頻度で起きています。これらのファンドの多くは、FacebookやZinga等(もうすっかり懐かしい名前ですね・・・)、それまでの半導体やコア・テクノロジー系といったシリコンバレーの主流をなしたコテコテの技術系スタートアップから、次第にソーシャル系・サービス系のスタートアップが勃興し始めた2010年前後以降に勢いよく成功裏に設立されたファンドが多くを占めています。それらのファンド設立者も概ね2000年代を通じてPaypalやFacebook、Google等で中心的なプロジェクトのエンジニアとして働いた経験のある30代~40前後のパートナー達が中心を成しています。

これはもちろん時代の流れそのものであり、こうした彼らに投資資金を委ねて次なる「Next Big Thing」の恩恵を受けようと、多くの資金が集まりやすくなってきたというのが背景にありますが、総じて、筆者がシリコンバレーでインキュベータとして、そして、さまざまな事業会社やスタートアップと仕事を手掛ける中で感じることは、彼らとの会話の中心が「いくらお金儲け出来るか」であり、投資対象であるスタートアップや起業家のアイディアがどう人々の生活や課題に良い影響をもたらすのかといったところに以前ほど重きが置かれていないように感じる点です。これは、2000年以前や2010年以前頃までのシリコンバレーではあまり考えられない傾向です。実際に、日本においても全く一緒ですが(むしろ日本のほうが顕著・・・)、VC同士の会話でまず先に出る一言が「何か儲かる話ない❓」であり(特に実際、日本のVC界隈でこの言葉を良く耳にします)、まるで、投資銀行マンのような発想しか持たないような人間が増えてきている証拠に思えます(かつて投資銀行業界に身を置いた筆者が痛感)。こうした発想の投資家の多くは、トレンドばかり追いますが、純粋に起業家と向き合ってその発想と着眼点を冷静に深く洞察しようとする要素が欠如しているとの印象を受けます。その結果、猫も杓子も同じような投資ばかりに奔走し、従来VCが果たしてきた役割である、次世代を担うテクノロジーやサービス、アイディアに投資をするという部分が軒並み低下してきているように思えます。いわば、ウォール街化したシリコンバレーと言えます。そうした風潮が加速していく中、今回の悪しき風習が次々と明るみになってきているというところに、お金ばかり追い求めるあまり、それ以外の、より大切な要素を置き去りにしてしまっている傾向を読み取ることが出来ます。

本来、そのような若きキャピタリストに大金を預けるLP(Limited Partner=有限責任者・・・出資者)が、ある意味、ファンド(すなわち、その運営者であるGP)を監視・モニタリングをすべきなのですが、それを怠ってきている点が、この悪しき風潮のようなものを許容してしまった大きな原因の一つであると考えます。無論、モラルや常識とお金への腐心とが完全に相関関係を成すとは限りませんが、要は、キャピタリストの素性や人間性、素質をもっとじっくり事前に吟味をしてから出資をすることが本来求められるはずが、その部分が形骸化してしまった為、結果として、現状を導いてしまっているものと推察されます。

ましてや、ベンチャーキャピタリストの大切なスキルとして求められるものとして、「起業家の素質や人柄を見抜く」というものがあります。凄腕エンジニア気質として技術がいくら理解を出来ていても、コンサル上がりの「経営フレームワーク」の操り方に長けていても、ファイナンスについていくら知識が豊富なキャピタリストでも、この、「起業家の素質や人柄を見抜く」という本質的な素養がなければ(あるいは養わなければ)結局はキャピタリストは全く務まりません。そもそも、"ハンズオン投資”に求められるキャピタリストの大きな役割の一つは、経営者・起業家をきちんとモニタリングをすることです。そんなキャピタルストが本来求められる中、当事者がこんな有り様では、まぁ世間からは三行半を突き付けられますよね。もちろん、一部の事象で全体を判断することは正しいアプローチではありませんが。

VCとは、もともとは泥臭く、人間臭く(良い意味で)、ウェットな要素が大きい職種であると捉えていますし、これからもそうあり続けるであろうと思います。しかしながら、今のシリコンバレーをはじめとするスタートアップのダイナミックスにおいて、この部分が少し取り残されたまま、それ以外の部分ばかりが進化ばかりしているような気がします。もう一度原点に立ち返る時期にあるのかもしれません。そして、前述の通り、VCが起業家やスタートアップをモニタリングを行うのと同様、VCへ出資金を拠出するLP出資者(個人、事業組織等を問わず)も、自分達がお金を預けるファンド運営者たちをもっときっちりとモニタリング機能を果たすべきです。そして、キャピタリストが若年化する今、キャピタリストを「育てる」という役割も再び必要となると思います。恐らく、今、シリコンバレーではその部分が欠けてしまっているということを伺わせる最近の出来事です。

そして、起業家やスタートアップの皆さんも、自分達に投資をする投資家がどういう人達か、逆にデューデリジェンスを行うようにしましょう。
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"The Great Divide"~米シリコンバレーからは見えにくい溝を露呈させた米国大統領選挙

11/10/2016

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(2016年11月10日)‐ 昨晩、米国では、第45代アメリカ合衆国大統領選挙の開票の結果、共和党のドナルド・トランプ候補が勝利しました。意外といえば意外であり、可能性がゼロでなかったといえば、なかったとも言えます(後出しジャンケンのように聞こえるでしょうが)。

その根拠は、我々を翻弄しようとする各種メディアや調査会社が公表する数値や"客観的なデータ"によるものではなく、むしろ、ここ米国にいるごく身近な人間関係を通じた日常的な会話や交流を通じて何となく肌で感じとる感覚的なもの("Gut Feeling")であると言えます。我々が仕事上で日常的に接するコミュニティにおいては(スタートアップ、Venture Capital、Sand Hill Road、インキュベータ/アクセレレーター、SoMA、等々)、恐らく大半が民主党支持であり、ヒラリークリントン候補支持者です(実際にそういう会話をしているから、明確にわかります)。ただ、一方では、こうしたコミュニティを少し離れた場所には、その反対の立場の人々とも身近に接するということ。筆者自身、幼少期以来サンフランシスコで30年来の付き合いのある幼馴染の友人が多くいますが、大半が地元を離れて全米各地に散ってしまって音信不通のものもいるなか、今も尚地元にいるものもいます。大半はシリコンバレーと直接かかわりを持たない面々ですが、その中には、開票前からトランプ支持であることをほのめかしていたことを覚えています(ちなみに、こんな記事も出てますね。ちなみにここに掲載されている写真の撮影場所は、背後に見えるロゴから間違いなくRunwayではないかと思われます:“Many Trump voters have been “hiding,” say San Francisco Trump supporters”‐:https://news.fastcompany.com/many-trump-voters-have-been-hiding-say-san-francisco-trump-supporters-4024443)。

その彼は、サンフランシスコという、民主党の支持基盤が歴史的に大きく、リベラル色の強い地域でベルギー移民の小さな家庭で生まれ育ち、地元の優秀なスモールカレッジを卒業して大手民間企業のローカル採用でキャリアを積み上げたのち、数年前に税理士/会計士の資格を得てからは、現在は地元の会計事務所でバリバリ勤務しています。一方、プライベートでは東南アジアの女性と結婚をし、子供にも恵まれて今尚地元で生活をする、物静かでアジア文化にも常日頃から敬意を持って興味を持ち、地元でもアジア系米国人とのコミュニティ活動を通じて交友関係も広く(アジア系移民家庭が比較的大きい地元の子供のスポーツチームの少年野球のコーチを引き受けている)、今尚筆者とはBBF("Best Friends Forever")な仲。そんな彼に代表される米国人が、今回、トランプ氏に一票を投じたわけです(メディアで誇張されるような、"南部等のもっと保守的で過激な思想を持った白人"ではなく)。

彼らは、恐らく、我々Wildcard Programが普段日常的に接するような、シリコンバレー/スタートアップ/The Next Big Thingの蘊蓄にはいわば無縁な存在であるのかもしれません。そんな彼らにとって、恐らく、エスタブリッシュメントと評される今の政治を代表する(とレッテルを貼られた)政治家に対して根底から失望をし、嫌悪し、その結果、今回の投票の結果を導いたのであろうと想像しています。無論、それ以上にもっと根深い根本的な理由や背景があるのかもしれませんが、それは我々のような外野席には容易に想像出来ないことなのかもしれません。前述の知人の場合、もう少し掘り下げて彼の家庭事情を振り返ると、アメリカの"もう一つの顔"も垣間見ることが出来ます。

彼の父親はヨーロッパからの移民として米国の地を踏み、米国中西部出身の白人の女性と結婚をしてから、50代半ば頃まで建設関係の大企業(社名は、スタンフォード大学の某学部のキャンパス施設にも寄付をする名だたる会社)でデザイナーとしてキャリアを積み上げていました。しかし、いわゆるCAD(computer-aided design)といった、もとは1960年代に発明され、1970年代から徐々に普及したIT技術が目覚ましく発展した結果、1980年代後半から1990年代にかけて、作業現場にもそうした先端IT技術がまんべんなく浸透していくことになります。それまではコンピュータに頼らない、人間によるデッサン、図柄描写で現場のエキスパートとして重宝されてきた父は次第に窓際に追いやられ、仕舞には突如解雇を言い渡され(少なくとも2度)、その後は定職につけないまま、人生の最後の方は自宅を中心にアルコールにも浸りがちな日々を送る毎日を送っていたことを思い出します。友人はまた、2人兄弟の長男ですが、中学校(アメリカでいう”Junior High School”で2学年まで)まではルックスも背丈もまるでそっくりの二人兄弟であったものの、2つ違いの次男は高校を中退することになりますが、その後いくつかのパートタイムの仕事をこなしていたものの、次第に交友関係に変化が生じ、その後アルコールやドラッグに左右されがちとなってからは、10年ほど前に幾度か逮捕・収監を経たのち、今では家族からもそれまでの学友等からも行方をくらましたまま音信不通の状態となっています(その後、7,8年前、サンフランシスコ市内にある市役所そば道を放浪する姿を偶然見かけたものの、その際、目が合ったものの、向こうが視線を逸らしてその場から立ち去ったとのこと)。

これはごく身近な具体例の一つに過ぎず、社会の一面を投影するだけかもしれませんが、現実の一端であることは確かであり、我々からはそんな彼らの怒りや不満を具体的に事細かに把握する立場にはないものの、キャピタリズムやグローバル化の波の副作用がこうした社会現象を導き出したのかもしれませんし、今回の選挙でここまで露骨に不満が露呈したことに、これから4年、8年、10年、決して小さくはない根深い課題を突き付けられたということを、感に銘じていくことが求められるのかもしれません。また、自らが信望する価値観や世界観を押し付けようとすることも、結果として醜い分断をより大きくするだけでしょうね(メディアが大好きな行為でしょうけれど)。最適な表現が思い浮かびませんが、いわば "意図せざる偽善"のような立ち振る舞いが、増悪をより掻き立ててしまうことにならないよう、人間としても、ビジネスパーソンとしても、慈悲心をもって前に進まないといけないのかもしれません。アメリカという国で起業や事業を起こそうとする場合、自分たちが向き合う社会がどういうところなのか、正しく把握することは非常に大切なことであると思われます。その国で事業を営むということは、その社会の一員として受け入れられることが第一であり、とても大切なことです。とかく、我々のような起業家支援的なビジネスを手掛けていると陥りやすいのは、身近における"ビジネス・トレンド"ばかりに心と目を奪われてしまい、また、それらに付随する知識ばかり追い求めるばかりに、その向こうに広がる”一般的な”社会・世界に全く意識が行き渡らず、その結果、世の中の求めるもの大きく乖離したものを生み出してしまうというリスクを内包しています。話の脈絡がやや逸れるかもしれませんが、日本でも今ではお馴染みのピンタレストという会社は、当初はシリコンバレーからは遠い中西部地域を中心とする一般主婦層の何気ない「オフラインな」日常の生活習慣からヒントを得て最初は始まり、その後、幾度とピボットを経た結果として、あのようなビジネスモデルが生まれたという話を思い出します。アメリカでのビジネスのヒントは、某メディア等が煽るようなトレンドではなく、少し離れた、ふとした日常の中に潜んでいるところに、異国の地から起業を起こす難しさがあり、また、それこそがだいご味であるのかもしれません。でもそのためには、日ごろから意識していないとなかなか見つからないものです。

11月9日夕方の時点で、選挙人(Electoral Vote)ではトランプ氏が290、クリントン氏が232を獲得(CNN等の主要メディアによれば)。一方、一般投票(Popular Vote)では、トランプ氏が47.5%獲得したのに対して、クリントン氏の得票率はそれを0.2%上回る47.7%であったと報道されていることは周知のとおり。歴史上稀に見るような、まさに50/50な結果であったのを物語りますね。今回の選挙で物語るのは、アメリカという広い国が今、幸か不幸か、完全に分断しているということです。これは、我々のように、米国のカリフォルニア州のサンフランシスコ近郊/シリコンバレーという、言うならば”異質/特殊な”コミュニティに属することで見いてくる世界だけで米国・世界を正確に理解していると妄想・錯覚"しがちな"立場の人間層にとっては、良くも悪くも(願わくば良い意味で)〝Wake-up Call〟であったのかもしれません。

難しい課題であり、政治学的/社会学的な観点での奥深い論評は専門外ですので割愛致しますが、ツベコベ考えず、頭や脳みそばかりで物事を判断せず、全てを「善」に捉えて前に進むことが求められているのではないかと思います。今、我々の「心」が試されているものと、この選挙結果に感じます。

‐米国

(絵柄出典: http://www.clipartkid.com/earthquake-drill-lock-down-drill-get-on-the-bus-eat-breakfast-pack-up-ZvM2VC-clipart/)

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常に周期を繰り返すシリコンバレー・・・

11/9/2016

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(2016年11月9日):米TechCrunchに11月5日付で掲載された記事に目が留まりました。表題は「Welcome to the hardtech era」(元記事: https://techcrunch.com/2016/11/05/welcome-to-the-hardtech-era/ )、すなわち、日本語で解釈すれば、「ハードウェア・テック(投資)の時代へようこそ」ということでしょうか。ここ2年間の米サンフランシスコ/シリコンバレーのトレンド(2009年‐2010年のGoogle Glassが発表された頃からのウェアラブル、ガジェット系、ロボティクス、IoTの発展)を考えれば、次第にトレンドの主流がハード化しているのがこちらでも肌で感じ取ることが出来るものの、必ずしもハード投資一辺倒の時代へと突き進むとは考えにくいです。なぜなら、いわゆる The Next BIG Thing はこうした限られた分野がけん引するものと考えられますが、人々の日常生活の中でちょっとした変化のトレンドにも着目すれば、引き続きリテール系の進化も想定されますし、高齢化社会問題を日本と同様に抱える米国では、介護関連(Care)の分野も既にデジタルヘルスの普及と連動するような形で動きが出始めており(Aging 2.0が代表的な動き)、これから3年‐5年に今までにない大きなトレンドにまで発展する可能性を秘めていると思われます(そういえば、2012年頃から急速にバズ化した「教育系ベンチャー」というバズがひとまずは一段落をしている様子)。

また、「~ようこそ」ではなく、「再び」という表現が妥当でしょうね。

日本でも2010年代に入り、”ベンチャー投資が勃興”しているかのような論調を良く小耳に挟みますが、一応本家本元である米国におけるスタートアップ向けベンチャー投資は、概ね以下のような歴史を辿ります:
  • 1950年代: 1958年、米Small Business Investment Act(SBIC)法制定によって、全米各地の中小事業者への投資支援の法的環境が確立されていく。
  • 1960年代: 半導体関連企業を中心に初期的なVC投資(ハード)が勃興し始める(Fairchild Semiconductor・1959年)。また、現在のVC投資の原型となるモデル(管理報酬1-2.5(‐3%)/成功報酬(キャリー・インタレスト)20%、等)がほぼこの時期に確率される。
  • 1970年代: 主に初期のVC投資の原型を形作った半導体業界出身者を中心に半導体分野への投資が活発化。この時期、VCに限らず、次第にLeveraged Buyoutに代表されるプライベートエクイティファンドが確率されていく。全米VC協会(NVCA)が1970年代後半に設立し、より体系化されていく。また全米年金基金等によるリスク資産への投資を一定の条件の下で容認する法も制定され、この時期VCのファンドレイズの勃興期を迎える。
  • 1980年代: デジタルエクイップメント、アップルをはじめとするコンピューター企業(この当時はアップルはコンピュータメーカー・・・)向けの投資が勃興し始める。また、ジェネンテック等のバイオ分野への投資が到来(高額、高リスク投資の勃興⇒VC以外にLBO等のプライベート投資が活況~加熱~1987年崩壊~1990年日本のバブル崩壊・・・)
  • 1990年代半ば~2001年: ドットコム・ブーム(1995年Windows 95登場とインターネット時代)~崩壊
  • 2000年代半ば~: ソーシャル系(メディア、ゲーム、ネットワーク、リテール)
  • 2010年代半ば: ハードシフト(IoT、ウェアラブル、他)
上記のように、もともとハードウェアは1960年代から1980年代にかけてはベンチャー投資の主流であったことは周知の通りです。
また、1980年代までは、必要とされる最低投資金額も大きく、投資回収期間も長かった時代が、1990年代のドットコムブームを境に変遷し、2000年代後半からは、現在のインキュベータやアクセレレーターの原型ともいえる"スーパーエンジェル”あたりが台頭し始め、次第に数十万ドル単位の投資金額も珍しくない時代へと変遷して現在に至っています。2016年に入ってからもこうしたファンドは、それぞれテーマを掲げてファンドレイズをされている模様ですが(詳細はここでは割愛)、これらがいきなりトレンドを追う使命でハード分野ばかりに投資をすることは不可能であり(テーマが違うものに投資は基本的にできないであろうから)、従って、ハードテック一辺倒という、1980年代のようなシフトは起きないのではないでしょうか。The Next Big Thingを追い求める米国シリコンバレーも、その歴史が始まって半世紀を超えた今、これからは、一定周期での投資サイクルが続いていくのかもしれません。ただ、言えることは、ハードは日本人が得意とする分野であること。少なくとも、いろいろと可能性が広がる時期を迎えているのかもしれません。

次回は、もう少し踏み込んで「分析」をしてみたいと思います。

‐ 米国
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"北米起業で必ず起業家やスタートアップが対処すべきこと"=各種米国法についてアメリカから直接講義します~<Startup Seminar 2.1 Tokyo Session Fall 2016>

10/28/2016

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(2016年10月28日)‐2016年11月5日土曜日、米Wildcard Programが日本で開催するセミナーシリーズ"Startup Seminar 2.1シリーズ"の最新シリーズ<Tokyo Seminar 2016>を開催することとなりました。シリーズとはいえ、かなり久しぶりの実施となりますが、2017年‐2018年の本格的なシリーズ化に向けての第1弾となります。特に、今回は、通常のセミナー形式とは異なり、米国(サンフランシスコ)と生中継でビデオカンファレンスで結び、パートナーで米国法弁護士(カリフォルニア州)であり、また起業家・実業家である米Wildcard Programのパートナー・Charlesが、日本からご参加いただく皆様に直接レクチャーをする内容となります。チャールスは、いくつかのスタートアップの創業やシリコンバレーでの精力的なコミュニティの形成(ファッシュテック分野)等を経て、米大手インキュベータRunwayに入居するスタートアップStartup Policy Labのファウンダーの一人としてシリコンバレーのスタートアップシーンに深く関わっており、一方で、スタンフォード大学でThe Center for Internet and Societyでリサーチャーとしても活躍し、ドローンをテーマとする先端的な研究等、独自の幅広い活動を手掛けています。今回は主に:

① 事業目的にふさわしい会社設立の形式
② VC等からの投資契約で知るべき法制
③ シリコンバレーで日本人が起業をする上での法的な壁
④ 従業員の雇用や訴訟リスク等
⑤ 大切な知財の保護

といった内容を網羅する予定です。いずれも当たり前のように見える項目ですが、実際に事業が回り始めると意外と苦労するものばかり。特に、②④⑤については、米国でビジネスを成功裏に展開する上で意外と壁となって立ちはだかるものと言えます。例えば、ベンチャーキャピタリストやエンジェル、事業会社から晴れて資金調達を果たしても、その契約内容(Term Sheet=投資契約書)次第では、のちのち大変なことになります。米国法ならではのものも多分にあります。従って、仮に投資の可能性が高まった際に、ある程度、知識武装をしていることで、自分たちにとってあまりに不利な内容とならないように事前に予防できる可能性が高まります。④に関しても、アメリカは訴訟の国であることは周知の事実。スタートアップが社員と法的なトラブルに巻き込まれたことで事業が傾いたという事例が表向きにそう多くないとはいえ、絶対に直面しないとも限りません。また、⑤に関しては、テクノロジーを取り扱うシリコンバレーでの起業となれば、最も重要な法律事情となります。今回は、いくつかのケース・スタディも用意する予定ですので、知財をどう守っていくのが望ましいのか、アメリカ・シリコンバレーから直接、時間の許す限り大いに語る予定です。

今回ご参加を頂くことで、Charlesとの接点も今後もって頂けることで(本セミナー終了後、彼に直接ビジネス上の相談や聞かれたいことがあればWildcardとして引き続きおつなぎします)、シリコンバレーがより今まで以上に身近なものとなればと願っています。

*尚、次回の米シリコンバレー・生中継セミナーの開催は今のところ未定です。是非、この機会をご活用ください!

‐米国
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※総括!<Up Close> Talk Session Seminar Tokyo Spring 2016 ~これが未だに日本の盲点!~外国人の♡を掴む インバウンド・ビジネス成功のカギ

4/15/2016

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4月12日火曜日、今回も昨年9月同様に、渋谷・公園通り沿いに構える、粋にクールで、今春のForbes Japanにも紹介をされていた日本有数のCo-Working SpaceであるConnecting The Dotsにて、米Wildcard Program/KOEI COMPANY Presents - <Up-Close Talk Session Tokyo>シリーズの2016年第1弾を、お陰様で無事開催をさせて頂くことが出来ました。まずは、お忙しい中、本イベントにご来場いただきました多くの皆様に心から深く御礼申し上げます。

もともと本シリーズは、米国シリコンバレーからの著名起業家や、現地の大手VC/エンジェル投資家を日本にお招きし、日本の起業家・起業家予備軍、米国でこれから事業を本格的に展開しようとされる日本の事業会社の経営者やご担当者/個人の皆様に、通常は日本では大掛かりなカンファレンス等のキーノートスピーカーや登壇者の一人として登場するためになかなか直で繋がることが難しい人物と、比較的少人数制でタウンホールミーティング的なディスカッション・形式で触れることが出来るというコンセプトで昨年5月に開始致しました。ただ、今回は【特別編】という名称のとおり、例外として、日本で実業家、起業家として著名な人物をお招きすることと致しました。ここ数年間、スタートアップをはじめ、大手企業でも日本で盛り上がってきている、いわゆる訪日旅行客を対象とする新たな成長産業<インバウンド>市場に対する関心が高まっており、また、沢山の方々から、本テーマでのセミナー開催への強いご要望を頂いていることもあり、この度、ちょうど我々もインバウンドビジネスと密接に絡んでいることから、このテーマで実施をすることに致しました。

今回のゲストスピーカーは、日本で過去32年間に18社の会社を設立し、そのうち8社を成功させた(主に)著名な実業家・シリアルアントレプレナーの一人として知られる、Terrie Lloyd氏。彼は、ニュージーランドと豪州の二重国籍を取得しており、20歳の頃、短期旅行ビザを頼りに、日本に乗り込んできたことから、起業家人生が始まります。彼は、俗にいう「High-school drop-out(高校中退)」であると自称しており、Self-made entrepreneur(≒自らの努力の積み重ねで成功を勝ち取った起業家)であることを良く口にします。その経歴は、米シリコンバレーの著名起業家の軌跡と非常に似ており、彼が、ここ日本を活動場所としている点も非常に興味深いものがあります。同氏と筆者とは、米Wildcard Programやさまざまな事業で深く関わっており、その流れで、今回、同氏に打診をすることとなりました。

同氏の主な専門分野は、ITとメディア/パブリッシングであり、さらに、HR/タレントマネジメント分野(2005年にバイリンガルのオンライン転職サイトDaiJob.comをHuman Holdingsへ売却)やその他の特定分野に豊富な経験を持っています。そんな彼が2011年5月に、インバウンド分野に彼が着目をしたきっかけは、あの「311」でした。当時、日本人はもとより、首都圏在住の外国人を中心として、多くの外国人が放射能に対する極度の恐怖感等から、日本を次々に離れていくという状態が続いていました。それを危惧した同氏は、日本経済を支えられる数少ない成長産業分野の一つとして、2011年当時は今よりも手付かず状態であった、海外からの旅行客を対象として日本に関する情報を効果的に発信するようなインバウンドビジネスというものに着目し、震災の約2か月後には、JapanTourist.jpを立ち上げることとなります。その後の紆余曲折を経て2013年11月には現在のドメイン Japantravel.com を幸運にも取得をし(このドメイン名の取得が同社の急成長を促すとは当時は全く予想外でしたが、ここでは詳細は割愛します)、瞬く間に世界各地から同社の英語ポータルサイトへのアクセス数は急成長し、今や〝No.1 Destination”として多くの訪日旅行客のアクセス・ポータルとなるまでに至りました。こうした成長過程を経て、同氏が気づいた、日本のインバウンドビジネスにみられる数多くの〝オチ/罠”について、自身及びチームの苦労や実体験を通じて、今回、いろいろと含蓄のある話を頂くこととなりました。

最もキーポイントとなるのは、〝外人目線”というもの。最近特に良く耳にするフレーズですが、これがなかなか島国・日本人にはわかりにくい、というより、つかみにくいものです。結局のところ、日本国内にあるインバウンド向けビジネスの多くが陥る問題として、この「外人目線」の観点からやや的の外れたものや、例え訪日旅行客にとって痒い所に手が届くような粋なサービスが生まれていても、肝心の英語及びその他諸外国語への対応が全く出来ていない、といった問題が多く見受けられるということです。実際に、筆者も、Japantravel.comの事業開発に関わっていますが、一流大企業とて、外国人向けのサービスを本格展開することは、非常に難しいものであることが伝わってきます。無論、そのおかげでビジネスを有り難く頂戴するという結果に結びついているのですが・・・。

今回のセッションで触れられた大切なポイントを挙げると、外国人の観察眼への配慮、諸外国の歴史に学ぶ洞察力、その国々の地域性の理解、目指す市場セグメントの正確な理解、が、あげられます。

まず、外国人の観察眼への十分な配慮がいかに大切かについてですが、例えば、全く同じ対象物を見た場合に、そこから連想する答えは、日本人と外国人それぞれの答えは全く違ってくるというもの。具体的には、地方の町中を歩く際に、交通標識や注意書き等の標識看板がありますが、東京や大阪等の都心部とは違って、大半は日本語以外の表記がないものが少なくありません。従って、注意を促すような標識があっても、日本人の感性とは全く異なる外国人がそれを見ても、全く意味がとらえられず、結果として、いわゆる迷惑行為を起こしてしまうということが実際に起こり得ることとなります。この場合、もしもこれらの標識に英語での表記(恐らく、英語で大半の訪日旅行客に通じると考えられます)がきちんと記載されていれば、この訪日旅行客がその場で相応しくないようなふるまいを意図せざる形で起こしてしまわないで済む可能性があったわけです。実際に、外国人が日本を訪れると、リピーターとして日本を訪れる個人旅行客(〝FIT(Foreign-Independent-Tour)”)の大半は、最初の旅行を東京、大阪、京都といったいわゆる知名度の高い場所を訪れがちですが、その後は、日本の魅力に気づき、地方の都市へ次第に足を運び始めるようになります。そうしたときに、せっかく地方にFIT旅行客の流れが形成されつつあるにもかかわらず、町中の標識の不便さから、リピーターや知名度、とりわけ、実際にその町を訪れた旅行客によるブログ等の口コミに結果その苦い経験が綴られてしまい、そのほかのもっとすばらしい体験が霞んでしまうことが良くあることです。地方に訪日旅行客を迎え入れる上で、まず、「視覚的なおもてなし」が十分に配慮されることが大切となりそうです。

一方、これも実際にJapantravelを通じて学ぶことですが、日本へ訪れる旅行客の代表的な楽しみの一つとしてグルメがあげられます。すなわち、「Food Tourism」です。このFood Tourismには、大きく分けて、冒険心の強い層と、リスク回避的なグループとに分けられるといわれます。この場合のリスク許容度とは、馴染みのないグルメを積極的に試してみようという気持ちがあるか否かといういこと。経験則上、後者の比重がまだ大きいといえます。そうした旅行客は、町中のお店やデパート等で、さまざまな品物を手に取ってみますが、実際に中身に何が入っているのかがわからない場合や、前述のとおり、外国人特有の解釈や感性で中身を下手に予想してしまうことで、本当なら購入したであろう客を薄々逃してしまうことが実は少なくありません。また、こうした訪日旅行客のうち、特定の地域からの訪日旅行客にとっては、宗教や慣習からくる諸般の事情により、ある特定の食材を食べられない人もいるわけです。イスラム圏の諸国の方々には特定の肉類が接種できないことは良くよく知られていますね。そうした人にとって、うっかり誤ったものを購入してしまうリス子を避けたいが為に、結果として中身のわからない品物は買わないという行動を選択することとなります。 

これは、商売=経済効果的にも決して小さくない機会損失となるわけです。外人目線的な解釈としては、もっと、例えば、試食コーナーを設けることで、取りこぼしをなくしていくことが出来るようになると、同氏は訴えます。こうした訪日旅行客に実際の味を体験していただくことに意識を向ければ、より多くの旅行客を取り込んでいける可能性が広がるというわけです。特に、これからますます地方への訪日旅行客が流れる可能性が期待出来る中、地方自治体や業者にとっては貴重なポイントとなりそうです。最近、東京や大阪をはじめ、大都市圏に地方経済の窓口、橋渡し的な役割を果たすいわゆる「アンテナショップ」が新たに開業するケースが見られますが、こうしたショップでは、未だ、「Tasting」「試食」+「体験」を来店客に提供するところは少なく、訪日旅行客に限らず、その町のことをより理解を深めてもらうために、こうした試み/プログラムをより積極的に取り入れていくことが出来るか否かが、結果につなげられる一つのカギとなると言えます。

次に、先に述べた「諸外国それぞれの歴史から学ぶ洞察力」ですが、これは、インバウンドの旅行客が住む国々の歴史や生い立ちを知ることで、彼らの志向、行動様式を効果的に洞察し、それらを有効的にマーケティングに取り入れて行くという概念です。今回のセミナーで紹介された事例をあげると、こちらもグルメ/食に因んだケーススタディですが、各国から訪れる訪日旅行客が最も好きな日本食料理をサウンディングすると、実に興味深いことが読み取れます。それは、ベトナムやインドという近隣アジア圏の国々から訪れる方々の多くは、お寿司をはじめとした伝統的な日本料理を好む傾向があることが既に把握しています(もちろん、これが100%正しいということではございませんが)。要は、彼らの歴史に少し意識を傾けてみると、彼らは長い間フランス圏の統治を受けており(第二次大戦以前)、その結果、彼らはフランス統治に影響を受けた料理を慣れ親しんでいるため、日本では中華系の食(Ex. ラーメン等)よりも和食に高い興味を抱くということがわかります。

あるいは、行動様式について地域性による特徴を読み取ることも出来ると同氏は訴えます。これも、必ずしも絶対的な「正解」ということではないものの、家族との時間を過ごすことに重きを置く国籍の人(なぜなら、当該国の親戚や家族が日本に多く住むから)、ショッピングが好きなグループ、日本人との対人的な触れ合いを好むグループ、観光や文化的な施設との触れ合いが好きなグループ、等のグルーピングが出来ます。また、これらを「インスピレーション」「リアル」「慣れ親しみ」「新たな発見」よいう基軸でグルーピングも出来ることを把握しています(尚、本ブログでは具体的な国籍名は割愛させて頂きました)。要は、こうして、各国と地域性と行動様式(セグメントの把握)の違いをしっかりと把握することで、サービスやビジネスのターゲットと内容を組み立てる上で極めて重要なファクターとなるということです。そして、現に、これらの細分化されたレベルと着眼点で訪日旅行客の行動様式や特性を十分に把握し、理解をした上で、かつ、それらの国々の母国語に十分に対応したサービスを手掛けられている日本のインバンドビジネスは、実は、ほぼ皆無といってもあながち言い過ぎではないような気がします。言い換えれば、日本のインバウンド産業はまだまだこれからその質が問われてくる時期に入るものと考えられます。これは、大企業やスタートアップのみにならず、地方自治体等の関係者にとっても重要なポイントとなりそうです。

今回のセッションで興味深いケーススタディも、同氏から紹介がありました。

一つは、能登半島での6日間程度のサイクリングツアー。外国人旅行客(特に欧米人?)には、激しい運動やフィットネス的なレジャーを大変好む傾向があり、今後、欧米からの訪日旅行客を引き付ける上で、例えば、地方都市での自然を活用して、サイクリングやハイキング(あるいはバンジージャンプのようなスリリングなもの)といった体験・探求心をそそらせるようなプログラムを組むことで、恐らく、多くの旅行客をひきつけることが十分に可能であると考えられます。ここにも、日本人と外国人(この場合、特に欧米人)との間の地域性や文化的な生活習慣の違いによる「自転車」というものに対する感性の違いを正しく把握することが重要であると同氏は指摘します。恐らく一般的に日本では長距離の移動手段はあくまで自動車あるいは電車であって、自転車とは駅一つ分の距離の移動手段としてのツールであり、ママチャリがまず連想されやすいと考えられるのに対して(もちろん、そう考えない方も日本人にいることも確か)、欧米では、自転車と言えば、比較的長距離の移動に用いられる移動手段であり、通勤通学はもとより、フィットネスとしてのサイクリング等の本格的なバイクが連想されます。このことを理解しておくと、前述のような、サイクリングと日本の美しい自然や整備された道路、コンビニ等が豊富な都市形成を活かしたインバウンドプログラムがさまざまと浮かび上がってくると訴えます。   

二つ目は、ホスピタリティ関係で、具体的にはホテル事業ですが、これも、どの地域からの訪日旅行客をターゲットとするのかによって、求められるインバウンドビジネスとしての着眼点、マーケティング手法がそれなりに変化が求められるということです。例えば、とあるアジアの特定地域の方々の特性として、朝食が無料である点や、内容についても、魚類が出ないといった点が実は極めて重要なファクターとなることが既に経験則上わかっています。我々日本人にとっては魚は美味しい食事であるものの、特定層の外国人にとっては、実は味/香り/匂いが朝にしては強すぎるというのがオチ。そうした朝メニューにほんの些細な部分で配慮することで、とたんにネットやソーシャルネットワークを通じてポジティブな口コミが広がり、その結果、リポーター客による利用者を継続的に取り込んで行くチャンスが広がるという図式です。そのほか、ベッドから足がはみ出てしまうほど小さいベッドが気になる欧米人や、ユーザー・アンフレンドリーなウェブサイト等、枚挙にいとまがないといったところが、今の日本のインバウンドビジネスの傾向です。いろいろとメディアや投資業界では既にインバウンドビジネスはある程度飽和しつつあるような話も筆者も耳にしますが、まだまだ、精度を高めていく必要性を見れば、実はまだこれからといえる分野と考えられます。

そのほかにも同氏から大変興味深い着眼点やちょっとしたフレームワークが紹介されましたが、そのうちの一つは、いわゆる「マズローの欲求五段階説」を応用させたビジネス・マーケティングのフレームワーク。もう一方は、マーケティングのタッチポイント(=お客様がどの地点からサービスを認知し、さらに情報収集をするか)。特に前者のマズロー的なアプローチは、今回ご参加を頂いた方々からも大きな反響を頂いています。これについて、同氏が感じる今の日本国内のホテル等の宿泊施設のインバウンドに関わる大きな課題として、コンシェルジュ・サービスの未整備であると指摘します。いわゆるラグジュアリー層の訪日旅行客は、マズロー的には最上層部15%-25%を占める層。これらの層を取り込むには、彼らが重視するコンシェルジュサービスの何らかの充実化が必要と言えます。それは単に大手ホテルチェーンの窓口コンシェルジュを指すだけではなく、地方の有名旅館や民宿を含めており、それぞれの業態に応じた方法や手段を考えねばならないというのが同氏の考えです。

このように、インバウンドビジネスには、一歩踏み込めば、まだ多くの着眼点があり、同氏曰く、「インバウンドマーケット」と一括りにとらえてしまうことは間違いであり、国と地域によって、サービスの質やポイントが微妙にずれが生じていくものであるということを十分に認識をし、その上でしっかりとしたマーケティング活動を行う必要が大切であるようということが垣間見えてきます。ちょうど最近、日本の大手企業が、海外からの訪日旅行客向け総合ポータルとして新たなプラットフォームをローンチしています。大変素晴らしいコンテンツであるとの第一印象を筆者は感じておりますが、一方で、果たして、外国人から見たユーザー=外人目線で考えた場合、まだまだ機能性の充実を図れる余地がまだまだありそうな印象も受けています。誰(元の地域、滞在目的、期間、リピーターの有無、等)をターゲットとしているのか、より細分化する余地がありそうです。 このほか、今回のUp Close Talk Session Tokyoではいくつくな貴重な着眼点から実際のケーススタディ(社名が多く出ましたが、本稿では割愛させていただきます)、アドバイスが同氏よりあり、すべてを本稿で触れることは難しいですが、いずれも、ご参加いただいた皆様には非常に有意義なものばかりであったようです。

これから2020年の東京オリンピックを境に益々成長が期待される日本のインバウンド市場。地方活性化の流れと併せて、まだこれからが本番と言えます。まだまだ、さまざまなビジネスチャンスが潜んでいるように思えます。同氏曰く、日本では業界トップの大手企業などは新しい分野に進出するまでに大体2,3年はかかる、と、見ており、従って、そこにスタートアップに大きなチャンスが広がると読んでいます。そして、今回のセッションを通じて思うのは、インバウンド事業に必要とされる<異文化>的なさまざまな着眼点は、日本から北米シリコンバレーで新たに起業を試みようとするスタートアップにとりましても、「日本と文化も慣習の異なる国の人々を相手にする」という点においては十分に応用出来る要素や何らかのヒントが豊富に潜んでいるということです。

本Up Close Talk Session Tokyoは、また機会を頂戴して東京で開催を致したいと思います(※恐らく、次回からは通常通り、北米シリコンバレー等の起業家やVCをお招きする予定です)。また、今回触れたビジネス・ケーススタディは、より深く掘り下げて今後のStartup Seminar 2.1でも取り上げる予定です。

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